Title フレネルゾーンプレートの3次収差 : 光線追跡法に基づく取 り扱い Author(s) 吉田, 稔 Citation [岐阜大学教養部研究報告] vol.[25] p.[83]-[90] Issue Date 1989 Rights Version 岐阜大学教養部物理学研究室 (Faculty of General Education, Gifu University) / 岐阜大学教養部物理学研究室 (Faculty of General Education, Gifu University) URL http://repository.lib.gifu-u.ac.jp/handle/123456789/47725 ※この資料の著作権は、各資料の著者・学協会・出版社等に帰属します。 83 フ レ ネル ゾ ー ンプ レー ト の 3次収差 光線追跡法に基づ く 取 り扱い 吉田 稔 ・ 神谷 巨吾 岐阜大学教養部物理学研究室 ( 1989年10月18日受理) Third-Order A berrations of the F resneI Zone Plate A pplication of R ay-T racing Procedure M inoru Y OSH I DA and K ohgo K A M I Y A 1. は じ め に ゾーン プ レ ー ト の理論 と し て は, 回折光の強度分布の物理光学的な取 り扱いに よ る計算, 幾何光 学的な取 り扱いに よ る収差の計算な ど, 様 々な計算結果が報告 さ れて い る。 ゾーン プ レ ー ト はそ の 理論的な興味のみに留 ま らず, 軟X 線領域にお け る結像素子 と し て, あ るいは集光作用を兼ね備 え た分波器等 と し て, 近年の微細加工技術の進歩に と も な っ て, 実用に供 される機会が急増 し てい る。 これ ら の素子 の結像性能を評価す るた めに, 光学 レ ン ズの場合 に普通行なわれ る よ う に, ザイ デル の 5収差に対応す る収差係数を求めてお く こ と は実用上好都合で あろ う。 回折格子や ゾーン プ レー ト の収差の計算には, 通常, 光路関数を近軸領域でべ き級数展開 し た も のに フ ェ ルマ ーの原理を適用す る方法が と られ る ( 文献 1- 3 ) 。 一方, ゾーン プ レー ト に よ っ て回 折 し た光線の像面上で の到達位置を求め るために, 同 じ フ ェルマ ーの原理に基づ く 幾何光学的な光 線追跡の方法を用い る こ とがで き る ( 文献 4 - 6 ) 。 こ の方法で は近軸近似を必要 とせず, 横収差の 厳密な表式を得 る こ と がで き る。 こ こで は, 後者の方法に よ っ て フ レネル ゾーン プ レ ー ト の 3 次収差係数を 求め, 薄肉単 レンズの 場合に得 られて い る結果 と比較す る。 ゾーン プ レー ト の焦点距離が波長 に強 く 依存す る こ と は, 大 きな色収差の存在を意味す るが, こ こで は単色の収差につ いて のみ取 り扱 う。 2 . ゾー ン プ レー ト を通 し て の光線追跡 ゾーン プ レ ー ト と し て は平面状の透過型のも のを仮定 し, 軸対称の場合に限る。 計算のために使 用す る座標系 は第 1図に示す通 りであ る。光学系の対称軸 を Z 軸 と し, 光線の進行方向を 十Z方向と す る。 更 に, ゾーン プ レ ー ト の面を Z= Oと し , 入射瞳が こ の平面にあ る も の とす る。 物点 A (ズ 。, お, ら) よ り ゾーン プ レー ト上の点 P( 抑バ, 0) を経て像点 B(Xf, M, 辿) に達す る光線 に対す る光路関数は, ゾーン プ レー ト の透過率が格子状の周期構造を持つ こ と を考慮 し て, 吉田 84 稔 ・ 神谷恒吾 Y B(× 1, yi, Z1) OBJECT PLANE Z ~ y ` よ l j 』. l ↓ / 1 ZONE PLATE 1MAGE PLANE 第 1図 フ レネル ゾー ン プ レー ト に よ る結像。 A : 物点, P : ゾ ー ン プ レ ー ト上の入射点, B : 像面上の入射点, B : 理想像点。 F= 一 丁 ll丁〈AP〉十 首 〈PB〉 + 7X附λ ( 1) と表わ さ れ る (文献 1) 。 こ こで <AP〉2 = (心一㈲ 2十 ( 孔- /) 2十 Z。2, ( 2 a) <PB〉2 = (希一剣)2十 (j々- /) 2+ 42 ( 2 b) であ る。 また, 72は光軸 よ り数えた ゾーンの番号で, S と λはそれぞれ回折の次数お よび入射光の 波長で あ る。 <AP〉, <PB〉 の前の係数は虚光源 ( Z。> O) や虚像 ( Zf< O) の場合を含めた取 り扱 いを す るた めに付 けた。 I- ・ 0 亘& 0 お よび 旦心 光線の経路は( 1) 式の光路関数に フ ェ ルマ ーの原理を適用 し て, ( 3 a) ( 3 b) に よ り決定 さ れ る. ∂〈AP〉 こ こで, 式 ( 2 a) , ( 2 b) の両辺を 陥 / で偏微分す る こ と に よ り, 恥 一勿 - ( 4) - - ∂ω < A P〉 な どが成 り立つ こ と を利用す る と, 式 ( 3 a) は, ぐ 一 = 0 ( 5 a) 唾知 = 0 ( 5 b) と な り, 式 ( 3 b) も 同様 に, Z。 一 茜 一 / 一 lZ。¦ <AP〉 一 一 と な る。 式 ( 5 a) , ( 5 b) は像点の座標 珊, j々を 2 つの未知数 とす る連立方程式 と見なす こ と がで き, フ レネル ゾー ン プ レ ー ト の 3 次収差 85 その解は, £ 苓 = g + y 1 - L 2- 訂 2 ( 6 a) Zf, 訂 夕, = / 十 ( 6 b) Zf √二 ぴ ⊇炉 と表わ さ れ る。 こ こ で, £ = Za . XO- 1λ J - 〈AP〉 ZQ バ知 ( 7 a) 贈 ( 7 b) お よび 夕 _ ゐ一/ Z Q 訂 ¯ 下司 - 〈AP〉 脚λ はそれぞれ回折光の方向余弦のX 成分 と Y 成分に相当す る。 ( 7) 式の ∂が ∂g お よび ∂が ∂/ はゾーンの形状によ っ て決ま る。 W t W t で は, ゾ ーン の番号が次の 式に よ っ て与 え られ る も のについて取 り扱 う。 刎:陥 /) = Z472+ /2 ( 8) - 2れ2 な ま正の定数で, ( 8 ) 式は各 ゾーン当た りの面積が 2πが の同心円状の ゾーン プ レー トを表わ し て い る。 こ の と き ( 7 ) 式 は, £ = Z。 易 - g 一 二/ 竺 / - (. 9 a) ( 9 b) と な る。 こ こで, 後の計算の便宜のた め, /=一 石 (10) と置 いた。 一方, ゾーン プ レ ー ト の中心を通 った後直進す る もの と 仮定 し た理想主光線の到達位置 ( 理想像 点) B の座標 は, 馬 = 隔 /Z。) 為 ( 11a) 1 = ( ZyZ。) お ( 11b) で あ るので, 像面上で の横収差は, ( 6) 式の ズi, jyj を使 っ て, l △珊 = 鳶 一 局 = 希 一座 為 , ( 12a) zQ お よび △yf = j々一 又 = j々一 丘 お ( 12b) zQ に よ り求 め る こ と がで き る。 物点A の座標 (ズ。, M。 z。) , ゾーン プ レー ト上 の入射点 P の座標 ( g, /) , お よび像面の位置 zfが 与 え られた と きの光線追跡の手順を ま とめ る と次の よ う にな る。 入射光 の方向余弦 : _ l z。¦ N ¯ で瓦石¯ 吉 田 稔 ・ 神谷恒吾 86 心 一耀 £ y¥/ ZO 訂 知一/ - jV ら 但 し, 〈AP〉2= (ズ。- a/) 2十 (知- /) 2十 z。2 回折光 の方 向余弦 : = 訂 一 /一 / 訂 N = y1 - L 2- jf 2 但 し, y12 / = - 辨λ 像点の座標 : 蜀= 耀十分 Z£ j4 = / 十刄7Zf 像面上で の横収差 : ∠ X鳶 = 蜀 一 一 易 ん △j々= j々―丘 茜 ZQ 3. 3 次の収差係数 さ て, 収差係数 を 求め る た め に, 入射光 お よ び回折光 が と も に近軸 の領域 にあ る も の と し て ( ¦ 恥 に j北 に l g に 口 に し引 , し川 ≪ l Z。¦ , 臨 ¦, げ に) 横収差の式をべき級数に展開 す る。 3 次収差の項 まで求め る には( 9 ) 式 において, 万 款 1言(≒戸卜伴宇)卜 。, ( 13a) 同様 に, ‰ =才 弓 (マ ∩ 政 一/ ら 21 十〇5 ( 13b) と, 4 /Z。な どの 3次の項 まで展開すればよい。 なお, 心/Z。な どの 5 次以上の項を ま とめて こ こで は 0 5 と書いた。 こ う し て得 られた £ 1 次の微小量で あ る こ と を考慮 し て, と 訂 を ( 6 ) 式 に代入す る際 には, £ お よび 訂 がそれ 自身 フ レネル ゾーン プ レ ー ト の 3 次収差 1 87 {一 訂2十〇 4 + ( 14) y1 - L 2- 訂 2 が利用で き る。最後に( 6) 式 を ( 12) 式に代入すれば, 近軸光線に対す る横収差の展開式が得 られ る。 = 1+ 才£2 こ こで問題 と し て いる光学 系は軸対称で あ るので, 物点が X-Z 平面上にある もの と し て も議論の 一般性を損なわない。 こ の場 合, 4耳 と △jい まそれぞれ横収差の子午面内の成分 とそれに垂直な方 向の成分を表わす こ と にな る 。あ= Oと し て上の展開を 実行 し た結果, 次のよ う に ま と め る こ と がで き る。 △刄 =(1一 一 と) p c o s φ 十 ぐ レ(言一 言)ρ 3c o s φ -ム レ(ルール) ρ 2ta n ω (2十 c o s 2φ ) 十 ぐ 卜 (去一 真 )p ta n 2ω c o s φ - Z£ 十 〇5, △j々 - 4 ( 15 a) = (去一 一 六 )p s in φ 十 ぐ レ(言一 言)ρ 3s in φ -くし(ふ-jy )ρ 2 ta n ω s in 2φ 十} (万 じー ミフ )p t飢 ‰s illφ 十 〇5 ( 15 b ) 但 し, 余=と十 夕 (16) と置いた。(p, φ) は瞳座標す なわち光線が ゾーン プ レー ト に入射す る点 Pの座標を ゾーン プ レー ト の中心を原点 とす る極座標で 表わ し た も ので, ρは光軸か ら の距離, φは子午切断面 (y= O) を基 準 と し て測 った方位角であ る 。 また, 副 ま入射側の主光線が光軸 と なす角 ( 半画角) で, ( 15) 式の 導 出に当た っ て, g = pcosφ, ( 17a) / = psinφ, ( 17b) お よび = 為 一心 tanω ( 18) の置 き換 えを 行な っ た。 式 ( 15a) , ( 15b) の右辺 第 1項は焦点はずれに よ る も ので, 像面の位置を zf= zGとすれば消え る。 す なわち zGは近軸像面 の位置を与 え, ( 16) 式 が薄 肉 レ ンズの物体距離 と像距離 と を 関係付け る よ く 知 られた結像公式 と 同 じ形で ある こ とから, ( 10) 式で定義 した / が ゾーン プ レー トの焦点 88 吉田 稔 ・ 神谷恒吾 距離を 表わ し て い る こ と がわ かる。 ( 15) 式 の第 2 項以下が近 軸像面 ( Z= ZG) 上 で の収差 を 表 わす項 で あ り, こ の結果 は文献 3 の ( 18) , ( 19) 両式 に与 え られ て い る も の と一致す る。 収差係数の定義は一通 りで はな く , 文献に よ っ て ま ち まち で あ るが, こ こで は文献 7 に従 う。 す なわ ち, 3 次の収差展開式を 1 △鳶 Ip3cosφ+ 11p2( X tanω) ( 2 十cos2φ) - 2α 十 (2Ⅲ十 IV )ρ (jV lta n ω )2c o s φ 十 V(N1ta n ω )3}, Ip 3s in φ +11p2(Xta n ω )s in 2φ十IV p(況ta n ω )2s in φ ¦ 1 △j々 - 2α の形 に表わ し た と き, ( 19a) ( 19b) I , II , III, IV, V を, それぞれザイ デルの 5収差の う ち, 球面収差, コマ 非点収差, 球欠像面鸞 曲, お よ び歪 曲を表わす収差係数 と定義す る。 ( 19) 式の 況 は物空間の屈折 率で, こ こで は 況 = 1 で あ り, また α が射出光線の ρ= 1 に対す る換算傾角で, 今の場合 1/zけこ 等 し い こ と を考慮 し て, ( 15) 式 と ( 19) 式の対応す る各項の係数を それぞれ比較す る こ と に よ り, ゾーン プ レー ト の 3 次収差係 数が次のよ う に求め られ る。 lz r=-(言一 言) =古(3/)2+1) , Ilz r=言一 鼻=-y i♪, 1 1 1 z r=IV z r=- (と一 言 ) =ナ, V zr = 0 。 (20a) (20b) (20c,d) ( 20 e ) こ こで , 夕 は物体距離を表わ す パ ラ メ ータ で, リ = 1十茫 (21) 4フ に よ り定義 し た。 4 . 薄肉 レ ンズ と の比較 レン ズ 自身が入射瞳 と な っ て いる よ う な薄肉の単 レ ンズにつ いて, 収差論の公式を適用 し て 3 次 収差係数を 求め, ( 20) 式 と 同 じ形式 に整理す る と次の よ う に書 く こ と がで き る。 h lh III E - 上 , 伊 1 - - IVt = 3皿 + 2 4( 皿 + 1) 皿 + 2 g2 + ♪2 加 十 皿 筑 ( 皿 - 1) 皿 ( 皿 - 1) 2 一 2yW + 1 夕 2皿 皿 + 1 2皿(皿- 1回 仁 バ1績) Vt = 0 。 a) ( 22b) ( 22C) ( 22d) ( 22 e ) こ こ で jVkは レ ンズの屈折率, い ま形状因子( shapefad or) と 呼ばれ る量で, レ ン ズの第 1 面 と 第 2 面 の曲率半径を そ れぞれ £ 1, 瓦 と し て, フ レネル ゾー ン プ レ ー ト の 3 次収差 10 8 H の 吟- 6 6 4 陥 2 レ ∧ 柏▽ ¥ ≒ソ / 叉仁 ∧ ▽ 悦込ム ソ ¥ へ ‰ 2 (a) ○ -2 / ¥ Z P ヘ ヘ / _ - / / ○ - ☆ ブ ⑤浪 ⑤長ぶ☆ 言 ⑤心 べ ① 4 目 / ¥ -4 2 - 1 ○ 1 (- f (- 2f ) ( ±00) 2 - 2 p (Z。) 第 2図 89 - 1 0 1 (- f (- 2f ) ( ±00) (b) 2 p (Z。) 球面収差 (a), お よ び コ マ (b) の収差係数。 実線 : 屈折率1. 5の薄 肉 レ ン ズ, 破線 : フ レ ネル ブ ー ツ プ レ ー ト。 g 尺2+ 尺1 ( 23) 一 尺2- 尺1 によ り定義 される。 なお, 焦点距離 / はこの場合, で y= (皿-1)(・ま二足 ) (24)` に従 う。 ( 22) 式を ( 20) 式の対応す る各収差係数 と比較す る と, レ ン ズの屈折率 jVk が無限大 と な る極 限で, どの収差係数 も, 形状因子 ・7に関わ らず, 同 じ焦点距離 の ゾーン プ レ ー ト と 同 じ 値 にな る こ と がわ か る。 球面収差 I お よび コ マ II について は, 物体距離に よ る依存を 第 2 図 (a) お よび (b) に示 し た。実線が = - - - 薄肉 レ ンズの例で, 屈折率が1. 5の場合を , 破線が ゾーン プ レ ー ト の場合を表わ し て い る。 ゾーン プ レー ト の場合, レ ンズの よ う にペ ン デ ィ ン グに よ っ て コ マ を 除去す る こ と はで き な いが, 通常の結 像条件 ( - Z。> / > O) で は, 球面収差はどんな形状因子の薄肉レンズよ り も小さ く な る。 5. お わ り に 幾何光学的な光線追跡法に基づいて, フ レネルゾーン プ レ ー トの 3次収差係数を導 き, 薄肉 レン ズ と比較 し た。 光路関数 F 自身を べ き級数に展開 し て か ら フ ェ ルマ ーの原理を適用す る従来の計算法 に比べ, 展 開の項数が少な く て済み, また, 横収差 △珊, △y, を表わす式の導 き方がよ り直接的で あ るので, 更 に高次の収差の計算 も容易に行な え る。 同心 円状の平面の ゾーン プ レ ー ト に取 り扱いを 限 った が, ゾーン プ レ ー ト の組み合わせを応用 し た軟X 線顕微鏡の結像性能の評価な どには有効で あろ う。 文 献 1) H. G. Beutler : TheTheory of theConcaveGrating, J. 0 pt. Soc. Am., 35 ( 1945) 311-350. 90 2 ) T . Namioka : 吉田 稔 ・ 神谷恒吾 Theory of the Concave Grating. I , J. 0 pt. Soc. Am。 49 ( 1959) 446-460. 3 ) K . K amiya : Theory of Fresnel Zone Plate, Sci. Light, 12 ( 1963) 35-49. 4 ) W . T . W elford : Tracing Skew Raysthrough ConcaveDiffraction Gratings, Opt. Acta, 9 ( 1962) 389-394・ 5) H. Noda, T . N amioka, and M . Seya : Ray Tracing through HolographicGratings, J. 0 pt. Soc. Am。 64 ( 1974) 1037-1042. 6 ) 神谷恒吾,吉田 稔 : フ レネル ゾーン プ レ ー トを通 し て の光線追跡 , 分光研究, 36 ( 1987) 395-399. 7) 松居吉哉 : レソ ズ設計法 ( 共立出版, 東京, 1972) 第 4 章。
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