39 2014 April http://www.molecular-activation.jp 2. アリル位 Csp3-H 活性化を伴う環化異性化反応 研 究 紹 介 3) ACP-アルケン体 4 を Rh(I)触媒の存在下環化付加反応に アレンを活用した不活性結合の活性化 付したところ、ACP-アルキン体の検討結果から予測したビ A01 班(金沢大院医薬保)向 智里 シクロ [5.3.0] 誘導体は得られず、代わりに 4,5 位にメチル 基を有するビシクロ [4.3.0] 誘導体 5 が高立体選択的に生 成した。本反応はアリル基の内部二重結合への異性化を伴 これまでに、集積型二重結合であるアレンを多重結合成 って進行しているものと想定し、対応するビニル誘導体 6 分とする Rh(I)触媒環化反応により、新たな環化様式の開発 を同様の条件に付したところ、5 が高立体選択的に得られ 1) や不活性結合の活性化が可能であることを見出している 。 た。尚、E 体, Z 体いずれの 6 からも 5 が得られたことか 今回、より挑戦的な試みを行い、興味深い結果が得られた ら、本反応は高立体選択的ではあるが、立体特異的でない ので以下に紹介する。 ことが明らかとなった。重水素化した数種の基質を用いて 1. 1,1-二置換シクロペンタンの選択的 Csp3-Csp3 及び 反応機構の解明を試みた結果、本反応はアリル位の Csp3-H Csp3-H 活性化 2) 活性化を含む多段階機構で進んでいることが明らかとなっ アレン末端に3員環を導入したアレニルシクロプロパン た。 (ACP)とアルキンを併せ持つ化合物 (ACP-アルキン) をロ R ジウム触媒と処理すると、シクロプロパンを構成する R • 5 4 • Rh(I) cat. X X HH Csp3-Csp3 結合の開裂を伴って分子内 [5+2] 環化付加反応が R Rh(I) cat. 5 4 H X 6 H 進行する 1b)。また、シクロプロパンの代わりに 4 員環のシ 3. ニ ト リ ル 三 重 結 合 を π 成 分 と す る 新 規 ヘ テ ロ クロブタンを導入した基質においても、その C sp3-Csp3 結合 Pauson-Khand 型([2+2+1]環化付加)反応 開裂を伴った分子内[6+2]環化付加反応が進行することを 通常の Pauson-Khand 反応では一方のπ成分として三重 1c) 4) 明らかにしている 。これらの反応は小員環の歪みエネル 結合を用いるが、その窒素同族体であるニトリルを活用し ギー (SE: シクロプロパン 27.5 kca/mol, シクロブタン た報告例はなかった。我々は、アレンーニトリル誘導体 7 26.3 kcal/mol) 放出を駆動力として、Csp3-Csp3 結合開裂が促 を一酸化炭素雰囲気下、ロジウム触媒と処理すると 進されることを予め想定したものであった。今回、高歪み [2+2+1]環化付加反応が進行し、アザビシクロ体 8 が生成す エネルギーを持たない通常環のシクロペンタン (SE = 6.3 ることを見出した。本系ではニトリルのα位に電子求引性 kcal/mol) を有する基質 1 を用いて反応を行った。その結果、 基を導入することが不可欠なこと等から、ケテンイミン 7’ Wilkinson 触媒存在下において同様の環開裂 ([7+2]環化付 への異性化を経て反応が進行しているものと考えている。 R 加) が進行し、対応する二環性化合物 2 が収率よく得られ ることを見出した。これは、環歪みのほとんどない通常環 N EWG 媒を RhCl(dppp)2 に変更して反応を行ったところ、5 員環の 1) 1 位メチル基上の Csp3-H 結合が優先的に活性化を受け、ス ピロ化合物 3 が主成績体として得られた。 Me R1 X 2 R1 10 mol% RhCl(PPh 3) 3 C-C bond activation • H X 1 R1 10 mol% RhCl(dppp) 2 C-H bond activation 2) X H 3 3) Strain Energy (kcal/mol) 27.5 26.3 6.3 4) 7 • Rh(I) cat. n の Csp3-Csp3 結合を活性化した初めての例である。また、触 R R • CO O n EWG 8 N H n EWG • NH 7' (a) F. Inagaki, S. Narita, T. Hasegawa, S. Kitagaki, C. Mukai, Angew. Chem. Int. Ed. 2009, 48, 2007-2011. (b) F. Inagaki, K. Sugikubo, Y. Miyashita, C. Mukai, Angew. Chem. Int. Ed. 2010, 49, 2206-2210. (c) F. Inagaki, K. Sugikubo, Y. Oura, C. Mukai, Chem. Eur. J. 2011, 17, 9062-9065. C. Mukai, Y. Ohta, Y. Oura, Y. Kawaguchi, F. Inagaki, J. Am. Chem. Soc. 2012, 134, 19580-19583. K. Sugikubo, F. Omachi, Y. Miyanaga, F. Inagaki, C. Matsumoto, C. Mukai, Angew. Chem. Int. Ed. 2013, 52, 11369-11372. T. Iwata, F. Inagaki, C. Mukai, Angew. Chem. Int. Ed. 2013, 52, 11138-11142. インデニルルテニウム錯体上での内部アルキン からのビニリデン錯体形成とインデニルーアル キンカップリング A02 班(東京理大理)武藤 雄一郎 (Et)Me}(dppe)][BArF4] (3)であると同定した。 従来、ヘテロ原子置換やアシル置換などの特殊な置換基 2a を除けば、遷移金属錯体上でアルキルやアリール置換の内 デニル−アルキンカップリングよりも速いと考えられる。 部アルキンのビニリデン転位は進行しないとされてきた。 これまでの研究 – 対照的にジフェニルアセチレンの反応では、対応する二 置換ビニリデン錯体[(η5-C9H7)Ru(=C=CPh2)(dppe)][BArF4]が 直截形成され、 インデニル−アルキンカップリング生成物は 観測されなかった 4。ジアリールアルキンはアルキル置換 のものよりビニリデン転位が速いことを明らかにしている 。このジフェニルアセチレンのビニリデン転位は、イン 5 1,2 から本反応では、アルキン錯体 2 われわれは、アニオン性([Ru(P3O9)(dppe)] )あるいはカチオ [(η -C9H7)Ru(η -EtC≡CMe)(dppe)][BArF4] (4)が中間体である ン性([CpRu(dppe)]+)ルテニウム錯体上において、そのよう と考えられる(Scheme 3)。まず 70 °C では、内部アルキン な内部アルキンからでも二置換ビニリデン錯体が直截形成 のルテニウム−インデニル結合へ挿入、つづく η5−インデニ されることを見出して以来 1,2、これを内部アルキンの新し ル配位子から η6−インデン配位子へのハプトトロピック転 い活性化法として確立するべく、その一般性について検討 位によって、2 と 2′が速度論生成物として競争的に形成さ してきた。ここでは Cp のアナログであるインデニル配位 れる。70 °C を保っている間、2′は逆反応であるβ−炭素脱 子を持つカチオン性ルテニウム錯体[(η -C9H7)Ru(dppe)] (1) 離によって 4 を再生し、これにアルキンが逆の位置選択性 と内部アルキンの反応を検討した結果を紹介する 3。イン で挿入し徐々に 2 へと異性化する。 すなわち 2 と 2′は 70 °C デニル配位子は Cp 配位子に比べてよいπ−アクセプターで においては熱力学生成物である。一方 130 °C では、4 のビ あるとともに、柔軟にハプト数を変えることができる。 ニリデン転位がアルキンの挿入と競争し始め、より熱力的 1 と EtC≡CMe を 70 °C で 4 時間かくはんしたところ、 に有利な二置換ビニリデン錯体 3 が主生成物となると考え 31 P{1H} NMR では1組の二重線が観測され(δ 76.0 and δ らえる。本反応は温度によって制御される2種類の炭素− 85.8)、生成物のリンは非等価であることが示唆された。最 炭素結合の形成と開裂を直接観測した非常に珍しい例であ 終的に構造はX線解析によって決定し、対応する二置換ビ る。 ニリデン錯体ではなく、インデニル配位子とアルキンのカ Scheme 3. 5 + ップリングによる η6 − インデン錯体[Ru{C(Me)=C(Et)– (η6-C9H7)}(dppe)][BArF4] (2)であると同定した(Scheme 1)。 β-carbon elimination Scheme 1. H Ph2P Ru Cl PPh2 p-xylene 70 °C, 4 h BArF4 H NaBArF4 Et Me BArF4 H Ph2P Et Ru PPh2 Me Ph2P Ru PPh2 Me 4 2, 67% 反応初期(0.5 h)には 2 の位置異性体である[Ru{C(Et)=C(Me)–(η6-C9H7)}(dppe)][BArF4] (2′)が生成し(2/2′ = 1/0.3)、時 Ph2P Me Ru 130 °C β-carbon elimination BArF4 H Ph2P Et Ru 2 PPh2 Me alkyne-to-vinylidene isomerization 130 °C BArF4 H Ph2P Ru PPh2 間が経過するにつれて、2 への異性化が観測された。 2' PPh2 Et insertion of alkyne 70 °C Et BArF4 H insertion of alkyne 70 °C • Me Et 3 2 を 130 °C に加熱すると、31P{1H} NMR のシグナルは1 (1) Ikeda, Y.; Yamaguchi, T.; Kanao, K.; Kimura, K.; Kamimura, 組の二重線から1本の一重線(δ 75.8)へと変化し、新たな単 S.; Mutoh, Y.; Tanabe, Y.; Ishii, Y. J. Am. Chem. Soc. 2008, 130, 一錯体の生成を示した(Scheme 2)。 16856. Scheme 2. (2) (a) Mutoh, Y.; Ikeda, Y.; Kimura, Y.; Ishii, Y. Chem. Lett. H BArF4 BArF4 H Ph2P Ru Et 2 PPh2 Me generated in situ p-xylene 130 °C, 8 h Ph2P Ru Y.; Mutoh, Y.; Ishii, Y.; Takano, K. J. Am. Chem. Soc. 2012, 134, • PPh2 3, 61% 2009, 38, 534. (b) Otsuka, M.; Tsuchida, N.; Ikeda, Y.; Kimura, Me Et 生成物の 13C{1H} NMR では、δ 351.3 にビニリデン配位子 のα−炭素に帰属できるシグナルを示した。 構造はX線解析 によっても確認し、ビニリデン錯体[(η5-C9H7)Ru{C=C= 17746. (3) Ikeda, Y.; Mutoh, Y.; Imai, K.; Tsuchida, N.; Takano, K.; Ishii, Y. Organometallics 2013, 32, 4353. (4) Mutoh, Y.; Imai, K.; Ikeda, Y.; Ishii, Y. manuscript in preparation. トピックス 学術領域の班員による研究発表を通じて、両領域間の密接 林 高史教授(阪大院工、A03 班)らの二核鉄錯体を含 な研究討議と交流を図る。 むタンパク質を触媒とする基質の酸化反応に関する論 懇親会:6月20日のシンポジウム終了後、札幌アスペン 文:Chem. Commun., Vol. 50(26), 3421-3423 (2014) ホテルにて開催。 が Front Cover に採用されました。 The 2nd International Conference on Organometallics and Catalysis OM&Cat-2014 (第 4 回分子活性化国際シンポジウム) Volume 50 Number 26 4 April 2014 Pages 3379–3520 ChemComm 東大寺総合文化センター(奈良市) Chemical Communications www.rsc.org/chemcomm ISSN 1359-7345 COMMUNICATION Akira Onoda, Takashi Hayashi et al. H2O2-dependent substrate oxidation by an engineered diiron site in a bacterial hemerythrin お知らせ 直截的物質変換をめざした分子活性化法の開発 第7回公開シンポジウム (分子活性化–有機分子触媒合同シンポジウム) 主催:新学術領域研究「直截的物質変換をめざした分子活 性化法の開発」総括班 共催:新学術領域研究「有機分子触媒による未来型分子変 換」総括班 後援:日本化学会 会期:6月20日(金)9時30分〜21日(土)15時 30分 会場:北海道大学学術交流会館 今回は、新学術領域研究「有機分子触媒による未来型分子 変換」との合同公開シンポジウムを開催し、それぞれの新 2014 年 10 月 26 日 〜 10 月 29 日 Plenary Lecturer Ben L. Feringa (University of Groningen, The Netherlands), David Milstein (The Weizmann Institute of Science, Israel), Shinji Murai (NAIST, Japan) Invited Lecturer Shunsuke Chiba (Nanyang Technological University, Singapore), Alan Goldman (The State University of New Jersey, USA), Sungwoo Hong (Korea Advanced Institute of Science and Technology, Korea), Xuefeng Jiang (East China Normal University, China), Chulbom Lee (Seoul National University, Korea), Guosheng Liu (Shanghai Institute of Organic Chemistry, China), Ruben Martin (Institute of Chemical Research of Catalonia, Spain), Cristina Nevado (University of Zurich, Switzerland), Yoshiaki Nishibayashi (The University of Tokyo, Japan), Martin Oestreich (Technische Universitat Berlin, Germany), Sensuke Ogoshi (Osaka University, Japan), Sylviane Sabo-Etienne (Laboratoire de Chimie de Coordination, France), Yoshihiro Sato (Hokkaido University, Japan), Franziska Schoenebeck (RWTH Aachen University, Germany), Matthew S. Sigman (University of Utah, USA), Ken Tanaka (Tokyo University of Agriculture and Technology, Japan), Yi-Chou Tsai (National Tsing Hua University, Taiwan), Chun-Jiang Wang (Wuhan University, China), Congyang Wang (The Chinese Academy of Sciences, China), M. Christina White (University of Illinois, Urbana-Champaign, USA) http://www.chem.eng.osaka-u.ac.jp/~chatani-lab/OM Cat/index.html 発行・企画編集 新学術領域研究「直截的物質変換をめざした分子活性化法の開発」 連 領域代表 茶谷直人([email protected]) 広報担当 伊東 忍([email protected]) 絡 先
© Copyright 2024 ExpyDoc