外国競争法研究会 要点整理 1 英国競争法における

外国競争法研究会 要点整理
英国競争法におけるカルテル刑事罰及び企業結合について
(2014 年 4 月 23 日、13:30~16:30)
講師:弁護士
坂野
吉弘
氏
はじめに:英国競争当局の統合について
2013 年企業・規制改革法に基づき 2013 年 10 月に Competition and Markets Authority
(英国競争・市場庁、以下 CMA1という)が設置された。そして 2014 年 4 月 1 日から従
来の競争法執行機関であった Office of Fair Trade(英国公正取引庁、以下 OFT という)
と Competition Commission(英国競争委員会、以下 CC という)の機能が CMA に統合
された。
Ⅰ.カルテル刑事罰
1.2002 年企業法
(1)2002 年企業法 188 条~190 条は、個人カルテル罪を規定する(2003 年 6 月 20 日
から発効)
。因みに英国競争法には法人カルテル罪はない。
(2)個人が、不誠実に・不正に、少なくとも 2 事業者に関わる価格協定、供給制限・生
産協定、市場分割・顧客割当協定、入札談合をして若しくはこれらを実施した場合、
又は行わせ若しくは実施させた場合は有罪とする。(188 条)
(3)5 年以下の禁錮若しくは限定なしの罰金又はこれらを併科する。(190 条)
(4)188 条の不誠実に・不正に(dishonestly)については、その定義及び証明方法が不
明瞭であり、刑事訴追を困難にするものであったため、2013 年企業・規制改革法 47
条で削除された。しかし、その一方でカルテルの刑事訴追が安易に行われないように
するため、2013 年企業・規制改革法 47 条は 2002 年企業法に 188A 条「非該当の状
況」
、188B 条「カルテル罪の抗弁理由」
、190A 条「カルテル訴追ガイドライン作成義
務」を新設した。
(5)2014 年 3 月 12 日、CMA は「カルテル訴追ガイドライン」を発表した2。
2.カルテル刑事事件
(1) マリンホース事件(R-v-Whittle, Brammar & Allison3)
(2) 農業分野で使用される製品に関する捜査4
1
2
https://www.gov.uk/government/organisations/competition-and-markets-authority
https://www.gov.uk/government/publications/cartel-offence-prosecution-guidance
3
http://www.oft.gov.uk/OFTwork/competition-act-and-cartels/criminal-cartels-completed
/marine-hose
尚、R は Rex(王)又は Regina(女王)の略である。
4
http://www.oft.gov.uk/OFTwork/competition-act-and-cartels/criminal-cartels-completed
/agricultural-sector/ 尚、下記は同一事件と思われる欧州委発表である。
http://europa.eu/rapid/press-release_MEMO-10-190_en.htm?locale=en
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(3)航空旅客向け燃料サーチャージ事件(R-v-George, Crawley, Burns, and Burnett 5)
(4)自動車分野の納入業者によるカルテル事件6(事件番号:CE/9229-09)
(5)商業車メーカーによるカルテル事件7
(6)建設業向けの製品供給に関するカルテル事件 8
(7)貯水用亜鉛メッキスチールタンクに関するカルテル事件 9
3.英国減免制度
Immunity は免除であり、Leniency は減額である。
4.役員資格剥奪命令10(1986 年企業役員資格剥奪法第 9A 条)
役員の所属企業が競争法違反(英国競争法第 1 章(カルテル)若しくは第 2 章(支配的地位濫
用)、又は EU 競争法 101 条若しくは 102 条)を行い、且つ役員の行為が企業経営には不
適当である場合に、裁判所は役員資格剥奪命令を出すことができる。最長 15 年である。
5
http://www.oft.gov.uk/OFTwork/competition-act-and-cartels/criminal-cartels-completed
/fuel-surcharges-proceedings
6
http://www.oft.gov.uk/OFTwork/competition-act-and-cartels/criminal-cartels-completed
/automotive-sector/ 尚、下記は同一事件と思われる欧州委発表である。
http://europa.eu/rapid/press-release_MEMO-10-49_en.htm?locale=en
7
http://www.oft.gov.uk/OFTwork/competition-act-and-cartels/criminal-cartels-completed
/commercial-vehicle-criminal/
尚、民事事件調査も並行して行われたが欧州委が引き継いだと思われる下記発表がある。
http://www.oft.gov.uk/OFTwork/competition-act-and-cartels/ca98-current/commercial-v
ehicle-civil/#.U3ngA7kU_rc
8
http://www.oft.gov.uk/OFTwork/competition-act-and-cartels/criminal-cartels-current/co
nstruction-industry
9
http://www.oft.gov.uk/OFTwork/competition-act-and-cartels/criminal-cartels-current/G
alvanised-steel-tanks/
http://www.oft.gov.uk/news-and-updates/press/2014/04-14
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Competition Disqualification Order(“CDO”)
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Ⅱ.企業結合規制
1.EU 企業結合規制の審査対象案件
地域別売上高
審査対象基準 A(EUMR
全世界
当事会社合計で 50 億ユーロ超
当事会社合計で 25 億ユーロ超
全 EU
当事会社単独で 2.5 億ユーロ超
当事会社単独で 1 億ユーロ超
EU 加盟 3 か国
Art1.2) 審査対象基準 B(EUMR Art1.3)
当事会社合計で 1 億ユーロ超
規定なし
当事会社単独で 2500 万ユーロ超
其々で
適用除外
単一かつ同一加盟国の売上高が全
同左
EU 売上高の 2/3 以上を占める場合
2.英国企業結合規制
(1) 企業結合審査手続き
(2) 審査基準
(3) 審査対象
① 結合要件
複数企業が企業として区別されなくなった場合は結合関係にある(2002 年企業法
26 条)
・企業結合が利益創出の為のものでなくとも、財産(含む知財)の結合があれば対象
となる。
② 売上高基準又は供給基準
・被買収企業の英国売上高 7000 万ポンドの場合又は結合企業の英国内若しくは英国
内の実質的部分における供給シェア又は購入シェアが 25%以上となる場合。(2002
年企業法 23 条)
③ 企業結合なかりせば(counterfactual)という仮定による企業結合の正当化
④ 市場集中度測定については他競争当局と同様
・単独効果については、結合後のシェア 40%までならば SLC とは見ない。
・企業数として 5 社が 4 社へ、6 社が 5 社へというレベルならば問題なかろうが 4 社
が 3 社、3 社が 2 社というケースについては慎重に検討することになる。
・HHI(Herfindahl-Hirschman Index)については次の通り。
結合後の HHI が 1000 を超えると集中市場、2000 を超えると高度集中市場となる。
集中市場で HHI 増加分が 250 以下、高度集中市場で HHI 増加分が 100 以下であれ
ば問題にはならないだろう。
(書籍紹介)
“Blackstone's UK and EU Competition Documents” edited by Kirsty Middleton
“Competition Law” by Richard Whish and David Bailey
“The Criminal Law of Competition in the U.K & U.S.: failure & success” by Mark Furse
以上
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