小型軽量な非破壊検査用パルス X 線源 プラント配管設置場所などの狭い空間でも撮影可能 X 線透過法のニーズと課題 写真 3.8×3.4 cm 加藤 英俊 かとう ひでとし 計測フロンティア研究部門 陽電子プローブグループ 研究員 (つくばセンター) 構造物の非破壊検査、工業製品 の検査、医療診断、空港手荷 物検査などのさまざまな分野 における非破壊検査で使用で きる小型軽量な針葉樹型カー ボンナノ構造体 X 線源を開発 することで、安全安心な社会 の実現を目指しています。 関連情報: ● 共同研究者 石 黒 義 久( ラ イ フ 技 研 )、 王 波( つ く ば テ ク ノ ロ ジー)、鈴木 良一(産総研) ● 用語説明 *針葉樹型カーボンナノ構 造体:カーボンナノチュー ブ、カーボンナノウォール、 ナノダイヤモンドなど炭素 原子で構成されるナノメー トルオーダーの構造をもつ 物質。 顕微鏡写真を示します。先端はカーボンナノ 高度成長期に建設された建造物の多くは現在 チューブと同等の曲率をもちますが、基板側に でも使用されており、これらの健全性の診断の 向かうにしたがって太くなり、電界によって生 ため、現場における非破壊検査のニーズが高 じる力に対する破壊耐性が強い構造となってい まっています。例えば、高度成長期に建設・製 ます。さらに、安定化処理工程およびX線管内 造された化学プラントや発電所などでは、保温 部の真空環境を改善したことで、電子源として 材付きの配管の腐食や減肉が問題となってい の出力安定性を向上させました。上記の処理後 て、保温材を取り外さずに配管の腐食などを検 に1ショット15 mW時の投入電力でX線を発生 査するためX線透過法が用いられています。し させて寿命試験を行った結果、1,000万ショット かし、これまでのX線源は、サイズが大きい、 のX線を発生させてもX線出力の再調整が不要 重量が重い、電源供給用の配線が必要といった なほど安定していることを確認しました。これ 制限から現場作業性が悪く、多数の配管が設置 は、可搬型非破壊検査用X線源としての一般的 されているような狭い空間で使うことは困難で な使用条件では、10年以上交換せずに使用でき した。 る寿命です。 また、このX線源は待機電力が不要で総合的な 針葉樹型カーボンナノ構造体を用いた X 線源 そこで私たちは今回、小型軽量な非破壊検査 エネルギー消費が低いことから、USB電源や乾 電池でも駆動できます。そのため、商業用電気 用パルスX線源を開発しました(図1) 。開発し 配線の有無といった場所の制約なしに使用でき、 たX線管は、針葉樹型カーボンナノ構造体 を 狭い空間などこれまで検査が難しかった現場で 用いた電子源に負の高電圧をかけて電界電子放 の非破壊検査が可能となります。さらにミリ秒 出現象により電子を引き出し、その電子をター オーダーのパルスX線を発生でき、動く物の撮影 ゲットに入射させてX線を発生させます。この やX線源を移動しながらの撮影も可能です。 * X線管で瞬間的にキロワットオーダーの強いX 線を発生させることで、非破壊検査を行うこ とができます。今回、管電圧120 kV、厚さ70 今後の予定 今後は、X線源の高性能化を行うとともに、 mm以下、重さ2.5 kg以下の小型軽量なX線源 ロボットに搭載した自動検査システムの開発な を実現しました。 ど、効率的な非破壊検査のための研究開発を 図2に針葉樹型カーボンナノ構造体の電子 行っていきます。 ● プレス発表 2014 年 6 月 3 日「 小 型 軽量な非破壊検査用パルス X 線源を開発」 ● この研究開発は、経済産 業省戦略的基盤技術高度化 支 援 事 業「 『CNX 冷 陰 極 X 線管』特有真空環境の最適化 及び X 線発生装置の開発(平 成 22 ~ 23 年度) 」および 独立行政法人 科学技術振興 機 構 の 委 託 事 業「A-STEP 本格研究開発ステージ実用 化 挑 戦 タ イ プ 小 型・ 軽 量 可搬型 X 線検査装置(平成 24 ~ 26 年度) 」の支援を 受けて行っています。 14 産 総 研 TODAY 2014-11 図 1 パルス X 線源(120 kV)とサイズ比較のための CD ケース(左)と 金属製バルブの X 線透過写真(中央:バルブ閉、右:バルブ開) 図 2 針葉樹型カーボンナノ構造体 の電子顕微鏡写真
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