Res. Reports Asahi Glass Co., Ltd., 64(2014) 抗体医薬精製用アフィニティシリカ担体の開発 Development of Silica-based Affinity Media for Industrial-scale Antibody Purification 宮原浩嘉*・中島亮** Hiroyoshi Miyahara, Ryou Nakashima 医薬用途で広く用いられているIgG抗体が巨大分子であることを考慮し、抗体―プロテインAの アフィニティシステムを利用した高効率な工業スケール精製を実現すべく、アフィニティシリカ担 体の細孔径、細孔容積、修飾密度、更に粒子径(分布)の最適化を図った。細孔径70-140nm、比 表面積26-67m2/gのシリカ試作品を調製し、プロテインA修飾を施した後、牛もしくはヒトIgGに 対する動的結合容量を140-720cm/hrの線流速で測定した。細孔径110nmのアフィニティシリカ担 体の総括物質移動容量係数は架橋アガロース担体の4倍となり、高流速域における高DBCを達成 した。また、本担体(M.S.GEL Protein A-D-50-1000AW)を繰返し試験に供した結果、50サイク ルの繰返し試験中、DBCとIgG回収率は高値を維持した。更に、次世代担体を設計すべく、均等係 数のシャープなEP-DM-35-1000AWを調製し、プロテインA修飾を行った。滞留時間1minの高流 速域において、本担体は圧損を増大させることなく、約60mg/mL-bedと非常に高いDBC性能を達 成した。 Considering the large molecular size of IgG antibodies widely used for therapeutic applications, the pore size, pore volume, coupling density and particle size(distribution)of silica-based media were optimized for the effective industrial-scale purification, using an antibody-protein A affinity system. Silica media, with average pore sizes of 70-140nm and surface areas of 26-67m2/g were prepared and coupled with protein A. The dynamic binding capacity values of bovine and human IgG were measured at superficial liquid velocities ranging 140 to 720cm/hr. The volumetric coefficient of mass transfer of the silica-based protein A media with a pore size of 110nm was four times higher than the values for crosslinked agarose media and thus had high DBCs at high superficial liquid velocities. Durability of the optimized medium(M.S.GEL Protein A-D-50-1000AW)was studied during repeated use, and the DBC and IgG recovery were high and not varied during 50 cycles of repeated use. For further design to a next-generation medium, EP-DM-35-1000AW with a sharp particle size distribution was prepared and coupled with protein A. In a high superficial liquid velocity corresponding to a residence time of 1 min, this medium(M.S.GEL Protein A-EP-DM-35-1000AW)had a high performance with the DBC of about 60mg/mL-bed, but without increased pressure drops. *AGCエスアイテック株式会社 開発部長(E-mail:[email protected]) General Manager of Research and Development Division, AGC Si-Tech Co., Ltd. **AGCエスアイテック株式会社 開発部プロセス開発グループ(E-mail:[email protected]) New Process and Technology Development Group, Research and Development Division, AGC Si-Tech Co., Ltd. −11− 旭硝子研究報告 64(2014) 1. Introduction 2. Experimental シリカ(SiO2)は地殻の約60%を占める地球上で最 も豊富に存在する構成成分の一つであり、その天産品 や合成品は化学工業、医学・薬学、化粧品など多岐に 渡る分野で利用されている。当社は半世紀以上に渡り、 シリカ化学のパイオニアとしてシリカ製品の創造を担 ってきた。1951年の珪酸ソーダおよびこれを出発原料 とした非晶質の多孔質シリカゲルに始まり、1985年に は微小かつ真球状担体 M.S.GEL を、1991年には汎用 球状粒子 サンスフェア を、1998年には鱗片形状の機 能性微粒子 サンラブリー の製造・販売を開始した。 近年、抗体医薬市場が急成長している。特にヒト IgG型モノクローナル抗体医薬は、組換えDNA技術、 ファージディスプレイ法に代表される抗原認識配列の スクリーニング技術、CHO細胞を用いた抗体発酵技 術の開発・導入により、現在では1リットルあたり数 gの高濃度溶液を数10万リットル規模で発酵培養し得 る設備が用いられるようになってきた。アップストリ ームプロセスの技術革新の一方で、大量に発酵生産し た抗体を高効率に分離精製し得るダウンストリームプ ロセスの開発が切望されている。特に1st Captureス テップとして常用されるプロテインAアフィニティク ロマトグラフィでは、プロテインAやそれを固定化す る担体コストが高価なため、本バイオ精製プロセスの 高効率化が重要になっている1)。 プロテインAは黄色ブドウ球菌Staphylococcus aureus の細胞壁に存在するタンパク質で、IgG抗体の Fc領域と特異的な親和性を有している。この特性を 応用し、リコンビナントプロテインAを不溶性担体に 固定化させた担体は、抗体のみを高純度に精製するツ ールとして極めて有益である2,3)。代表的な不溶性担 体として架橋アガロースと多孔質ガラスが挙げられ、 様々な観点から比較検討がなされている4-6)。架橋ア ガ ロ ー ス は 高 い 静 的 結 合 容 量(s t a t i c b i n d i n g capacity, SBC)と低い非特異吸着性を併せ持つが、 圧損が高いために粒子径を比較的大きくする必要があ り、高流速域での動的結合容量(dynamic binding capacity, DBC)をかせぐことが出来ない。多孔質ガ ラスは硬質故に比較的高いDBC性能を有するが、破 砕状粒子であるために圧損や偏流の問題が懸念され る。リコンビナントプロテインAの分子量が約45kDa であり、更に抗体分子量が約150kDaと巨大タンパク 質であることも考慮すると、抗体の細孔内移動特性が スムーズであり、ある程度の機械的強度を有し、低圧 損で粒子径を小さくすることができ、高流速域におい ても高いDBC特性を有する担体設計が理想である。 本稿では、プロテインAアフィニティ工程の高効率 化を達成すべく、真球状の大細孔径M.S.GELの細孔 構造の最適化を図り、本アフィニティシリカ担体の性 能を検討したので報告する7-9)。 2-1 Preparation of silica-based protein A media シリカゲルの大細孔径化は以下の方法で行った(10)。 粒子径50μmのDシリーズのM.S.GEL に所定量の塩 化ナトリウムを担持させた後、700℃で焼成処理を行 った。一部の試作品に対して、1Mの水酸化ナトリウ ム溶液に浸し、細孔容積の制御を行った。 プロテインAの固定化には汎用の方法を用いた 11,12) 。まず、大細孔径シリカゲルにグリシドキシプロ ピルリンカーを導入した後、トレシル活性化経路もし くはエポキシ活性化経路にてリコンビナントプロテイ ンAを固定化させた。前者ではpH8.0のリン酸緩衝液を、 後者ではpH9.0の炭酸水素緩衝液を用いた。カップリン グ反応後、残存する活性種を失活させ、リン酸緩衝生 理食塩水(PBS, pH7.4) 、クエン酸緩衝液(pH2.2) 、 50mM水酸化ナトリウム溶液、蒸留水で洗浄した後、 1%ベンジルアルコールを含む0.1M酢酸緩衝液(pH5.2) 中で冷蔵保存した。 2-2 Measurement method 大細孔径シリカゲルの平均粒子径はレーザー式光散 乱法に基づくLA-920もしくはLA-950V2(Horiba社製) を用いて測定した。細孔物性測定には水銀ポロシメー ターAuto Pore Ⅳ9510(Micromeritics社製)を用い た。プロテインA修飾量の算出には全自動元素分析装 置CHNS/O 2400II(Perkin Elmer社製)を用いた。 DBC測定は、担体を湿式充填したカラムをAKTA explorer 10S(GE Healthcare社製)に接続し、所定 濃度のIgGを含むPBS溶液を所定の流速で送液し、 280nmでのクロマトグラムを取得した。その破過曲線 より10%ブレイクスルーした時点のIgG量を算出し、 DBC値とした。また、破過曲線を以下の物質収支式 を用いて数値計算し、総括物質移動容量係数Kof aを 求めた。 ここでρbは吸着剤充填密度、uは充填層空隙部を流れ る線流速、DLは軸方向混合拡散係数である。 2-3 Repeated use of protein A media モデル実液として、2.5%の仔牛血清、0.5mg/mL human IgGを含むPBS溶液を調製した。プロテイン A担体を充填した5×50mmカラムに対して、本モデ ル実液60×CV(Column volume)分を滞留時間2min でローディングした(DBCの70%相当) 。5×CV量の PBSで洗浄し、6×CV量の0.1Mグリシン塩酸緩衝液 (pH3.0)を用いてIgGを溶出させた後、5×CV量の 50mM 水酸化ナトリウム溶液でCIP(Cleaning-inPlace)処理を施し、5×CV量のPBSで平衡化させ た。ローディング時のスルー液とIgG溶出液フラクシ −12− Res. Reports Asahi Glass Co., Ltd., 64(2014) ョンをサンプリングし、前者はGPC分析に、後者は GPC分析とプロテインAリーク試験に供した。本サイ クルを50回繰り返し、耐久性を評価した。 いてDBC(10%BT)を測定した。なお、本実験では 高流速域で使用可能な担体設計を目指し、線流速 720cm/hrで評価した。両者の関係をFig.3に示す。全 ての担体において、DBCはプロテインA修飾量に比例 して同じ傾きで増大していることから、最適細孔径で は高流速域においても細孔内のIgG移動特性が同等で あるものと考えられる。また、各担体のDBC値は定常 化する傾向にあり、その定常値は単位充填容積あたり の比表面積と良好な相関性を示した。このことは結合 容量が最大となる最適プロテインA修飾密度が存在す ることを示しており、およそ0.42mg/m2と算出された。 3. Result and Discussion 3-1 Properies of prepared protein A media 試作した5種類のプロテインAシリカゲル担体の物 性値をTableⅠにまとめる。平均粒子径45μmに統一 し、平均細孔径70-140nm、細孔容積0.75-2.01mL/gの 担体を調製した。代表例として、細孔径110nmの大細 孔径シリカゲルの外観および表面のSEM写真をFig.1 に示す。焼成処理により、大細孔化が均一に進行して いる様子が観察できる。 Fig.2 Breakthrough curves of ProteinA-coupled media with different pore sizes Column:5.0×25mm(0.49mL-bed) , Loading:0.4 mg bovine IgG/mL-PBS(pH7.4) , Flow velocity:140cm/hr. Fig.1 Scanning electron micrographs of wide pore M.S.GEL. (A)Spherical particle shape of M.S.GEL with 110nm pore size,(B)Pore structure on surface. 3-2 Optimization of pore size, pore volume and coupling density bovine IgGを用い、カラム高さ25mm、線流速140 cm/hrで取得した破過曲線をFig.2に示す。70nm (small)の曲線プロフィールは緩やかに増大してお り、細孔内のIgGの物質移動が妨害されていることが 伺える。一方、112nm(type1)以上の平均細孔径の ものでは同等な傾きで増大していることから、パフォ ーマンスを最大にする最適細孔径は110nm付近である ことが判った。 次に、平均細孔径110nmに揃え、細孔容積すなわち 細孔数の異なる試作品3種(standard, type1, type2) に様々な量のプロテインAを修飾し、human IgGを用 −13− Fig.3 Effect of coupled ProteinA amount on dynamic binding capacity for human IgG(pore size of 110nm) Column:4.6×100mm (1.66mL-bed) , Loading:0.5mg human IgG/mL-PBS(pH7.4) , Flow velocity:720cm/hr. 旭硝子研究報告 64(2014) 3-3 Comparison of bleakhthrough profiles with commercially available protein A media 最適化したアフィニティシリカ担体(ProA-D-501000AW) 、ならびに市販の架橋アガロース担体2種 を高さ10cmのカラムにそれぞれ充填し、動的結合性 を比較した。Fig.4に破過曲線を示す。 シリカ担体の破過曲線は、線流速150、300cm/ hr では非常にシャープで、720cm/hrの高流速域におい ても鋭い破過プロフィールを示し、DBCは30mg/ mL-bed以上であった。一方、架橋アガロース担体 (MabSelect, 平均粒子径85μm、MabSelect Xtra, 平 均粒子径75μm)の破過曲線は、中流速域300cm/hr においても緩やかな破過を呈し、細孔内のIgG物質移 動抵抗の大きさが伺える。 破過曲線よりシリカ担体の総括物質移動容量係数 Kof aをフィッティングすると0.08 l/sと見積られ、こ れは架橋アガロースのそれの4倍の高値であった。平 均粒子径の小ささや最適細孔径のみならず、シリカ特 有の細孔形状の影響が現れているものと推測される。 Fig.5 Elution profiles of Protein A media Column:4.6×100mm(1.66mL-bed) , Loading:33.2mg human IgG, Flow velocity:360cm/h.r. 3-4 Repeated use of media モデル実液を用いて繰返し試験を行った結果をFig.6 に示す。計50サイクルのプロフィールは完全に一致し、 試験期間中、運転圧力の増大や変動も認められなかっ た。また、GPC分析より、全サイクルのスルー液は仔 牛血清のタンパク組成のまま推移し、溶出液ではIgG 以外のタンパク質のシグナルは検出されなかった (data not shown) 。更に、IgG回収率は平均97.6%の 高いレベルで維持され、溶出液のプロテインAリーク 量も20ng/mg-IgGの低いレベルで維持された。 抗体発酵液にはIgG以外に細胞由来の雑多なタンパ ク質が含まれる。そのような環境においても本担体は パフォーマンスを保持し続けることを検証した。 Fig.4 Breakthrough curves of ProteinA media Column:4.6×100mm (1.66mL-bed) , Loading:0.5mg human IgG/mL-PBS(pH7.4) . また、IgG溶出プロフィールをFig.5に示す。シリカ 担体では4×CV量以内にほぼ全量のIgGが溶出されて いるが、架橋アガロース担体ではより多量の溶出液を 必要とした。即ち、シリカゲルの高い物質移動特性が 溶出工程においても有益であることを表わしている。 Fig.6 Profiles of repeated use for 50 cycles Column:5.0×50mm(0.98mL-bed) , Loading:0.5mg human IgG/ mL + 2.5% fetal calf serum-PBS(pH7.4) . 3-5 Further design to a next-generation medium 論じてきたProA-D-50-1000AWは均等係数D10/D90= 2.0前後のシリカ粒子である。ところで、我々はマイ クロチャンネルを用い、D10/D90=1.3∼1.5の超真球状 シリカを生産し得る技術を開発した13)。本EP-DMシ リーズを用いることで、圧損を増大させることなく小 粒子化が可能になるため、更なる高効率化が期待でき る。 Fig.7は、粒子径と、実精製に使用される送液ポン −14− Res. Reports Asahi Glass Co., Ltd., 64(2014) 径、細孔容積、プロテインA修飾密度の最適化を図っ た。本アフィニティシリカ担体は優れた物質移動特性 を持ち、高流速域での高DBCを可能にするとともに、 溶出プロフィールにも好影響を与えた。また、雑多な タンパク質が共存する抗体発酵液より高回収率でIgG を精製でき、50mMアルカリCIPにも少なくとも50サ イクルの耐久性を有していた。更に、超真球状シリカ であるEP-DMシリーズを採用することで、圧損を増 大させずに小粒子化が可能となり、結果、全ての滞留 時間で非常に高い吸着特性を示した。 以上、本担体は抗体医薬のプロテインAアフィニテ ィ精製工程の高効率化に十二分に貢献し得るものと期 待される。 プ耐圧である5barでの限界線流速の関係を、圧損実 測値に基づきKozeny-Carmanの式よりシミュレーシ ョンしたグラフである。即ち、Dシリーズの45μm粒 子の圧損は、EP-DMシリーズでは約33μmに相当す る計算になる。 5. Acknowledgement アフィニテイ担体の開発に際して、細孔内移動特性 の解析に多大なるご支援と、数々の技術的コメント・ アドバイスを賜りました、神戸大学大学院自然科学研 究科の加藤滋雄名誉教授、山地秀樹教授、勝田知尚准 教授に心より感謝の意を申し上げます。 Fig.7 Relationship between particle size and critical linear flow rate at 5bar calculated using Kozeny-Carman equation Column:5.0×200mm、Eluent:H2O ̶ 2-1節に示す方法によりProA-EP-DM-35-1000AWを 試作し、種々の滞留時間におけるDBC性能を評価し た。結果をFig.8に示す。本担体は全ての滞留時間で 高いDBCを示した。滞留時間1minの高流速域におい て、架橋アガロース担体が20∼30mg/mL-bed、比較 的動的特性の優れる多孔質ガラス担体が40mg/mL-bed 未満であるのに対し、本担体は約60mg/mL-bedの高 い性能を示した。IgG細孔内拡散深さが一定であれば、 小粒子化に伴ってDBCがSBCに近づくためと考えら れる。 References̶ ⑴ S. Katoh, PHARM. TECH. JAPAN 27, 57(2011) . ⑵ J. J. Langone, Adv. Immunol. 32, 157(1982) . ⑶ R. Lindmark, K. Thoren-Tolling, J. Sjoquist, J. Immunol. Methods 62, 1(1983) . ⑷ R. Hahn, R. Schlegel, A. Jungbauer, J. Chromatogr, A 790, 35 (2003) . ⑸ J. T. McCue, G. Kemp, D. Low, I. Quinones-Garcia, J. Chromatogr. A 989, 139(2003) . ⑹ R. Hahn, P. Bauerhansl, K. Shimahara, C. Wizniewski, A. Tscheliessnig, A. Jungbauer, J. Chromatogr. 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