中国中央病院 教えてDr. !! ビスホスホネート製剤による顎骨壊死 歯科口腔外科医長 田野 智之 ビスホスホネート(BP)製剤は,悪性腫瘍による高カルシウム血症,骨転移,骨粗鬆症の 治療薬として多くの患者さんに使用されています。飲み薬では,ボナロン,ダイドロネル,フォ サマック,ベネット,アクトネル,ボノテオといった薬剤があります。注射薬では,ゾメタ, アレディア,ビスフォナールなどの薬剤があります。これらの薬剤を使用している患者さん において,顎の骨に炎症をおこし,さらに壊死する顎骨壊死の発症が大きな問題となってい ます。報告された症例の多くは,抜歯等の外科的処置や局所感染に関連して発現しています。 また,BP 製剤とは作用機序が異なりますが,骨転移の治療薬のランマークでも,顎骨壊死の 報告があります。 [症状] 歯肉の痛み,腫れ,歯の動揺,しびれ,骨の露出(骨がむきだしになる),顎の骨が腐る, 抜歯後の治りが悪い等の症状がみられます。 [顎骨壊死の発生のリスク因子] 局所的因子として,口腔衛生状態の不良が挙げられます。また,全身的因子としては,ス テロイド療法,ホルモン療法,糖尿病,悪性腫瘍の化学療法,喫煙,飲酒,高齢者(65 歳以上) がリスク因子として挙げられています。このようなリスク因子がある場合には,顎骨壊死が 生じやすいといわれています。 [顎骨壊死の予防] 普段から,歯みがきを行い,口の中を清潔に保つことが重要です。また,定期的に歯科医 院を受診し,歯石除去,歯周病の治療,虫歯治療などを行うことも必要です。BP 製剤を服用 する前には,抜歯,歯周病の治療,義歯などの歯科処置を前もって行っておきます。必要に 応じて,歯科治療が終了するまで BP 製剤の投与を延期することもあります。 BP 製剤服用後は,定期的に歯科医院を受診し,できるだけ抜歯などの口腔外科的な処置は 避ける必要があります。抜歯などの処置を行わなければならない場合は,BP 製剤を中止する ことがあります。薬を中止するかどうか,いつから中止するかは,BP 製剤を処方している医 師の指示に従ってください。自己判断で中止しないでください。 [治療] 顎骨壊死の治療法は,有効な治療法が確立されていないた め,経験に基づいた保存療法が推奨されています。消毒薬に よる局所の洗浄,消炎鎮痛剤による痛みのコントロール,抗 生物質の投与を行います。場合によっては,完全に遊離した 腐骨の除去や限定的な壊死した組織の除去を行うことがあり ます。また,病的骨折や皮膚に瘻孔(膿の通り道)を認めた り,広範囲に骨がむきだしになった場合などの重症な場合に は,顎の骨を切除するような手術を行う場合があります。 顎骨壊死は,一度発症すると,完全に治癒するのが困難です。ビスホスホネート製剤を使 用している患者さんは,予防法をよく知っていただき,上記のような症状を認めた場合は, 歯科口腔外科などを受診することをお勧めします。 12
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