燃え尽きの緩和に及ぼす首尾一貫感覚と自尊感情の影響 -新人看護師の縦断調査をもとに- ○上野徳美 1・増田真也 2・山本義史 3・平野利治 4 (1 大分大学医学部・2 慶應義塾大学看護医療学部・3 日本文理大学経営経済学部・4 大分大学大学院医学系研究科) キーワード:バーンアウト,首尾一貫感覚,自尊感情 Influences of sense of coherence and self-esteem on the reduction of burnout: Based on longitudinal investigation of novice nurses Tokumi UENO1, Shinya MASUDA2 , Yoshifumi YAMAMOTO3 and Toshiharu HIRANO4 (1 4 Oita University., 2Keio University., 3Nippon Bunri University) Key words: burnout, sense of coherence, self-esteem 目 的 本研究は,新人看護師のバーンアウト傾向や抑うつ,離職 1.新人看護師の BO と抑うつ,離職意図の変化 Table1 新人の BO3 因子,抑うつ,離職意図の変化 意図を入職直後から縦断的に調査し,その変容過程を調べる 各変数 消耗感 脱人格化 達成感 抑うつ 離職意図 とともに,入職時の首尾一貫感覚(Sense of Coherence,以 1回目(t1) 19.72 2.39 21.36 43.85 4.06 9.87 3.58 7.79 8.44 4.78 23.75 3.87 22.61 45.63 4.63 10.01 4.45 7.18 8.18 4.85 23.84 5.71 21.64 45.07 5.19 9.69 5.28 7.06 6.54 4.39 下 SOC;Antonovsky,1983)がバーンアウト(以下 BO)や 抑うつ,離職意図に及ぼす影響を明らかにすることを目的と する。入職時から縦断的に調査することで,SOC が燃え尽き 2回目(t2) 3回目(t3) の緩和や軽減に及ぼす影響を分析することが可能となろう。 また本研究では,SOC に関連すると考えられる自尊感情 注)表の中の各数値は,上段が平均値,下段が標準偏差。 (self-esteem,以下 SE)にも着目した。新人の入職時にお 1要因分散分析と多重比較(Bonferroni 法)の結果,情緒的 ける SE がその後の BO や抑うつ,離職意図に及ぼす影響に 消耗感に有意な主効果があり(F (2,120)=7.47, p <.001) ,t1 ついて検討する。SOC と SE の影響力と関連を調べ,それぞ と t2,t1 と t3 に有意差(p <.01)が認められた。抑うつに れ有用なストレス抵抗資源になりうるか否かを明らかにした は主効果に有意傾向が見られ(F(2,118) =2.33, p <.10),t1 い。SOC や SE などのストレス抵抗資源の影響力を明らかに と t2 の間に有意差(p <.05)があった。入職後 2 ヵ月の段階 することで,看護師を含む対人援助職の燃え尽き予防やスト で情緒的消耗感や抑うつが強まることを考えると,入職後早 レス対処能力向上のための介入法と支援プログラムに関して 期に指導者や上司による積極的な支援とケアや,新人自身に 有用な知見,示唆が得られると考えられる。 よるセルフケアを促す研修,指導などが重要となろう。 方 2.SOC と SE が BO や抑うつ,離職意図に及ぼす影響 法 Table2 BO や抑うつ等に及ぼす SOC と SE の影響 (偏相関分析) 1.調査協力者と調査時期 調査協力者は,某病院(約 600 床)の新人看護師 63 名(女 予測変数 消耗感 脱人格化 達成感 抑うつ 離職意図 性 55 名,男性 8 名) 。いずれも 2013 年 4 月に入職した新人 SOC (t2 の予測) -.358** -.149 .153 -.282 * -.103 で,平均年齢は 22.5 歳(SD=1.61) 。質問紙調査は看護部主 SOC (t3 の予測) -.204 -.298* .276* -.168 -.116 催の新人研修会を利用して行われ,同年 4 月下旬(t1) ,5 月 SE(t2 の予測) -.304* -.207 .159 -.295* -.322** 下旬(t2) ,及び 12 月(t3)の計 3 回,縦断的に実施された。 SE(t3 の予測) -.038 -.284* .189 -.020 -.045 ** :p <.01 , * :p <.05 2.調査用質問紙及び測定尺度 (1)SOC 尺度:日本語版 SOC13 項目短縮版(山崎,1999)を 使用。 (2)SE 尺度:Cheek & Buss(1981)の SE 尺度の日 本語版(大渕,1991)を使用(6 項目) 。 (3)BO 尺度: SOC と SE の相関が高かったため,t1 での BO 得点等を統 制して各々の単独効果を分析した結果,SOC は t2 の消耗感 と抑うつの軽減に,t3 の脱人格化の軽減と達成感の向上に寄 MBI-HSS( Maslach Burnout Inventory-Human Service Survey) の日本 与していた。他方,SE は t2 の消耗感と抑うつ,離職意図の 語版(北岡他,1998) 。本尺度は,1)情緒的消耗感(9 項目) , 軽減に,t3 では脱人格化の軽減に寄与していた。また,SOC 2)脱人格化(5 項目) ,3)個人的達成感(8 項目)の計 22 項目 と SE の長期(t3)の予測力を検討するため,SE の影響を統 より構成。 (4)抑うつ尺度:自己評価式抑うつ性尺度(SDS) 制した SOC の予測力と SOC の影響を統制した SE のそれを (福田・小林,1973) 。20 項目。 (5)離職意図:病院を変わり たいと思う,など離職や転職の希望を尋ねる項目(3 項目)。 結 果 と 考 察 分析した結果,SOC のみ消耗感と脱人格化,抑うつの軽減に 寄与していた。SE よりも SOC が燃え尽きの緩和に寄与して いることがわかる。SOC 向上の介入法等の開発が必要である。 [本研究は、平成24-26年度科学研究費補助金(代表者 上野徳美) にもとづく] [本調査は、大戸朋子氏(大分大学医学部附属病院看護部長)他との共同研究である]
© Copyright 2024 ExpyDoc