講 評 文部科学省初等中等教育局特別支援教育課 特殊教育調査官

講
評
文部科学省初等中等教育局特別支援教育課
特殊教育調査官
古川勝也
教科の基礎・基本というテーマで今回研究に取り組んでもらいましたが,私の持ってい
たイメージとぴったりでうれしく思っております。さらに評価の面にまで手を加えていた
だいてありがたい限りです。実は,新学習指導要領で我々がきちんと押さえていかなけれ
ばいけないことなので,このテーマを設けてもらいました。
平成13年度・14年度は,教科の基礎・基本についてきちんと全国に伝えなくてはな
らなかったので,そのためにはどうあればよいのかということで,この点に絞り込んで取
り組んでもらいました。その結果すばらしいものができたのではないかと感じました。
今日は特殊教育の今後についてもお話しいただきたいということなので,後半の部分で
プレゼンテーションソフトを使ってお話しします。
まず最初は,講評というか感想を交えてお話ししていきたいと思います。
A類型・B類型どちらも一人一人の子供をどう捉えるかというところから出発していま
す。そして,計画を立てて実践していく,最後に評価するというP.D.S.(Plan.
Do.See)の流れにおいて,個別の指導計画をベースにしながら,教科の基礎・基本
を指導しています。特にA類型では,今後の在り方ということも含めて考えていきますと,
地域の学校としてのニーズがあります。学校の在り方としても,やはり地域のセンター的
機能,特別支援教育の中核として動いていってほしいという方向性が求められています。
そうなると,地域のニーズを把握して,教育相談的なものを行うというシステムが必要と
なります。そこで,それを行っていく上での専門性やノウハウ,そして組織的な体制,あ
るいは個々人の持っている教育的な指導力などが求められます。
A類型の研究について述べます。まず実態把握の仕方では,よく行動観察などがありま
すが,今回の一番大きなポイントは肢体不自由の持つ特性をどう見ていくかです。たとえ
ばK−ABCやフロスティッグ視知覚検査,それにWISC−Ⅲなどの結果から子供の肢
体不自由ゆえの随伴する障害の問題点が当然浮かびあがってきます。よく脳性まひは認知
的な障害が出たりします。このようなことを把握していないとただ単に教科の内容の精選
だとか指導法だとかを言っても正しい評価を行うことはできません。これは解釈の問題で
もありますが,その前にその子の認知面でのつまずきとかを考えると評価が自然と変わっ
てきます。今回は,そういった切り口で見ていただいたということは,子供の実態を把握
する上で非常に重要であったと思います。
自己評価活動に関して,教科の基礎・基本は単に知識・技能だけから捉えるものではな
く,課題決定の力であるとか意欲,そういった部分が子供たちにとって非常に大切な部分
であるのではないかと思います。子供たちが自己評価活動というものを通して,自分で意
欲的に学習に取り組んでいます。我々もそうですが,何か興味があれば集中的に取り組め
るだろうと思います。それから自分の興味あることに子供たちが発展的に学習に取り組む
というベースを作っていくためには,特に学習につまずきのあるお子さんであれば自己有
能感といった面を大切にしてあげて,そこから意欲的に学習に取り組ませることができる
のではないでしょうか。そういった点にも言及していただいたことで,今回の研究はとて
も意味があるのではないかと思います。
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もう一つ,評価規準についてです。A類型の中で実態把握など,特性をふまえた細かい
見方をされて,中心課題,基礎課題,発展的な課題の設定をされて,それらの関連を図っ
ています。指導内容の精選から指導方法の決定ということで,それぞれの分科会の中で,
説明があったと思います。その中でどうしても評価という問題が関わってきます。P.D.
S.のサイクルの中で,その評価というのはどうしても主観的になりがちです。そういう
意味では,評価規準を作っていくことにより客観的な見方ができるのではないでしょうか。
国立教育政策研究所で作った評価規準を活用していくこともあります。しかしそういった
評価規準だけではどうも十分ではない,だから,中学部の発表にもあったように既存の評
価規準をベースにして,自分たちで肢体不自由の特性をふまえて,その評価規準をよりよ
いものにしていきます。そうすれば,それをベースにして次からの学習の積み上げという
のができていくのではないかと思います。今はまだ,全ての教科についてできているわけ
ではありませんので,是非これは来年度の課題として引き継いでもらいたいと思います。
評価規準を作っていただいて,そしてそれが次のステップの課題となるような規準を整備
していただければと思っています。
B類型でも,生活単元学習で教科・領域を合わせてやる時に何をやっていくのか。あく
までもとになる教科であるとか,領域であるとかがあるわけですが,当然,教科の内容と
かをうまく合わせて,そして知的障害の実態をふまえながら授業を展開した方が,より効
果的です。評価についてですが,教科の目標・内容とかはきちっと明確にしておかなけれ
ばいけません。今回のB類型の研究の中で示されている評価規準というのは非常に参考に
なるものであると思います。たとえば小・中学校に準じた教育課程と違って,知的障害の
場合は,教科の内容を選定しなさいということになっています。教科の内容があって,こ
れだけはしなさいというわけではないんですね。その中から必要な内容を子供たちの実態
に応じて選定します。ただ,実態をきちんといろんな視点から把握して,将来生きる力と
は何であるかと考えた形で,「あの子にはこういった内容が必要です。」とか,たとえば
国語だとか数学だとか,そういった中から必要な内容を引いてきます。そしてそれを合わ
せた時,あるいは教科独自で教科別という形でやっていくということになるだろうと思い
ます。そのときにやはり教科をきちっと見て,評価をどうするのかをある程度規準をたて
ることで,次はどうやったらいいのかの足がかりになります。そして,次の目標が出てく
ると思います。そこのところを評価規準で整理していきますと,非常にわかりやすく,そ
して読みやすくなってくるのではと思っています。そういった意味では評価規準の意味と
いうのは大きいのではないかと思います。
学校自体の評価というものがあります。たとえば地域の中でセンター的機能を持った時
に,学校は評価をされることになります。極端なことを言いますと,たとえば先生方がど
こかの小学校に行った。行ったはいいけどもあまり役に立ちませんでした。そうすれば次
はもういいだろうということになります。そうならないためにも,今回の研究で示してい
ただいた教科の基礎・基本の考え方であるとか評価規準の作り方とか整理の仕方というの
はどこの学校においても参考になるものではないかと思います。まだまだ荒削りの部分も
あると思いますが,実践を通してよいものになっていくことと期待しています。
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