1 土の基礎的な試験結果の精度・信頼性の現状分析 キーワード:土質試験、精度、Z スコア、変動係数 協同組合 関西地盤環境研究センター 井上啓司・澤 孝平・○中山義久・上原久典・ 白木音信・寺本広紀・萩家正次・稲角 健 1.まえがき 地盤を構成している土の物理的・化学的・工学的諸性質は、地盤上あるいは地盤内に建設される構造物の安全性や寿 命を左右するものであり、それらの試験結果の精度・信頼性の確認は、構造物の設計・施工・維持管理の確実な実施に とって必須条件である。試験機器の適正な管理・校正、試験者の技量の向上などが常に要求される。 本文は、土の物理的性質のうち含水比、土粒子密度、粒度、液性限界、塑性限界の試験及び改良土からの六価クロム 溶出量の試験を、同一の試料を用いて 30 機関(六価クロム溶出量は 20 機関)で一斉に実施した結果を統計的に分析し、 機関ごとの試験結果の偏りやばらつきを求める。また、試験機器や試験者の技量の差に基づく試験結果の違いに関して 当研究センターが実施した実験結果並びに各試験機関の試験条件に関するアンケート結果を参考にして、土の試験結果 の精度に影響する要因を追究する。 2.一斉試験の方法 (1)土の物理的性質の一斉試験 一斉試験に用いた試料は、市販の砂(まさ土)と粘土(藤森粘土)の 2 種類である。両試料ともに約 60kg を均一に なるように混合し、各試験機関に約 2kg ずつ送付した。今回の一斉試験に協力して頂いた試験機関は、全国の 9 土質試 験協同組合、民間の 9 試験室及 表−1 び関西地区の 8 大学、4 高専、 合計 30 機関である。 試験機関 によっては器具・人員の都合で 試料 含水比 (%) すべての試験を実施して頂けな 試料土の物理的性質 粒 土粒子の 度 特 性 コンシステンシー 度 粘土 シルト 砂 礫 中央径 LL PL (g/cm3) (%) (%) (%) (%) (mm) (%) (%) 密 かったところもあったが、今回 砂 10.0 2.633 9.7 3.5 55.0 31.8 1.20 − − のデータ整理には、集まった 30 粘土 32.6 2.610 43.3 39.7 17.0 0.0 0.0084 50.2 21.2 機関の試験結果を用いることに 100 した。試験項目は 2 つの試料土の含水比、土粒子 密度、粒度、及び粘土の液性限界と塑性限界であ 通 る。試験は JIS で決められた方法に従って実施す 過 80 質 るようにした。表−1、図−1 には、当研究センタ ーで求めた試験結果を示す。 同時に、各試験で用いられる器具(はかり、容 器、ピクノメータ、ふるい、浮ひょう、液性限界 測定器など)の管理・点検状況、試験方法、試験 者の経験年数などをアンケート調査した。 (2)六価クロム溶出量の一斉試験 土壌環境問題を検討する際に土壌中の重金属の 含有量や溶出量を測定することが多い。今回は、 その中でも頻度の多い改良土中からの六価クロム 粘土 量 60 百 分 40 砂 率 (%) 20 0 0.001 0.01 図−1 0.1 粒径 (mm) 1 10 100 試料土の粒径加積曲線 の溶出量を求める分析を取り上げ、その一過程である溶液中の六価クロム量を測定することにした。大阪環境測定分析 事業者協会に所属する試験機関及び兵庫県内の試験機関のうち、今回の一斉試験にご協力頂いた 20 機関に、濃度の異な る検水を 2 試料(0.089 mg/L と 0.107mg/L)送付した。試験方法は JIS K 0102 65.2.1 ジフェニルカルバジド吸光光度 法を標準としたが、各試験機関で実施できる別の方法でも良いことにした。試験方法、使用機器、試験者の経験年数、 検量線とともに、試験結果を回答して頂いた。 Analysis of the accuracy and reliability of the measured values by fundamental soil examinations Inoue Keiji, Sawa Kohei, Nakayama Yosihisa, ,Uehara Hisanori, Shiraki Otonobu, Teramoto Hironori, Hagika Masatsugu, Inazumi Takeshi (Kansai geo-environment research center) 2 (3)試験条件の違いによる試験結果の比較実験 試験条件を変化させて含水比試験、土粒子密度試験、粒度試験及び六価クロムの溶出量試験を実施し、試験結果の精 度に影響する試験条件の程度を確かめた。今回検討した試験条件は表−2 のとおりである。 表−2 試験結果の比較実験における試験条件 試 験 名 試 験 条 件 含 水 比 試 験 者 試料の種類 試料の量 乾燥時間 土粒子密度 試 験 者 試料の種類 煮沸時間 湿潤・乾燥法 粒 度 試 験 者 試料の種類 粒径範囲 − 六価クロム 試 験 者 試料の種類 試験方法 − 3.測定精度の検討方法 (1)Z スコアによる一斉試験の比較 1),2) 今回実施した一斉試験の結果を比較するための指標として「Z スコア」を用いる。これは、ISO 17025 に基づく試験 所認定制度における技能試験の際に用いられているもので、試験機関相互の試験結果を容易に比較できるものである。 とくに、極端な試験結果による影響を最小化するために、 「四分位法による Z スコア」が用いられることが多い。 この Z スコアは次式で求める。 Z= ( x − Q2 ) (Q3 − Q1 ) × 0.7413 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (式 1) ここに、Z:ある試験機関の Z スコア、 x :その試験結果、Q1:比較するいくつかの試験機関の試験結果を最小値から 最大値への昇順に並べ、小さいほうから{1/4(N−1)+1}番目の値、Q2:小さいほうから{1/2(N−1)+1}番目の 値、Q3:小さいほうから{3/4(N−1)+1}番目の値、N:試験機関の総数である。もし、{1/4(N−1)+1}、{1/2(N− 1)+1} 、 {3/4(N−1)+1}が少数部分を含む場合は、データ間をその割合で補間する。 今回の土の物理試験のうち含水比、土粒子密度及び粒度については砂と粘土の 2 試料の試験結果(SとC)、液性限 界・塑性限界ではそれぞれの試験結果(wL とwp)、あるいは六価クロム溶出量については濃度の違う 2 検水についての 試験結果(AとB)が求まっており、それぞれの Z スコアが計算できる。さらに、同一の試験機関で行った 2 つの試験 結果の和(S+C、wL+wp、及びA+B)の Z スコア(ZB)により、試験機関間の偏りを判定する。また、2 つの試験 結果の差(S−C、wL−wp、及びA−B)の Z スコア(ZW)により、試験機関内のばらつきを判断する。 以上により算出した Z スコアに基づいて、一般に次の基準で各試験機関の試験結果の精度レベルが評価できる。 ∣Z∣≦2 :満足 2<∣Z∣<3 :疑わしい ∣Z∣≧3 :不満足 今、2 つの試験結果を縦軸と横軸にとると、試験結果の散布図が描ける。 次に、ZB=±3、ZW=±3 より次の式が導かれる。ここでは、砂と粘土の試験結果SとCを用いて説明する。 ±3= ±3= ( S + C ) − Q2( ZB ) (Q3( ZB ) − Q1( ZB ) ) × 0.7413 ( S − C ) − Q2 ( ZW ) (Q3( ZW ) − Q1( ZW ) ) × 0.7413 ∴ S + C = ±2.2239 × (Q3( ZB ) − Q1( ZB ) ) + Q2( ZB ) ∴ S − C = ±2.2239 × (Q3( ZW ) − Q1( ZW ) ) + Q2( ZW ) ・・・・・ ・・・ +: (式 2) 、−: (式 3) +: (式 4) 、−: (式 5) ここに、Q1(ZB)、Q2(ZB)、Q3(ZB)は 2 つの試験結果の和(S+C)の四分位数、Q1(ZW)、Q2(ZW)、Q3(ZW)は 2 つの試験結果の 差(S−C)の四分位数である。 同様に ZB=±2、ZW=±2 から次の 4 式が導かれる。 S + C = ±1.4826 × (Q3( ZB ) − Q1( ZB ) ) + Q2( ZB ) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ +: (式 6) 、−: (式 7) S − C = ±1.4826 × (Q3( ZW ) − Q1( ZW ) ) + Q2( ZW ) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ +: (式 8) 、−: (式 9) これら 8 式を前述の散布図中に描くと図−2 のようになり、8 直線により図中の①∼⑩の区画ができ、プロットされる 試験結果の偏りとばらつきが表−3 のように評価できる。 3 粘土の試験結果・液性限界・検水Bの試験結果 ⑩ ZW =3:式 5 表−3 ZB =3:式 2 区画 ⑨ ZB =2:式 6 ⑦ ZW =2:式 9 ⑧ ② ① ② ③ ⑤ ZW =-2:式 8 ZB =-2:式 7 ⑤ ⑧ ⑥ ④ ⑩ ZW =-3:式 4 ZB =-3:式 3 ④ ③ ⑨ 砂の試験結果・塑性限界・検水Aの試験結果 図−2 ① ⑥ 散布図内の ZB と ZW による区画 ⑦ 散布図内の 10 区画とその評価 機関間変動 (偏り) -2≦ZB ≦2 機関内変動 (ばらつき) -2≦ZW ≦2 -3<ZB <-2 2<ZB <3 -3<ZW <-2 2<ZW <3 ZB ≦-3 ZW ≦-3 ZB ≦-3 ZW ≧3 ZB ≧3 ZW≦-3 ZB≧3 ZW ≧3 ZB ≦-3 -3<ZW <3 ZB ≧3 -3<ZW <3 -3<ZB <3 ZW ≦-3 -3<ZB <3 ZW ≧3 評 価 偏りもなく、ばらつきも ない。 偏りかばらつきの何れ か、あるいは両方に疑わ しい点がある。 小さい方に偏りがあり、 ばらつきも大きい(デー タの何れかに引きずられ ている場合もある)。 大きい方に偏りがあり、 ばらつきも大きい(デー タの何れかに引きずられ ている場合もある)。 小さい方に偏りがある が、ばらつきは少ない。 大きい方に偏りがある が、ばらつきは少ない。 偏りは少ないが、ばらつ きが大きい(何れかのデ ータが大きく離れている 場合もある)。 (2)変動係数による精度の評価 一斉試験の試験機関全体の精度は変動係数により表す。土質試験の場合、一般に変動係数が 10%以内は精度が良いと いわれる。また、試験条件が試験結果に与える影響は、ある一つの試験条件を変化させて求めた試験結果の変動係数に より比較する。変動係数は次の式により求める。 v= s x × 100 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (式 10) ここに、 v :変動係数(%) 、 x :試験結果の平均値、s:試験結果の標準偏差である。 4.試験結果の精度とそれに影響する要因 1年未満 1-3年 3-5年 5-10年 10年以上 不明 全試験機関から報告して頂いた試験結果について、異常 値の検定を Grubbs の検定方法により行ったところ、いくつ かの試験結果が異常値と判断された。Z スコアは、3. (1) の方法によって異常値を除かずに計算した。以下には、試 験項目ごとに試験結果の精度とそれに影響する要因につい て、試験条件のアンケート結果と当研究センターにおける 六価クロム 液性限界 塑性限界. 粒 度 土粒子密度 比較実験結果を参考にして考察する。 含水比 4.1 アンケート結果 0% 20% 40% 60% 80% 100% 試験者、試験方法、試験器具などについて各試験機関に 図−3 アンケートした結果のうち、試験者の経験年数と試験器具 試験者の経験年数 の日常点検、定期検査・校正の状況を図−3∼5 に示す。 しない しない する 年1回 年2回 月1回 週1回 不明 不明 液性限界試験器 液性限界試験器 浮ひょう ふるい デシケータ 含水比容器 含水比容器 含水比はかり 含水比はかり 土粒子密度はかり ピクノメータ 土粒子密度はかり 0% 0% 図−4 20% 40% 60% 80% 試験器具の日常点検状況 20% 40% 60% 80% 100% 図−5 試験器具の定期検査・校正状況 100% 4 4.2 試験結果の精度 35.0 (1)含水比 協同組合 30 機関全体の含水比の変動係数は、砂が 3.4%、粘 民間試験室 34.0 土が 2.4%であり、良い精度を示している。 大学・高専 砂と粘土の含水比を両軸にとり 30 機関の試験結果 粘土の含水比(%) をプロットした散布図が図−6 である。この図中には 図−2 に示した Z スコアの評価を行う 8 本の線も併記 している。図−6 によると、試験結果は全体に∣Z∣<3 の範囲に分布し、比較的精度の良い値が得られている。 とくに、∣ZW∣≦2 であり、試験機関内の結果にはばら ZB =3 ZW =3 33.0 32.0 31.0 つきがない。その中であえて精度の悪いものを取り上 ZW =-3 げると、大学・高専グループの中に∣ZB∣の大きいもの 30.0 があり、試験機関間の偏り(試験結果の大きい方ある ZB =-3 Z スコアが±3 いは小さい方への偏り)の出る傾向が見られる。 Z スコアが±2 29.0 当研究センター内の含水比に関する比較実験結果 7.0 によると、乾燥時間の違い(18 時間と 24 時間) 、試料 8.0 9.0 10.0 11.0 12.0 13.0 砂の含水比(%) の量の違い(20g、40g、60g)、試験者の違い(5 人) 図−6 を考慮しても含水比の変動係数は最大 6%であり、含水 含水比の Z スコアによる評価 比試験結果の精度は良いといえる。 図−6 において他に比べすこし外側に位置する試験結果の原因をアンケート結果から考察すると、①経験年数が少な い(3 年未満が 28%)こと、②容器やはかりの日常点検が行われていない(26%)こと、③はかりの定期的な校正が行 われていない(15%)ことが問題点である。さらに、④乾燥時間が他機関に比べ短いことや⑤はかりの選択ミス(感量不 足)も精度低下の原因と考えられる。 (2)土粒子密度 2.750 30 機関全体の土粒子密度の変動係数は、砂が 1.1%、 協同組合 粘土が 1.2%であり、極めて良い精度である。 位置している。土粒子密度に関する当研究センター内 の比較実験では、試験者の違い(5 人) 、試料の量の違 い(10g、20g、30g)、煮沸時間の違い(30 分と 2 時間) 、 試料の準備方法の違い(乾燥法と湿潤法)を考慮した変 動係数は 3%以下であり、これらの要因は試験結果にほ とんど影響しないことが分かっている。 図−7 において、ZW>3 となっている民間試験機関の ZB = 3 ZW =3 大学・高専 3 粘土の土粒子密度(g/cm ) 水比と同様に大部分の試験結果が∣Z∣<3 の範囲内に 民間試験室 2.700 砂と粘土の土粒子密度の散布図は図−7 である。含 2.650 2.600 ZW =-3 2.550 ZB =-3 2.500 Z スコアが±3 結果は、粘土と砂の試験結果の取り違えではないかと 思われる。それ以外では∣ZW∣>2 が数例見られ、砂と 粘土の試験結果がばらついている傾向を示している。 Z スコアが±2 2.450 2.500 2.550 2.650 2.700 2.750 2.800 3 砂の土粒子密度(g/cm ) 土粒子密度の試験結果のこのようなばらつきの原因と して、アンケート結果によると、①経験年数 3 年未満 2.600 図−7 土粒子密度の Z スコアによる評価 の者が 25%であること、②ピクノメータの定期検査を していないこと(26%) 、③はかりの定期校正が行われていないこと(44%)が考えられる。 (3)粒度 今回の一斉試験で得られた砂及び粘土の粒径加積曲線各 30 本を重ねて描いたものが、図−8 及び図−9 である。図−8 によると、砂の各粒径の通過百分率は概ね 20%の範囲内にある。一方、図−9 の粘土では通過百分率の違い(範囲)が 砂に比べて大きく、とくに沈降分析で求める粒径部分(0.075mm 未満)における違いが大きい。また、ふるい分析と沈 降分析の境界である 0.075mm において不連続となる結果も見られる。 粒度分布の形を表す数値として、均等係数、曲率係数、中央径D50 などがある。今回はそのうちD50 に注目し、さらに 砂と粘土のD50 の値が 3 オーダほど違うことから、D50(μm)の対数により比較することにした。 30 機関のD50 の変動係数は砂が 18.3%、粘土が 84.5%、log(D50)のそれは砂が 2.8%、粘土が 33.8%であり、粘土 の変動係数が極めて大きい。 100 80 80 通過質量百分率 (%) 通過質量百分率 (%) 5 100 60 40 20 0 0.001 60 40 20 0.01 図−8 0.1 1 粒 径 (mm) 10 100 0 0.001 0.01 砂の粒径加積曲線 0.1 1 粒 径 (mm) 図−9 図−10 は log(D50)の散布図と Z スコア評価を示している。 10 粘土の粒径加積曲線 2.0 砂は log(D50)≒3(D50≒1000μm)とほぼ一定であるのに対し Z スコアが±3 て、粘土のD50 は違いが大きく、Z スコアの評価は粘土の試 Z スコアが±2 験結果に支配されていることが明らかである。すなわち、図 1.5 −9 の粒径加積曲線でも示されるように、粘土の沈降分析結 の試験結果を示すものが他の試験結果より多く、試験機関間 の偏りと試験機関内のばらつきの両方に疑わしさがある。 アンケート結果によると、粘土の沈降分析に及ぼす要因と ZW =3 粘土のlog(D50) 果の違いの影響が大きい。図−10 では、∣ZW∣>2 かつ∣ZB∣>2 100 ZB = 3 1.0 0.5 ZB =-3 ZW =-3 して、①経験年数が短い(3 年未満が 28%)ことによる浮ひ ょうの読み、②浮ひょうの管理(定期検査の不明が 47%)、 協同組合 0.0 ③分散の仕方、④沈降分析中の温度管理などが考えられる。 民間試験室 さらに、⑤網の破れなどふるいの定期的な点検(していない: 大学・高専 13%、不明:75%)、⑥75μm ふるいによる水洗いの程度も粒 -0.5 2.0 度試験の結果に関係すると考えられる。 (4)液性限界・塑性限界 図−10 30 機関全体の液性限界の変動係数は 6.1%、塑性限界のそ れは 19.7%であり、塑性限界の精度が悪い。 2.5 3.0 3.5 砂のlog(D50) 70 ものが図−11 である。ほとんどの試験結果が∣Z∣<2 の範囲内 65 にあり、まとまっている。しかし、試験結果の最大値と最小 60 は限界があり、適正な評価方法を今後検討する必要がある。 液性限界・塑性限界の試験では、試験者による試験結果の Z スコアが±3 Z スコアが±2 ZW =3 ZB = 3 55 液性限界(%) いことを考慮すると、Z スコアだけで精度を評価することに 50 45 ばらつきが大きいのは周知のことであるが、塑性限界 39%と ZW =-3 いう試験結果は明らかな異常値である。これが ZB>3 の原因 40 となっている。 35 ZB =-3 協同組合 民間試験室 アンケート結果から液性限界・塑性限界の精度に及ぼす要 因を挙げると、①経験年数が少ない(3 年未満が 43%)こと、 ②液性限界試験器の管理(日常点検しない:26%、定期検査 をしない:36%)が問題である。この試験では、テンポ良く 液性限界試験機を回転させること、黄銅皿への試料の塗りつ 4.5 中央径の Z スコアによる評価 液性限界・塑性限界の試験結果と Z スコアの関係を示した 値の差が平均値の 25∼50%にもなり、変動係数もかなり大き 4.0 大学・高専 30 5 図−11 10 15 20 25 30 塑性限界(%) 35 40 45 液性限界・塑性限界の Z スコアによる評価 け方、ガラス板上での試料の練り方、塑性限界における土ひも直径の判断基準などが試験結果に影響するため、①の経 験年数は他の試験以上に影響が大きい。②の液性限界試験器の管理に関しては、ゴムの劣化、溝切りの幅、溝切りによ る黄銅皿の傷、黄銅皿の変形が試験結果に与える影響も無視できない。さらに、試料と水とのなじみ具合の観点から見 ると、粘土試料を裏ごしするかしないか、試験開始までの放置時間も重要な要因であるが、今回のアンケートでは設問 としなかったため、その状況は不明である。 6 (5)六価クロム溶出量 3) 0.120 12 である。20 機関中 16 機関の試験結果が∣ZB∣≦2 か つ∣ZW∣≦2 であり、試験機関間の偏りや試験機関内の ばらつきはない。一方、2 機関が-3<ZW<-2、1 機関が -3<ZB<-2 となり、試験結果の偏りやばらつきが疑わ しい。さらに、1 機関の ZW が大きく外れた(ばらつき が大きい)のは、試験方法あるいは試験者の経験年数 に関係していると考えられる。 六価クロム量の分析試験方法を JIS K 0102 65.2.1 検水Bの試験結果(mg/L) 2 検水の試験結果を散布図として示したものが図− ジフェニルカルバジド吸光光度法または通常使用して いる分析方法としたが、2 機関が K 0102 65.2.4(備 考 15b)ICP発光分光分析法を採用した(18 機関は ジフェニルカルバジド法)。ICP法を使用した 1 機関 ZB = 3 0.115 0.110 0.105 0.100 ZW =3 ZW =-3 Z スコアが±3 Z スコアが±2 ZB =-3 0.095 0.075 0.080 0.085 0.090 0.095 0.100 0.105 検水Aの試験結果(mg/L) 図−12 六価クロムの Z スコアによる評価 の試験結果が Grubbs の検定によって棄却された。これは、試験者の経験年数が短いこととデータの量が少ないことか ら、分析方法の違いによるものとは決められない。ただし、改良土の溶出試験を想定して検水の pH を高く(10.5∼12.0) 調整していたため、ICP法では前処理が難しく 1 機関の ZW が大きくなった原因の一つと推定できる。 ジフェニルカルバジド法を使用した機関のうち、10mm セルを使用した機関が約 45%、より望ましいと思われる 20mm 以上のセルを使用した機関が約 55%であり、セルの違いによる有意な差は認められない。今回の一斉試験に用いた検水 は環境基準値(0.05mg/L)の 2 倍程度の濃度であり、環境基準値付近の濃度においては、10mm セルを使用すると吸光度 が小さくなり過ぎ、有意差が認められる可能性もある。 今回の一斉試験では、通常の報告値である少数点以下 2 桁ではなく、3 桁目まで算出しため、多少の変動が見られる が、20 機関の試験結果の変動係数は 2 検水ともに 3.4%と低く、良い精度が得られている。通常の報告値にすると、検 水Aは 0.08mg/L または 0.09mg/L(20 機関中 20 機関) 、検水Bは 0.10mg/L または 0.11mg/L の範囲に 20 機関中 19 機関 の報告値が入り、問題ないレベルである。4) 5.あとがき 土の代表的な物理試験と六価クロム溶出量試験の一斉試験結果を「四分位法による Z スコア」を用いて評価した。す なわち、各試験機関で実施した 2 試料の試験結果の和の Z スコア(ZB)と差の Z スコア(ZW)により試験機関間の偏りと試 験機関内のばらつきを評価した。さらに、試験状況のアンケート結果及び試験条件を変えて実施した当研究センターで の比較実験結果を参考にして、試験結果の精度の原因について考察した。その結果、以下のことが明らかとなった。 (1)含水比試験、土粒子の密度試験、六価クロム溶出量試験では、大部分の試験機関の結果の精度は良い。Z スコアに よる評価でも、一部を除いて偏りやばらつきは小さい。 (2)粒度試験結果では、沈降分析における試験機関間の違いが大きい。Z スコアによる評価においても、試験機関間の 偏りや試験機関内のばらつきに疑わしい結果が見られる。 (3)液性限界・塑性限界試験の結果を Z スコアで評価すると偏りやばらつきの少ない評価となるが、試験結果そのもの の変動係数は大きく、Z スコアだけによる精度の評価には限界があり、適正な評価方法を検討する必要がある。 (4)今回の一斉試験では、大部分の試験結果は良い精度が得られたが、精度が不十分であった事例もかなり見られる。 試験結果の精度に与える主な要因としては、①試験者の経験年数(熟練度)、②試験機器の日常点検と定期的な検 査・校正が挙げられる。 最後に、今回の一斉試験にご協力頂いた各試験機関に対して衷心よりお礼申し上げたい。また、本報告が試験結果の 精度について多くの方々にご認識頂けるきっかけになれば幸いである。とくに、試験機器の日常点検と定期的な検査・ 校正が疎かになりがちであり、試験結果の精度向上に向けて全試験機関がその重要性を理解され、適切な取り組みが行 われることを期待したい。 参考文献 1)JIS Q 0043-1(1998)試験所間比較による技能試験−第 1 部:技能試験スキームの開発及び運営. 2)JIS Z 8402-2(1999)測定方法及び測定結果の精確さ(真度及び精度)−第 2 部:標準測定方法の併行精度及び再現 精度を求めるための基本的方法. 3) 藤井賢三(2000):試験所認定制度における技能試験(1)・(2)・(3)、環境と測定技術、(社)日本環境測定分析協会、 Vol.27、№2、pp.51∼56、 ・№3、pp.42∼44、 ・№5、pp56∼60. 4)(社)日本環境測定分析協会(2003) :平成 14,15 年度 環境分析技術研究調査報告書、水質中のシマジン・チオベンカ ルブ(固相抽出法)分析共同実験.
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