区長 新年あけましておめでとうございます。 渋谷区は、国際的な文化観光都市としてさらな る発 展 を目 指しています。他 方、少子 高 齢 化のた め、将 来は人口が減って活 力が失われるというデ ータもあり ます。そのよう な中で、未 来に 向 けて 渋谷区が限りなく成長し続けるために、文化 ・ 芸 術について振興を図ることが何よりも重要であり ますが、ご出席の西本さん、矢幡さん、升田さんか らお話をいただき、文 化 振興に生かしたいと思い ます。 日本と海外の文化交流 区長 ま ず、西 本 さんから、ご自 身 がどのよ う な お仕 事をされ、どのように文化と関わりがあるの かを教えていただけますか。 西本 私は指 揮 者、イルミナートというグループ の芸術監督をしており、 ﹁音楽だけに限らず舞台全 体を創る﹂ことをしています。芸術は﹁風土歴史が 非常に密接な関わり﹂を持っています。今まで歴史 的に、表には出てきていないことはたくさんあっ て、本来、文化芸術というのは﹁そういったところ にもスポットを当てよみがえらす仕事﹂だと思って います。だから、日本に残っているものを含めて現 在掘り起こしをしています。2013年から﹁ヴァ チカン﹂で仕 事を始めたのですが、 ヴァチカン図書 館 に は 歴 史 的 な も の が ま だ 多 く 埋 蔵 さ れ てい ま す。例 えば、日本には戦 国 時 代にたくさんの宣 教 師がいましたが、文献としてはまだ﹁表﹂になって いないものがヴァチカン図書館には残っていますの で、そういったものを掘り起こす作業もやっていき ます。日本のものが外国に現 存していることはま だたくさんあると思いますので、いろいろな可能性 を秘めたプロジェクトが始まります。 日本に残る古代からのもの、技術 力からつくら れた文化、また、そこに外国の文化が入ってきてつ 区長 升田さんは、東 急 文 化 村の経 営 者 として、 これからの文化に望まれること くられた日本の文化が、この時代にもう一度、極東 の国から沸き起こるウェーブができれば素晴らし いと思います。 区長 明治時代は、日本人が自国の文化の評価を 高め、売り出すことができなかった。その結果、浮 世絵などたくさんの絵画、仏像、陶器などの文化、 日本の文化が予期せずして海外に流出しました。 矢幡 私のライフワークは、人と人、人と物、物と 物を結ぶということでして、特に文化を通して国 際 交流をすることを継 続しております。フランス 映画祭など海外のものを日本にたくさん紹介もし てきましたが、近年は日本が世界で注目されてい るので、日本から発信する機会に恵まれています。 文化以外で力を注いでいるのは﹁観光﹂で、年々海 外からたくさんの方々が来日され、一人でも多くリ ピーターになるよう、また、帰国されてから家族や 友人たちに日本にぜひ行くようにと言ってもらえ るように、お手伝いをさせていただいております。 無形の文化 ・ 心の文化 区長 渋谷区は人口減少社会に直面しています。 そのときにも、賑わいを失いたくない。その中核に なるのは﹁文化﹂ではないかと思っているんです。 だから、ファッションでも食文化でも演劇でも、渋 谷にある文化を活性化して、渋谷に来ていただけ るようにしたいと思うんです。 矢幡 渋谷のまちは本当に恵まれていますよね。 ITの ビ ッ ト バ レ ー の よ う に、新 し い 産 業 が 生 ま れ る と こ ろ で も あ る し、東 急 文 化 村 を は じ め ホ ー ル が 充 実 し て い る し、学 校 も 多 い で す し、 映 画 館 や ラ イ ブ ハ ウ ス も 多 い で す よ ね。そ れ で い て、ち ょ っ と 行 け ば 明 治 神 宮 や 代 々 木 公 園 な ど 自 然 に も 恵 ま れ て い る し、閑 静 な 住 宅 街 も あ り ま す し、非 常 に 多 様 性 が あ っ て、多 様 な 文 化 も尊重できるまちだと思います。 西 本 私 は、文 化の最 も 核 を 成 しているものは、 ﹁無形のもの﹂だと思っています。 ﹁なぜその表現で それをつくったのか﹂ 、発想にいたることというも のは無形のものなのですから、 ﹁その部分が生きて こそ初めてその物も生きてくる﹂わけです。 区長 歌舞伎も常磐津も日本舞踊、民謡もそうか もしれませんね。たしかに、 ﹁物の文 化﹂には限界 がある。 ﹁物の文 化﹂は飽 きられやすいから、やは り﹁心の文化﹂を追求しなくてはならないと思って いかがですか。 升田 日本の人口は推計で2050年に3千万人 近く減って、 歳以上の方が4割以上を占めるそ うです。今、東急文化村では、お年寄りの生きがい の創造に取り組んでいます。埼玉で蜷川幸 雄さん が立ち上げたゴールドシアターという劇団があり ますが、平均年齢 歳の方々が、渋谷に通勤して、 1か月稽古して、そのあと1か月間舞台を踏まれ るのです。どのお年寄りも稽古が始まると遅刻も しないし、風邪をひいたりもしない。この取り組み は1つの誇りで、国に対して、生きがいの創造とい うのは、こういうやり 方もあるんですよという 提 案にもなるのではないかと思ってやっています。 区長 なるほど。それでは、渋 谷の文 化で 今 何 が 必要だと思いますか。 升田 渋谷の文化には根っこが生えていなくては いけ ないと思 うんです。例 えば、東 京 国 際 映 画 祭 を渋谷で立ち上げたのが、六本木の開発が進むと、 根っこが抜けてそっちに行ってしまった。そういう みこし ことでなく、先ほどおっしゃっていたお神輿のよう に、ガチッと根っこが生えるものを作り 直そ う と ﹁渋谷音楽祭﹂を立ち上げたんです。そういうこと をどんどん広げていきたい。世界平和芸術祭みた いなものを渋谷から発信するんです。おそらく世 界 中のアーティストが協 力してくれて、海 外の人 も、その期間は渋谷に行こうという 気持ちになる ような、それぐらいのことを渋谷でやっていきたい と思っています。 今年目指すこと∼ アジアの文化をつなぎ渋谷から 世界に発信 区長 今年はどんな年にしたいですか。 西本 ﹁イルミナート﹂という国籍 ・ 国境を越えた 芸術家集団を通じて﹁アジアを文化でつなげよう﹂ ということに取り 組んでいきます。今 年からこれ まで準備してきたものが形になってきます。 矢 幡 私 も 数 年 前 か ら す ご く ア ジア に 興 味 を 持 ち、足 を運んでいます。無 形 文 化 遺 産 もたくさん あり、今 年からそれを紹 介するイベントを始めよ うと思っています。それと、インバウンド観光産業 と文化関連産 業の連動が大切なので、ビジットジ ャパン大使や渋谷の観光大使を務める中で力を入 れていきます。 います。例 えば、渋 谷区では明 治 神 宮の花 菖 蒲 を 観る交流会や能楽鑑賞会などをやっているんです が、これなども﹁物の文化﹂というよりは、 ﹁心の文 化﹂の発見に近いと思うんです。いずれにしても、 目に見えぬものの中から文化を探りあてることが 大切ですね。 矢幡 ええ、ソフトパワーですね。私もまさに今、 ﹁無 形 文 化 遺 産﹂に 関 し て す ご く 力 を 注いでい ま す。文化財の保護というのはもちろん大 事なんで すが、やはり﹁無形のもの﹂を大切にしないと、な くなってしまったら、それから先はないので。渋谷 区も無形文化遺産になるようなものはたくさんあ ると思いますし、それを東 急文化村のようなとこ ろでいろいろなかたちで紹 介をしていかれること も、これから先はとても大切なことだと思います。 区長 そ うです ね。それはお互いが連 携 協 力し、 区民のみならず世界に情報発信していかないとい けないですよね。そして、日常的に文化に﹁触れる 機会﹂をつくっていかなくてはならないと思ってい ます。例 えば、渋 谷には朝 倉 邸という 大正時 代に できたお屋敷があるんですが、 ﹁持っている﹂だけ こと では価値を生み出していかない。だからそこでお筝 やお花やお茶など、いろいろなことをやって人を呼 び込んで、日本の文化を知っていただくようにして います。目に見えぬものに触れて﹁感じる﹂ことが 重要だと思います。 矢 幡 毎 年、京 都 の 世 界 遺 産 の 神 社 仏 閣 を 会 場 へい に、海 外からもアーティストを 招 聘 して﹁日 本の 文 化﹂とのコラボレーションのイベントをプロデ ュースしてきました。 ﹁文化と商業﹂との垣根で難 しいことも多々ありましたが、今後はビジネスと しても続いていけなければ無形文化遺産も存続で きないと思います。現代に合わせたビジネスモデ ルを生み出すことが大切です。また、その地域で 暮らす人たちが﹁参加、貢献できるような文化イ ベント﹂の開 催 も 提 案したいと思いま す。私はず っと渋谷区民ですが、昔はよくお祭りがあり町内 会の人たちが集まっていましたが そのような交流 も少なくなっているので。 区 長 伝 統 文 化 は、今でも 区 民の力 によって、渋 谷に残されています。金王八幡宮の例大祭の時に みこし は お 神 輿 が10 9 の 前 に 連 合 渡 御 を す る んで す みこし が、そのときに す ごいと 感 じたのは、その神 輿 を みこし ﹁福 祉 神 輿﹂としています。それは、今日の時 代が 高齢化社会だから、お互い が 助 け 合 う 社会にし 区長 升田さんはいかがですか。 けん 升田 やはりアジアを牽引する仕組みみたいなも のは、日本が作ったほうがいい。特に渋谷区は文化 のるつぼでもあるし、これから発信するのに世界に 一番近いまちだと思います。ブロードウェイに仕事 で行ったときに、ニューヨークのデザイナーたちが 渋 谷でファッションショーをやりたいと言 うんで す。パリコレクションよりもミラノコレクションよ り も、まず 渋 谷で発 信したいんだと言っていまし みこし た。先ほどおっしゃっていたお神輿のことも当然そ うですし、やはり﹁日本に根差した素晴らしい心の よりどころ﹂のようなものをきちっと渋谷に残しな がら、世界に発信する仕組みをつくることが必要 だと思います。ぜひ、区 長に援 護 射 撃 をよろしく お願いいたします。 区長 なんだか渋谷に対する注文が出てきたよう な感じがするんですが︵笑︶ 、西本さんは渋谷区に 対してどう思われますか。 西本 やはり﹁アジアの文化観光都市の代表的なモ デルケース﹂になっていただければ、いろいろな国 からもっと人が集まってくると思いますし、そうす ることで新たな﹁再発見﹂もあるでしょうから、古 いものや先細りしそうなものがもう一度復活する かもしれません。 区長 矢幡さんはいかがですか。 矢幡 日本は海外に対して広報活動が弱いので、 ﹁海 外メディアやオ ピニオンリーダーの 方々を 招 へい 聘﹂してPRの協 力 をしてもらう 仕 組みにしたら よいと思っています。それをサポートしていただ けましたら幸いです。 区長 ありがとうございます。渋谷が有形 ・ 無形 の文化をしっかりつくろうとするのは、一つは災害 に強いまちの基盤づくりの原点が、コミュニティと して区民が結びつくことにあること、もう一つは賑 わいを失わないまちにすることの二点です。そのた めには、本日の対談者にご助言いただいたように、 ご高齢の方々のために、お互いが助け合える環境、 あるいは生きがいを感じる出番を作っていくこと が必要です。若い人たちのためには、子育てをしや す く、安 心して働 ける、そ ういう 環 境 を考 えてい く必要がありますね。それが未来にかけての渋谷 のま ちづく りの第一歩になるのではないか、そし て、人へのやさしい気持ちが平和な社会への貢献に つながるのではないかと思います。 今日はどうもありがとうございました。 株式会社コア・エス代表取締役。 アート・カルチャー・トラベル・食の分野に 関連した国際ビジネス、文化交流事業など のコンサルティングと企画・プロデュースを 手 が け て い る。 国 土 交 通 省 観 光 庁Visit Japan大使、環太平洋地域経済カウンシル (PBEC)理事、国連UNHCR協会理事、ニュー ヨーク・メトロポリタンオペラ理事。 株式会社東急文化村代表取締役社長。 「Bunkamura」運営。 ※座談会当時 矢幡 聡子 氏(やはた さとこ) *イルミナートフィルハーモニーオーケストラは西本智実氏のもと2012年に結成された、国籍・国境 を超越する新しいスタイルのオーケストラ。 室内楽からオペラ・バレエとの総合芸術を担い、 エンター テイメントな舞台づくりも特色。 日本の伝統文化を取り入れたオペラを上演するなど日本文化の世界 発信も行なっている。 ★区民サービスセンター(渋谷ヒカリエ8階)は、 窓口を平日11:00∼19:00、 土曜日9:00∼12:00に開設します(祝・休日を除く)。 ※1月1∼4・12日は休業 ★区役所・出張所・保健所は土・日曜日、 祝・休日は休みです。 65 升田 高寛 氏(ますだ たかひろ) 西本 智実 氏(にしもと ともみ) イルミナートフィル芸術監督兼首席指揮者等。 (*) へい ロシアで指揮者等ポストを外国人で初めて歴任、 約20数か国から指揮者として招聘さ へい れる。 ヴァチカン国際音楽祭史上初めてアジアから再招聘、 同音楽祭を主催する財団よ り名誉賞を最年少で授与。 2014年11月よりオーチャードホール定期演奏会がスタート。 ダボス会議ヤンググローバルリーダーに選出。 出席者プロフィール 77 桑原 敏武(くわはら としたけ) 渋谷区長 なくては、という氏子の思いがあるのではないかと 思うんです。 それから、渋谷区では文化総合センター大和田 の伝承ホールで、区民参加型の﹁寺子屋﹂がありま す。市川染五郎さんと区民、子どもたちが歌 舞 伎 を学んで、 ﹁金王丸﹂などの英 雄から、新しい文 化 の創造をしています。こういうものをコツコツと築 き上げていくことが大切だと思います。 左から升田氏、西本氏、桑原区長、矢幡氏(区長室にて) (2) ス ー ュ ニ 区 や ぶ し 1 月 1 日 平 成 27 年 ( 2 0 1 5 年 ) 1 月 1 日 平 成 27 年 ( 2 0 1 5 年 ) ス ー ュ ニ 区 や ぶ し (3) 平成27年新春座談会 文化のまち 渋谷の発展に向けて
© Copyright 2024 ExpyDoc