戦略的マーケティング理論による観光的側面からの

日本国際観光学会論文集(第21号)March,2014
《研究ノート》
戦略的マーケティング理論による観光的側面からの
留学インバウンドマーケティング
-豪州ブリスベン市の事例-
かしわ ぎ
しょう
柏 木 翔
東海大学福岡短期大学 国際文化学科 助教
This paper explores a proposal for educational tourism inbound marketing. It also discusses issues and barriers in implementing
educational tourism marketing. For this paper, the meaning of educational tourism includes study abroad gaining degrees such as
bachelor and for language and school trips. There are three key issues and they are the multiple and unclear market segment in
educational tourists, the complexity of stakeholders and the complexity of roles played by those stakeholders in educational
tourism marketing. To solve these problems, strategic marketing theory is applied focusing on marketing channel strategies.
Brisbane is used as a case study for their educational tourism marketing initiative. They established not only tourism but also an
effective educational marketing program. A marketing approach from tourism and educational aspects is the key to promoting
cities as educational tourism destinations. In order to do this, multiple marketing channel initiatives are suggested using both
tourism-oriented and education-oriented channels.
1.はじめに
において、主の教育的要素の中にはカリ
在籍する外国人学生は、本稿内において
本研究では豪州クイーンズランド州ブ
キュラム、講義内容、教員等の質的要素
使用される留学生が含意する意味から除
リスベン市の留学インバウンドマーケテ
が含まれ、観光的要素の中には資源、ア
かれる。さらに本稿では主に教育旅行と
ィングの手法や取り組みを事例として取
クティビティー、天候や休日等の機会、交
いう言葉を用いて留学を指すこととす
り上げ、戦略的マーケティング理論を用
通や宿泊等の施設が留学先選択の誘引要
る。これは留学及び留学生のように類似
い、日本における訪日留学生数増加に向
素として重要であるとされる(Llewellyn-
する言葉の連用による混乱を避ける為で
けたインバウンドマーケティングチャネ
Smith and McCabe, 2008)
。このように留
ある。そして教育旅行という言葉が含意
ルのフレームワーク構築を目的とする。
学生をターゲットとしたインバウンド
する範囲は学士や修士、博士号学位修得
また、これにより日本の若年層のグロー
マーケティングでは観光と教育の両側面
留学、大学への交換留学、語学留学、修
バル化及び国際競争力の向上、高等教育
によるアプローチが必要だということが
学旅行である。さらに教育機関とは基本
機関が抱える学生数減少及び産業が抱え
明らかになっている。これらを背景に、
本
的に大学及び語学教育機関等を指す。そ
る働く世代の減少等の社会的問題への解
稿ではマーケティングチャネルの在り方
の理由は、後述される海外の教育旅行や
決の一助となることを目指している。
に焦点を絞り、教育的魅力と観光的魅力
インバウンドマーケティング等の先行研
日本において、留学生数を増加させる
を将来訪日の可能性がある見込留学生へ
究の対象と一貫性を図る為である。
インバウンドマーケティング活動は教育
発信する方策を考察していく。
2.教育旅行マーケティングの問題点及
機関が主体となっており、教育的側面の
本稿において、留学生という言葉が含
みが強調されているのが現状だが、留学
む意味は、勉学を目的として自国を出発
先選択の要因としては教育のみならず観
し、他国へ移動する学生を指す。これは
教育旅行のマーケティング活動におい
光 の 側 面 も 重 要 で あ る(Kashiwagi,
Organisation for Economic Co-operation
て、様々ないくつかの問題点及び障害物
2013)
。また豪州の四年制大学の事例にお
and Development(以 後、OECD)の 定
が挙げられる。まず教育及び観光の両産
いては、留学におけるインバウンドマー
義をもとにしている(OECD, 2013)
。こ
業の教育旅行への関わり合いはマーケテ
ケティングでは、教育的要素及び観光的
れはその他の様々な理由により自国以外
ィングの戦略をより難しくする点である。
要素は必要不可欠な誘引要素であること
の教育機関で学ぶ学生との区別をするこ
まず見込留学生にとって、教育的及び観
が明らかにされている
(Glover, 2011)
。加
とが主な理由である。例として、家族の
光的活動の両方が留学目的地選択におい
えて、豪州の大学への交換留学生の事例
移住を理由に自国以外の大学に必然的に
て重要であることから、教育旅行マーケ
-113-
び障害物
日本国際観光学会論文集(第21号)March,2014
ティングで強調すべき点及び売り込むべ
責務及び関係性の複雑化が教育旅行マー
である。例えば、大学や語学学校等の教
き主要点を一概に定めることができな
ケティングを遂行する上で障害となる。
育機関の主の役割は、留学生に教育の機
い。これはターゲットマーケットへのアプ
教育旅行を提供する側の視点からする
会を提供することである。概して、留学
ローチに失敗する可能性を高める。例と
と、関連ステークホルダーを三つのグ
生を呼び込むマーケティング活動はその
して、観光的要素中心の情報を必要とす
ループに分けることができ、それらは主
教育機関のマーケティング部署によって
る見込留学生へ、教育機関のカリキュラ
要教育旅行資源、マーケティング及びマ
実施されている。特にコースやカリキュ
ムやコース詳細の情報提供を行った場
ネジメント組織、そして環境や地域社会
ラムの内容を中心に情報発信が行われて
合、そのセグメントが望む情報を提供で
資源である(Ritchie, et al., 2003)
。主要
いる(Kashiwagi, 2013)
。しかしながら、
きていないことになる。これは教育旅行
教育旅行資源は二つに大別され、教育の
デスティネーションマーケティング組織
マーケティング活動での重大な誤りとな
機会を留学生に与える大学や語学学校等
である政府管轄の観光局は、観光のイン
る(Ritchie, Carr, and Cooper, 2003)
。こ
の教育機関、及び観光アクティビティー
バウンドマーケティングチャネル組織と
の起こりうる誤りは教育旅行のタイプや
やアトラクション、交通機関等の観光関
して、外国からの訪問客を自国へ呼び込
留学生の傾向等を取り上げている研究に
連商品である(Ritchie, et al., 2003)
。教
むことをタスクとしている為、留学生と
おいても論点の一つとして見なされてい
育旅行の主活動である学びは、まさに教
いう教育旅行者をターゲットとしたマー
る。Ritchie ら(2003)は、教育旅行マー
育旅行の主商品だと言える。よって、学
ケティング活動は政府観光局の役割とも
ケットは二種類に大別されるとし、それ
びの経験を提供する教育機関は主要な教
言える。それは多くの研究者が政府観光
らを観光本位(Tourism first)及び教育
育旅行の商品及び資源となる。また観光
局の役割として、海外からの訪問客へ自
本位(Education first)に分類した。その
アクティビティーやアトラクションと
国の魅力を伝えることや外国人観光客に
中で、前者は観光的要素を主目的及び動
は、教育旅行目的地の文化や社会を留学
よる自国へのベネフィットを増大、マー
機とした教育旅行のカテゴリーであり、
生に教授する場からビーチや街散策等の
ケティングの方針及び戦略、ターゲット
後者は教育的要素をそれとしたカテゴ
一般的なレジャー活動をする場まで、包
マーケットの策定等を挙げている点から
リーだと提唱した。
そしてこの分類をもと
括的な観光の機会を含むことができるだ
も言える(Wang, 2008;Zach, 2012)。こ
に、多くの研究者が様々な留学生タイプ
ろう。マーケティング及びマネジメント
のように教育機関及び政府観光局を中心
の異なるカテゴリー分けを行っている。
組織とは、教育機関、教育委員会等の教
とする観光組織が、マーケティングチャ
例として、Ritchie ら(2003)は、交換留
育関連組織、観光協会、観光局、観光施
ネルとして、それぞれの異なる視点から
学制度により大学の単位が与えられるこ
設等を指し、これらが教育旅行の実施及
教育旅行マーケティング活動を行うこと
とを考慮し、交換留学生を教育本位のセ
び受け入れにおいて重要なマネジメント
が必要と言えよう。
グ メントで あるとし た。また Chew ら
ステークホルダーとなる。また環境や地
実際に、日本政府観光局やブリスベン
(2003)は教育機関が提供する教育の質
域社会資源とは、地域の文化や自然環境
政府観光局、シンガポール政府観光局、
が、最も重要な交換留学プログラムの参
保護区、景観等の資源そのもの及びそれ
豪州政府観光局等、多数の国や州、市町
加決定要素であると述べ、交換留学生は
らの保護、管理、運営を行う組織を指す。
村の政府観光局が教育旅行市場を重要ま
教育本位のセグメントであることを示唆
上記三つに加え、市町村、都道府県、州、
たは優先市場として取り扱っている
し て い る。一 方 で、Llewellyn-Smith ら
国の政府も深い関わりを持つステークホ
(Brisbane Marketing, 2010a;Henderson,
(2008)は豪州国内の大学にて交換留学生
ルダーである。なぜなら教育及び観光に
2004 ; Singapore Tourism Board, n.d. ;
の交換留学プログラム参加動機の調査を
関わる政策や支援、補助金等は、これら
Tourism Australia, n.d.;日本政府観光
行い、観光関連の活動機会が主要動機で
の政府の管轄であり、特に教育機関や政
局、2013a)
。日本においては、日本政府
あるという結果から、交換留学は観光本
府観光局にとって不可欠な為である
観光局はビジットジャパン事業対象15カ
位のセグメントである、
と結論付けた。こ
(Glover, 2011;Henderson, 2004)
。三つ
国の内、9カ国に対して教育旅行市場を
のような教育旅行の一例において明らか
のステークホルダー及び政府組織の関連
重要市場として挙げている。具体的に豪
なように、参加動機や目的が一定ではな
性からもわかるように、異なる立場や役
州市場を挙げると、2013年7月にゴール
いことから教育旅行マーケティングでは
割を持つ組織が教育旅行、延いては教育
ドコーストにおいて、東京都や京都府、
マーケティング戦略の方向性を絞ること
旅行マーケティングに関わる為、極めて
兵庫県、奈良県、大阪府等の自治体とと
が容易ではないことがわかる。
複雑な組織関係が存在している。
もに日本語教師を対象にした訪日教育旅
そして、教育旅行には教育及び観光の
更に、教育旅行マーケティングプロ
行セミナーを開催している(日本政府観
両産業に属する様々なステークホルダー
モーション活動において、それらのス
光局、2013a;2013b)
。
が関わるため、ステークホルダー同士の
テークホルダーが担う役割も極めて複雑
従って、これまで述べてきた教育旅行
-114-
日本国際観光学会論文集(第21号)March,2014
マーケティングの問題点及び障害物を鑑
戦略的マーケティングは様々な要素を
動とその情況の変化をGilliganら(2009)
みると、留学生の教育旅行参加における
含むが、大別すると四つの側面を持ち合
が解説しており、顧客ニーズの変化は
主動機及び目的に正確かつ有効にアプ
わせているとされ、それらは一般的に長
マーケティングの戦略に直接的影響をも
ローチする為の戦略的教育旅行マーケテ
期的展望、組織的活動、周辺情況と活動
たらし、これは組織の外的情況の変化が
ィングを構築しなければならないと言え
の調和、人的資源と物的資源の調和であ
一連の組織的活動に変化を与えるのと類
る。具体的には、それは教育旅行の種別
る(Brennan, Baines, Garneau, and Vos,
似 す る、と 述 べ て い る(Gilligan and
や異なるセグメント、留学生の個別動機
2008;Fyall and Garrod, 2005;Jain, 2000;
Wilson, 2009)
。またAlsem(2007)も同
等に適応可能なマーケティングのことで
McDonald, 1996)
。またマーケティング
様に、マーケティングの戦略は、商品ラ
ある。そして、教育及び観光の組織が、
チャネルマネジメントはチャネルデザイ
イフサイクルカーブの様に、置かれてい
単体ではなく協働でマーケティングを行
ン、チャネルストラクチャー、チャネル
る立場の階層の変化に従って修正される
うことである。そこでここからは、戦略
リレーションシップによって構成され、
べきだと、組織的活動とその情況の変化
的教育旅行マーケティングのマーケティ
これらもまた戦略的マーケティングの四
を論じている。このように戦略的マーケ
ングチャネルに焦点を当てていく。なぜ
側面を基礎としている。そこでここから
ティングにおいて、組織的活動及びその
なら教育機関と政府観光局は共に教育旅
戦略的マーケティングチャネルの仕組み
周辺情況の調和は、組織やその活動現状
行マーケティングチャネルとして適切な
を考えるにあたり、四つの側面及びマー
の把握及び将来の市場展開の予測におい
組織だと考えられるからである。加えて、
ケティングチャネルマネジメントの点に
て重大な意味を持つと言える。前章で例
両組織はそれぞれがマーケティングチャ
ついて述べていく。
示した日本語教師を対象にしたセミナー
ネルとしての側面があるのと同時に、教
第一に、マーケティングチャネルは長
の開催は、日本語学習者の割合が多い豪
育機関は教育の情報、政府観光局は観光
期的展望のもとで構築されなければなら
州において、日本政府観光局が豪州の教
の情報等のように、発信される情報に特
ない。市場環境は日々変化しており、例
育機関という組織的な枠組みに対しての
異性がある為である。これらは効率的な
え組織のヒト、モノ、カネ等の資源には
訴求活動だと言え、市場情況を鑑みた組
チャネル戦略により効果が増すと述べら
ある程度の安定性と核がある場合でも、
織的活動の順応及び調和の一例である。
れている(Ritchie, et al., 2003)。このこ
長期間一定の状態であり続けることは決
四つ目の側面は人的資源と物的資源の
とから、教育旅行マーケティングにおけ
し て な い(Brennan, et al., 2008)
。よ っ
調和である。これは能力や技術を含んだ
る的確なチャネル構築に向けて、次章か
て、チャネルの効率及び効果を市場で持
ヒトとモノの調和が戦略的マーケティン
ら戦略的マーケティングの方策を考察し
続させる為には、不変の核及び変化への
グにおいて重要な役割を担うことであ
ていく。
順応能力を兼備した長期的展望が必要だ
る。観光局がデスティネーションマーケ
と言える。日本への教育旅行で若年者層
ティングに適した技術、能力、人的資源
3.戦略的マーケティング
の訪日を戦略的に促進することにより、
を持ち合わせている場合、観光客増加に
先述したように、教育旅行マーケティ
長期的な訪日観光需要の増加が期待でき
よる収益増大の可能性がある他産業の組
ングの現状は複雑であり、非効率的な部
る。このような長期的展望を鑑みたチャ
織は、観光局の力を借りることで、コス
分があると言える。その理由は観光的側
ネル構築が必要である。
トやリスクの抑制を行いながら、訪問見
面からのマーケティングチャネルの欠如
第二に、戦略的マーケティングは組織
込のある観光客に訴求できる(Brennan,
及びそれに伴う教育旅行マーケティング
的活動に注視しなければならない
et al., 2008 ; Freyer and Molina, 2008)。
全体の複雑化が挙げられる。このことに
(McDonald, 1996)
。戦略的マーケティン
これがまさに人的資源と物的資源の有効
ついて、複数の教育旅行関連の研究では、
グにはプランニングプロセスから結果の
かつ適切な活用であり、両者の調和は効
戦略的マーケティングによる改善が提案
評価までの一連の流れがあり、組織の内
率性に富む戦略的マーケティングを可能
さ れ て い る(Glover, 2011 ; Llewellyn-
的外的要因に関わらず、些細な変化がそ
にする。豪州からの訪日教育旅行形態を
Smith and McCabe, 2008;Mazzarol and
の流れ及び組織的活動に多大な影響を与
一例として挙げると、学校訪問等の需要
Soutar, 2002;Ritchie, et al., 2003;Shanka
える(Brennan, et al., 2008)
。豪州の日本
が高いことから、教育機関に精通した人
and Taylor, 2003)。そこで本章ではマー
語学習者数が世界4位であるという外的
的及び物的資源を訴求活動に加えること
ケティングチャネル戦略の改善を目的
な要因に対して、日本政府観光局が教育
が重要だと言える。ここまで戦略的マー
に、まず戦略的マーケティングのいくつ
旅行者を訪日旅行促進の重要ターゲット
ケティングの主要な四側面を述べてきた
かの基礎的要素に触れ、その後教育旅行
と定めることは、正に組織内活動に注視
が、これらは全て根幹的要素であり、戦
マーケティングに適正なチャネル戦略に
し、順応させた形だと言える。
略的マーケティング遂行のプロセスにお
焦点を当てていく。
また第三の側面として、この組織的活
いて軽視できない事柄である。同時に、
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日本国際観光学会論文集(第21号)March,2014
戦略的マーケティングの重要要素である
は、市の経済成長の指針である、
2012年-
ブリスベン市を例に、教育旅行インバウ
チャネルプランニングにおいても欠かす
2031年ブリスベン経済発展プラン内にお
ンドマーケティングを活発に行うことが
ことの出来ない要素であり、そのチャネ
いて、教育目的の訪問者数の増加を優先
必要だと言える。
ルプランニングに焦点を当てている本稿
戦略に掲げている
(Brisbane City Council
では特に重要な基幹側面だと言える。こ
Information, 2012b)
。
れまで教育旅行における戦略的マーケテ
図-1は2004年から2012年までの教育
ィングチャネルについて述べてきた。次
目的でのブリスベン訪問者数の推移を表
章より、訪日留学生増加に向けた教育旅
した縦棒図である。図-1の通り、
2008年
ベンマーケティング(以後、BM と省略)
行マーケティング手法の発展を念頭に、
の約48,000人まで、教育目的訪問者数は
という市政府観光局が教育旅行プロモー
複数のチャネル組織による教育旅行市場
増加傾向であった。この2008年の数字が
ション活動の任務を担っている
(Brisbane
の戦略的マーケティングの手法を応用し
ブリスベン市において過去最高の数であ
Marketing, 2010b)
。BM はブリスベン市
ている、豪州のブリスベン市を事例とし
った。しかし2009年に減少に転じた。そ
より助成を受け、運営されるデスティ
て用い、教育旅行市場の現状やインバウ
の後、2011年には2008年の数まで再び増
ネーションマーケティング機関であり、
投
ンドマーケティングの方法及びイニシア
加したが、2012年に再度減少するという
資、観光、教育、MICEに焦点を当て、ビ
ティブを言及していく。
推移となった。このように、2000年半ば
ジットブリスベンというイニシアティブ
以降、急激に数を伸ばしたが、後半から
を設け、ブリスベン市及び周辺地域のプ
4.ブリスベン市教育旅行市場の現状
2010年代前半にかけて4万人から5万人
ロモーションを国内外のマーケットに向
5.ブリスベン市の教育旅行インバウン
ドマーケティングイニシアティブ
このような市政府の方針の中、ブリス
ここからはブリスベン市の教育旅行市
程度に停滞しており、今後教育旅行マー
け て 行 っ て い る(Brisbane Marketing,
場の現状及びインバウンドマーケティン
ケティングの成果が期待される。いくつ
2010b)
。また BM はブリスベンへの留学
グ手法を挙げ、訪日留学生増加に向けた
かの要点を挙げ、ブリスベン市の教育旅
生増加及び同市における留学経験の質の
手掛かりを探る。観光産業と教育産業は
行市場の現状を見てきたが、教育及び観
向上をミッションとし、スタディーブリス
ブリスベン市輸出部門において上位一
光産業の市経済への貢献や市政府による
ベン(以後、SBと省略)という教育旅行
位、二位の稼ぎ手であり、教育旅行市場
教育及び観光分野への優先度、2000年代
マーケティングプロモーションイニシア
はブリスベン市経済の発展にとって欠か
前半からの教育目的訪問者数の底上げ等
テ ィブ を 2009 年 に 組 織 し た(Brisbane
せない存在だと言える。2011年、観光産
から理解できるように、教育旅行市場が
Marketing, n.d. -a)
。BM による、上記二
業及び教育産業はそれぞれ34億豪ドル、
ブリスベン市において重要であることは
つの教育旅行関連イニシアティブの相関
26 億 豪 ド ル を 市 の 経 済 に も た ら し た
明らかである。
をまとめると図-2のようになる。
Information,
今後、日本に教育機関においては、少
ビジットブリスベン及び SB は教育旅
2012a)
。市政府はブリスベン市のビジネ
子化及びグローバル人材の育成への対応
行マーケティングの主プログラムであ
ス成長戦略及びグローバル競争力の強化
が必要となる。そこで、世界の優秀な若
り、観光マーケティングチャネル組織と
に向けて、MICE や教育、観光の分野を
者を留学生として積極的に受け入れ、学
し て の BM の 特 徴 を 活 か し て い る
優先的アクションと位置づけている
生数を確保するとともに、日本人学生へ
(Brisbane Marketing, n.d.-a)
。SB で は、
(Brisbane Marketing, 2011)
。また市議会
のグローバル意識を向上させる為には、
ブリスベン周辺に所在する教育機関をメ
(Brisbane
City
Council
図-1 教育目的ブリスベン訪問者数
図-2 ブリスベン教育旅行マーケティングイニシアティブ相関図
出典:Tourism Research Australia,(2004-2012)
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日本国際観光学会論文集(第21号)March,2014
表-1 豪州三都市留学生数の割合
ンバー登録し、それらの機関と協働的に
教育関連情報を補足するという傾向があ
マーケティングチャネルとしての役割を
るものも備えている。この例として、BM
担っている。また交通産業、宿泊産業、
のウェブサイト内ではメンバー校の開講
関連政府組織等を取り込み、ブリスベン
コースやプログラムの概要、
パンフレット
の教育旅行市場の発展を図っている
の提供、連絡先等を公開し、観光関連情
(Brisbane Marketing, 2010a)。このよう
報を軸にしながら、教育関連情報の発信
に SB は観光関連や教育関連組織との協
を可能にしている(Brisbane Marketing,
働をもとに、ブリスベンの留学目的地と
n.d. -b)
。
してのブランディングを行っている。
図-3は SB メンバー校の内、留学生数
SB の具体的な内容としては、メンバー
の最も多い二校を抜粋し、表した推移で
スタディーシドニーやスタディーメル
校へ動画や画像等の観光マーケティング
ある。表の通り、両校共に2010年までは
ボルンでは、多くの大規模大学がメン
資料やマーケティングリポートの提供、メ
増 加 傾 向 だ が、2011 年 に UQ は 増 加、
バー校であると同時に、メンバー校の数
ンバー校が自身のウェブサイトから見込
Griffithは減少している。また2012年にお
も多い。しかし、SB による成果として、
留学生へブリスベンの観光関連情報を配
いては両校共に2011年の数字を下回って
ブリスベンの大学は、高い割合で留学生
信できるもの等である。また政府の教育関
いる。Nesdale(1995)により、留学と移
を獲得していると言える。よって、SBは
連組織と合同で留学フェア等を開催し、メ
住の間の明確な関係性が述べられている
都市レベルにおいて、教育旅行インバウ
ンバー校のプロモーションを行える機会
点からすると、これは2011年に豪州で行
ンドマーケティング戦略として成果を出
出典:
(Australian Education International, 2012)
の提供をする。これらは教育機関を主のチ
われた移民法の改正が少なからず影響を
していると言える。また教育旅行マーケ
ャネル組織と捉え、観光関連情報を補足
及ぼした可能性が考えられる。しかしな
ティングチャネルとして、BM 及び SB の
するという傾向のものである。例として、
がら、2011年に SB の効果がこの二校に
メンバー校が、ブリスベン地域の教育及
ブリスベンに本部を置くクイーンズラン
対して全く逆に現れたことは注視すべき
び観光関連の魅力をバランス良く発信し
ド 大 学(The University of Queensland)
点である。
表-1はブリスベン、
シドニー、
ていると考えられる。このようにブリス
ではUQインターナショナルと呼ばれる組
メルボルンに教育旅行マーケティング戦
ベンでは、観光組織及び教育機関がマー
織を有し、留学生の募集に関するマーケテ
略として設置されているSB、スタディー
ケティングチャネルの機能を担うこと
ィング活動を行っている。この UQ イン
シドニー、スタディーメルボルンの2011
を、SBという戦略により可能にしている。
ターナショナルのウェブサイトでは、開講
年メンバー加盟校の全大学生数に対して
結果、SBのプログラムはいくつかの教
コースやカリキュラムの紹介と共に、SB
の留学生数の割合を記したものである。
育旅行マーケティングの問題点の改善に
のウェブサイトリンクや観光プロモーシ
メンバー校の数に差はあるものの、教
貢献していると言える。まず観光及び教
ョン動画を提供している(The University
育旅行マーケティング戦略のメンバー校
育組織が相互にマーケティングチャネル
of Queensland, 2013a)
。
における留学生の割合が最も高いのはブ
組織としての機能を果たすことが可能に
また観光組織を主のチャネルと捉え、
リスベンであることがわかる。
なり、より幅広いターゲットマーケット
へのアプローチを容易にしている点であ
図-3 SB メンバー校留学生数推移
る。これは教育機関にとって、これまで
到達できなかったマーケットへのアプ
ローチになると言える。例として、観光
本位の見込留学生や、レジャー目的の若
年層へ、ブリスベンの留学目的地として
の魅力及びメンバー校の紹介を発信する
ことが挙げられる。また観光組織として
は、マーケティングチャネルとして、教
育機関の概要等の適切な情報を提供でき
るようになる。見込留学生の視点からす
ると、教育本位の見込留学生が、留学中
の観光活動の可能性を模索する際にメン
バー校のウェブサイトから効率良くブリ
出典:The university of Queensland(2013b),Griffith University(2013)
-117-
スベン地域の観光情報を得ることが可能
日本国際観光学会論文集(第21号)March,2014
となる。
した比較的新しいプログラムである為、
次に教育旅行マーケティング活動の複
まだ成果を分析するには少し早いと考え
Vos,
雑性を緩和できる点である。観光組織及
る。しかし、一つの実現可能性のある策
Marketing, PalgraveMacmillan, 2008,
び教育機関がチャネルとしての機能を持
として理解を深めることは多いに意味が
p.98.
つが、それらの観光と教育という異なる
あると言えよう。加えて、いくつかの観
視点により、相互の専門性を活用した
点から、SBの有用性を確認することがで
Brisbane's
マーケティング活動が可能になる。これ
きた。一つ目は、観光及び教育組織が相
fromhttp://www.brisbane.qld.gov.au/
により、観光組織は観光関連を中心に、
互にマーケティングチャネル組織として
downloads/about_council/governance
また教育機関は教育関連を中心に、教育
の機能を果たすことが容易になり、より
_strategy/key_economic_fact_sheet_
旅行マーケティングを展開し、チャネル
幅広いターゲットマーケットへのアプ
april2012.pdf, 2012a.
としての住み分け及び双方向からの活動
ローチを可能にしている点であった。二
・Brisbane City Council Information.,
が容易になる。要するに、海外からの訪
つ目は教育旅行マーケティング活動の複
Brisbane Economic Development Plan
問者を増加させることを目的とした観光
雑性を緩和できる点であった。これらの
2012-2031,
局は観光というフィルターを通したチャ
点から、SBは今後のブリスベンの教育旅
qld.gov.au/downloads/about_council/
ネルとして、また教育の機会を提供する
行市場の発展に大きな効果を与えると言
governance_strategy/economic
教育機関は教育というフィルターを通し
える。しかしながら、2010年以降、ブリ
_development_plan_2012-2031_full.pdf,
たチャネルとして、複数のマーケティン
スベンへの留学生数は減少と増加を繰り
2012b.
グチャネル組織を構成できる。
返している為、SBにより可能となった観
・Brisbane Marketing., Study Brisbane,
これらのことを鑑みると、日本におい
光組織と教育機関の複数による協働マー
from http://www.brisbanemarketing.
ても観光関連組織及び教育関連組織が協
ケティングチャネル戦略の効果を見極め
com.au/About-Us/What-we-do/pages/
働及び複数で教育旅行インバウンドマー
るには、更なる注視をしなくてはならな
Study-Brisbane.aspx, 2010a.
ケティングの訴求活動を実施することが
い。また教育旅行マーケティングチャネ
・Brisbane Marketing., What we do,
訪日留学生市場拡大の手掛かりになると
ル戦略の構築にあたり、一都市のみの事
from http://www.brisbanemarketing.
考えられる。
例では普遍性に欠けると言える。
従って、
com.au/About-Us/What-we-do, 2010b.
・Brennan, R., Baines, P., Garneau, P. and
L.,
Contemporary
Strategic
・Brisbane City Council Information.,
Key
Economic
Facts,
fromhttp://www.brisbane.
今後更に多くの事例を挙げ、普遍性を高
・Brisbane Marketing., Unique Window of
6.まとめ
め、より効率が良く効果的な教育旅行
Opportunity: Leveraging Long Term
本稿では、学位修得留学、交換留学、
マーケティングの戦略を分析していく必
Sustainable
語学留学、修学旅行を教育旅行と位置づ
要がある。また最終的に、訪日留学生の
Brisbane beyond the Resource Boom,
け、留学生数を増加させることに向けた
増加を鑑みると、複数の事例研究をもと
from
マーケティングチャネルの在り方を論じ
に、日本の市場特性に合致した教育旅行
com.a u/Resources/Publications/
てきた。また教育及び観光の両産業が教
マーケティング戦略を構築することが必
pages/~/media/Corporate/Documents/
育旅行への関わり合いを持つことやス
要である。
Common/Brisbanes_Window_of_Oppor
の複雑性等の教育旅行マーケティングの
問題点を整理した。教育関連要素及び観
Growth
for
http://www.brisbanemarketing.
tunity_Nov2011.ashx, 2011.
テークホルダー同士の責務及び関係性、
マーケティング活動での組織が担う役割
Economic
・Brisbane Marketing., Study Brisbane
参考文献
About us, from http://www.study
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光関連要素が留学生を引きつける魅力に
applied
なる点が上記の問題を引き起こしている
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brisbane.com.au/Corporate/About%
20Us, n.d.-a.
・Brisbane Marketing., Study Brisbane
International.,
Higher Education, from http://www.
そして、解決策の一助として、戦略的
Onshore higher education international
studybrisbane.com.au/Studying%20in
マーケティング手法を述べ、複数組織に
students as a proportion of all onshore
%20Brisbane/~/link.aspx?_id=B498E
よるマーケティングチャネル活動を挙げ
students by university, 2011, from
C0C52114BD5B731AEF91255FEEB&
た。ケーススタディーとして、豪州のブ
https://aei.gov.au/research/Research-
_z=z, n.d.-b.
リスベン市の観光局である BM が手掛け
Snapshots/Documents/International%
る、SBというマーケティングイニシアテ
20students%20in%20Australian%20un
Issues
ィブを用いた。この SB は2009年に設立
is%202011.pdf, 2012.
Springer
ことも言及した。
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【本稿は所定の査読制度による審査を経たものである。
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-120-