保険適用 (系統的名称としてCCL17) 治療アドヒアランスを向上させるために・ ・ ・ ・ ■外用薬を用いた中長期治療計画を十分に患者に説明することが必要です。 ■社会生活への影響を考慮し、個々の患者に応じた治療計画を立案することが重要です。 ■中長期治療計画の患者への説明に、TARCやIgEなど数値で確認できる指標が活用できます。 ■経過中、実際の治療効果や副作用なども含めた実体験を通して、外用薬の使い方や自分の肌質を知ることができ、 治療に対する過大な不安が解消されることで外用薬の適正使用に繋がり、治療効果のさらなる向上が期待できます。 TARC活用のポイント ■治療における成功体験を患者が実感できるよう、治療効果を確認するためのツールの1つとして、 TARC値を活用 することができます。 ■小児においては、家族の理解やサポートが重要です。定期的にTARC値を測定することにより、患者を含めた家族 が治療内容を理解でき、治療を継続する意欲を高めることに繋がります。 ■患者に応じてTARC値を指標とした治療目標を設定することで、社会生活に支障のない治療の継続が期待できます。 監修 九州大学病院皮膚科 診療講師 竹内 聡 先生 九州大学大学院医学研究院皮膚科学 教授 古江 増隆 先生 31歳、男性 症例1 14000 11760 12073 12000 IgE (IU/mL) 10000 TARC (pg/mL) 7560 8000 6392 5430 6000 5172 3260 4000 1420 2000 0 月 10 年 9 00 2 頭: 顔と首: 2 月 11 年 9 00 2 月 12 年 9 00 718 535 1月 0年 1 20 2月 0年 1 20 3月 0年 1 20 452 4月 0年 1 20 5月 0年 1 20 2739 366 6月 0年 1 20 7月 0年 1 20 8月 0年 1 20 9月 0年 1 20 月 10 年 0 01 2 1800 390 2 月 11 年 0 01 2 月 12 年 0 01 1月 1年 1 20 2月 1年 1 20 299 3月 1年 1 20 4月 1年 1 20 5月 1年 1 20 6月 1年 1 20 プレドニゾロン吉草酸エステル酢酸エステル液(毎日) 同(痒いとき) ヒドロコルチゾン酪酸エステル軟膏 1日2回 同 1日1 回 同 ときどき 体: ベタメタゾン酪酸エステルプロピオン酸 エステル軟膏 連日 同 隔日 同 週1∼2回 同 週1回 臨床経過 初診までの様子: 小児期よりアトピー性皮膚炎を発症しており、2006 年 11 月頃より皮膚炎が悪化してきた。近医皮膚科に通 院していたがコントロールがうまくいかなかった。 2009年10月: 全身に苔癬化、色素沈着と強いかゆみを伴い、仕事にも集中できない状態となったため、当科を初診した。ま た、背部などにうろこ状の大きな鱗屑を伴い、臨床的に尋常性魚鱗癬の合併が強く疑われた。TARC 値が 5,430pg/mL、IgE 値 が 11,760IU/mLと 高 値 で あり、顔 と 首 に は ヒド ロ コ ル チ ゾン 酪 酸 エ ス テ ル (mediumクラス)、体にはベタメタゾン酪酸エステルプロピオン酸エステル(very strongクラス)の外用薬 の治療効果や使い方を患者に十分に説明した後に治療を開始。 2009年11月: IgE 値は 12,073IU/mLと依然高値であるが、TARC 値は 1,420pg/mL へと低下し、皮膚症状やかゆみも 軽快してきた。しかし、病変部の苔癬化は依然として存在するため、外用薬治療を継続した。 2010 年 1 月: IgE 値は 7,560IU/mL、TARC 値は 535pg/mLと低下し、皮膚症状、かゆみもさらに軽快している。外用 薬の使用量を次第に減らしながらも治療を継続したことにより、症状の再燃もなく、皮膚症状が全体に軽快し てきたことからプロアクティブ療法※を開始した。 2010 年 2 月以降:プロアクティブ療法の継続により、TARC 値は 718pg/mL から299pg/mL、IgE 値は 6,392IU/mL から 1,800IU/mLに低下した。患者自身が急性期から維持期への外用薬の塗り方、塗る量を理解し、苔癬化の消 失とともに日常生活だけでなく、運動時や飲酒時などにもかゆみの発現がなくなり、治療効果を実感している。 このように標準的な治療の成功を体験することで、患者自身がアトピー性皮膚炎の治療を積極的に行えるよう になり、仕事にも集中して望めるようになった。 ※ プロアクティブ療法 Wollenbergらが提唱した、アトピー性皮膚炎の再燃予防を主なる目的とした 維持療法で、寛解導入後も週 2 回程度低力価 のステロイドなどを外用することにより、従来の保湿剤のみによる維持療法に比べ、有意に再燃の頻度を抑制できると報告 されている。 主治医は外用薬による副作用の出現やその対処に精通し、注意深く処方量をコントロールする必要があります。一方、外用 薬の効果や使い方などの説明を十分に繰り返しながら治療を続けていく中で、患者自身が治療が上手くいっていることの 成功体験をすることは、積極的な治療継続に繋がります。TARC測定は治療が上手くいっていることを確認する一つの手段 として活用することができます。 10歳、男児 症例2 14000 11900 12000 IgE (IU/mL) 10000 TARC (pg/mL) 8000 6000 4000 1910 2000 1917 0 内服: 頭: 顔と首: 6月 年 10 20 1036 1585 671 7月 年 10 20 636 年 10 20 8月 年 10 20 9月 (自己中止) セチリジン塩酸塩 プレドニゾロン吉草酸エステル酢酸エステル液(毎日) 年 10 20 320 月 10 月 11 年 10 20 560 401 年 10 20 月 12 年 11 20 206 1月 年 11 20 2月 年 11 20 3月 年 11 20 238 4月 年 11 20 5月 セチリジン塩酸塩再開 同 (痒いとき) ヒドロコルチゾン酪酸エステル軟膏 1日2回 体: ベタメタゾンジプロピオン酸エステル軟膏 連日 同 1日1 回 ベタメタゾン酪酸エステルプロピオン酸 エステル軟膏 連日 同 ときどき 同 個疹に長めに外用 プレドニゾロン吉草酸エステル酢酸エステル液 個疹に長めに外用 臨床経過 初診までの様子: 4 歳頃よりアトピー性皮膚炎を発症し、外用薬治療にて落ち着いていたが、さまざまなメディアでステロイド外 用薬の副作用が取り上げられていたため両親が心配し、2010 年 4 月頃より急に保湿剤と抗アレルギー薬のみ による脱ステロイド療法を行ったところ、皮膚炎やかゆみが著明に悪化し、患児は次第に掻破の影響などから夜 間の不眠が出るようになった。また、友達とも遊ばなくなり、学校にも行きたがらなくなった。 2010年6月: 初診時には全身の紅斑と苔癬化、頸部、腋窩、鼡径部のリンパ節腫脹、37 度台の微熱があり、紅皮症の状態。 診察時にきょろきょろとして落ち着きがなく、皮膚を掻破し、笑顔がみられなかった。患児のQOLが著しく損なわ れていること、急激な皮膚炎悪化を脱するためステロイド外用薬治療が必要なこと、 FTU (f i nger tip unit)を 用いた適切なステロイド外用量や起こりうる副作用とその対策および TARC 値で治療効果の確認をしていくこ となどについて、十分に説明し両親の理解を得た上で、ステロイド外用薬治療を開始した。 2010年7月: 皮膚症状は軽快し、治療効果を患児とその家族が体感することができ、診察時にも時折笑顔が見られるように なった。TARC 値は 11,900pg/mL から1,910pg/mLに低下し、客観的にも治療効果が確認された。 2010年10月: 家族が、皮膚症状がある程度改善した後のステロイド外用薬や他薬剤の継続的な使用に非常に抵抗感を持って いたため、患児(家族)が内服薬(セチリジン塩酸塩)を自己判断で中止していた。また全身的に十分な外用薬 治療が遂行されず、部分的に皮膚炎やかゆみの再燃を繰り返していたため、 「赤みが出てきたら直ぐに、少し広めに、 そして自分で治ったと思ってからもさらに数日間外用してください。 」と再度指導を行った。顔面や頭部はプロアク ティブ療法により皮膚炎はコントロールされていたが、体に使用する外用薬は、一旦、ベタメタゾン酪酸エステル プロピオン酸エステルに変更、その後、TARC 値、 I gE値を指標にオーバートリートメント(治療のやり過ぎ)ではな いことを確認し、患者家族の不安や疑問には随時答えながら治療を継続し、皮膚症状、検査値ともに安定してきた。 2011年2月以降: TARC値は2011年2月に401pg/mL、5月には560pg/mLと推移し、皮膚の状態は寛解・維持状態に戻った。 使用ステロイドのランクは下がり、良好な状態を保っている。治療の成功体験、TARC 値、IgE 値などの客観的な 治療マーカーを導入した治療効果の説明の継続により、患児とその家族の治療に対する不安が軽減し、前向きに 治療に取り組む姿が診察時に確認できた。診察中の患児は笑顔が戻り、楽しんで登校できるようになった。 ステロイド外用薬使用に対する不安や心配から、ある程度よくなった状態のときに患者と家族の自己判断で薬を中止するケ ースがしばしばあります。患者とその家族に対して、時間をかけてステロイド外用薬治療の効果と患者自身に合った治療方 法(外用量や塗り方) を説明し、定期的にTARC値を測定することにより、患者自身が治療効果を確認することができ、その 後の治療の継続に繋がります。 39歳、男性 症例3 20000 19927 19373 IgE (IU/mL) 16000 TARC (pg/mL) 12000 9840 7390 8000 6325 5596 3557 4000 618 0 3月 9年 0 20 内服: 4月 9年 0 20 956 651 5月 9年 0 20 6月 9年 0 20 7月 9年 0 20 8月 9年 0 20 844 9月 9年 0 20 980 832 3804 3542 872 899 3209 1140 月 月 月 月 月 月 1月 9月 8月 7月 6月 5月 4月 3月 2月 1月 12 11 10 10 12 11 年 年 年 年 年 年 年 年 年 年 0年 10年 10年 011 10 10 10 10 10 10 10 10 9年 09年 010 1 0 0 0 0 0 0 0 0 0 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 20 20 20 20 20 ベポタスチンベシル酸塩 ベタメタゾン・d-クロルフェニラミンマレイン酸塩 顔と首: ヒドロコルチゾン酪酸エステル軟膏 1日2回 5312 年 9 00 2 1010 5305 タクロリムス水和物軟膏 1日2回 同 1日1回 体: ベタメタゾン酪酸エステルプロピオン酸エステル →ベタメタゾンジプロピオン酸エステル軟膏を連日 プレドニゾロン吉草酸エステル酢酸 エステル液 隔日 同 週2回 同 隔日 同 週2回 同 隔日 臨床経過 初診までの様子: 13 歳頃よりアトピー性皮膚炎にて近医で加療中であった。2008 年末頃から顔面の紅斑が目立ち、気になる ようになり、2009 年 1 月頃から全身的に皮膚炎が悪化してきた。ステロイド外用薬治療に対して副作用の懸 念などから抵抗感があり、皮膚症状が非常に悪い時になるべく少量を外用する使用法を実施していた。顔面の 皮膚炎が著明になってきたため、耐えかねて当科を受診した。 2009年3月: 中 長 期 治 療 計 画として ステロイド 外 用 薬 を 用 い た 治 療 を 説 明し理 解 を 得 た。このとき、TARC 値 が 3,557pg/mL、IgE 値は 19,373IU/mLと高値であり治療を開始した。前医ですでにベタメタゾン・d-クロ ルフェニラミンマレイン酸塩が処方されていたため、漸減しながら初期治療として継続した。 2009年4月: IgE 値は 19,927IU/mLと依然高値であるが、TARC 値は 618pg/mL へと低下し、皮膚症状も軽快した。 2009年8月以降: 8 月頃から、治療をプロアクティブ療法へと変更し、また、この頃より患者自身が外用薬の塗り方、外用量を理 解でき実践することができてきた。本来の白く柔らかい肌の面積が増え、日常生活に支障なく、発汗時や飲酒 時のかゆみがなくなり、社交的になりスポーツも開始するなど、以前より活動的に過ごせるようになった。一般 に、 TARC値は 500pg/mL(幼児はやや高値)以下が寛解の目安であるが、この症例においては、 TARC値 が 800-1000 pg/mL 近辺で皮膚症状も比較的安定していることから、TARC 値を皮膚症状の指標として、 社会生活に支障のない治療の継続のために使用している。 治療方針・治療計画について、患者が理解し、自らが治療を継続していけるようになると、患者の精神的負担や社会生 活への支障の少ない治療を継続することが可能となります。このことは、患者に応じた治療目標とも考えられ、 また、 TARC値により具体的な治療目標をイメージすることも可能となります。 禁無断転載 ⓒ2012 SHIONOGI TARC-V-113(B1)2014 年 4月作成
© Copyright 2024 ExpyDoc