ホルモン受容体陽性乳癌女性に対する術後内分泌療法: 米国臨床腫瘍

抗がん剤のエキスパートをめざす薬剤師のための情報誌│チーム│
TeAM Information
●がん患者支援の最前線
株式会社みなみ薬局
必 要 性が高くなりますので、
より
鈴鹿みなみ薬局(三重県鈴鹿市)
服薬指導できるようになりました」
(松浦先生)。
積極的に行っていきたいと考えて
鈴鹿みなみ薬局は、地域医療の推進に力を入れるファーマライズホールディングスの
います」
と堀川先生は言います。
グループ薬局として、
開局当初から全国でも珍しい24時間365日の営業を行っています。
「たとえば、一部の分子標的薬
近隣の開業医や他の薬局も含めた地域医療のなかで重要な役割を担う同薬局に、
では、副作用として手足症候群の
患者さまとの向き合い方についてお話を伺いました。
発現が認められます。手足症候群
最後に、保険薬局の薬剤師として、がん患者さまへの向き
は、
グレードによっては薬剤の減量
合い方について伺いました。
あるいは投与中断も考慮されるた
松浦先生からは、
「私は病院薬剤師としての勤務経験もあり
め、服薬指導上、重要なポイントに
「医療施設」としての薬局と、
「医療人」としての薬剤師の自覚を
乳癌のホルモン療法で薬剤師が押さえておくべき文献をご紹介します
ホルモン受容体陽性乳癌女性に対する術後内分泌療法:
米国臨床腫瘍学会(ASCO)診療ガイドラインのアップデート
Burstein HJ, et al. Adjuvant Endocrine Therapy for Women with Hormone Receptor–Positive Breast Cancer:
American Society of Clinical Oncology Clinical Practice Guideline Focused Update. J Clin Oncol 2014; 32: 2255-69
■ 目的
■ 結論
ますが、病院内で完結する病院薬剤師に比べて、保険薬局
体陽性乳癌に有効であり、ASCOもこれを推奨している。
療法:ASCO診療ガイドラインアップデートを下記にまとめた。
なります。そこで、病院と相談して
の薬剤師は地域住民の健康増進のためにより近くで尽力する
このASCO乳癌診療ガイドラインの術後内分泌療法の至適
●推奨事項
事前に説明用の資材や服用管理
ことができると感じています。
たとえば乳がんについていえば、
な治療期間、特に術後のタモキシフェン投与期間について
手帳について病院と薬局で共有することにしました。
こうする
ピンクリボン運動の一環である、
『三重乳がん検診ネットワーク』
最新の知見に基づき、
アップデートする。
ことにより、薬局でも同じものを用いて説明の確認・補完ができ
というNPO法人の活動に参加したり、薬局のスタッフで手作り
「地域医療への貢献」の理念のもと、
24時間365日開局
していない開業医も多くなり、夜中に麻薬が処方されたとし
るようになると考えたのです。実際にこの方法により、患者さま
のポスターやパンフレット
(写真2)
を作成して女性の患者さまに
■ 方法
ても薬局が閉まっていて受け取れなかったためです。
また、
にはスムーズに理解していただいています」
(堀川先生)。
お渡ししたりするなどの活動を行っています。早期発見と予防
の間に英語で報告された第III相無作為化試験の系統的
同局は三重県内にある他のファーマライズ薬局9店舗の深夜
また、
入院中の患者さまに関する情報共有を病院に働きかけ
に貢献することは、医療に携わる薬剤師としての責務の1つ
レビューとそれ 以 前に実 施された3 試 験 のレビューを
鈴鹿みなみ薬局は、
鈴鹿回生
電話の転送先となっていることもあり、毎晩多くの電話が
たところ、抗がん剤のみならず輸液なども含めた投与薬剤の
だと思います」
とのお話をいただきました。
行った。内分泌療法のうち、特に5年超のタモキシフェン
病院が現在の地に移転して
市内外からかかってきます。
『朝の薬を夜に飲んでしまった』
、
内容とその経緯、入院中の服薬コンプライアンスや自己管理の
そして、堀川先生は、
「すべての患者さまに対して言えること
単剤療法の有益性を、生存、再発、有害事象の観点から
可否、
さらには退院時指導の内容も含めて、お薬手帳に記載
ではありますが、特にがん患者さまにおいては、正面から向き
評 価し、この結 果に基 づいてガイドラインの推 奨 事 項
ホルモン受容体陽性乳癌の診断(ステージI-III)
投与開始時に
閉経前・閉経期・閉経不明/未確定
ASCOのアップデート委員会は、2009年1月∼2013年6月
投与開始時に
明らかに閉経
タモキシフェン投与:5年
下記の何れか
タモキシフェン10年
AI 5年
5年投与時点で
明らかに閉経
5年投与時点で
閉経前・
閉経期・
閉経不明/
未確定
▲
タモキシフェン
継続
(合計10年まで)
タモキシフェン5年
▲
『眠れない』
『
、坐薬を入れたがすぐ出てきた。
もう1本追加して
鈴鹿みなみ薬局 店長・管理薬剤師
▲
きた2001年1月、
同じ日に同施設
堀川恒樹 先生
ホルモン受容体陽性乳癌女性に対する術後内分泌
▲
24時間365日、
ひとつの「医療施設」、
ひとりの「医療人」
として、患者さまに向き合う薬局
術後内分泌療法は乳癌の大半を占めるホルモン受容
切り替えてAI 5年まで
(合計10年)
の門前薬局として開局しました。
いいか』等々、不安を感じる患者さまに日々対応しています。
していただけるようになり、手帳を通して情報共有できるように
合って接してこそ医療人としての貢献ができると考えています。
病院からは、休日・夜間の救急
こうしたひとつひとつの経験の積み重ねが、
地域医療に貢献
なったそうです。
多くのがん患者さまは、
“なぜ自分が…”
という思いの中で治療
検索により、
有効性を主要評価項目とし、
5年間のタモキシ
を含めた全ての外来処方せん
できているという実感となり、
大変ながらもやってきてよかった
さらに次の段階として、臨床検査値のデータを処方せんに
を受け、一縷の望みを込めてがんに挑んでいます。そこで、
フェン投与をより長期間(無期限または計10年間)
の投与と
の応需を求められ、その要請
と思います。薬局が24時間の対応を行うには多くの困難が
記載してもらうよう、
働きかけている最中とのこと。
「現在も検査値
医療者、
とりわけ薬剤師は、抗がん剤治療について患者さまと
比較した。
に応えるために開局当初から
あると思いますが、医師が24時間の対応を行っているので
データはできる限り患者さまから引き出すようにしています。
一体化して、治療を共有することが重要だと思います。一昔前
すから、地域の医療施設の1つとして、薬局にもそれは求め
血圧を知らずに降圧薬についての指導ができないのと同様に、
のがんに対する伏せがちな対応ではなく、抗がん剤治療に
■ 結果
られて然るべきものと考えています」
と、話されました。
抗がん剤やオピオイド製剤などのハイリスク薬の場合は、
より
おいて少しでもQOLが向上されるよう、積極的に関わっていく
ち、最も新しく追跡期間が長い大規模試験はATLASと
●主な変更点
積極的に患者さまの状態を知らなくては安全な指導はできま
必要があります。薬局も医療施設の1つである以上、保険薬局
aTTomの2試験であった。
この試験で、
タモキシフェンの長期
タモキシフェンの5年よりも10年間服用を推奨する。
せん」
(堀川先生)。
薬剤師も全力を尽くすことで治療成果へと結びつかせ、究極に
投与は乳癌による死亡率を減少させ、
延命効果をもたらすこ
●術後ホルモン療法のリスクとベネフィット
は患者さまから当薬局に来たことで
『良くなった』、
『 治った』
と
【ベネフィット】
とが示されたほか、
他の1試験でも全生存率が向上した。
・全生存期間や無病生存期間の延長
5年を超える継続投与は乳癌の再発リスクを低下させ、
・乳癌による死亡率の減少
ATLASでは対側乳癌リスクの有意な低下も報告された。 ・再発リスクの減少
これらの臨床的な利益が明らかになるのは、投与期間を ・対側乳癌発現リスクの減少
やりがいがあります。
たとえば、
深夜に
『どうしても痛みが抑え
薬-薬連携で生きた知識・情報を共有
られない』
と言うがん患者さまにオピオイド製剤を投薬した
堀川恒樹先生は以前に大学病院の薬剤部で長年がん
ことがありました。近年では院外処方が進み、麻薬を常備
患者さまの化学療法に携わってきた経験から、
「保険薬局と
して、がん患者さまに対して果たすべき役割はもっとある」
と
●写真1. 夜間専用窓口
24時間の開局を行うにはセキュリティ面でも相応の対応が必要となる。
同薬局では、
警備システムの導入はもちろんのこと、
夜間は調剤室と待合室
との間にシャッターを下ろし、
専用の窓口で対応している。
写真左は夜間用の
入り口、
写真右は夜間専用窓口。
乳がん治療の動向調査を通して、
自信をもった服薬指導へ
考えました。
鈴鹿みなみ薬局では女性薬剤師が多く勤務していることも
そこで、
同局は開局前の準備段階から鈴鹿回生病院との
あり、乳がんの患者さまに対して同じ女性としてどう接するべき
勉強会を実施するなど病院と密な関係を築いていたことも
か、
どのように服薬指導を行っていくべきかが模索されてきまし
あり、
まずは病院の外来化学療法室で患者さまの指導に
た。
そこで、
同薬局の過去7年間における乳がん治療薬の使用
あたっている、がん薬物療法認定薬剤師の先生を講師と
動向に関する検討が行われました。
する勉強会を開催することとなりました。がんや化学療法
個々の乳がん症例における処方の変遷をみていくなかで、
についての一般的な知識を学ぶのではなく、鈴鹿回生病院
疑問に感じた点について病院へ問い合わせを行いました。
その
で実際に行われている抗がん剤治療のレジメンやその処方
結果、患者さまがどのような治療の段階にあり、
どのような症状
意図、告知の状況や患者さまへの説明の仕方など、生き
や検査値の変化などが処方の変更へとつながったのかを知る
た知識を学び、それをフォローできる体制を構築するため
ことができました。
そうした治療方針を知ったうえで、
乳がん患者
でした。
「薬 - 薬連携は、共通したコミュニケーションを取ることが
さまへの服薬指導の方法を検討したのです。
基本となります。
ですから、
両者で同じことを学ぶ
(知る)
必要
理解が向上したことが一番の成果でした。
背景がわからないが
があります。なかでもがん患者さまに対しては特にその
故になかなか踏み込めなかった領域でしたが、
自信をもって
「この検討を行うことで、薬剤師の知識と乳がん治療への
言ってもらえることを目指すのが、あるべき姿なのではないで
しょうか」
とお話しされました。
●写真2.薬局のスタッフが自作したパンフレット
○○○○○○○○○○○○
○○○○○○○○○○○○
○○○○○○○○○○○○
○○○○。
AIを5年以内で中止した タモキシフェンを投与する
(AIと併せて合計5年)
タモキシフェン投与歴2-3年である AIを最長5年まで投与する
(合計投与期間7-8年)
AI:アロマターゼ阻害薬
●
●
少なくとも5年延長して10年とした場合である。10年の投与
での有害事象、
更年期症状については新たな知見は得られ
なかった。
Point!
Check
監修
切り替えてAI 5年
(合計7-8年)
■明らかに閉経でタモキシフェンまたはAIの副作用により継続不可能な場合
1996∼2013年に公表された5試験が特定された。
そのう
●
▲
開局を維持することは大変です。
しかし、
その大変さを覆す
▲
松浦惠子先生は、
「 24時間
株式会社みなみ薬局 代表取締役
または
AI(5年まで)
タモキシフェン2-3年
佐伯 俊昭 先生
埼玉医科大学国際医療センター 乳腺腫瘍科 教授
薬剤部 部長
2014年5月、ASCOはホルモン受容体陽性乳癌患者(ステージ
I-III)
に対する術後タモキシフェン療法を最長10年間に延長するべきと
推奨した。関連文献の系統的レビューに基づく変更で、長期大規模
試験のATLASとaTTomで、
タモキシフェンの5年投与群に比較し、
10年投与(5年超投与)群で乳癌再発リスクが低下し、生存利益を
もたらすというエビデンスを反映している。今後、各国の診療ガイド
▲
います。
松浦惠子 先生
タモキシフェン
継続
(合計10年まで)
▲
24時間365日の営業を行って
(Recommendation)
をアップデートした。
【リスク】
・タモキシフェンのみ:子宮体癌、深部静脈血栓、肺塞栓
・AIのみ:虚血性心疾患、骨量減少/骨粗鬆症
・タモキシフェンまたはAI:ホットフラッシュ等の更年期症状
ラインも追随するものと思われる。一方、
レビュー対象期間中、
アロ
マターゼ阻害薬の投与期間延長に関するエビデンスは見当たらな
かった。
10年という長期の服用を完遂するには、服薬管理の充実と患者
とのコミュニケーションが重要になる。薬剤師は医師、看護師と協力
して内分泌療法を10年続けることのメリットと想定される有害事象に
ついて患者とよく話し合い、服薬アドヒアランスの強化に努めること
が大切であろう。
そのためにも、保険薬局の薬剤師も服薬指導と
有害事象のモニタリングを積極的に行い、薬薬連携を通じて患者に
最大のメリットをもたらすことができると思う。