湿式ナノ粉砕機「NP-100」の技術と特徴

特集
ナノテクノロジーの最新技術
湿式ナノ粉砕機「NP-100」の技術と特徴
高 塚 隆 之(たかつか・たかゆき)
㈱シンキー
開発部 応用技術課 課長
は じ め に
医薬品の開発初期段階では,化合物を微量でし
か合成することができない。そのため,従来のビー
湿式粉砕は,材料を微粒化する古典的手法の一
ズミルやボールミルのようにある程度の薬物量を
つである。具体的に湿式粉砕とは,材料の他に溶
必要とする装置は不向きであった。また,長時間
媒,メディアを添加し,粉砕チャンバーや容器中
粉砕することによる摩耗粉も懸念されていた。以
でメディアの物理的な衝撃や摩擦により,微粒化
上のように,開発初期段階においては微量,短時
を行う手法のことである。近年,粉砕された材料
間,ナノレベルまでの粉砕が求められており,そ
が,ナノレベルにまで微粒化されることにより,
のニーズにこたえる形で湿式粉砕機 NP-100 の開
材料特性が劇的に向上することが報告されてお
発を行った 1)。
り,幅広い分野でナノレベルの材料開発ならびに
研究がおこなわれている。
2. ナノ粉砕機 NP - 100 の特徴
ナノレベルの粒子径を作製する手法については
粉砕容器(ジルコニア製)にメディア(ジルコ
様々な装置があるが,その中でもボールミルや
ニアビーズ)を入れる。この容器が時計方向に高
ビーズミルと呼ばれる装置は古くから用いられて
速で公転すると同時に反時計方向に自転をおこな
いる。シンキーの湿式ナノ粉砕機 NP - 100 は,材
う。この公転と自転の高速運動により,容器内の
料が微量(最小 10mg)でナノ粉砕を短時間で簡
ボールが高速で動き,材料に衝突し,微粒化を行
易的に行うことができる装置である。本報では,
う(第1図)。
従来の粉砕機とはまったく異なる新しいコンセプ
従来のボールミルは,粉砕容器が垂直の状態で
トで開発されたナノ粉砕機 NP-100 について紹介
していく。
1. 技術開発の経緯
製薬会社が自社開発する化合物は一般的に疎水
性が強く,水への濡れ性が悪いものが増える傾向
にあった。特に疎水性の化合物は水系の溶媒にな
じまず,均一な投与懸濁液の調製が非常に困難で
あった。通常,乳鉢・乳棒により数マイクロ程度
の大きさまで化合物を微粒化することで水への溶
解度を高め懸濁液の調製を行うが,さらにナノレ
ベルの大きさまで微粒化できると水への溶解度が
劇的に向上し,動物試験における評価が容易にな
ることが知られていた。
Vol.62,No.8(2014)
第 1 図 JETI 65
第2図
第3図 医薬品 粉砕前
自転・公転運動を行い,かつ,自転回転数が公転
回転数よりも高いという特長がある。自転が公転
よりも高いことで粉砕メディアは容器の壁に沿っ
てせりあがり,メディアと容器壁面の間で粉砕を
行う。この方式では,大量のボールで長時間粉砕
を行うため発熱しやすく,粉砕と発熱に伴う摩耗
粉が発生するなどの課題があった。
それに対し,当社ナノ粉砕機は,粉砕容器が 45
度に傾いており,公転の遠心力が加わることに
よってメディアが容器の底面外周部に集中する。
強力な遠心力を持つメディアが材料に集中して衝
第4図 医薬品 粉砕後
突するため,少量のメディアでも短時間での粉砕
が可能となる。さらに- 20℃の冷却雰囲気下で粉
砕することにより,摩擦熱を抑え,粉砕に伴う摩
耗粉を 0.1ppm 以下に抑制することも可能である。
装置の構成は第2図のようにチャンバー,冷凍
機(内蔵),コントロールパネルからなる。発熱に
より材料の結晶構造や物性が変化してしまうリス
クを考慮し,本装置は- 20℃の冷凍機を内蔵し,
低温雰囲気下での粉砕(連続運転)が可能である。
3. 粉砕事例紹介
第5図 電池材料 粉砕前
医薬品:フェニトイン(第3図 , 4図),リチウ
ムイオン電池の電極材料:ニッケル酸リチウム
(第5図 , 6図),顔料 : 紫呉須(第7図 , 8図)の
粉砕事例を紹介する。医薬品は上記にあるよう
に,ナノ粒子化することにより,水への溶解度を
上昇させることができる。運転条件としては,医
薬品 100mg に対し,回転数 2,000rpm,粉砕時間
2min,メディア(ジルコニアボール)2.5g で粉砕
を行う。少量のメディアで粉砕することにより,
発熱を抑え,2 分という短時間で粉砕することが
できる。一方,ニッケル酸リチウムのような金属
結晶の場合,有機化合物である医薬品に比べ,硬
66 JETI
第6図 電池材料 粉砕後
Vol.62,No.8(2014)
度が高いのが特徴である。その場合,メディアの
量をさらに追加し,粉砕時間を長くすることでナノ
粉砕が行われる。顔料も主成分が金属酸化物である
ため,ニッケル酸リチウムと同様,硬度で粉砕のさ
れやすさを判断し,回転数・時間・メディアの量な
どのパラメータを最適化することが望ましい。
お わ り に
装置は運転条件が最適化されて初めて性能を最
第7図 顔料 粉砕前
大限発揮することができる。NP-100 は微量の材
料で条件検討ができるため,運転条件の最適化は
比較的容易に行える。当社のラボルームでは,装
置導入前の事前テストで運転条件を検討し,推奨
条件の目安を顧客に提示している。湿式ナノ粉砕
技術を通じて,これからのナノマテリアルの開発
促進に寄与できたらと考えている。
参 考 文 献
1)Takayuki Takatsuka, Tomoko Endo and Naofumi
Hashimoto. Nanosizing of poorly water soluble
第8図 顔料 粉砕後
compounds using rotation/revolution mixer.
Chem Pharm Bull 57(10):1061-7, 2009.
■トピックス ■
JSP
品,床材,産業用資材などに用
米国で架橋発泡ポリエチレンシート事業に参入
いられている。現在,基材シート
は同社の米国ミシガン州デトロイ
JSP は北米において長年ポリ
電子線架橋法による発泡ポリ
ト工場で製造しているが,新たに
プロピレンなどの発泡ビーズおよ
エチレンシートは,一般の発泡ポ
ミシガン州ジャクソンの発泡ポリ
び成形品の製造・販売を展開し
リエチレンシートに比べ,より均
プロピレン工場内に,延床面積
てきたが,今回,同事業に加え
一で微細な気泡構造とその表面
3,400m2 の新工場を建設してい
て,電子線架橋法による発泡ポ
性能に特徴があり,医療用など
る。完成は本年 9 月で,投資額
リエチレンシート事業に参入する。
の高性能テープ基材,自動車部
は約 8 億 2,500 万円。
三菱化学
ほかにも温度,湿度,養分などの
ローソンファーム秋田から植物工場を受注
育成環境を最適な状態に制御す
ることにより,気候に左右される
三菱化学はこのほど,ローソ
ローソンファームとしては初め
ことがなく,年間を通じて同じ品
ンファーム秋田から植物工場シ
て植物工場ファームにより野菜
質の野菜を栽培することができ
ステムを受注した。
を栽培する。今回販売する三菱化
る。また,土を使わない水耕栽培
ローソンファーム秋田はロー
学の植物工場システムは,LED
で,かつ農薬を使用しない安全な
ソンが本年 1 月に設立した全国で
照明や蛍光灯によって植物の光
野菜を届けることができる。栽培
12 番目となる農業生産法人で,
合成を促す完全人工光型で,光の
品目はベビーリーフ。
Vol.62,No.8(2014)
JETI 67