粘土スラリーの含水比計測に対する被覆型 TDT センサーの適用

粘土スラリーの含水比計測に対する被覆型 TDT センサーの適用
Application of coated time domain transmission (TDT) sensors
to the measurement of moisture content in dielectrically lossy clay slurries
上村将彰 1・Ty P. A. Ferré2・Markus Tuller2・畑本珠実 3・宮本英揮 3
1
佐賀大学大学院農学研究科・2 University of Arizona・3 佐賀大学農学部
要旨
粘土の含水比(w)計測に対する SDI-12 型 TDT センサーの適用限界および感知部の被覆の有効性を
明らかにするために,カオリナイトおよびベントナイトスラリーの見かけの誘電率(TDT)と w との関係を調べ
た。透過信号の強度が検出限界を下回らない限り,被覆材の有無や種類によらず,カオリナイトスラリー
の w を決定できたが,強い誘電分散を示すベントナイトスラリーについては,w に対するTDT の明確な応
答が認められなかった。
キーワード: 時間領域透過法(TDT),TDT 波形,粘土スラリー,含水比
Key words: Time domain transmissiometry(TDT), TDT waveform, Clay slurry, Water content
1. はじめに
時間領域反射法(TDR)を粘質土に適用すると,信
号が著しく減衰し,水分量を計測できない場合が多い。
センサー感知部を絶縁体で被覆することにより減衰量
を軽減できるが,水分計測の感度が低下する弊害が
生じる 1)。一方,TDR の代替法として検討されている時
間領域透過法(TDT)は,粘質土に対して適用された事
Fig.1 実験の模式図
例が少なく,計測の可否および適用限界や被覆技術
の有効性は未確認である。本研究では,粘土の含水
比(w)計測に対する SDI-12 型 TDT センサー(Acclima
社,ACC-SEN-SDI)の適用限界および感知部の被覆
の有効性を明らかにするために,w を調整した粘土ス
ラリーの TDT 波形を取得・解析することにより,見かけ
の誘電率(TDT)を算出し,両者と w との関係を調べた。
Fig.2 低含水比条件におけるカオリナイトの TDT 波形
2. 実験方法
シリコン被覆材またはチタン酸バリウム,黒鉛,エポ
キシ樹脂混合剤 2)でセンサー感知部を被覆した 2 種類
の TDT センサー(前者を SC センサー,後者を HC セン
サーと称す)を用意した。カオリナイトおよびベントナイト
と蒸留水(DW)とを混合し,w が異なるスラリーを作製し
た。低 w のスラリーをアクリル板上で直方体状に整形し,
高 w のスラリーを円筒容器にそれぞれ注いだ(Fig.1 (a)
(b))。その後,自作インターフェイスと接続した TDT セ
Fig.3 含水比(w)と有効周波数(feff)との関係
ンサー(UC センサー)をスラリー中央に埋設し,各スラリーの TDT 波形を取得するとともに,TDT および 5
項目の波形解析情報を測定した。SC,HC センサーでも
同様の測定を行った後,試料の一部を採取して炉乾し,
w を求めた。濃度の異なる CaCl2 溶液(0.05,0.1,0.5 M)と
混合した各供試材においても,一連の測定を行った。
3. 結果と考察
3 種類のセンサーで測定したカオリナイトスラリーの
TDT 波形には,形状の差異が認められた(Fig.2)。振幅の
最大値(Amax)の大小関係に基づき信号減衰防止効果を
評価すると,w や CaCl2 溶液の濃度によらず UC,SC,HC
Fig.4 カオリナイトの見かけの誘電率(TDT)と
含水比(w)との関係
センサーの順に大きくなった。電気工学の慣例に倣って 3),
波形勾配から算出した UC センサーと SC センサーの有効
周波数(feff)は概ね等しかったが,HC センサーのそれは
両者より小さかった(Fig.3)。
カオリナイトの TDT は,w の増加とともに大きくなった
(Fig.4)。DW 混合スラリーのTDT 値は,被覆材の有無によ
らず測定できた(図中表記(○))が,0.05 M 以上の濃度で
は,透過信号の強度が検出限界以下に低下し,TDT を決
定できない場合が認められた。測定されたTDT - w 関係
には,Topp 式
Fig.5 見かけの誘電率から算出した含水比(wTDT)と
炉乾法で求めた含水比(w)との関係
4)
が適合しなかったため,図中表記(○)の
条件のTDT - w 関係を 2 次関数で近似した。得られた経
験式にTDT を代入して算出した wTDT 値は,概ね w との
1:1 線上に分布した。被覆材の有無や種類によって測定
限界濃度は異なるものの,全 TDT センサーにおいて,
RMSE ≤ 0.08 kg kg-1 の精度で wTDT を決定できた(Fig.5)。
ベントナイトのTDT と w との間には関係性が認められな
Fig.6 カオリナイトおよびベントナイトの TDT 波形
かった(Fig.7)。DW と混合したベントナイトの TDT 波形の
凹凸は,カオリナイトのそれに比べ小さく,立ち上がり点も
不明確であった(Fig.6)。w の変化に対するTDT の差異は
小さく(Fig.7),feff は 250 MHz 以下であった(Fig.3)。250
MHz 帯の伝播速度測定に基づく w の測定感度が低いこ
と 5)が,両者に相関性が認められなかった原因であろう。
4. おわりに
透過信号の強度が検出限界を下回らない限り,被覆材
の有無や種類によらず,TDT センサーを用いて,カオリナ
Fig.7 ベントナイトの見かけの誘電率(TDT)と
含水比(w)との関係
イトスラリーの w を決定できることが確認された。ただし,強い誘電分散を示すベントナイトスラリーについ
ては,従来の TDR だけでなく TDT においてもTDT を測定できなかったことから,その w を計測する場合
には,複素誘電特性を考慮した測定システムを構築する必要があると考える。
引用文献:1)Miyamoto et al.(2009): Soils and Foundations, 49(2), 175-180., 2)Moret et al.(2009): SSSAJ, 73(1), 21-27.,
3)Robinson et al.(2003): Vadose Zone Journal., 2, 444-475., 4)Toop et al.(1980): Water Resour. Res., 16, 574-582.,
5)Miyamoto et al.(2008): 農業農村工学会全国大会講演要旨集, 542-543.