6 [LDノート]

リーダーシップとキャリア形成のためのケーススタディブック
6
2014
[LDノート]
№1173 現場からのブーイング
~部内外へ事前の根回しと説得~
マイライフ経営研究所
代表
吉田 勝昭
リーダーシップ
ユースキャリア研究所
代表
高橋
人
間
心
理
法
的
視
点
沖縄大学
法経学部
教授
浩
春田 吉備彦
№1174 ごり押しする営業担当者
~問題意識の共有と援助~
人事労務コンサルタント
心理カウンセラー
弁護士
亀田 伸彦
リーダーシップ
裕輝
人
間
心
理
加藤 正佳
法
的
視
点
原
Case study for leadership and career development
2014 年 6 月号
INDEX
Leadership Development Note
ケーススタディ/No.1173●現場からのブーイング…… 4
ケースガイダンス/本ケースのねらい…… 6
ケース分析…… 7
ケース解説……12
吉田勝昭@リーダーシップ/高橋
浩@人間心理/春田吉備彦@法的視点
データファイル:マーケットインとプロダクトアウト/亀田伸彦……18
ケーススタディ/No.1174●ごり押しする営業担当者……20
ケースガイダンス/本ケースのねらい……22
ケース分析……23
ケース解説……28
亀田伸彦@リーダーシップ/原
裕輝@人間心理/加藤正佳@法的視点
データファイル:ビジネス組織と事務処理/富岡
淳……34
次号ケース/No.1175●目標を文章にできない……36
No.1176●限界を装う部下……38
Career Support
特別企画――“こころの耳”…41
労災補償関係 Q&A(その1)
~働く人のメンタルヘルス・ポータルサイトより~
Leadership Development Note
Leadership Development Note(LD ノート)は、
管理者・リーダーが職場のさまざまな問題を解決する能力を身につけ、
リーダーシップのあり方を学ぶことを目的としています。
◆2つのケースで、どのような状況にも対応できるリーダーに
管理者・リーダーが、リーダーシップを発揮することで解決できる問題、トラブルを描い
たケースを毎月2つずつ掲載します。
管理者・リーダーが、メンバー(部下)に対してどのようなマネジメントをしていけばよ
いかを考えさせるケース、上司にアプローチしないと解決ができないケース、プロジェクト
チームなど職場横断的な問題を取り上げたケースを通して、さまざまな状況の中で、どのよ
うなリーダーシップを発揮していくかを学びます。
ケーススタディは、以下のような手順で学習すると効果的です。
どこが問題か
ケースの事実関係を正
確に把握し、問題点を摘
出して、中心課題を整
理・検討する。
自分なら
どうするか
どうすれば
よかったか
どうすれば問題を未然
に防げたか、状況を悪
化させずにすんだのか
考える。
当面の対応策と抜本的
な解決策を考えてみる。
解決策への道筋を明確
にし、実現の可能性を検
討する。
解説との
違いは
解説と自分の結論とを比
較し、視点の違いを検討
する。解説が指摘したこ
とを確認し、自分の職場
に照らして考えてみる。
◆専門家の解説によって考えを深める
LD ノートでは、1つのケースの解決について、3つの視点(
「リーダーシップ」「人間心理」
「法的視点」」からアプローチします。それぞれ実務経験者や専門家による解決策ですが、ケ
ーススタディは、みずから問題を発見し、解決の糸口を探ることに“学び”があります。ケ
ース解説は、あくまでも自身の考えを広げ、深めるためのサポート役として役立ててくださ
い。
◆多種多様な「場」と「立場」をシミュレーション
ケースによっては、
あなたと異なる職種や職場が舞台となることもあるでしょう。
しかし、
どんなケーススタディからでも学ぶことはできます。人と人、組織と人の関係は、状況の違
いにかかわらず共通する部分が多く、ある職場や組織で起こる問題は、別の職場や組織でも
起こる可能性は高いのです。
リーダーシップは、さまざまな「場」を踏み、
「立場」に立つことで育まれるといわれてい
ます。とくに先行き不透明な現代においては、多様に変化するビジネスシーンに機敏に対応
できるリーダーが求められています。LD ノートは、多種多様な状況をシミュレーションす
ることで、どこでも、どんな場面でも通用するリーダーシップを身につけることができる学
習メソッドです。
2
Leadership Development note 2014.6
今月の
ケース
NO.1173●現場からのブーイング
p.4~
NO.1174●ごり押しする営業担当者
p.20~
❒ケースガイダンス
「解説」をより確実に、より深く理解していただくために、
「ケ
ース」と「ケース解説」の橋渡しをします。
❒ケース分析
「問題を発見できれば8割は問題解決し
たようなもの」といわれています。ケース
の流れに沿って、さまざまな視点から分析
することで問題を発見し、解決の糸口を探
っていきます。グループでケース討議をお
こなう際のファシリテートにも役立ちます。
❒ケース解説
ケースの問題解決のために必要な方策を
3つの視点(リーダーシップ、人間心理、
法的視点)から解説しています。ケースの
場面でどういう行動をとることが、リーダ
ーシップの発揮になるのかが、具体的に理
解できます。
❒データファイル
学習するケースに関連して、管理者が知っておくべき基礎
知識や最新情報、トピックをコンパクトに解説します。
Leadership Development note 2014.6 3
ケーススタディ
No.1173●現場からのブーイング
アパレル業界の A 社は 70 年の歴史を
持つ老舗だが、この5年間生き残りをか
けてさまざまなビジネスモデルにチャレ
ンジしている。松田(女 27)はそのスピ
ーディーで正確な仕事を評価され、昨年
4月に営業部販売 1 課からテレビショッ
ピング関係の業務を受けもっている同特
販課に異動となった。
林課長(男 38)から部内異動を命じら
れたとき、松田は正直消極的だった。特
販課は華々しい感じだが、勤務時間が不
規則で仕事がきつい。
松田のおもな仕事は、始業前の早い時
間に倉庫に出かけ、試作商品をもらい、
テレビ番組制作会社に商品見本として届
け、担当者に詳しく説明するというもの
である。そして、先方からのこまごまと
した注文を特販課にまとめてフィードバ
ックするのも松田の役割だ。
たしかに毎日が多忙だが、制作担当者
の商品の色の見方、材質の確認、糸の強
度やしなやかさ、手触り、肌触りなどに
対する確認の厳しさに刺激を受けて、少
しずつ心地よい啓発的な気分も感じられ
るようになってきた。
“きみが嫌な思いをするだけだ”
4カ月が過ぎる頃に、林は激務をこな
す松田を心配して夕食に誘った。
「今日は、久々に時間がとれました。や
りがいのある仕事に就かせていただいて
今は感謝しています。最初はしんどかっ
たですが、この頃は毎日けっこう楽しく
働いています。営業の醍醐味を味わえて
4 Leadership Development Note 2014.6
いますよ。コールセンターでは電話が鳴
り止まないし、カウンターの数字がどん
どん上がっていく現場にいるのですから
すごい臨場感ですよ」
「そうか、はつらつとしていて羨ましい
限りだ。ただし、身体に気をつけてあま
り無理はしないようにしてくれよ。人手
が足りないようなら、安井係長(男 32)
に言ってくれ、手伝いを出すから」
「今のところ大丈夫です。これからは私
も製販会議にも出席して、テレビショッ
ピングの現場で聴くお客さまの声を発信
していこうと思っています。ただ、倉庫
で先週、安井係長にそのことを話したら
消極的でした」
「と言うと…」
「現場で見聞きしたことを会議で発言
すると、生産現場からは嫌がられること
が多いそうです。安井係長は『きみが嫌
な思いをするだけだ』と…」
林は、安井の言うこともわかるが、松
田が主張する内容にも筋の通った力強さ
を感じていた。松田は社内で仕事をして
いるときも、自分から周りのメンバーに
声をかけ、テレビ局で出会った人の話や
目に付いた他社の商品について楽しそう
に話をしている。
「それはいい案だね」と
林は松田に伝えた。
ぜひやってみようじゃないか!
月1度の製販会議の日がやってきた。
西松営業部長(男 50)、関東最大の F 市
工場の大田工場長(男 53)、ほか各課長
が出席するが、松田の姿もあった。
No.1173●現場からのブーイング
「うちの商品が N 社や K 社に一歩遅れ
をとっているのは、カラーバリエーショ
ンが少ないことが原因です。うちの商品
は地味な色味ばかりです。再来月からは、
高級インナーの販売が開始されます。さ
し色としてのカラーバリエーションを今
の2倍にお願いします。しかも“明るい
色味”を、と制作会社からも要望があり
ました。もう1つ、シルエットがアウタ
ーに響かないよう今より多少スリムにし
てほしいという要望もありました」と、
松田は臆することなく発言した。
あっけにとられている工場長の大田を
尻目に、西松は「斬新な意見だね。最終
的には新色のコーディネートにどのくら
いの手間と予算がかるかによるが、ぜひ
やってみようじゃないか!」と応援して
くれた。大田は完全に機先を制されたが、
若い営業メンバーを抱える課長たちには
やっと風穴が開いた気分だった。
新商品開発の成否は現場しだい
松田は、以前にも増して仕事への意欲
が旺盛になった。製販会議で西松の支持
を取り付けただけではなく、周りの営業
のメンバーも、松田の改善提案の実現に
向けて後押ししてくれた。
新商品の提案については、社内審査員
だけではなく、外部のプロのデザイナー
やパタンナーの了解も必要になる。松田
はデータや資料を揃えて彼らを説得し、
試作品の制作にこぎつけた。
だが、資材調達部門や工場の縫製ライ
ン、老舗を得意先にもつ一部の営業部門
からは一斉にブーイングの嵐が起こり、
試作品の制作は遅々として進まない。
「若者ウケを狙って、うちのタグをつけ
るのか」
「そんなに派手で、下品な色味が
著作権法に定める範囲を超えて、
無断で複写、複製、転載することを禁じます。
売れるわけがない」などの声が現場から
上がった。A 社では、上層部のゴーサイ
ンが出ても、工場や資材調達部門の現場
が了解しないと、商品開発が事実上進ま
ないというジレンマを抱えている。
打開のために F 工場を訪ねた林に、現
場を代弁するような勢いで、大田がこう
言った。
「今まで経験のない色味を出すのはち
ょっと無理だな。新色のコーディネート
にどのくらいの手間と予算がかるか、林
くんも知っているだろう。第一うちの強
みは地味なのではなく、上品な色味なん
だよ。松田くんがテレビショッピングの
現場でそういうことを関係者に伝えてく
れなければ困るよ」
林をたしなめるような大田の口調は
「顔を洗って出直して来い!」というふ
うに居丈高に聞こえた。
A 社ではテレビショッピングに参入す
るときも揉めにもめた。
「松田のアイデア
をどうすれば実現させてやれるだろうか」
と、林は気が重くなった。
営業部
西松部長(50)
特販課
F 工場
大田工場長(53)
安井係長(32)
林課長(38)
松田(27)
■ケース分析の手引き■
◆林課長の松田への対応や指導にはどの
ような問題がありますか。
◆林課長は今後、どのような改善行動を
とることが必要ですか。
Leadership Development Note2014.6 5
ケースガイダンス
本ケースのねらい
TPP 交渉が進まないのも現場の声
環太平洋経済連携協定(TPP)をめぐ
る日米協議は先般、オバマ大統領が来日
したことで大詰めを迎えた。だが結局、
大筋合意には至らなかった。最終局面で、
交渉当事者たちを踏み止まらせたものは
いったいなんだったのか。
わが政府にとっては、言うまでもなく
農協をはじめとした農業団体による反対
の大合唱がある。豚肉や牛肉の関税を下
げ、コメの輸入枠を広げれば、国内生産
者は大きなダメージを受ける。だからこ
そ「聖域」と位置づけられ、政府も譲れ
ない一線と考えてきた。政権党としても
農業関係者の票は無視できない。
だが一方で、農業生産額が低迷し、農
業人口の 6 割超が 65 歳以上と高齢化が
進んで、国内の農業は産業として衰退の
一歩をたどる。大規模化して効率を高め
るなど国際競争力を向上させる必要があ
る。農業への行き過ぎた保護は、一方で
消費者や納税者の不満となる。
政府は、双方の声に耳を傾け、利害を
調整する難しい判断を迫られている。
現場が動かないと事実上、進まない
本ケースでは、アパレル会社でテレ
ビショッピングを担当する特販部の松
田が、顧客ニーズを反映した斬新な新
製品を提案し、会社から許可を得る。
しかし、資材調達部門や工場の縫製ラ
インなどからブーイングを受け、試作
品の制作が遅々として進まない。
上司の林課長が大田工場長に説得に
出向くが、
「今まで経験のない色味を出
6
Leadership Development Note 2014.6
すのはちょっと無理だな」と言われ、
逆に松田をきちんと指導するようにた
しなめられてしまう。
テレビショッピングへの進出は、ダイ
レクトマーケティングの商品開発への活
用、そして、通販などへの販路開拓が期
待できるなど、A 社の経営戦略ともいえ
る選択である。そういう状況の中で、林
は、現場が動かないと事実上、商品開
発が進まないというジレンマに直面し、
頭を抱えてしまう。
現場への“根回し”と“調整”
林は、会社の許可や会議の決定を拠り
所に物事を進めているが、明らかに根回
しや調整が不足している。事前に、新商
品の必要性について説明した資料などを
関係の各方面に配布し、それぞれに理解
と協力を求めていた様子が伺えない。
また、林は、上司の部長を動かして、
大田や資材調達のトップ、老舗担当の営
業トップなどへの根回しの要請をおこな
っていないようだ。対象部門の課長クラ
スなど現場に近い責任者に手分けをして
説得していた気配もない。自分たちの思
いを伝えていれば、現場との深刻な軋轢
を生まなかった可能性がある。
経営戦略に関わる問題であれば、部長
を動かして、役員が参加する経営会議で
特販課の業務の優先順位を明確に打ち出
してもらうことも考えていい。経営会議
において承認されていれば、現場の混乱
もある程度、抑えられる。部下の松田を
大きく成長させる機会にするためにも、
上司の調整力の発揮が問われている。
ケース分析
56
このコーナーでは、問題解決の手がかり
となる描写や登場人物の言動を1つひとつ
ピックアップしていきます。これにより、
事実を的確に把握することができ、よりよ
い解決策を導くことができます。
グループ討議などでの問題点の整理や課
題発見のヒントとしてお役立てください。
アパレル業界の A 社は 70 年の歴史を持
つ老舗だが、この5年間生き残りをかけ
てさまざまなビジネスモデルにチャレン
ジしている。松田(女 27)はそのスピー
ディーで正確な仕事を評価され、昨年4
月に営業部販売 1 課からテレビショッピ
ング関係の業務を受けもっている同特販
課に異動となった。
林課長(男 38)から部内異動を命じら
れたとき、松田は正直消極的だった。特
販課は華々しい感じだが、勤務時間が不
規則で仕事がきつい。
松田のおもな仕事は、始業前の早い時
間に倉庫に出かけ、試作商品をもらい、
テレビ番組制作会社に商品見本として届
け、担当者に詳しく説明するというもの
である。そして、先方からのこまごまと
した注文を特販課にまとめてフィードバ
ックするのも松田の役割だ。
たしかに毎日が多忙だが、制作担当者
の商品の色の見方、材質の確認、糸の強
度やしなやかさ、手触り、肌触りなどに
対する確認の厳しさに刺激を受けて、少
しずつ心地よい啓発的な気分も感じられ
るようになってきた。
営業部
西松部長(50)
特販課
F 工場
大田工場長(53)
安井係長(32)
林課長(38)
松田(27)
←←←松田はなぜ、テレビショッピング関係の業務を
受けもつ特販課への異動となったのか。
←←←松田の業務は、どのようなものか。
←←←松田はなぜ、多忙なテレビショッピングの業務
に心地よさを感じ始めているのか。
“きみが嫌な思いをするだけだ”
4カ月が過ぎる頃に、林は激務をこな
著作権法に定める範囲を超えて、
無断で複写、複製、転載することを禁じます。
Leadership Development Note 2014.6 7
ケース分析
す松田を心配して夕食に誘った。
「今日は、久々に時間がとれました。や
りがいのある仕事に就かせていただいて
今は感謝しています。最初はしんどかっ
たですが、この頃は毎日けっこう楽しく
働いています。営業の醍醐味を味わえて
いますよ。コールセンターでは電話が鳴
り止まないし、カウンターの数字がどん
どん上がっていく現場にいるのですから
すごい臨場感ですよ」
「そうか、はつらつとしていて羨ましい
限りだ。ただし、身体に気をつけてあま
り無理はしないようにしてくれよ。人手
が足りないようなら、安井係長(男 32)
に言ってくれ、手伝いを出すから」
「今のところ大丈夫です。これからは私
も製販会議にも出席して、テレビショッ
ピングの現場で聴くお客さまの声を発信
していこうと思っています。ただ、倉庫
で先週、安井係長にそのことを話したら
消極的でした」
「と言うと…」
「現場で見聞きしたことを会議で発言
すると、生産現場からは嫌がられること
が多いそうです。安井係長は『きみが嫌
な思いをするだけだ』と…」
林は、安井の言うこともわかるが、松
田が主張する内容にも筋の通った力強さ
を感じていた。松田は社内で仕事をして
いるときも、自分から周りのメンバーに
声をかけ、テレビ局で出会った人の話や
目に付いた他社の商品について楽しそう
に話をしている。
「それはいい案だね」と
林は松田に伝えた。
ぜひやってみようじゃないか!
月1度の製販会議の日がやってきた。
西松営業部長(男 50)、関東最大の F 市
8 Leadership Development Note 2014.6
←←←林課長はなぜ、松田を夕食に誘ったのか。
←←←松田はなぜ、製販会議に出席したいと考えて
いるのか。
←←←安井係長はなぜ、松田が製販会議に出席す
ることに消極的なのか。
←←←林は、松田が製販会議に出席することをどの
ように考えているか。
No.1173●現場からのブーイング
工場の大田工場長(男 53)、ほか各課長
が出席するが、松田の姿もあった。
「うちの商品が N 社や K 社に一歩遅れを
とっているのは、カラーバリエーション
が少ないことが原因です。うちの商品は
地味な色味ばかりです。再来月からは、
高級インナーの販売が開始されます。さ
し色としてのカラーバリエーションを今
の2倍にお願いします。しかも“明るい
色味”を、と制作会社からも要望があり
ました。もう1つ、シルエットがアウタ
ーに響かないよう今より多少スリムにし
てほしいという要望もありました」と、
松田は臆することなく発言した。
あっけにとられている工場長の大田を
尻目に、西松は「斬新な意見だね。最終
的には新色のコーディネートにどのくら
いの手間と予算がかるかによるが、ぜひ
やってみようじゃないか!」と応援して
くれた。大田は完全に機先を制されたが、
若い営業メンバーを抱える課長たちには
やっと風穴が開いた気分だった。
新商品開発の成否は現場しだい
松田は、以前にも増して仕事への意欲
が旺盛になった。製販会議で西松の支持
を取り付けただけではなく、周りの営業
のメンバーも、松田の改善提案の実現に
向けて後押ししてくれた。
新商品の提案については、社内審査員
だけではなく、外部のプロのデザイナー
やパタンナーの了解も必要になる。松田
はデータや資料を揃えて彼らを説得し、
試作品の制作にこぎつけた。
だが、資材調達部門や工場の縫製ライ
ン、老舗を得意先にもつ一部の営業部門
からは一斉にブーイングの嵐が起こり、
試作品の制作は遅々として進まない。
著作権法に定める範囲を超えて、
無断で複写、複製、転載することを禁じます。
←←←製販会議には、どのようなメンバーが参加し
ているのか。
←←←松田は、製販会議のメンバーにどのような提
案をおこなっているか。
←←←西松部長は、松田の提案にどのような反応を
示しているか。
←←←松田はなぜ、以前にも増して仕事への意欲が
旺盛になっているのか。
←←←なぜ試作品の制作が、遅々として進んでいな
いのか。
Leadership Development Note 2014.6 9
ケース分析
「若者ウケを狙って、うちのタグをつけ
るのか」
「そんなに派手で、下品な色味が
売れるわけがない」などの声が現場から
上がった。A 社では、上層部のゴーサイ
ンが出ても、工場や資材調達部門の現場
が了解しないと、商品開発が事実上進ま
ないというジレンマを抱えている。
打開のために F 工場を訪ねた林に、現
場を代弁するような勢いで、大田がこう
言った。
「今まで経験のない色味を出すのはち
ょっと無理だな。新色のコーディネート
にどのくらいの手間と予算がかるか、林
くんも知っているだろう。第一うちの強
みは地味なのではなく、上品な色味なん
だよ。松田くんがテレビショッピングの
現場でそういうことを関係者に伝えてく
れなければ困るよ」
林をたしなめるような大田の口調は
「顔を洗って出直して来い!」というふ
うに居丈高に聞こえた。
A 社ではテレビショッピングに参入す
るときも揉めにもめた。
「松田のアイデア
をどうすれば実現させてやれるだろう
か」と、林は気が重くなった。
10 Leadership Development Note 2014.6
←←←大田工場長は、F 工場を訪ねた林になんと言
っているか。
←←←林には大田の口調がどのように聞こえたか。
No.1173●現場からのブーイング
著作権法に定める範囲を超えて、
無断で複写、複製、転載することを禁じます。
Leadership Development Note 2014.6 11
リーダーシップ@ケース解説
1.問題点の把握
現在は、顧客ニーズをいち早く汲み上
げ、それを製品開発に生かし、短期間に
製造・販売へと移行できる企業のみが生
き残れている。ゆえにどの企業も製販一
体という企画・調達・製造・販売等一連
の仕組み(システム)を企業文化として
確立しておかなければならない。しかし
実際には、部門単位の利害が絡むため、
優良な企画案や改善案が停滞したり、頓
挫してしまうことがよくある。
本ケースでは、A 社が生き残りを賭け
て新しいビジネスモデルとしてのテレビ
ショッピングにチャレンジしており、松
田が現場ニーズに基づいた斬新な商品開
発提案を実現させようとしている。これ
を成功させるには、中間管理職である林
課長が上司への対応と部下への対応の両
面からアプローチすることが必要だが、
3つの問題点が指摘できる。
(1)関係部署への配慮不足
松田は、製販会議の場において、顧客
ニーズを踏まえた制作会社から要望のあ
ったカラーバリエーションやシルエット
がスリムに見える試作品の提供を臆する
ことなく提案した。その反応については
「あっけにとられている工場長の大田」
とあり、また「だが、資材調達部門や工
場の縫製ライン、老舗に得意先をもつ一
部の営業部門からは一斉にブーイングの
波が起こり」とある。
だが、こうした反応は事前にある程度、
予測できたと考えられる。にもかかわら
ず、製販会議を成功させるために、林は
ポイントとなる部署や人物に松田の説明
資料を事前に配布し、安井係長と松田に
レクチャーをさせていなかった。
12 Leadership Development Note 2014.6
(2)キーマンへの配慮と準備不足
また、試作品の停滞を打開するために
F 工場を訪ねた林に、現場を代弁するよ
うな勢いで、大田工場長は「新色のコー
ディネートにどのくらいの手間と予算が
かかるか」「だいいちうちの強みは地味な
のではなく、上品な色味なんだよ」と居
丈高に説法された。大田は現場のキーマ
ンであるにもかかわらず、林は事前に想
定される色や予算などの反対意見への根
回しと資料準備をしていない。キーマン
への十分な配慮を怠っている。
(3)上司の部長を活用していない
組織図を見ると A 社の営業部の西松部
長と F 工場長の大田は同クラスの部長で
あり、部長権限は同格と見受けられるが、
年齢的には大田が上である。西松が同ク
ラスの大田を案件ごとに説得するのは難
しい。
そこで林は、上司の西松を通じて役員
会議による経営の意思統一を図ることが
欠かせなかった。上司である西松への働
きかけが明らかに足りないようだ。
2.問題解決の考え方、解決策の提示
A 社はテレビショッピングに進出し、
それを特販課に担当させている。このダ
イレクトマーケティングで得られた顧客
ニーズを商品開発に活かし成功すれば、
現在市場が急拡大している通販や海外進
出での販路開拓に大きく貢献することも
できる。企業としての生き残りを賭けた
テレビショッピングへの進出と考えられ
るため、林はこの現状を十分認識したう
えで、解決策を考え、実行していかなく
てはならない。
(1)部下と協働で根回しと説得をおこなう
No.1173●現場からのブーイング
松田は特販課の新しい職場で、テレビ
ショッピングの制作担当者の商品に対す
る啓発に目覚め、積極的に仕事に取り組
む人間に成長してきている。この人材を
育成するためにも、松田と係長の安井と
も協働で大田や資材調達部門、工場の縫
製ライン、老舗に得意先をもつ一部の営
業部門などに事前に資料を配布し、理解
と協力を求めておく必要がある。これを
課内で一緒にすることにより、林は改善
すべき商品知識が明確になり、また部下
からの信頼も勝ち得ることになる。
(2)上司と他部署にも協力を要請する
さいわい松田の斬新な試作品提案は、
西松や営業メンバーには受け入れられた。
また、新商品の提案には、社内審査員だ
けでなく、外部のプロのデザイナーやパ
タンナーの了解も得て、試作品の制作に
取り付けることができた。
一方、資材調達部門、工場の縫製ライ
ン、老舗に得意先をもつ一部の営業部門
などからのブーイングを防ぐためには、
林は事前に、上司の西松に工場長や資材
調達のトップ、老舗担当の営業トップへ
の根回し要請をおこなうべきである。そ
して、林と安井はそれらの対象部門の課
長クラスなどに手分けをして説得する必
要がある。そうしておけば、相手の考え
方もわかり、準備すべき反論資料も事前
準備することができる。
(3)経営会議を活用してアピールする
企業は、製販一体という企画・調達・
製造・販売・配送等一連の仕組み(シス
テム)を企業文化として確立しておかな
ければならない。そのためには、経営会
議で経営方針や業務の優先順位を決めて
おく必要がある。
たとえば、今年度方針は販路開拓にテ
レビショッピングを活用する。そのため
に特販課の企画を優先させる予算づけや
人員配置などの明確化である。この内容
が経営会議で承認されていれば、大田に
よる斬新な色へのクレームや予算に対す
る厭味などは言われずに済んだはずだ。
だが、自社の経営方針・目標を経営議
案にまでもっていくためには、林が新商
品の必要性について、「西松への説得」「西
松から上司の営業担当役員への説得」「営
業担当役員から他役員や社長への説得」
という流れが欠かせない。ここで、林の
市場と競合会社の動向把握、商品の知識
力、説得力、交渉力などが試される。
この仕事が、林の存在を部内外に強く
アピールするチャンスであり、そして部
下の松田を大きく人間的に成長させる機
会にもなる。中間管理職は働きがいのあ
る部署であり、やる気が起こるポジショ
ンでもあるから、経営会議に諮れる議案
にすべく上司を説得しよう。
◇◆リーダーシップのポイント◆◇
1.部下がやる気になっていると
きは、人材を育成する機会にす
るためにも、部下と協働作業で
支援体制をとる。
2.理論を語るだけではなく、部
内外のキーマンに対する事前の
根回しと説得が必要である。
3.部門間のセクショナリズムを
なくすには、上司に働きかけ、
経営会議を活用する。
(マイライフ経営研究所 代表 吉田勝昭)
Leadership Development Note 2014.6 13
人間心理 @ ケース解説
現状維持という暗黙の掟
安井係長の警告やテレビショッピング
の導入で難航したことから、松田が関与
する以前から営業部門と生産現場は対立
していたことが伺える。そこには、生産
現場の新しいものへの抵抗と現状へのこ
だわりがみてとれる。生産現場は何か守
りたいものがあるのである。
生産現場が見ている顧客は、松田と違
い伝統の色味を大切する老舗顧客である。
松田を駆り立てる営業の醍醐味
松田を駆り立てているものは「営業の
醍醐味」である。松田にとって、それは
自分の努力や工夫の成果が即時評価され
ることである。持ち前のスピーディさと
正確さは、松田の能力であり仕事観の表
れでもある。テレビショッピングは松田
が自己実現できる場であり、たとえ激務
であっても、他とは替えがたい無上の喜
びを感じられる仕事なのである。
生産現場は、70 年の伝統を受け継いでき
た誇りがあるのだ。伝統の色味や品質を
失うわけにはいかない。新色を作り出す
ことは、従来以上の手間と予算がかかる
し、何より老舗顧客からの信頼を損なう
リスクがある。生産部門は伝統や誇りを
守らねばならないのである。
生産現場が生産拒否のカードを切るこ
とで、営業部門はやむを得ず新製品の推
進を話題にしなくなる。こうして、現状
維持という非公式の掟がつくられる。と
ころが、営業部門は、生産部門が抵抗す
る理由やその意味をまったくわかってい
ないのである。
生産部門にとっては掟破りの暴走者
生産現場からすると松田の行動は「掟
破りの暴走行為」と映っているだろう。
松田は、既述の掟を知らないことや仕事
の喜びを得たいこともあって、製販会議
では生産現場への配慮のない「地味」発
言をし、新製品の提案をしてしまった。
西松部長もこの機に乗じて GO の決断を
下す。生産現場にとって、松田は掟を無
視した許しがたい暴走者であり、松田を
擁護する営業部門に対しては実力行使
(生産拒否)をしてでもわかってもらわ
ないといけない、と考えるのである。
しかし、このことが松田を視野狭窄に
させた。テレビショッピングの顧客だけ
に意識が向かい、生産現場の意向や安井
の警告をほとんど気にかけていない。製
販会議で西松や営業メンバーからの支持
を得たことで、松田はますます我が道を
疾走するのである。
過度な期待を寄せる林課長
林課長は、生産現場との対立を知りつ
つ、松田に対して適切な指導をしないま
ま製販会議に臨ませてしまった。林は、
生産現場との関係打開に積年の思いがあ
ったに違いない。そこに、驚くほどの活
躍ぶりを見せる松田が登場したことで、
松田に過度の期待をかけ、関係打開を託
してしまったのである。
では、林はどうするべきだったか。ま
ず、生産部門が抵抗する理由を理解しな
ければならない。
「生産部門が守ろうとし
ている価値」を知り、営業部門がそれを
脅かしていることを認識することである。
次に、松田をはじめ営業部門にそれを理
解させ尊重させる。最後に、自社の生き
残りについて生産部門と共に考える場を
設けることである。理解と尊重を前提に
した対話は、協力関係を構築する可能性
を高めるのである。
14 Leadership Development Note 2014.6
No.1173●現場からのブーイング
セオリー◆保有効果とランク
生産現場は、新しいモノづくりに抵抗
を示しているが、その理由を営業部門は
理解できない。このことは「保有効果」と
「ランク」の概念によって説明ができる。
保有効果が現状維持を招く
保有効果とは、
「現在所有するものに高
い価値を感じ、それを手放すことに強い
抵抗を感じる心理」のことである。たと
えば、とても気に入って 50 万円で購入
した高級腕時計をやむを得ず売却する場
合に、50 万円以下では手放したくないと
思う心理である。これは、経済的価値の
他に、愛着という心理的価値が付加され
て、当人にとっては 50 万円以上の価値
を感じるからである。このような高い価
値を感じているものを保有したい心理か
ら、現状維持の態度が生じるのである。
生産部門が感じている価値とは、70 年
かけて作り上げてきた上品な色味などの
品質、それを維持してきた技術力や労力
といった経済的価値、加えて、老舗顧客
から愛され、顧客と共に築き上げてきた
信頼と伝統、それらに対する誇りといっ
た心理的価値である。残念なことに、と
くに心理的価値は、当事者以外には価値
がないため、理解しがたいものと映る。
ランクによる力関係
ランクとは、人間関係の上下関係と、
それに伴う力や特権の強さを示す概念で
ある。ランクには、下位の人は意識しや
すく、上位の人は意識しにくいという特
徴がある。上位の人にとっての当たり前
の行為が、下位の人にとっては自分を傷
つける行為になるからである。
営業部門は、売上を推進する部門であ
り生産部門が知りえない顧客ニーズを知
っているという点で、生産部門よりもラ
ンクが高い。製販会議における森田の「地
味な色味」発言は、営業部門が思う以上
に、生産部門の感じる伝統や誇りなどを
中傷しているのである。
しかし、このようなことが続くと下位
ランクの生産部門から、生産拒否という
思わぬ反撃を受けることになる。それを
避けるために、営業部門は物言わぬ部門
でいなければならなくなる。
ランクの特性を知り改善に活かす
まず重要なのは、①自他のランクに気
づくことである。対立関係や思わぬ反撃
がある場合、ランクが働いている可能性
が高い。ランクは、社会的地位、経験値・
専門性、自己理解・人間的理解、崇高さ・
精神性などの差から生じる。この点を確
認する。次に、②相手がもつ高いランク
を奪わず、むしろ発揮させる。今回のケ
ースでは、生産部門は「生産」
「誇り」と
いう点で営業部門より高いランクをもつ。
これを傷つけたり奪ったりしてはならな
い。むしろ、ねぎらい尊重し、それを発
揮させる機会を提供する。さらに、③自
分の高いランクを相手のために使うこと
である。たとえば、会社の生き残りとい
う共通目標に向かって、営業部門の顧客
ニーズ収集力を生産部門に使ってもらう
ような提案をすることが考えられる。
このように、ランクは人間関係の葛藤
や部門間の対立の原因になる一方で、そ
の特性を知り上手く利用すれば関係改善
を図ることが可能となる。
(ユースキャリア研究所 代表 高橋 浩)
Leadership Development Note 2014.6 15
法的視点 @ ケース解説
職務懈怠をめぐる法的問題
懲戒事由としての職務懈怠
本ケースでは、松田の新商品開発の提
案そのものは、林課長や特販課が所属す
る(西松部長を含めた)営業部として、
コンセンサスが出来上がっている。しか
し、生産現場の協力を得ることができず、
松田は行き詰った状態に陥っている。
根本的な問題は、営業部と F 工場の職
務分担の調整と社内の連携が切断されて
いることだ。松田の意見は、製販会議に
おいて林だけでなく特販課が所属する営
業部の西松がサポートする形で、F 工場
の大田工場長に提案されている。大田の
「今までの経験のない色味を出すのはち
ょっと無理だな…」といった言動がその
後、更なるすり合わせをおこなったうえ
でなされたものかどうかは明確ではない
が、明らかに行き過ぎた発言である。
とはいえ、本ケースでは、A 社が会社
としてどのような方針で新商品開発に向
き合うのか統一化されておらず、大田に
対する指揮命令が不明確であり、今のと
ころ法的問題を惹起する段階ではない。
しかし、さらに事態が悪化すれば、場合
によってはかかる言動は職務懈怠に該当
することになろう。
懲戒処分の前提となる職務懈怠は、労
働契約上の労働義務違反を構成する。職
務懈怠の中核概念は、職務専念義務であ
る。労働者は使用者との労働契約に基づ
き、使用者の指揮命令に従って労務提供
をおこなう義務を負い、就業時間中は原
則として職務に専念する義務を負う。労
働者が就業時間中に使用者の指揮命令に
従わなかったり、労務提供と両立しえな
16 Leadership Development Note 2014.6
い組合活動をおこなえば、指揮命令違反
と労働契約違反が問題となる。
職務懈怠とは労務の遂行が不適切なこ
とをいい、勤務状況、勤務不良、職場離
脱、無断欠勤、業務命令違背等を広く含
む。裁判所は、職務懈怠という懲戒事由
を企業秩序や職場秩序に具体的支障を及
ぼし、他の従業員に悪影響を与えるとい
った場合、換言すれば、会社に積極的な
損害を与えたり、信用失墜をもたらした
場合に限定して判断する傾向にある。た
とえば、部下の不正行為を知った後も本
社に通知せず、部下が個人的に保障する
のを黙認していた支店長の懲戒解雇を有
効とした場合(国際油化事件、福岡地裁
昭 62.12.15 判決)、部下の不正行為を知
り得る立場にあった幹部が重過失によっ
てこれを放置したため会社に多大な損害
を与えた場合(関西ファブリック事件、
大阪地裁平 10.3.23 判決)がある。
なお、職務懈怠と混同しがちな概念と
して、スローダウン(怠業)がある。か
かる概念は労働法においては争議行為と
組合活動の場面において論じられる。た
とえば、大学の図書館職員が争議行為と
して、のろのろと仕事をしている場合を
想定すればよい。集団でおこなう労務の
不提供が争議行為の核心であるから、ス
ローダウンは労務の一部の不提供に該当
し、争議行為の一類型に該当する。
また、林についても、職務遂行能力が
欠如していると評価されれば、同様な問
題が指摘される。管理職には、労働契約
上、部下の管理を適切におこない、業務
を的確に遂行する能力が要求される。そ
のためには、説明・説得能力、指導力、
協調性が問われ、積極的な働きかけが要
No.1173●現場からのブーイング
求される。リーダーシップ・対人折衝能
力・共同作業能力の欠如は、かかる能力
の不足を意味する。林に求められている
のは「気が重くなる」ことではなく、積
極的・主体的・能動的に管理指導能力を
発揮し、新たな会議開催の要望を出すと
か生産現場との非公式の折衝等を通じて
もつれた人間関係を解きほぐし、営業部
と F 工場との間の不十分な伝達経路をク
リアーにすることである。
適正労働条件措置義務違反
松田は「毎日が多忙」であり、やりが
いを感じていようであるが、今後、業務
が滞ることで過度に結果志向が阻害され
たり、慢性的ストレスに晒されるとする
ならば、松田の新商品開発に対するモチ
ベーションや労働意欲が減退する可能性
はあり、A 社の安全配慮義務(とりわけ
適正労働条件措置義務)の問題が惹起さ
れるかもしれない。過労による業務上休
職あるいは過労死に関わる労災民事訴訟
においては、①業務と自殺の因果関係、
②使用者の安全配慮義務違反(債務不履
行)または過失(不法行為)、③過失相殺
(この点はここでは論じない)が問題と
なる。①は、業務の過重性(過重労働等
の心理的負荷)→うつ病等の精神障害の
発症→業務上休職・自殺という相当因果
関係の存否の問題である。かかる評価に
おいては労働時間の長さが重要な要素に
なるだけではなく、業務において突発的
な出来事や精神的に悩む問題があったか
等といった心理的負荷を与える出来事が
あったか否かを職務の性質・内容、職務
状況等の労働実態に着目して判断される。
②について、安全配慮義務の一内容と
して、使用者は労働者の労働時間を把握
し、長時間労働にならないように配慮し、
健康を悪化させない義務を負う(適正労
働条件措置義務)を使用者の労働契約上
の義務と捉える、裁判例(たとえば、富
士通四国システムズ事件・大阪地裁平
20.5.26 判決、萬屋建設事件・前橋地裁
平 24.9.7 判決)があり、A 社は留意が必
要である。A 社には松田の働き方と労働
実態につき把握する労働契約上の義務が
あり、ぞんざいな雇用管理はおこなうべ
きではない。
本ケースの場合
本ケースでは、大田の言動についても、
林のリーダーシップ不足の職務遂行能力
の欠如についても、職務懈怠と法的に評
価できないことから、両者の言動が懲戒
事由という法的段階にまで事態は悪化し
ておらず、
「マネジメント上の問題」の段
階で対応することが望ましい。
◆◇リーガルポイント◇◆
1.職務懈怠とは労務の遂行が不
適切なことをいい、勤務状況、
勤務不良、職場離脱、無断欠勤、
業務命令違背等を広く含むもの
である。裁判所は、職務懈怠と
いう懲戒事由を企業秩序や職場
秩序に具体的支障を及ぼし、他
の従業員に悪影響を与えるとい
った場合に限定して、判断する
傾向にある。
2.使用者としての適正労働条件
措置義務の履行がなされている
かどうかを再点検すべき。
(沖縄大学 法経学部 教授 春田吉備彦)
Leadership Development Note 2014.6 17
マーケットインとプロダクトアウト
人事労務コンサルタント
1.マーケットインとプロダクトアウト
を融合する
マーケティング戦略をめぐり、「マー
亀田伸彦
2.社内でマーケティング戦略の共有が
進むフレームを構築する
(1)トップ自身が明確なマーケティング戦略を
ケットイン」を重視すべきか、「プロダ
もつ
クトアウト」を基本とすべきか、深刻な
A 社(専門商社)は、合併を経たため
対立が生じることがしばしばある。
もあり、マーケティング戦略が統一され
マーケットインとは、企業が消費者の
ていないきらいがある。今般、こうした
求める商品の提供に資源を絞り込む戦
状況を改善するため、すべての常勤役員
略をいい、多くの場合、営業や販売分野
が参加して議論し、マーケティング戦略
から支持される。
の統一への基本方針をまとめた。
プロダクトアウトとは、製造者(ある
同時に、経営企画室に、開発・営業・
いは販売者)として提供しやすい商品の
財務部門から抜擢した人材で構成する
提供に資源を絞り込むことをいい、開発
マーケティング政策チームを設置し、従
や製造分野から支持される傾向がみら
来各部が個別に決めていた重要案件を、
れる。
同チームで検討することとした。
近年、
「顧客志向」のもと、マーケット
議論には、案件の当事者である営業所
インが正しいとする考え方が有力のよ
や工場のラインの担当者も加わる。早急
うだが、簡単に結論を出すべきではない。
に結論を出すために深夜や休日にも会
プロダクトアウトのベースには、顧客に
合をもち、担当役員が同席して、決済を
よりよい商品を提供しようとする思想
おこなう。
が存在し、そのことが顧客のニーズを掘
(2)営業部門と製造部門を1つの事業部のな
り起こす場合が少なくない。
かに置く
他方、マーケットインには、表面的な
B 社(食品製造卸売業)では、それま
顧客ニーズに惑わされ、ときとして、採
で営業本部がすべての営業所を、製造本
算の悪化を来たす危険性が伴う側面が
部がすべての工場を管理してきた。この
あることも否定できない。
ほど、消費者のニーズやシーズをより的
マーケットインとプロダクトアウトと
確に捉えるために、営業本部と製造本部
は、いつも対立するとは限らない。たと
を解体し、代わりに 3 つの商品別事業本
えばプロダクトアウトによって特色あ
部を設けた。各事業本部がそれぞれ営業
る商品を作り、そのことが、顧客志向の
支社(営業所を営業支社とした)と工場
マーケットイン戦略を大きく前進させ
とを管理する。
ることもあり得る。
18 Leadership Development Note 2014.6
各営業支社のメインオフィスが工場
マーケットインとプロダクトアウト
と近接して置かれ、営業と製造とのコミ
し、それまで部門別に実施してきた社内
ュニケーションが緊密となり、顧客ニー
研修のおもなプログラムを、課長・係
ズをスピーディに反映させることが可
長・主任などの職層別に、合同で実施す
能となった。
ることとした。
同社の研修は合宿方式によるため、終
3.マーケティング戦略の共有には、
そのための人事施策が重要となる
了後の自由時間に受講者同士の交流が
進むなどの効果も生じている。
(1)文系社員には製造部門を、理系社員には
営業部門を経験させる
C 社(家電製造卸売業)は、消費者の
4.社内の各部門がマーケティング戦略
を共有する
支持をより強固にするためには、基本と
マーケティング戦略は企業存立の基
なるマーケティング戦略を社内で共有す
盤であり、社内で考え方を共有すべきだ。
ることが欠かせないと考えた。そこで、
社内の分野ごとにマーケティング観が
管理・営業等の文系社員と、技術・製造
相違し、あるいは事業部ごとに異なるマ
等の理系社員との人事管理を統合し、中
ーケティング戦略を採用することは危
堅社員時代に、最短で 1 年間、文系社員
険だといえる。
には製造部門を、理系社員には営業部門
を経験させることとした。
同時に各事業部のトップの人事制度を
マーケティング戦略の根幹ともいうべ
き商品戦略には、商品差別化戦略と市場
細分化戦略とがある。
改革することとし、事業部長が技術・製
仮に社内の各部門や、事業部が異なる
造系のときには副部長は管理・営業系か
商品戦略を採用すると、それぞれの立場
ら登用し、その反対の場合も、同様な方
から顧客ごとに最適の商品を提供しよう
式(いわゆる襷がけ)とすることとした。
し、
「製品細分化」のワナに陥る危険性が
もっともこうした方式は一時的な措置
高まる。
であり、将来的には、役員や事業部長ク
業績が順調であれば商品細分化戦略は
ラスについては、管理・営業、技術・製
効果を発揮するが、売上高が低下すると
造といった意識の壁を取り払いたい考え
企業は規模の利益を失い、それが致命傷
である。
につながる場合が生じる。
(2)職層ごとに、営業部門と製造部門の合同
社内におけるマーケティング観の相違
研修を実施する
は、出版業における営業部門と編集部門
D 社(アパレル製造販売業)は、高い
との対立、金融業における業務推進部門
技術力をもとに市場で高いシェアを維
と信用審査部門との対立のように、あら
持してきたが、近年、海外製品との競争
ゆる業種で生じる。
を主因に、収益力が低下しはじめた。そ
今日の厳しい経営環境を乗り越えるた
こで、会社ぐるみ、より消費者ニーズに
めには、営業や販売、開発や製造、財務、
合致した商品政策を実現し、収益力の回
経営企画などの各分野が、それぞれの立
復に取り組むこととした。
場から活発な議論をおこない、社内にマ
そのための方策として、営業部門と製
造部門との意識の共有を進めることと
ーケティング戦略をめぐるコンセンサス
をつくりあげることが求められる。
Leadership Development Note 2014.6 19
ケーススタディ
No.1174●ごり押しする営業担当者
X火災保険の代理店「あんしんサポー
ト」の社長岩本(男 34)は、みずから営業
担当を兼務し、明るい性格で契約先の評
判もよい。しかし、事務管理が不得意で、
しばしば初歩的なミスを犯し、ときどき
同代理店を管理している東部営業第1部
に苦情の電話がかかってくる。
同営業部は、深沢部長(男 51)が統括
し、第2ユニットの高橋副主任(女 32)
が同代理店を担当している。保険契約の
申込書(契約書)は、代理店が作成し、
営業部がそれを管理・指導する建前とな
っているのだが、少しでも複雑なケース
だと、岩本が作成した申込書は代理店シ
ステムの処理ではじかれてしまう。
“いっしょに作成してみましょう“
「あんしんサポートは、立ち上げ期だか
ら仕方がない」と、最初は親切に電話で
指導していた高橋も、このままでは岩本
がX火災保険にとって大きなリスクにな
ると考えるようになった。
岩本に「きちんと申込書を作成しても
らわないと困りますよ」と言うと、岩本
は「わからないときは、サポートしてく
れる約束ですよ」と素直には応じない。
「それでは一緒に作成してみましょう」
と説得し、岩本もそれには応じるように
なった。しかし、何回か一緒に作成した
が、作成作業に身が入らず、態度もテキ
トーでいい加減なところがある。
たまりかねて、高橋が「もう少し、集
中してくださいよ、こんなことでは代理
店としてどうなるか…」と言うと、
「ぼく
20 Leadership Development Note 2014.6
は契約者の新規開拓では、ずいぶん成績
を上げているはずですよ」
「夜遅くまで新
規耕作先訪問が続いて時間の余裕がなく、
アシスタントの育成も進んでいない。い
っそのこと高橋さんが代わりに作成して
くださいよ」と強硬な態度に出る。
もうしばらく面倒みてやって…
高橋は、上司の深沢に相談した。
「あん
しんサポートさんのこと、私、手助けす
るのは決して嫌ではないのですが…」
「申
込書作成の相談や指導に時間がかかり過
ぎて困っています。入力作業で代理店シ
ステムからエラーが出ても自力では対応
ができず、いちいち聞いてきます。これ
ではサポートではなくて代行です。岩本
社長のところへ出向く機会も多く、私の
時間外勤務が1カ月に 10 時間以上もか
かっています」
「言いにくいことなのです
が、お客さまから寄せられた苦情のなか
には、会社が定めた手続への違反が少な
くありません。部長から、あんしんサポ
ートさんについて、営業指導部へ実情を
連絡しておいていただけませんか。
今後、
もっと重大なトラブルが生じるような嫌
な予感がするのです」
東部営業第1部には、4つのユニット
(係に相当)が置かれ、ユニットには主
任・副主任・係員が配置されている。ベ
テランである副主任に対しては、主任が
助言などはするが、管理は部長が直接す
ることが慣行となっている。
深沢は、高橋を全面的に信頼し、その
評価も高い。「高橋くん、ご苦労様だが、
No.1174●ごり押しする営業担当者
もうしばらくこのまま面倒をみてやって
くれないか」
「あんしんサポートの岩本社
長は、当社の有力OBの親戚で、もとは
証券会社の営業マンだった。今のところ
は、新規獲得に夢中なのだと思うよ」
もっと社内の資源を活用しては?
高橋は、たまたま食堂で一緒になった
代理店研修部の若手のホープ南方主任
(男 33)に相談してみた。
南方主任は「今、そういうケースがけ
っこう多いんだよ。過去の類似ケースを
参考にして、対策に社内の資源をもっと
活用しては…。最近、うちの部に設けた
“代理店ヘルプデスク”を利用する手も
あるよ」と言ってくれた。
高橋は翌々日、再度南方主任を訪れ、
親切なアドバイスを受けた。
「岩本社長に対する会社の考えを明確
に伝えるべきだね。それが一番大切だ」
「改善の工程表を作ろうと思うのです
が…」と高橋。
「大賛成だ。代理店にはP
DCAによる改善が必要なんだ。しかし、
忙しいことを言い訳に改善に取り組まな
い経営者も多い」と南方。
「岩本社長には改めて代理店研修に出
てもらうように強力に勧めます。私のほ
うで研修計画書を作りたいのですが、南
方さん手伝っていただけますか?」
「オーケー」
「代理店ヘルプデスクを活用してもら
えるとたしかに楽になるわ」と高橋。
さらに南方が言う。
「あんしんサポート
の顧客とのトラブルの件は、営業指導部
に話しておくべきだ。コンプライアンス
の軽視は絶対にいけない。深沢部長は、
OBの親戚だというので、岩本社長に遠
慮し過ぎているような気がするな」
著作権法に定める範囲を超えて、
無断で複写、複製、転載することを禁じます。
高橋は、あんしんサポートへの対策を
まとめて、深沢に報告した。
深沢は、高橋の提案を受け入れ、その
労をねぎらった。
「さっそく岩本社長との懇談の機会を
つくり、私からも意見を言おう。彼には
引き続き新規顧客の開拓に努力してもら
いたいから、ヤル気を高めるために、役
員と昼飯を一緒にする席を設けよう」
「工程表の作成はとてもいいね。よろし
く頼むよ」
「代理店研修部長に、私からも声をかけ
ておくよ。代理店研修受講のこと、まず、
きみから強力に勧めてください。南方く
んが言う代理店ヘルプデスクの活用のこ
と、ぼくもいい考えだと思う」
しかし、営業指導部への連絡のことに
ついては「もう少し考えさせてくれ。伊
藤主任にも、参考に意見を聞いてみたい」
と決断がつかないようだった。
あんしんサポート
東部営業第1部
岩本社長(34)
深沢部長(51)
第2ユニット
代理店研修部
南方(33)
高橋(32) 伊藤(41)
■ケース分析の手引き■
◆深沢部長の高橋副主任に対する指導に
はどのような問題がありますか。
◆深沢部長は今後、どのような改善行動
をとる必要がありますか。
Leadership Development Note 2014.6 21
ケースガイダンス
本ケースのねらい
“おもてなし”を訴えた招致活動
昨年、2020 年オリンピック・パラリン
ピックの東京開催が決まった。その招致
成功の決め手となったのは、タレントの
滝沢クリステル氏による最終プレゼンテ
ーションにあったといわれる。左手を使
いながら、流暢なフランスで、わが国の
伝統的な精神文化である“おもてなし”
をアピールしたポーズは、あまりにも鮮
明な印象を人々に与えた。
もっとも、招致活動の全体を見渡して
みれば、日本側の地道なロビー活動が大
きく貢献しているという。だが、
“おもて
なし”を訴えたことが投票直前まで接戦
だった雰囲気を、一気に東京に引き寄せ
たことも現実にちがいない。
従来、オリンピックの候補地争いは、
その国の政治力や開催規模がモノをいう
のが通例であり、国々のごり押しが錯綜
したきらいがある。それがソフト面や理
念の発信が重視されるようになった。そ
うした流れの中で、
“おもてなし”で東京
開催にこぎつけたことは、わが国にとっ
ても新しいエポックとなるだろう。
事務管理を軽視する営業パーソン
本ケースは、損保会社の代理店管理を
担当する営業部が舞台で、担当者の高橋
は立ち上げ間もない代理店の岩本に手を
焼いている。岩本は少し複雑な事案にな
ると、その申込書(契約書)はシステム
からはじかれ、サポートを要求する。
だが岩本は、新規獲得の営業活動を大
義名分に、事務管理を軽視し、申込書の
作成方法を覚えようとはしない。高橋は
22 Leadership Development Note 2014.6
上司の深沢部長にそのことを伝え、営業
指導部に実情を連絡するように訴えるが、
深沢は「もうしばらく面倒をみてやって
…」という態度に終始する。
高橋は岩本への対策を「工程表」にま
とめて再度、深沢に打診するが、営業指
導部への連絡については、なお決断がつ
かない。現場では、有力 OB の親戚であ
る岩本への遠慮があるのではという疑心
暗鬼が生まれつつある。
無理な新規開拓をしていないか
深沢は、高橋からもっと頻繁に状況を
聴取し、問題意識を共有することが重要
だろう。そして、高橋が作成した「工程
表」に従って、岩本との面談の機会をで
きるだけ頻繁にもつべきである。
深沢がときどき接触することで、岩本
のモチベーションを高めると同時に、営
業部としては、専門スタッフによる商品
知識のアドバイスや、法律や税務上の知
識の支援などの面で具体的なニーズがな
いか確認することができる。
また、申込書(契約書)の作成は、代
理店の基本的な業務であり、営業部へ強
引なサポート要求をしないように自覚を
促したい。そして、この業務姿勢に関連
して、新規開拓が得意だという岩本が無
理な開拓活動をおこなっていないかチェ
ックすることも欠かせない。
事務管理を軽視するのは、営業パーソ
ンだけではなく、職業人として大きな問
題がある。TQC 活動には“後工程はお客
様”という格言があるが、今日、
“おもて
なし”の精神としてぜひ継承したい。
ケース分析
このコーナーでは、問題解決の手がかり
となる描写や登場人物の言動を1つひとつ
ピックアップしていきます。これにより、
事実を的確に把握することができ、よりよ
い解決策を導くことができます。
グループ討議などでの問題点の整理や課
題発見のヒントとしてお役立てください。
あんしんサポート
東部営業第1部
岩本社長(34)
深沢部長(51)
第2ユニット
代理店研修部
南方(33)
高橋(32) 伊藤(41)
X火災保険の代理店「あんしんサポー
ト」の社長岩本(男 34)は、みずから営業
担当を兼務し、明るい性格で契約先の評
判もよい。しかし、事務管理が不得意で、
しばしば初歩的なミスを犯し、ときどき
同代理店を管理している東部営業第1部
に苦情の電話がかかってくる。
同営業部は、深沢部長(男 51)が統括
し、第2ユニットの高橋副主任(女 32)
が同代理店を担当している。保険契約の
申込書(契約書)は、代理店が作成し、
営業部がそれを管理・指導する建前とな
っているのだが、少しでも複雑なケース
だと、岩本が作成した申込書は代理店シ
ステムの処理ではじかれてしまう。
“いっしょに作成してみましょう“
「あんしんサポートは、立ち上げ期だか
ら仕方がない」と、最初は親切に電話で
指導していた高橋も、このままでは岩本
がX火災保険にとって大きなリスクにな
ると考えるようになった。
岩本に「きちんと申込書を作成しても
らわないと困りますよ」と言うと、岩本
は「わからないときは、サポートしてく
れる約束ですよ」と素直には応じない。
「それでは一緒に作成してみましょう」
と説得し、岩本もそれには応じるように
著作権法に定める範囲を超えて、
無断で複写、複製、転載することを禁じます。
←←←保険契約の申込書(契約書)は、だれが作成
することになっているのか。
←←←高橋副主任はなぜ、岩本が大きなリスクにな
ると考えるようになったのか。
Leadership Development Note 2014.6 23
ケース分析
なった。しかし、何回か一緒に作成した
が、作成作業に身が入らず、態度もテキ
トーでいい加減なところがある。
←←←岩本は、高橋の指導に対して、どのような強
たまりかねて、高橋が「もう少し、集
硬な主張をしているか。
中してくださいよ、こんなことでは代理
店としてどうなるか…」と言うと、
「ぼく
は契約者の新規開拓では、ずいぶん成績
を上げているはずですよ」
「夜遅くまで新
規工作先訪問が続いて時間の余裕がなく、
アシスタントの育成も進んでいない。い
っそのこと高橋さんが代わりに作成して
くださいよ」と強硬な態度に出る。
もうしばらく面倒みてやって…
高橋は、上司の深沢に相談した。
「あん
しんサポートさんのこと、私、手助けす
るのは決して嫌ではないのですが…」
「申
込書作成の相談や指導に時間がかかり過
ぎて困っています。入力作業で代理店シ
ステムからエラーが出ても自力では対応
ができず、いちいち聞いてきます。これ
ではサポートではなくて代行です。岩本
さんのところへ出向く機会も多く、私の
時間外勤務が1カ月に 10 時間以上もか
かっています」
「言いにくいことなのです
が、お客さまから寄せられた苦情のなか
には、会社が定めた手続への違反が少な
くありません。部長から、あんしんサポ
ートさんについて、営業指導部へ実情を
連絡しておいていただけませんか。
今後、
もっと重大なトラブルが生じるような嫌
な予感がするのです」
東部営業第1部には、4つのユニット
(係に相当)が置かれ、ユニットには主
任・副主任・係員が配置されている。ベ
テランである副主任に対しては、主任が
助言などはするが、管理は部長が直接す
ることが慣行となっている。
24 Leadership Development Note 2014.6
←←←高橋はなぜ、岩本の問題について、深沢部
長に営業指導部へ実情を連絡するように提
案しているのか。
No.1174●ごり押しする営業担当者
深沢は、高橋を全面的に信頼し、その ←←←深沢は、岩本について、高橋にどのように対
応するように伝えているか。
評価も高い。「高橋くん、ご苦労様だが、
もうしばらくこのまま面倒をみてやって
くれないか」
「あんしんサポートの岩本さ
んは、当社の有力OBの親戚で、もとは
証券会社の営業マンだった。今のところ
は、新規獲得に夢中なのだと思うよ」
もっと社内の資源を活用しては?
高橋は、たまたま食堂で一緒になった
代理店研修部の若手のホープ南方主任
(男 33)に相談してみた。
南方主任は「今、そういうケースがけ ←←←高橋は、代理店研修部の南方主任から、どの
ようなアドバイスを受けているか。
っこう多いんだよ。過去の類似ケースを
参考にして、対策に社内の資源をもっと
活用しては…。最近、うちの部に設けた
“代理店ヘルプデスク”を利用する手も
あるよ」と言ってくれた。
高橋は翌々日、再度南方主任を訪れ、
親切なアドバイスを受けた。
「岩本社長に対する会社の考えを明確
に伝えるべきだね。それが一番大切だ」
「改善の工程表を作ろうと思うのです
が…」と高橋。
「大賛成だ。代理店にはP
DCAによる改善が必要なんだ。しかし、
忙しいことを言い訳に改善に取り組まな
い経営者も多い」と南方。
「岩本社長には改めて代理店研修に出
てもらうように強力に勧めます。私のほ
うで研修計画書を作りたいのですが、南
方さん手伝っていただけますか?」
「オーケー」
「代理店ヘルプデスクを活用してもら
えるとたしかに楽になるわ」と高橋。
さらに南方が言う。
「あんしんサポート ←←←南方は、深沢が岩本の問題を営業指導部に
連絡しないことについて、どのように推測して
の顧客とのトラブルの件は、営業指導部
いるか。
に話しておくべきだ。コンプライアンス
の軽視は絶対にいけない。深沢部長は、
著作権法に定める範囲を超えて、
無断で複写、複製、転載することを禁じます。
Leadership Development Note 2014.6 25
ケース分析
OBの親戚だというので、岩本社長に遠
慮し過ぎているような気がするな」
高橋は、あんしんサポートへの対策を
まとめて、深沢に報告した。
深沢は、高橋の提案を受け入れ、その
労をねぎらった。
「さっそく岩本社長との懇談の機会を
つくり、私からも意見を言おう。彼には
引き続き新規顧客の開拓に努力してもら
いたいから、ヤル気を高めるために、役
員と昼飯を一緒にする席を設けよう」
「工程表の作成はとてもいいね。よろし
く頼むよ」
「代理店研修部長に、私からも声をかけ
ておくよ。代理店研修受講のこと、まず、
きみから強力に勧めてください。南方く
んが言う代理店ヘルプデスクの活用のこ
と、ぼくもいい考えだと思う」
しかし、営業指導部への連絡のことに
ついては「もう少し考えさせてくれ。伊
藤主任にも、参考に意見を聞いてみたい」
と決断がつかないようだった。
26 Leadership Development Note 2014.6
←←←深沢は、高橋がまとめた岩本への対策に対し
てどのように反応しているか。
No.1174●ごり押しする営業担当者
著作権法に定める範囲を超えて、
無断で複写、複製、転載することを禁じます。
Leadership Development Note 2014.6 27
リーダーシップ@ケース解説
1.問題点のクローズアップ
(1)実態を十分に掌握していない
深沢部長は、代理店のサポートをめぐ
って問題が発生しているにもかかわらず、
もっぱら担当者の高橋副主任に任せてい
る状態で、自分自身で状況を十分に掌握
していない。
損害保険会社にとって、営業の第一線
である代理店の指導と育成は最も重要な
課題だ。なかでも新たな代理店について
は、事務管理面を含めて、状況を注意深
く観察する必要がある。このケースの場
合、顧客獲得という営業面については順
調に推移しているようだが、事務管理面
には多くの問題が生じていると思われる。
本ケースにおける管理責任は担当部長
である深沢にあり、担当者がベテランで
あっても、深沢は、適宜その状況を聴取
し、アドバイスや指示をおこなうべきだ。
しかし、深沢は、営業日誌などから状況
がわかるはずなのに、担当者から相談さ
れるまで、管理者としての職責を果たそ
うとしていない。
(2)担当者に十分な援助をしていない
高橋は、担当者としてはよく努力して
いる。また、彼女がまとめた取組み課題
は適切といえよう。
本ケースのような場合、担当者1人の
力では容易に課題は解決できない。部の
内部や、社内のノウハウを活用すること
が必要だ。それを調整することが管理者
である深沢の役割なのだが、彼はその役
割を十分に果たしてない。
もっとも、部下が自分の了解なしに外
部に協力を求めることを嫌がる管理者が
多いなかで、深沢にはそのような傾向が
なく、この点は評価してよいだろう。
28 Leadership Development Note 2014.6
(3)未だ重要な決断を残している
課題の解決にあたって、深沢は率直に
高橋の意見を受け入れ、今後の対応をオ
ーソライズしている。代理店の岩本社長
とみずから懇談することとし、役員との
会食をセットするなど、遅ればせながら
適切に行動しようとしている。
ただし、高橋が思い切って打ち明けた
にも関わらず、同代理店の過去のクレー
ムについて、営業指導部に報告し連携し
て対応することを逡巡している。もしか
すると、クレームの陰には、法違反など
の当社のコンプライアンスに関わる重大
な事実が潜んでいるかもしれない。部長
としての立場上、営業指導部には知られ
たくない事情があるかもしれないが、即
刻決断すべきだ。
なお、この段階で、伊籐主任の意見を
聞くことは唐突であり、伊藤には、もっ
と早くからこの件に関与することを指示
しておくべきだったと思われる。
2.問題解決の考え方と解決策の提示
(1)担当者と問題意識を共有する
深沢は、今後もあんしんサポートへの
指導や協力を、従来どおり高橋に任せる
ことが適当だといえる。しかし、もっと
頻繁に状況を聴取し、高橋と問題意識を
共有することが必要だ。高橋が作成する
「工程表」に従って、岩本との面談の機
会をできるだけ頻繁にもち、高橋を積極
的に援助することが望まれる。また、高
橋の時間外勤務についても、具体的な削
減方法をサポートすべきだ。
(2)社内資源の活用について調整する
本ケースの解決をめぐる最大のポイン
トは、X 火災保険が社内に有する、代理
No.1174●ごり押しする営業担当者
店サポートのための多様な社内資源を、
有効に活用することだといえる。
契約先の新規開拓は、岩本の得意分野
のようだが、さらに情報提供や紹介など
に取り組むとよい。深沢がときどき接触
することによって、岩本のモチベーショ
ンが高まり、同時に、無理な開拓活動を
チェックすることともなる。
申込書(契約書)の作成は、代理店の
最も基本的な業務であり、同社営業部の
援助を必要としないように自覚を促した
い。かわって、同社営業部としては、社
内の専門スタッフの助力による商品知識
のアドバイスや、法律や税務上の知識の
支援などに注力することとしたい。
申込書作成に関する PC 操作について
は、当社代理店研修部がすぐれたノウハ
ウを保有しており、岩本とアシスタント
に、代理店研修部の研修を受講して、事
務管理について勉強してもらうようにし
たい。現状、高橋は電話や、場合によっ
ては出向いて岩本の指導に当たっている
が、あんしんサポートの PC 操作のレベ
ルが向上すれば、高橋は余分な体力を割
かなくてもよいこととなる。
代理店が自立・発展していくためには、
「計画・実行・評価・改善(PDCA)」の
サイクルを日常業務に定着させることが
不可欠だ。岩本には、代理店研修を通じ
て、こうした知識や技術をマスターでき
ることに気づいてもらいたい。
(3)コンプライスに取り組む
損害保険会社には、保険業法や関係法
令に準拠した保険契約の締結が求められ
る。たとえ機械操作のミスであっても、
契約事務の誤りは信用を大きく損なう。
また、保険契約は一般の人には理解が
難しい部分が少なくなく、わかりやすい
説明がとくに大切だ。クレームの発生は、
違法でないにせよ、十分な説明義務を果
たしていないことに起因することが多い。
今、損害保険業界では、コンプライア
ンス(法令遵守)と、アカウンタビリテ
ィ(説明責任)がますます重要となって
いる。代理店の指導に当たってもこの両
者の徹底を図るべきだ。
あんしんサポートの岩本には、深沢の
イニシアチブのもと、社内各部の協力を
得るなどして、十分な法令遵守や説明責
任を果たす体制のサポートをおこなうこ
とが望まれる。
◇◆リーダーシップのポイント◆◇
1.リーダーである管理者は、
問題点を具体的に整理し、部
内で情報を共有して整合性の
ある対応策を策定のうえ、た
とえば工程表などを作成して
対応することが望まれる。
2.問題の解決に当たっては、
社内の知識・ノウハウ・技術
などの資源を有効に活用する
ことが重要であり、リーダー
にはその調整に当たることが
求められる。
3.これからの時代は「法令遵
守や説明義務」を果たすこと
がとくに重要となる。リーダ
ーにはその中心的な役割が期
待される。
(人事労務コンサルタント
亀田伸彦)
Leadership Development Note 2014.6 29
人間心理 @ ケース解説
しがらみが行動にブレーキをかける
深沢部長は高橋が困っているにも関わ
らず解決策を練ろうとせず少し面倒をみ
てやってくれないかという。営業指導部
への連絡もせずに、岩本を擁護する立場
をとる。岩本が X 火災保険の有力 OB の
親戚であり、そこに遠慮をしているとこ
ろが大きな原因のように思われる。その
後も、高橋が提案した代理店改善策には
賛同はするものの、ここでも営業指導部
払わねばならないということを深沢は強
く認識すべきである。
そして、あまりにもしがらみに気をと
られすぎると部下からは「自己保身が過
ぎる上司」という認識をもたれかねない。
そうなると、人望が損なわれ職場の士気
にも影響するだろう。「部長のためなら」
という気持ちにさせられない上司になっ
てしまう。それはしいては深沢自身の首
を絞めることになるということも考慮す
への連絡はせず、依然として岩本を擁護
する立場をとっている。
サラリーマンは、さまざまなしがらみ
の中で生きている。義理があったり、権
力者ににらまれると出世に影響があった
り、上司と部下にはさまれたり、信念と
は違う上司の方針にあわせなければいけ
なかったり、また家族の生活を守られな
ければという立場もある。しがらみの中
で生きるのはたいへんなことであり、そ
の中で正しいと思うことを貫き通すのは
かなり困難なことだ。
おそらく深沢も、有力 OB やその関係
者(深沢の上司など)になんらかのしが
らみがあるのであろう。そのため、深沢
が有力 OB に気を遣い、岩本への指導や
管理に遠慮をする気持ちが出てくるのも
わかる。営業指導部への連絡するのがよ
いことだと思っても、しがらみの中では
思ったとおりに実行するのにはブレーキ
がかかる。
“自己保身が過ぎる上司”と映る
しかし、しがらみがあるからといって
本来するべき代理店への指導や管理、営
業指導部への連絡、すべてに関してブレ
ーキをかけてしまうのはいささかやり過
ぎなのかもしれない。そのつけは部下が
べきであろう。
意識を他人に向けると行動は容易
深沢に何らかのしがらみがあったとし
ても、なにかできることがあったのでは
ないだろうか。
私たちは意識が自分のほうに向いてい
るとき(自分のことを考えているとき)
は、勇気を出してしがらみを振り払った
行動をとってみようと思えないものであ
る。しかし、意識を自分ではなく他人に
向けられたときに、私たちは自分の枠を
超えられる。多くの人にも経験があるの
ではないだろうか。家族、パートナー、
他人などのためにと他人に意識を向けた
ときに、自分の枠を超えた行動がとれる。
愛を動機とする行動は勇気を持ちやすく
なるものなのだ。
「このままではつけは部下が払わねばな
らない」と、部下を思いやる気持ちに意識
を向けられたときに、しがらみを超えて
何かしようと発想が湧き出てくる。岩本
への指導や管理、営業指導部への連絡
等々はしがらみがあるためやりにくかっ
たとしても、部下を思いやる気持ちにな
れたなら、「まずは懇談の機会を設けてみ
よう」など部下のためになにかする勇気
をもてたかもしれない。
30 Leadership Development Note 2014.6
No.1174●ごり押しする営業担当者
セオリー◆認識の違いと否定的な感情
永続的なものか一時的なものか
岩本は事務管理を軽視し高橋に事務管
理を大きく依存している。高橋が困りあ
ぐねて事務管理の改善を促しているが、
岩本は一向にやろうとしない。
両者には、関係に対する認識の違いが
ある。その1つは、営業部の代理店サポ
ートについての認識の違いである。高橋
は、立ち上げ後間もない代理店である岩
本の会社が軌道に乗るまでサポートする
のが自分の役割であると考えている。自
立するまでの一定期間援助するという立
ち位置である。一方岩本は、代理店が困
ったときは永続的に営業部がサポートし
てくれるという認識があるようだ。その
証拠に、岩本は「わからないときは、サ
ポートしてくれる約束ですよ」
「いっその
こと高橋さんが代わりに作成してくださ
いよ」などと言っている。
認識のずれを生まないために、ずれた
認識を統一するコミュニケーションをと
っていくことが重要である。南方主任が
言う「会社の考えを明確に伝えるべき」
というのはそういう趣旨であろう。
事務管理は重要ファクターか
また、事務管理の重要性についての認
識の違いも伺える。高橋は、事務管理は
とても大切なものと認識している。だか
ら「このままではX火災保険にとって大
きなリスクになる」と考えている。一方
岩本は、事務管理は重要なファクターと
認識していないようだ。営業至上主義で
明らかに事務を軽視している。
事務が重要なファクターではないとい
う前提が岩本にあると、いくら高橋がき
ちんと申込書を作成してもらわないと困
りますと伝えても、気をつけて申込書を
作成しようという気持ちには起こらない
だろうし、教えてくれている時間に集中
して身につけることにエネルギーをかけ
ようというモチベーションはわかない。
なにせ重要なことではないのだから、そ
れよりもエネルギーをかけるべきところ
は営業の新規開拓であるという考えにな
ってしまうわけである。
押し付けられたという不満の感情
このような事務は重要なファクターで
はないという認識があると、その認識の
違いから事務管理をさせようとする高橋
に対して岩本に否定的な感情が生じる。
X 火災保険にとって重要なファクターで
ある新規開拓に精を出しているのにもか
かわらず、重要なファクターでない事務
管理で時間を使わせないでくれという不
満の感情が生じる。
「高橋さんが代わりに
作成してくださいよ」という強固な態度
に出たのはその不満の表れであろう。
これらの責任の一端は、深沢部長の姿
勢にある。管理者である深沢が岩本の事
務管理に対する姿勢について懇談・指
導・管理をおこなわないのであれば、岩
本のもつ認識(より大切なのは営業であ
り、事務はそれほどでもない)という認
識でよいと認めているようなものだ。岩
本もその認識をベースに仕事をしている。
深沢には岩本への遠慮があるのだが、そ
の態度が X 火災保険と代理店との間に混
乱をつくっている可能性があることを学
ぶべきであろう。
(心理カウンセラー 原 裕輝)
Leadership Development Note 2014.6 31
法的視点@ ケース解説
保険会社と代理店の契約関係
契約締結の代理を委託する関係
本ケースにおいて、X 火災保険社(ち
なみに、保険業法 5 条の 2 の規定により、
保険会社は株式会社又は相互会社でなけ
ればならない)の東部営業第 1 部では、
あんしんサポート社の社長・岩本の営業
活動に手を焼いている。しかし、東部営
業第 1 部が岩本に対しておこなっている
対応は、どこか迂遠で、会社内において
問題を抱えた従業員に対するそれとは少
し異なっているように見える。これを法
的視点からみると、どのように説明でき
るだろうか。
あんしんサポート社は、法的には X 火
災保険社という損害保険会社のために損
害保険契約の締結を代理する、損害保険
代理店(保険業法 2 条 21 項)であると
いえる。この場合、X 火災保険社とあん
しんサポート社との法的関係は、保険契
約の締結の代理を委託する「代理商契約」
という契約により規律されている。
損害保険において、このような代理商
契約が多く用いられているのは、保険会
社が直接保険募集をおこなうには、さま
ざまなコストがかかるため、保険代理店
が保険契約者と保険会社とのパイプ役と
なって、両者の知識、情報や交渉力など
の格差を緩和することで、当事者双方を
さまざまな危険から守るべく最適な保険
提案をおこなうためであるというのが一
般的な説明である。
委任者から独立して事務を処理
代理商の法的地位は、商法の規定およ
び本人との間に締結される代理商契約に
32 Leadership Development Note 2014.6
より定まる。
ここにいう代理商契約とは、法的には
委任契約または準委任契約の一種である
といわれる。委任契約とは、契約締結等
の法律行為をすることを委託する契約で
あり(民法 643 条)、準委任契約とは、
法律行為以外の事務を委託する契約であ
る(民法 656 条)。
委任契約や準委任契約は、雇用契約と
同じく、仕事を内容とする契約(「労務提
供型の契約」などといわれる)である。
しかし、委任者と受任者とは、雇用契約
における使用者と労働者のように、指揮
命令関係にはなく、受任者は、委任者か
ら独立して事務を処理する点に特色があ
る。
すなわち、保険代理店のような受任者
の法的地位は、損害保険会社のような委
任者に従属するわけではなく、委任者自
らの裁量により事務を処理する点が、使
用者に従属して労務を提供する労働者の
地位との最大の違いである。
したがって、X 火災保険社も、その事
務において独立した立場にあるあんしん
サポート社や岩本に対し、雇用関係にお
ける従属関係を前提として、代理店研修
に出席するよう命令したり、懲戒権を行
使したりすることはできない。
重大な不履行でなければ解約困難
以上のとおりの代理商契約の性質から
すると、問題のある代理店に対する保険
会社の対処として重要なのは、契約を終
了させることである。
しかし、保険会社からの契約終了の意
思表示は、自己の努力により築いた販売
ルートにタダ乗りされる代理店との間で、
No.1174●ごり押しする営業担当者
トラブルを生じさせることも多い。
そのため、代理商契約において、重大
な契約違反があったり、代理商が保険会
社の信用を毀損したりすることを解約事
由としており、その条項に基づき代理商
契約を解約したとしても、その条項の効
力が争われることもある。
一般に、代理商契約は、継続的な契約
であり、かつ、その解約はとくに代理店
にとって重大な意味をもつから、一方当
事者の軽微な債務不履行を理由に反対当
事者が契約を解除することはできない。
代理商契約は、継続的契約の前提となる
信頼関係を破壊する程度に重大な債務不
履行でなければ、解約することができな
いとされている。
問題は、どのような場合に、代理商契
約の前提となる信頼関係を破壊する程度
に重大な債務不履行といえるかであるが、
この点については、ケース・バイ・ケー
スであるといわざるをえない。
解約手続きに関する特約も可能
また、期間の定めのない代理商契約に
つき、各当事者が 2 カ月前に予告して解
約できる旨を定める会社法 19 条 1 項よ
りも短い予告期間とする特約も有効であ
るが、この場合にも、代理商契約の前提
となる信頼関係を破壊する程度に重大な
債務不履行といえなければ、契約を解約
することができない。
雇用契約の解雇の場合、労働基準法 20
条により、使用者は、当該労働者に対し、
解雇の 30 日前までに予告するか、30 日
分以上の平均賃金の支払をするよう定め
ている。この労働基準法 20 条は、会社
法 19 条 1 項とは異なり、同条に規定さ
れた条件よりも労働者に不利な条件の特
約を結ぶことはできないという強行規定
である。この点は、保険会社から独立し
た地位を有する保険代理店と、使用者に
従属する労働者の違いが反映していると
いえるだろう。
なお、代理店が収受した保険料等の金
銭の保管に関し、代理店 B が「A(損害
保険会社)代理店 B」名義で開設した普
通預金口座の預金がだれに属するかとい
う点につき、A が B に普通預金契約締結
の代理権を授与しておらず、預金通帳・
届出印を B が保管し、B のみが口座への
入金・払戻事務をおこなっていた事情の
下では、預金は B に帰属するとした最高
裁判例がある(最高裁平 15.2.21 判決)。
そのため、ここ数年では、保険会社が、
保険代理店が有する預金債権に対し質権
を設定する等の対処が必要であるなどと
いわれている。
◆◇リーガルポイント◇◆
1.保険会社と保険代理店の法
的関係は、委任契約の一種で
あり、保険代理店は、保険会
社から独立して事務を処理す
る。保険会社は、保険代理店
に対し、指揮命令をおこなう
ことはできない。
2.保険会社と保険代理店との
間の契約は、当事者間の信頼
関係を破壊する程度に重大な
債務不履行がなければ、一方
的に解約することができな
い。
(弁護士
加藤正佳)
Leadership Development Note 2014.6 33
ビジネス組織と事務処理
中小企業診断士
富岡
淳
3.事務処理の重要性
1.はじめに
ビジネス組織として成果を上げるため
営業担当者を例にとると、彼らの業務
には、さまざまな部門がさまざま業務を
の基本は、顧客と接触しニーズを把握し、
しっかり遂行していかなければならない。
最適な提案をおこない、販売や契約をす
ここでは「事務処理」という業務に焦
ることである。業務の中心は商談である
点をあて、とくに営業部門等の直接部門
が、その過程あるいは事後処理としてさ
にとっての事務処理について考えていく。
まざまな業務が必要になってくる。見積
書や提案書の作成、各種業務の社内手配、
伝票の起票、契約書の準備、報告書作成、
2.直接部門と間接部門
組織の分け方として直接部門と間接部
経費の精算等意外とその業務量は多い。
門という考え方がある。直接部門は、ラ
それら事務処理の重要性について、昨今
イン部門ともいい、製造、購買、営業な
の情勢も踏まえ列記すると下記のとおり
ど直接会社の利益に貢献する部門をさす。
となる。
一方間接部門は、スタッフ部門ともいい、
(1)コンプライアンス
経理、総務、情報など、直接部門をサポ
ートする役割として機能する。
昨今あらゆる業界において、コンプラ
イアンス(法令遵守)の重要性が叫ばれ
ビジネス組織における 2 つの部門の関
ている。正規の手続きを踏んだ取引が求
係は、下図に示すとおりとなる。直接部
められる。業務のプロセスにおいても取
門の業務はおもに現場における製造や営
引の証憑類(しょうひょうるい)におい
業交渉等となる。間接部門の業務は事務
ても、不備は許されず正確性が求められ
処理等のサポート業務である。
る。これを怠ると結果的に先方に迷惑を
ただし、直接部門においても、一定の
事務処理作業は必要である。しかし、そ
れを不得意とする担当者も少なくない。
かけ信頼を失うことになる。
(2)損失防止
たとえば「商品と伝票は同時に動く」
のが原則である。事務処理の怠慢により
これを怠ると売上そのものが計上されず
会社
会社の損失となる場合もある。いくら大
間接部門
直接部門
○製造部
○購買部
○営業部
支援
○総務部
○経理部
○情報システム部
きな商談をまとめても事務処理がきちん
となされなければ、適正な売上、適正な
利益の計上につながらないのである。慢
性的なずさんな処理は、企業に大きな損
失をもたらす。
34 Leadership Development Note 2014.6
ビジネス組織と事務処理
(3)本来業務への影響
営業担当者はできるだけ顧客を訪問し
③細切れ時間の活用
前述の標準時間を把握していれば、ほ
商談する時間をとりたいと考えている。
んの少し空いた時間も有効に活用できる。
しかし意外と多い事務処理に忙殺され本
1 日 10 分空き時間があったとすると、1
来業務に十分な時間をとれずに苦悩する
カ月 20 日で 200 分(3 時間 20 分)、年
場合が見受けられる。いかに効率よく、
間にして 40 時間となるのだからおろそ
しかも正確な事務処理をおこない、顧客
かにはできないのである。
との時間を確保するかが課題となる。
④仕事をためない
苦手意識があるとついつい先延ばしに
4.改善策
なる。あとで一気にやろうとすると時間
それでは、どうしたら苦手意識を克服
もかかりミスも多くなる。必ず処理しな
し事務処理を効率よくこなし、本来業務
ければいけないものは、1 週間ごとに必
に注力できるようになるのか。改善策を
ず実行するなどして仕事をためこまない
考えていきたい。
ようにする。習慣化することが大切であ
(1)意識改革
る。そのためには、曜日や時間を固定さ
自分の業務および他部門との関係性か
せる、できたら計画表にチェックを入れ
ら、改めて仕事の全体像を認識する必要
るなどの工夫が必要になる。
がある。事務処理でつながっているであ
⑤整理整頓
ろう間接部門とよくコミュニケーション
仕事が忙しくなると、机の上や引き出
を図り、自分の行動の甘さがいかに組織
しの中が乱雑になり、資料を探す時間が
全体の損失につながるかということを知
増え、紛失のリスクも大きくなり、頭の
り、事務処理の重要性を認識する。
中は混乱し、はかどらなくなるという悪
(2)タイムマネジメント
循環に陥る。定期的に不要なものを捨て
できるビジネスパーソンは時間の使い
方がうまい。事務処理においてもいかに
時間を有効に使うかがポイントとなる。
①TO DO LIST の作成
る習慣をつけることが必要である。
(3)業務の一部を委託する
できるビジネスパーソンは人の協力を
得るのもうまい。時間は限られているの
スピード優先で手当たり次第に手をつ
で本来業務を増やすためには、事務処理
けていくやり方は効率的とはいえない。
の一部を他のスタッフに頼むこともとき
優先順位が適切でなくなり、ヌケ・モレ
には必要である。ただし、気持ちよくや
も発生する。必ずやるべき仕事のリスト
っていただくためには信頼関係が大切。
を作成し仕事の全体像を把握してから着
逆に頼まれたことはしっかり約束を果た
手するようにする。
すようにしなければならない。
②標準時間の設定
事務処理においては、決められたこと
5.おわりに
を正確に処理することが重要である。そ
今後もコンプライアンス、業務の複雑
のため比較的所要時間は計算しやすい。
化から事務処理の重要性は増していく。
このことを意識することで、他の業務へ
そのことをしっかり認識し行動すること
の配分時間も読みやすくなる。
がビジネスパーソンには求められる。
Leadership Development Note 2014.6 35
次号ケース
No.1175●目標を文章にできない
R 食品会社は北関東に拠点を置く大手
食品企業である。Y県庁所在地の営業所
の営業支援課には、山内課長(男 42)の
もとに、係長、入社 5 年目の島岡(女 28)、
入社 3 年目の相沢(女 26)、営業担当の
男性 2 名、パートタイマーの女性 1 名が
勤務している。
毎回繰り返されることだが、期末の迫
ったこの時期に会社の目標管理制度の上
司面接がおこなわれることになり、課員
に自己評価表が配られた。
先輩も自己評価の趣旨がわからない
営業のバックアップ(営業支援)をし
ている相沢の「自己評価表」にもとづく
目標管理制度上の上司面接は、山内がお
こなうことになる。
相沢は質問項目の点数欄の自己チェッ
クはなんなくこなせたが、
「行動テーマの
目標」と「目標に対する行動実績」、そし
て「自己啓発(改善点)の目標」
「目標に
対する行動実績」については、自分の考
えを整理し文章化しなければならないの
で、この時期はいつも憂鬱であった。相
沢としては、与えられた営業事務を毎日
真面目にミスなくこなしているだけで、
営業所の「目標」とか「実績」との関連
についてはまったく関連がわからず、ど
のように自分に関連づけて「目標や実績」
を書けばよいのか入社以来さっぱりわか
らないまま 3 年目を迎えてしまった。
2 年にわたって、どう書いていいのか
について先輩の島岡に尋ねるが「あなた
なりに考えて書いたら?そんなこと私に
36 Leadership Development Note 2014.6
いちいち聞いてこないで…」と冷たくあ
しらわれていた。島岡も相沢と同じよう
な仕事をしており、島岡の自己評価の点
数欄以外の文章記述欄を覗き見てみると、
「“○○の達成”
“△△の向上”
“□□の削
減”◇◇の追求“といった単語が書かれ
ている”だけ」であった。
抽象的アドバイスしかしない課長
島岡に冷たくつき放たれ、相沢は途方
にくれ「どう書いたらいいのですか?ア
ドバイスをいただきたいのですが…」と
山内に泣きついた。
「きみがやっている“私の仕事”という
ものをすべて洗い出して、それをミスな
く、またムリ・ムダ・ムラなくおこなう
というように書いたらどうだ…」
相沢は、山内から大雑把ながらアドバ
イスをもらえた。
そこで、相沢は自分なりに「私の仕事」
を列挙してみた。そうしてみると、島岡
の日頃の仕事の正確さやスピードは相沢
を大きく上回ることがわかった。
だが、どうしたら島岡並みの仕事がで
きるのか相沢には考えつかなかった。そ
こで再度、山内に相談に行った。
「私にはどこが先輩と仕事の仕方が違
っているのかよくわからないのです。ど
うしたら先輩との違いがわかるのでしょ
うか」
「そうだね、自分の仕事の全体を知るた
めにきみの仕事の棚卸しをしてみたらど
うだ。また、個別の仕事の改善とか創意
工夫への努力を書いたらいいのではない
No.1175●目標を文章にできない
か…」
と、今回も山内からは抽象的なアドバ
イスしかもらえなかった。
そこで、相沢は昨年との自己評価表を
参考にしながら同様の点数の自己評価を
おこない、島岡に見習って、抽象的表現
の単語を記述して、みずからの「評価表」
として、山内に提出した。
“イベント化”した上司面接
しばらくして、山内との面談がおこな
われた。
「先輩と同じ正確さやスピードを私の
目標としました。昨年度と違い、
“ミスゼ
ロの達成”ムダの削減”
“事務処理の効率
(スピード)アップ”
“営業マンの満足の
追求”の4つが私の目標です」
「たしかに、昨年度と違い、目標の設定
が書かれているね。この目標の達成に向
けて頑張ってください。1 日も早く先輩
並みの仕事をしてください」
と、日々の仕事を淡々とこなす相沢に
とって、山内の課長面談は単なるイベン
トでしかないようだった。
「期末の迫ったこの時期、忙しく、手一
杯で席をあたためる暇もない。だれが一
番忙しいかと言えば私であるのに、面接
に時間をとられるなんて、わが社は面接
と仕事のどちらが大事なんだ」
と、山内は不満を口にしていた。
山内の報告を聞いた清水所長(男 51)
は「営業を積極的に支援し、営業所全体
の売上増と仕事の質を向上させるために、
改善意見を自己評価表に書かせたいのに、
相沢くんが自分の目標や実績すら具体的
に書けないのを山内課長はその点への言
及や指導もせずにいるとはどうしたもの
か…」と顔を曇らせ、相沢や島岡を含め
著作権法に定める範囲を超えて、
無断で複写、複製、転載することを禁じます。
た部下の能力アップにつながる目標管理
の実効性をあげるために、
「相沢くんはこ
のままだとこの課のお荷物になってしま
うかも知れないぞ」と山内に伝えた。
しかし、山内は清水に言った。
「相沢くんの日常業務の処理の仕方は、
スピードに多少の問題がありますが、正
確さには問題がありません。それにこま
ごまとした営業社員のリクエストにも素
直に応えてくれています。私は相沢くん
が自己評価した以上のことを今現在は望
んでいません」
清水は2次評価で、相沢の評価を昨年
より 1 ランク下げた。山内の部下指導を
含むマネジメント能力の問題が相沢のみ
ならず、営業社員も自己評価の趣旨を理
解していない状況を引き起こしていると
考えてのことである。
「これは、どういうことですか?!」
2次評価の結果を聞いた相沢が、急き
込んで山内に詰問に来たのは、それから
数日後のことであった。
営業所
清水所長(51)
営業支援課
山内課長(42)
係長
島岡(28)
相沢(26)
■ケース分析の手引き■
◆山内課長は、相沢へのアドバイスには
どのような問題がありますか。
◆山内課長と清水所長は今後、どのよう
な改善行動をとるべきでしょうか。
Leadership Development Note 2014.6 37
次号ケース
No.1176●限界を装う部下
朝礼が終わると、山内係長(男 34)が
小塚課長(男 42)のところにしかめ面で
やってきた。
「課長、この前、お願いした人員補充の
件はどうなりましたか。今の人員ではと
ても仕事が追いつきません。なんとかし
てくださいよ!」と訴える。
「事情は理解するが、業務の性格からい
って、だれでもいいというわけにもいか
ない。すぐには無理だよ」
小塚は、困惑した表情で答える。
「もちろん、普通のパートさんではダメ
です。力量のある人でないとかえって仕
事の邪魔になります」
「補充の件は、再度、部長を通して人事
課に伝えてもらうようにするよ」
執拗に食い下がろうとする山内に、小
塚は“ウチの課は社内ではそれほど人員
不足とは思われていないのだが…”と思
いながら話に区切りをつけた。
人員補充には少し時間がかかる
自動車部品を製造販売している X 社。
顧客先はほとんどが大手メーカーとその
関連会社だ。最近、景気の先行きに明る
さが見え始め、X 社の製造ラインも一気
に増産体制にシフトした。
それに呼応するように、営業態勢の強
化が図られ、技術者はもとより、事務部
門である当支店の管理 2 課からも正社員
1 人が営業に異動した。現在、小塚と山
内のほか、杉村(女 35)、大山(男 24)
と、派遣社員 3 人から構成されている。
抜けた正社員の穴埋めとして、一定の
38 Leadership Development Note 2014.6
スキルが見込めて代替補充が比較的スム
ーズにできる派遣社員を活用することに
なった。従来から管理 2 課には派遣社員
の山上(女 30)がいたが、そこに上原(女
33)、小宮(女 28)の 2 人が新たに派遣
社員として加わった。
半月ほど経って、小塚の席にやってき
た山内は再び、人員補充を訴える。
「1 社ごとの売上が大きければ、処理の
効率はいいのですが、小口がたくさんな
のに営業が力を入れたせいで、処理件数
は 1 年前の倍以上に増えています。本当
になんとかしてください!」
「会社にもやっと明るい兆しが見えて
きたんだ、そう文句を言いなさんな。営
業の努力にも感謝しなくちゃ。人事課は
売上高や生産性を見ながら人の手配もし
ていくそうだ。優先順位を考えると、ウ
チの課は少し時間がかかるらしい」
「でも、本当に忙しいんですよ。部長の
アピール不足じゃないですか!」
「人員補充は早急には難しいと考えた
ほうがいいね。それより業務を洗い直し
て、フォローの態勢を考え直してみてく
れ。全員が毎日遅くまで残業しているわ
けではないんだろう」
派遣社員に協力を打診する
管理 2 課の業務には、顧客管理、商品
管理、売上管理の 3 つがある。山内はお
もに売上管理を担当し、その下で上原が
作業している。他の 2 つは小塚と杉村の
下、顧客管理については大山が、商品管
理について派遣社員の山上が、それぞれ
No.1176●限界を装う部下
担当している。小宮は、全体の作業補助
である。たしかに仕事量が増え、中でも
売上データの処理が追いつかない。
「上原さんは頑張ってくれていますが、
残業には限界があります」
「ときどき、山上さんに手伝ってもらっ
ているようだが、少し山上さんに残業を
頼んでみてはどうだろう」
山上は仕事の処理が手早いだけでなく
正確でだれもが頼りにしている。また、
本人の業務が手すきのときは、他のメン
バーの業務も手伝ってくれている。
「山上さんは“少しなら”と言ってくれ
ていますが、家庭の事情もありますので
やはり残業は無理ですね」
「杉村さんも大山くんも今は自分の仕
事で手一杯だしな。小宮さんはどうなん
だろう。パソコンの経験が豊富なようだ
し、少し頑張ってもらおう」
「でも、小宮さんのポジションは作業補
助ですし、だいいち定時退社を望んでい
たんじゃないですか。その辺りは課長か
ら聞いてみてくださいよ」
翌朝、小塚はさっそく小宮を呼んだ。
「小塚さんにも、面倒をかけますが、協
力をお願いできませんか?」
「皆さんがお忙しいのはよくわかりま
す。お役に立てるなら、入力でも何でも
させていただきます。でも、時間外のお
仕事は引き受けかねます」
「入力などで手を貸してもらえれば大
助かりです。どうかお願いします」
翌日から、派遣社員たちがクルクルと
よく働く姿が目に映った。
“きみの限界ってなんなんだよ”
1 月ほど過ぎて、小塚は人事課から呼
び出しをうけた。
「課長、派遣社員の仕事
著作権法に定める範囲を超えて、
無断で複写、複製、転載することを禁じます。
を勝手に変更されては困ります。さっき
派遣会社から『契約どおりの業務ではな
い仕事を担当させるなら他の者を派遣し
ます』と言ってきました。そちらの山上
さん、上原さんと小宮さんとの時給が異
なるのです。派遣会社はそういうところ
にうるさいんですよ」
「配慮に欠けていてすみません。すぐに
元に戻します」と答え、山内を呼んで人
事課でのやり取りを伝えた。
「小宮さんの仕事の範囲については、ち
ゃんと話をしましたよね。きちんとした
人を確保しないからこういうことになる
んです。今まで滞っていた仕事がスムー
ズに進んで少し軌道に乗ってきたかと思
ったのに…。なんとかしてくださいよ、
私の力にも限界があります」と、山内は
愚痴を言い出した。
小塚は“なにが限界だよ。小宮さんに
ひと月手伝ってもらっただけで、軌道に
乗りかけたなんて、努力不足もいいとこ
ろだ。きみの限界ってなんなんだよ”と
山内への怒が込み上げてくるのだった。
管理2課
山内係長(34)
小塚課長(41)
杉村(35)
大山(24)
山上(30)
派遣社員
上原(33)
小宮(28)
■ケース分析の手引き■
◆小塚課長の山内への指導や対応にはど
のような問題がありますか。
◆小塚課長は今後、どのような改善行動
をとる必要がありますか。
Leadership Development Note 2014.6 39
ケーステーマ予定表
月号
2014 年
No.
7月
8月
9月
10 月
11 月
12 月
2015 年
1月
2月
3月
4月
5月
6月
7月
ケーステーマ
1175
目標を文章にできない
1176
限界を装う部下
1177
機能しない報連相
1178
怠った“事実の合意”
1179
自由をはきちがえる管理者
1180
休職明けの仕事
1181
アスペルガーの疑い
1182
ルーズな関係部署
1183
成果とルール
1184
パワハラと指導の境界
1185
対話と議論
1186
失いそうな見込み客
1187
絞り切れない目標設定
1188
ワーキングママ
1189
現場が分散する職場
1190
育休後の評価
1191
劣化する営業スキル
1192
適応障害
1193
アンガーマネジメント
1194
急ぎすぎた意識改革
1195
厳しすぎる職場規律
1196
孤立する内部告発者
1197
ファシリテーションの壁
1198
トーンダウンする CS 活動
1199
2年目の目標設定
1200
短時間勤務者への不満
2014 年 7 月号(No.1175)
2015 年 7 月号(No.1200)
ケースのねらい
目標の与え方、仕事の割り当て
報告・連絡・相談、評価
管理者のキャリア形成、メンタルヘルス
仕事の教え方、仕事の改善
職場規律、コンプライアンス
ファシリテーション、説得と交渉
目標の与え方、仕事の割り当て
報告・連絡・相談、評価
管理者のキャリア形成、メンタルヘルス
仕事の教え方、仕事の改善
職場規律、コンプライアンス
ファシリテーション、説得と交渉
目標の与え方、仕事の割り当て
*社会状況の変動等により、ケーステーマを変更する場合がございます。ご了承ください。
*過去のケーステーマをご覧になりたい場合は、下記までお問い合わせください。
株式会社
キャリアクリエイツ
〒171-0014 東京都豊島区池袋 2-61-8 アゼリア青新ビル 302
TEL03-6907-2101 FAX03-6907-2102 URL http://www.ld-note.com
特別企画
“こころの耳”
~働く人のメンタルヘルス・ポータルサイトより~
労災補償対策関係
Q&A
Q&A 1
労災保険はどのような保険なのでし
ょうか?
労働者災害補償保険法第 1 条に「業務上
の事由又は通勤による労働者の負傷、
疾病、
障害又は死亡等に対して迅速かつ公正な保
護をするため、
必要な保険給付を行うほか、
被災労働者の社会復帰の促進、当該労働者
及びその遺族の援護、適正な安全及び衛生
の確保等を図り、もって、労働者の福祉の
増進に寄与すること」と目的が規定されて
います。
労災保険は政府
(厚生労働省)
が管掌し、
事業主から納付される保険料によって運営
されています。労災保険の事務を実際に取
り扱う機関は、中央では厚生労働省、地方
では各都道府県労働局及び労働基準監督署
となります。
Q&A 2
労働者を使用していれば、どのよう
な事業でも労災保険に加入しなければ
ならないのでしょうか?
原則として 1 人でも労働者を使用する事
業は、業種の規模の如何を問わず、すべて
適用事業場となり保険関係が成立しますの
その1
で、事業主の方は加入手続を行う義務が生
じます。
ただし、暫定任意適用事業の場合には、
労災保険に加入するかどうかは、事業主の
意思又は当該事業に使用される労働者の意
思に任されており、事業主が任意加入の申
請をし、認可されれば、労災保険に加入す
ることができます。
(参考)暫定任意適用事業とは、次の事業で
す。
1 民間の個人経営の農業の事業であって、
5 人未満の労働者を使用するもの。
2 民間の個人経営の林業の事業であって、
労働者を常時は使用せず、かつ、1 年以
内の期間において使用延べ人員が 300 人
未満のもの。
3 民間の個人経営の漁業の事業であって、
5 人未満の労働者を使用するもの。
Q&A 3
家族のみで事業をしていますが、労
災保険が適用されるのでしょうか?
同居の親族は、原則として労災保険上の
「労働者」
としては取り扱われませんので、
家族のみで事業を行っている場合は、適用
事業場とはなりません。なお、同居の親族
であっても、常時同居の親族以外の労働者
Leadership Development Note 2014.6 41
*“こころの耳”は、働く人の心の健康確保と自殺や過労死などの予防のために、厚生労働省が開設しているサイト名。
特別企画
を使用する事業において、一般事務、現場
作業等に従事し、かつ、次の要件を満たす
ものは労災保険法上の労働者として取り扱
います。
1 事業主の指揮命令に従っていることが
明確であること。
2 就労の実態が当該事業場における他の
労働者と同様であり、賃金もそれに応じ
て支払われていること。とくに、
(1)始
業・終業の時刻、休憩時間、休日、休暇
等及び、
(2)賃金の決定、計算及び支払
の方法、賃金の締切り日及び支払の時期
等について、就業規則その他これに準ず
るものに定めるところにより、その管理
が他の労働者と同様になされていること。
Q&A 4
当社は、私が代表取締役、妻が取締
役、息子が専務取締役となっておりま
すが、実際には他の労働者と同様の作
業に従事しているのが実態です。この
ような場合でも、労災保険の適用はな
いのでしょうか?
労災保険は、労働者の業務災害又は通勤
災害に対する保護を目的とした制度ですの
で、
事業主等の労働者でない方については、
その保護の対象とはされていません。
しかしながら、労働者以外の方のうち、
業務の実情、
災害の発生状況などからみて、
特に労働者に準じて保護することが認めら
れる一定の方に対して、特別に労災保険へ
の任意加入を認めています。
この制度を
「特
別加入制度」といいます。
特別加入制度には、中小事業主、一人親
方などの自営業者及び特定事業従事者など
が加入することができます。
中小事業主等については、具体的には常
時 300 人(金融・保険業、不動産業又は小
42 Leadership Development Note 2014.6
売業の場合は 50 人、卸売業又はサービス
業の場合は 100 人)以下の労働者を使用す
る事業主であって、労働保険事務組合に労
働保険事務の処理を委託する方です。
また、
一般的には労働者とみなされない家族従事
者や事業主が法人その他の団体であるとき
は、代表者以外の役員のうち労働者でない
方も包括して加入しなければなりません。
なお、中小事業主等が特別加入するため
には、次の 2 つの要件が必要となります。
1 雇用する労働者について保険関係が成
立していること。
2 労働保険事務組合に労働保険事務の処
理を委託していること。
Q&A 5
労災保険は、アルバイトやパートタ
イマーにも適用されますか?
労災保険における適用労働者とは、
「職業
の種類を問わず、事業に使用される者で、
賃金を支払われる者」をいいます。
したがって、アルバイトやパートタイマ
ー等の雇用形態は関係ありません。業務災
害又は通勤災害が発生したときに適用事業
に使用されていれば、受給権が生じること
になります。
また、一定期間以上継続して使用されて
いたかどうかは、保険給付を受けるための
要件とはなりません。雇入れ当日の災害で
あっても保険給付を受けることができます。
Q&A 6
派遣事業における労働保険の保険関
係はどうなるのでしょうか?
労働者派遣における派遣元、派遣先及び
派遣労働者の三者間の関係は、
1 派遣元と派遣労働者との間に労働契約
労災補償対策関係 Q&A その1
関係があり、
2 派遣元と派遣先との間に労働者派遣契
約が締結され、この契約に基づき派遣元
業場と少ない事業場とで同一の労災保険率
を適用するのは、公平ではありません。
そこで、事業主負担の具体的公平を図る
が派遣先に労働者を派遣し、
3 派遣先は、派遣元から委ねられた指揮
命令権により派遣労働者を指揮命令する、
というものです。
労災保険法では、
「労働者を使用する事業
を適用事業とする」と規定しており、この
「使用する」は労働基準法等における「使
用する」と同様労働契約関係にあるという
意味に解されています。また、労働者派遣
法では、労働基準法上の災害補償責任が派
遣元事業主に課されていますこと等から、
派遣元事業を労災保険の適用事業としてい
ます。
とともに、事業主の労働災害防止努力を促
進することを目的として、同種の事業であ
っても、一定規模以上(原則常時 100 名以
上の労働者を使用)
の事業については、
個々
の事業ごとの労働災害の多寡に応じ、労災
保険率(非業務災害分を除きます。
)を一定
の範囲内で増減させることとしています。
これが労災保険の「メリット制」といわれ
るものです。
Q&A 7
出向労働者の適用はどうなるのでし
ょうか?
労災保険の適用は、出向労働者が出向先
の事業場の組織に組み入れられ、出向先の
就業規則等が適用され、出向先事業主の指
揮命令を受けて労働に従事する場合は、出
向元で支払われている給与も出向先で支払
われている給与に含めて労災保険料を計算
し、出向先事業場の労働者として適用され
ます。
Q&A 9
事業を廃止する場合、労働保険の精
算はどうすればよいのでしょうか?
適用事業の保険関係は、事業の廃止又は
終了した日の翌日に消滅します。適用事業
場が事業を廃止した場合には、
「確定保険料
申告書」を提出して、概算保険料を精算す
る必要があります。
確定保険料申告書の提出期日は、保険関
係が消滅した日から 50 日以内ですが、確
定保険料の額が概算保険料の額よりも多い
場合には、その差額を申告と同時に追加納
付しなければなりません。また、申告する
確定保険料の額が概算保険料より少額であ
る場合は、その差額は還付されることにな
ります。
Q&A 8
労働災害の発生が少なければ労災保
険料が安くなると聞きましたがどのよ
うな制度でしょうか?
Q&A 10
労災で長く療養中の従業員を解雇し
たいのですが?
労災保険率は、
事業の種類ごとに災害率、
災害の種類、
作業態様等が異なることから、
事業の種類ごとに別々に定められています
が、事業の種類が同じでも、災害の多い事
労働基準法第 19 条の規定により、労働
者が業務上負傷するか疾病にかかり療養の
ために休業する期間及びその後 30 日間に
ついては、解雇してはならないと定められ
Leadership Development Note 2014.6 43
特別企画
ています。
ただし、通勤災害については、この規定
は適用されません。
なお、療養の開始後 3 年を経過した日に
傷病補償年金を受けている場合は 3 年を経
過した日、また 3 年経過した日以後におい
て傷病補償年金を受けることとなった場合
は、受けることとなった日に解雇制限が解
除されます。
Q&A 11
特別加入する場合、従事する業務に
よっては事前に健康診断を受けなけれ
ばならないそうですが、この制度はど
のようなものなのでしょうか?
特別加入時の健康診断は、労災保険に特
別加入する前の業務が原因となって発生し
た疾病について保険給付を行うといった不
合理が生じないように、特別加入希望者の
うち一定の方について健康診断の受診を義
務づけ、特別加入時の健康状態を確認し、
保険給付を適正に行うことを目的とするも
のです。
この特別加入時の健康診断を必要とする
方は、中小事業主等、一人親方等及び特定
作業従事者として特別加入し、次の表に掲
げる業務を行う予定の方であって、特別加
入前に通算してそれぞれの業務に応ずる従
事期間を越えて当該業務に従事していた方
が該当します。
なお、その他職場適応訓練従事者、事業
主団体等委託訓練従事者等及び海外派遣者
については、加入時健康診断は必要ありま
せん。
44 Leadership Development Note 2014.6
Q&A 12
一人親方なのですが、労災保険事務
組合に入らなければ特別加入できない
のでしょうか?
一人親方等の特別加入については、労災
保険法第 35 条に、要旨、一人親方等の団体
がその構成員である一人親方等について労
災保険の適用について申請し政府の承認を
受けたときは、その団体を適用事業とみな
し、構成員をその団体に使用される労働者
とみなす、と定められています。
したがって、団体がその構成員である一
人親方等について加入手続を行うこととな
り、団体の構成員にならずに個人で特別加
入することはできません。
なお、この団体は必ずしも労働保険事務
組合でなければならないということではあ
りません。
Q&A 13
特別加入者の給付基礎日額は、希望
する額とされていますが、どのような
額となっているのでしょうか?
労災保険の保険給付の算定は、給付基礎
日額を基にして行います。給付基確日額と
は、労働基準法第 12 条に定める労働者の
平均賃金に相当する額をいいます。
一般労働者の場合は、使用者が支払う賃
金により平均賃金が算出されますが、一人
親方や中小事業主等の特別加入者について
は事業主であるので、こうした賃金等があ
りません。
そこで、都道府県労働局長が別に定める
額をもって、
給付基礎日額にかえています。
特別加入者の給付基礎日額は、最低 3,500
円(家内労働者の場合は 2,000 円)から最
高 20,000 円までの範囲内で、特別加入を
労災補償対策関係 Q&A その1
希望する方の所得水準に見合った適正額で
決定されることになっています。
労災保険の給付には次のようなものがあ
ります。
また、請求書は、各都道府県労働局又は
Q&A 14
労災保険の給付にはどのようなもの
があり、どこへ提出すればよいのでし
ょうか?
労働基準監督署に備えてあります。提出先
は次の通りです。
(つづく)
■療養の給付
保険給付の種類
療養(補
⽀ 給 事 由
書 類
業務災害または通勤災害
療養(補償)給付たる療養の給
労災指定医療機関等を
による傷病について、労
付請求書(第 5 号、第 16 号の
経て所轄労働基準監督
災病院または労災指定医
3)
署⻑
業務災害または通勤災害によ
療養(補償)給付たる
る傷病について、労災病院ま
療養の費⽤請求(第 7
たは労災指定医療機関以外の
号(1)〜(5)、第
医療機関等で療養する場合
16 号の 5(1)〜
提 出 先
療機関等で療養する場合
償)給付
療養の費⽤の⽀給
所轄労働基準監督署⻑
(5))
業務災害または通勤災害によ
休業(補償)給付
る傷病に係る療養のため労働
休業(補償)給付⽀給
することができず、賃⾦を受け
請求書(第 8 号、第 16
られない⽇が 4 ⽇以上に及ぶ
号の 6)
所轄労働基準監督署⻑
場合
業務災害または通勤災害によ
障害(補償)年⾦
障害(補
る傷病が治ったときに、障害等
障害(補償)給付⽀給
級第 1 級から第 7 級までに該
請求書(第 10 号、第
当する障害が残った場合
16 号の 7)
所轄労働基準監督署⻑
償)給付
業務災害または通勤災害によ
障害(補償)⼀時⾦
る傷病が治ったときに、障害等
級第 8 級から第 14 級までに該
当する障害が残った場合
Leadership Development Note 2014.6 45
特別企画
■療養の給付(前頁からの続き)
保険給付の種類
遺族(補償)年⾦
⽀ 給 事 由
書 類
業務災害または通勤災害により
遺族(補償)年⾦⽀
死亡した場合(法律上死亡とみな
給請求書(第 12
される場合、死亡と推定される場
号、第 16 号の 8)
提 出 先
所轄労働基準監督署⻑
合を含む。)
遺族(補
償)給付
遺族(補償)⼀時⾦
1.遺族(補償)年⾦を受取る
遺族がいない場合
遺族(補償)⼀時⾦
⽀給請求書(第 15
号、第 16 号の 9)
葬祭料(葬祭給付)
業務災害または通勤災害により
葬祭料(葬祭給付)請
死亡した⽅の葬祭を⾏う場合
求書(第 16 号の 10)
所轄労働基準監督署⻑
業務災害または通勤災害による
傷病が、1 年 6 か⽉を経過した
傷病(補償)年⾦
⽇、⼜は同⽇以後において治って
おらず、傷病による障害の程度が
傷病等級に該当する場合
介護(補償)給付
障害(補償)年⾦または傷病(補
介護(補償)給付⽀給
償)年⾦の受給者で、介護を要す
請求書(第 16 号の 2
る場合
の 2)
所轄労働基準監督署⻑
事業主の⾏う健康診断等のうち
⼆次健康診断等給付
直近のもの(⼀次健康診断)にお
⼆次健康診断等給付
健診給付医療機関を経
いて、次のいずれにも該当する場
請求書
(第16 号の10
由して所轄都道府県労
合
の 2)
働局⻑
2.脳⾎管疾患または⼼臓疾患の
症状を有していないと認められ
ること
毎号、このコーナーでは「L 研レポート」を掲載しておりますが、今回は休載とさせ
ていただきます。
なお、
L 研レポートはリーダーシップ研究会の講義内容をダイジェストしたものです。
同研究会は、不定期に開催しておりますので、詳しくは弊社ホームページでご確認くだ
さいますようにお願い申し上げます。
46 Leadership Development Note 2014.6
各種通信教育コース紹介
初級職~
受講期間
受講料
仕事の定石マスターコース
若手ビジネスパーソンに求められる基本能力、マインド、人間関係形成力を、
“生のケース”を通して体系的に学習し、組織の中での行動力と自分の役割
を理解していきます。
3 か月
一般 17,280 円
LD 会員 16,200 円
3 か月
一般 17,280 円
LD 会員 15,120 円
ケースに学ぶ実務労働法入門コース
入社から退職するまでの権利、義務、労働条件などの法律関係をケーススタ
ディで学習していきます。
「まとめ」や「チャート図」を多用して、理解しや
すい構成となっています。
中級職~
受講期間
受講料
リーダーシップ入門コース
リーダーシップとは何か。そのリーダーシップを誰にどう発揮するのかを詳
細に解説。自律的キャリア形成とリーダーシップとの関係性も明確にします。
中堅リーダーにおすすめするコースです。
2 か月~
一般 15,120 円
LD 会員 12,960 円
※延長可能:1 ヵ月毎に
一般 4,320 円 LD 会員
3,240 円加算
問題対応力スキルアップコース
職場の“問題”を定義すると共に「解決のシナリオ製作」「自分の動機づけ」
「他者への協力」を学習し、組織の中での行動力と自分の役割を理解してい
きます。
3 か月
一般 22,680 円
LD 会員 19,440 円
10 か月
LD 会員のみ
25,920 円(10 カ月)
16,200 円(6 カ月)
リーダーシップ開発コース
月刊キャリアマネジメント掲載の「LD ノート・ケーススタディ」を使い、職
場の問題を自分で考え解決する能力を養成。「マネジメント」「リーダーシッ
プ」
「人間心理」
「法的視点」の解説を通じて考える力を高めます。10 カ月コ
ースと 6 ヵ月コースがあります。
or
6 か月
実務労働法マスターコース
職場の信頼関係は労働法の正しい理解から。職場の管理・監督者に必要とさ
れる労働法のメカニズムを、条文解釈、判例法理を斯界のオピニオンリーダ
ーから学びます。人事スタッフ必須の講座です。
上級職~
3 か月
受講期間
一般 22,680 円
LD 会員 19,440 円
受講料
ファイナルリーダーシップコース
個を尊重し、主体的に組織の向上に貢献する自立した社員としての新しいリ
ーダーシップ能力を「コミュニケーション」「テクニカルスキル」
「オーガニ
ゼーション」「イノベーション」の視点から学習していきます。
4 か月
一般 30,240 円
LD 会員 25,920 円
OJT マスターコース
業績向上につなげるための部下の育成方法を、ケーススタディを通じて基本
から実践のノウハウまで学びます。部下を活性化する OJT が身につきます。
3 か月
一般 21,600 円
LD 会員 19,440 円
お問合せ先 : 株式会社キャリアクリエイツ 〒171-0014 東京都豊島区池袋 2-61-8 アゼリア青新ビル 302
TEL(03)6907-2101
FAX(03)6907-2102
[email protected]
当編集室では、皆様のご意見やご感想などをお待ちしております。
下記企画編集室宛に FAX、または電子メールにてお寄せください。
LD ノート(Leadership Development Note) 2014 年(平成 26 年)6 月 1 日号 (No1173/No1174)
発行所:株式会社 キャリアクリエイツ
〒171-0014 東京都豊島区池袋 2-61-8
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*本書の一部または全部を著作権
法の定める範囲を超え、無断で複
写、複製、転載、テープ化、ファイル
化、ネットワーク上で発信できる状態
にすることを禁じます。
No.1173/No.1174
Leadership Development Note (LD ノート)
2014 年 6 月号
発行所/株式会社キャリアクリエイツ