油凝固剤のメカニズムに関する研究 茨城県立水戸第一高等学校 2年 遠田 雄大 化学部 身近な油 サラダ油 ゴマ油 精製植物油の一種で, 主にキャノーラ油を指し てサラダ油と称される。 凝固点は-12℃~0℃。 胡麻の種子に圧搾等 の加工をして作られる 食用油の一種。 凝固点は-7℃~0℃。 オリーブオイル オリーブの果実から圧 搾してとる不乾性油。 食用・医薬用・化粧用な ど用途は広い。 凝固点は0℃~6℃。 日常生活において油は欠かせないものである。 使用済油の処理方法 従来の使用済油の処理方法 そして 紙パックに新聞紙を詰め, 油を流し込み,染み込ませる。 紙パックの口をとめて燃 えるゴミとして廃棄。 使用済油の処理が非常に大変。 油凝固剤 固めるテンプル 《使用方法》 80℃以上の油にテンプルを投 入し自然冷却させる。凝固した 油を燃えるごみとして廃棄。 《利点》 ・油の処理が容易である。 ・1包約40円と手頃な価格。 ・毒性がなく安全性が高い。 未だに油が固まるメカニズムは分かっていない。 研究目的 油凝固剤の主成分を探し出し,油が凝 固するメカニズムを明らかにする。 調査結果 インターネット等で,固めるテンプルの主成分を調査。 結果 12-ヒドロキシステアリン酸 分子式: HOOC(CH2)10(OH)CH(CH2)5CH3 分子量: 300 O 融点 : 75 ℃ H O O H 「固めるテンプル」の主成分は12-ヒドロキシステアリン酸と予想。 実験 ○ 試薬 固めるテンプル,12-ヒドロキシステ アリン酸 ,オクタデシルアミン,ステア リン酸 ,ベヘン酸,ステアリン酸アミド, ステアリン酸エチル,1,2-ドデカンジ オール,1,12-ドデカンジオール,15ヒドロキシペンタデカン酸,サラダ油 ○ 実験手順 1. サラダ油5.0 gを200℃に加熱した。 2. 加熱したサラダ油に固めるテンプル量 0.30 gと等モル量・2倍量・ 3倍量の 試薬をそれぞれ加え,常温になるまで自 然冷却した。 3. 凝固した油に力を加え,凝固した油の表 面が陥没するのに加える力を測定した。 ○ 評価方法 凝固した油の硬度を測定し,油 の凝固点上昇や加えた試薬の分子 構造の点から評価する。 デュロメーター 固めるテンプルの主成分の評価 12-ヒドロキシステアリン酸 融点:75℃ 固めるテンプル 分子式: HOOC(CH2)10(OH)CH(CH2)5CH3 等モル 655mN/cm² 2倍 測定不可(高) 3倍 測定不可(高) 等モル 675mN/cm² 2倍 測定不可(高) 3倍 測定不可(高) O HO OH 凝固した油の硬度が固めるテンプルと12-ヒドロキ システアリン酸がほとんど一致。 固めるテンプルの主成分は12-ヒドロキシステアリン酸。 凝固点上昇の評価 オクタデシルアミン 融点:53℃ 分子式:H2N (CH2)17CH3 ステアリン酸 融点:70℃ 分子式:HOOC(CH2)16CH3 O H N 2 H O 等モル 測定不可(低) 等モル 測定不可(低) 2倍 測定不可(低) 2倍 126mN/cm² 3倍 測定不可(低) 3倍 173mN/cm² ベヘン酸 融点:76℃ 分子式:HOOC(CH2)20CH3 O ステアリン酸アミド 融点:100℃ 分子式:H2NCO (CH2)16CH3 O H O H N 2 等モル 103mN/cm² 等モル 測定不可(低) 2倍 503mN/cm² 2倍 132mN/cm² 3倍 730mN/cm² 3倍 162mN/cm² 油の凝固は,加えた試薬による油の凝固点上昇とは関係ない。 分子構造の評価 ステアリン酸エチル 融点:38℃ 分子式:C2H5OCO(CH2)16CH3 ステアリン酸 融点:70℃ 分子式:HOOC(CH2)16CH3 O O HO O O 等モル 測定不可(低) 等モル 測定不可(低) 2倍 測定不可(低) 2倍 126mN/cm² 3倍 測定不可(低) 3倍 173mN/cm² カルボキシ基“-COOH”をもつステアリン酸は凝固したが, ステアリン酸エチルは,全く凝固しなかった。 カルボキシ基“-COOH”が油凝固に関係。 分子間水素結合の評価 1,2-ドデカンジオール 融点:58℃ 分子式:HO(CH)2OH(CH2)10 1,12-ドデカンジオール 分子式:HO(CH2)12OH 融点:82℃ O H H O H O O H 等モル 測定不可(低) 等モル 測定不可(低) 2倍 測定不可(低) 2倍 測定不可(低) 3倍 測定不可(低) 3倍 測定不可(低) 15-ヒドロキシペンタデカン酸 融点:88℃ 分子式:HOOC(CH2)14OH 12-ヒドロキシステアリン酸 融点:75℃ 分子式: HOOC(CH2)10(OH)CH(CH2)5CH3 O O H O O H HO OH 等モル 測定不可(低) 等モル 675mN/cm² 2倍 測定不可(低) 2倍 測定不可(高) 3倍 101mN/cm² 3倍 測定不可(高) 油凝固はカルボキシ基とヒドロキシ基による分子間水素結合が関与。 まとめ 硬度の大きい順 融点:70℃ ・ < 融点:76℃ ステアリン酸 ステアリン酸アミド 融点:100℃ < ベヘン酸 オクタデシルアミン 融点:53℃ 油の凝固は試薬の融点には関係無い。 ステアリン酸エチル :凝固しない O O ステアリン酸:凝固する HO O カルボキシ基“-COOH”が油の凝固に関与。 1,2-ドデカンジオール:凝固しない 1 HO 1,12-ドデカンジオール:凝固しない 1 2 OH HO 12 OH ヒドロキシ基“-OH”による分子間水素結合は関係無い。 15-ヒドロキシペンタデカン酸:硬度(低) O O HO 1 15 OH HO 12-ヒドロキシステアリン酸:硬度(高) 1 カルボキシ基とヒドロキシ基との距離が関与。 12 OH 考察 分子間水素結合 分子間水素結合 カルボキシ基とヒドロキシ基による分子間水素結合に よってリング構造が形成され,そのリング構造の分子が絡 み合い油分子が捉えられ,見かけ上固体になる。 油凝固剤による凝固には分子間水素結合が大きく関与。 結論 固めるテンプルの主成分が12-ヒドロキシステア リン酸であることが分かった。 油凝固剤のメカニズムは,ヒドロキシ基とカル ボキシル基による分子間水素結合によりリング 構造が形成され,それらのリング構造の分子が 絡み合い油分子を捉えるため,見かけ上油が固 まることが示唆された。
© Copyright 2024 ExpyDoc