日心第70回大会(2006)
Planned Codes 修正課題遂行中のマイクロスリップの発現について
―知的障害児のプランニング能力の検討―
○齊藤真善
五十嵐靖夫
柳沢尚樹
(北海道教育大学札幌校)
(札幌市立手稲中学校)(北海道教育大学大学院)
key words:プランニング,DN-CAS,planned codes,マイクロスリップ,知的障害児
目的
Das ら(1994)の PASS モデルに基づき標準化された DN-CAS の Planned
Codes 課題(以下 PCd)を用いて,小中学校特殊学級に在籍する 58 人の
プランニング能力を測定.その妥当性を検討し,修正課題(PCd-R)を作
成した.修正課題遂行中のマイクロスリップ(Reed,1992)を観察した.
方法
1,DN-CAS の PCd
前川・中山・尾崎の「CAS 認知評価システム―日本版標準化調査用―マ
ニュアル」
(2004)従って,DN-CAS の PCd を実施.粗点を比率得点(200
点満点)に換算した.
2,修正課題の作成
1の結果は,検査用紙に符号を記入していく形式のために,比率得点が
低くとどまったものと考え,課題構造を変えずに色つきのマグネットを並
べる形式に改めた PCd-R を6種類作成(Fig.1).系列が発見しやすいよう,
より単純なものを交え,同じ被験者に対して実施した.
3,マイクロスリップの観察
被験者中から任意に抽出した小学生 7 人,中学生 9 人の課題遂行過程中
のビデオから,マイクロスリップを観察した.生起数,生起したタイミン
グを調べたうえで,鈴木ら(1997)
,廣瀬(2004)などを参考にマイクロ
スリップを以下の4種類に分類した.
①続行:被験者の手が対象へとリーチングを開始し,空中での微小な停止
を経て,再度同じ対象へと到達した場合
②取消:被験者の手が対象へとリーチングを開始し,リーチングの開始位
置に戻った場合
課題
問題
符号化
配列
反応
見本と問題の
配列
結果
DN-CAS の PCd では,比率得点の平均値は 19.16(SD=13.95)と,低
得点にとどまっていた.また,一定の系列に従って符号化できなかった被
験者が 81%にのぼり,DN-CAS の PCd 課題では,知的障害児のプランニ
ング能力をはかることは難しいことがわかった.修正課題である PCd-R
では,比率得点は広い範囲に分布し(Fig.2),一定の系列に従った符号化
の割合も増えている.このことから,PCd よりも知的障害児のプランニン
グ能力をより正確に反映している可能性があると考えられた.
マイクロスリップの生起数は,被験者が系列を発見したと思われる時点
で減少した(Fig.3).生起タイミングを調べたところ,下位タスクの移行
時に頻発することがわかった.
考察
佐々木(2005)は,マイクロスリップを「微小探索」と呼ぶべきだと述
べている.このことを考え合わせると,比率得点が低くとどまった知的障
害児にも,プランニングの前段階と考えられる探索行為がみられることが
わかった.スリップの種類は「変更」が多く,このことはより大きな行動
系列を作り上げようとする志向性(=探索)が課題遂行中維持されている
ことを示唆していると考えられる.
(YANAGISAWA Naoki,IGARASHI Yasuo, SAITO Masayoshi)
問題数
PCd
文字
縦
筆記
同じ
56
PCd-R1
文字
縦
マグネット(2色)
同じ
56
PCd-R2
文字
縦
マグネット(4色)
同じ
56
PCd-R3
記号
縦
マグネット(4色)
異なる
56
PCd-R4
記号
縦
マグネット(4色)
異なる
28
PCd-R5
記号
横
マグネット(4色)
異なる
56
PCd-R6
記号
斜め
マグネット(4色)
異なる
56
Fig.1 PCd と修正課題(PCd-R)の課題構造
③変更:被験者の手が対象へとリーチングを開始し,急速に別の対象へリ
ーチングを変更した場合
④接触:被験者のリーチングの手が対象以外の物に触れ,別の対象に向か
った場合
平均点
SD
PCd
PCd-R1
PCd-R2
PCd-R3
PCd-R4
PCd-R5
PCd-R6
19.16
9.42
28.38
25.5
22.74
26.6
14.97
13.95
4.64
19.6
19.82
18.46
17.67
13.37
Fig.2 PCd と修正課題(PCd-R)の平均点と標準偏差
PCd
PCd-R2
PCd-R3
PCd-R4
PCd-R5
PCd-R6
系列に従った(%)
19
27
43
43
74
31
系列に従わなかった(%)
81
マイクロスリップの生起率(回/分)
73
57
57
26
69
0.46
0.57
0.76
0.43
0.69
Fig.3 系列に従った割合とマイクロスリップの生起