2014/12/25 医薬化学II 第11回目講義 宮地弘幸 本日の講義内容; まずは一回目復習 古典的な医薬品開発から理論 的な創薬への歴史について説明できる. SBO18 医薬品とは 医薬品;薬事法により定められている. 日本薬局方に収載されているもの 人または動物の疾病の診断,治療または予防に使用され ることが目的とされているものであって,器具機械ではない 人または動物の身体の構造または機能に影響を及ぼすこと が目的とされているものであって,器具機械ではない 一般用医薬品 種類: 約13,000種類 生産高: 約1兆円 医療用医薬品 種類: 約3000種類 生産高: 約6兆円 新薬 ジェネリック医薬品 医薬品とは 薬事法という言葉はなくなりました。 平成26年11月25日付で「医薬品、医療機器等の品質、 有効性及び安全性の確保等に関する法律(略称:医薬 品医療機器等法)」が施行されました。 新たに再生医療等製品について定義され、医療機器の 範囲にプログラムが追加、医療機器及び体外診断用医薬 品の製造販売業・製造業や高度管理医療機器等販売業 に関して改正されました。 医薬品(創製)の歴史;近代科学(19世紀後半) 19世紀の終わり頃; 近代科学の進歩の結果,製薬産業が勃興. 染料産業の副産物から純粋な合成医薬品 が製造される. アセトアニリド, サリチル酸, アセチルサリチル酸 (鎮痛薬) * 1899年に代表的鎮痛薬アスピリンが市販された (バイエル社). クロロホルム, エーテル (麻酔薬) 亜硝酸アミル (血管拡張薬) NHCOCH3 CO2H CO2H OH O CH3 O アセトアニリド サリチル酸 アセチルサリチル酸 (アスピリン) 19世紀後半に純粋な医薬品の製造が始まった! 医薬品(創製)の歴史; 20世紀;創薬化学の時代 薬理学の進歩 受容体(薬物の生体に おける受け皿)の概念 (J. Langley) 有機化学の進歩 合成法の開拓 反応剤創製 単離・精製技術向上 分析技術の向上 生化学の進歩 DNAの構造解明 遺伝子組み換え技術 創薬化学(Medicinal Chemistry)の発展 純合成医薬品の創製 天然物誘導体の創製 医薬品(創製)の歴史; 20世紀;創薬化学の時代 人体のメカニズムと病気の 発症機構に基づいて論理的 に薬を作る機運が高まる!! 偶然の発見からの脱却 (モルヒネ,抗生物質) 成功例 シメチジン(ヒスタミンH2受容体拮抗薬; 消化性潰瘍薬) カプトプリル(ACE阻害剤; 高血圧治療薬) 完全に理論だけで医薬品はできるか? No! 論理的に薬を作る下地は整ってきた.しかし,今でもまだ論理的に医薬 品は創製できず,創薬化学者の豊富な経験と勘に頼る部分が多い! 医薬品(創製)の歴史 創薬化学研究の現在・未来 21世紀;周辺科学の粋を取り込んだ統合創薬化学 ゲノム化学 遺伝子 治療技術 従来の 創薬化学 ハイスループット スクリーニング 組み換えDNA技術 再生医療 進化した 創薬化学 コンビナトリアル ケミストリー 本日の講義内容 SBO19 医薬品開発の標的となる代表 的な生体分子を列挙できる. 医薬品開発の標的となる代表的な生体分子 酵素,受容体,イオンチャネル,トランスポーター,核酸等 これまでの創薬におい ては,個々の疾病の発症 や進展に重要な内因性リ ガンドが作用する部位と しての酵素,受容体,イ オンチャネル等が主要な ターゲットであり,多く の成功を収めてきた. GPCRのX線結晶構造解析は極めて困難であった。しかし、ごく最近、複数 のGPCRの構造が解かれ出した(2012年ノーベル化学賞) ムスカリンM2受容体 アデノシン受容体 ヒスタミンH1受容体 11 医薬品開発の標的となる代表的生体分子;酵素 酵素は生体内触媒であり,基本は蛋白質である.酵素の触媒する 反応自体は有機化学反応である. 酵素は基質と反応剤を好適な位置関係に取り込む能力があり,効 率的な反応場(基質結合部位;そこで反応が起こる場合には活性部 位)を形成している基質結合部位の立体構造は各酵素特有である ため,基質特異性を有することになる. 酵素を標的とする薬物にはその機能を妨害する酵素阻害剤が圧倒 的に多い.その阻害機構は可逆的阻害と不可逆的阻害に二分され, 可逆的阻害は様式からは競合的阻害,非競合的阻害,不競合的阻 害に分別される.しかしこの三様式は必ずしも厳密ではない. 酵素阻害剤の例;抗高血圧薬カプトプリル ノバルティス ファーマ(株)が2009年10月高血圧治 療薬、直接的レニン阻害剤「ラジレス®錠150mg」 (一般名:アリスキレンフマル酸塩)を発売。「ラジレ ス」は、レニンを直接的に阻害する、新規作用機序 を持つ高血圧治療薬としては10余年ぶりに承認さ れた薬剤。 酵素阻害剤の例;抗高血圧薬カプトプリル Asp-Arg-Val-Tyr-Ile-His-Pro-Phe-His-Leu-Val-Ile-His----(452AA) アンジオテンシノーゲン レニン Asp-Arg-Val-Tyr-Ile-His-Pro-Phe-His-Leu (10AA) アンジオテンシンI アンジオテンシン変換酵素(ACE) (亜鉛含有エンドペプチダーゼ) Asp-Arg-Val-Tyr-Ile-His-Pro-Phe (8AA) アンジオテンシンII Glu-Trp-Pro-Arg-Pro-Gln-Ile-Pro-Pro (テプロタイド) ペプチド性AII阻害剤 H3C CH3 O O N H HN O 基質 O HO COOH N HS COOH スクシニルプロリン O N COOH カプトプリル 酵素阻害剤の例;抗高血圧薬カプトプリル創製の思考過程 酵素阻害剤の例;カプトプリルの複合体構造 2004年にNatesh等のグループにより,カプトプリルと ACEとの複合体X線結晶構造がついに解かれた. 医薬品開発の標的となる代表的生体分子;受容体 受容体には 1)転写因子型受容体, 2)酵素型受容体, 3)G蛋白質共役型受容体, 4)チャネル型受容体の4種類が存在する. 全ての受容体には それぞれ特異的なリガンドに結合する部位が存在する. 1)転写因子型受容体 核内受容体(GR、ER、AR,RAR、PPAR等) 2)酵素型受容体 インスリン受容体、EGFR、PDGR等 3)G蛋白質共役型受容体 ムスカリン受容体、ヒスタミン受容体等 4)チャネル型受容体 GABA受容体、グリシン受容体等 受容体標的薬の例;核内受容体アゴニスト,アクトス O O Cl O Cl OEt OH O O Clofibrate (高脂血症薬) 油状物質、 結晶性誘導体化 O O OEt OEt Cl O O Cl Cl AL-294 (KKAy マウスのT G と 血糖値を と もに下げ た) O O S NH O Ciglitazone 初代開発候補化合物 (PhIIdrop) O R O S O NH O N O S NH O Pioglitazone 最終開発候補化合物 (candidate) 18 グリタゾン類の評価法の変遷;vivoからvitroへ チアゾリジンジオン類のPPARγ転写活性とin vivo 血糖降下作用には正の相関が認められる! transactivation binding in vivo PPARg EC50 PPARd EC50 PPARg (% displace) MED (mmol/kg) (M) (M) No. PPARa EC50 (M) 1b 51 600 ia 56 2 80 110 ia 86 3 ia 3 ia 81 4 ia 13 ia 89 5 ia 0.69 ia 90 300 6 ia 0.06 ia 89 3 7 ia 1 ia 79 300 8 ia 0.19 ia 85 300 9 ia 0.14 ia 80 300 10 ia 0.013 ia 93 3 11 ia 10 ia 83 ia @ 1000 3000 動物を用いた実験から、分子生物学的方法に 一次スクリーニングを変えることが可能となった。 35 ロシグリタゾン類の複合体構造 1998年にグラクソ社からPPARγリガンド結合領域(PPARの機能を有 する一部構造),ロジグリタゾン,SRC-1(コアクチベータ)フラグメント からなる複合体のX線結晶構造解析結果が報告された. 医薬品開発の標的となる代表的生体分子;核酸 多くの医薬品は蛋白質に作用するが,DNA等核酸に直接作用 して複製,転写,翻訳の各過程を阻害することで細胞の増殖や 分裂を阻害するという薬理効果を示す医薬品も存在する. 核酸標的医薬は二種類 1) 代謝拮抗、酵素阻害DNAやRNAの合成を阻害する医薬 2) 核酸分子に対してアルキル化や鎖切断を行なう医薬 核酸を標的とした医薬の例;シスプラチン Cl Cl Pt H3N NH3 開発経緯 シスプラチンは、1845年に錯体の研究材料として合成された。1965年 B.Rosenbergらは電場の細菌に対する影響を調べている時に偶然白金電極 の分解産物が大腸菌の増殖を抑制し、フィラメントを形成させるのを発見した。 その後1969年には癌細胞の分裂抑制に対する研究が行われ、動物腫瘍にお いて比較的広い抗腫瘍スペクトルを有する物質であることが判明した。 1972 年にはアメリカ国立癌研究所の指導で臨床試験が開始されたが、強い腎毒性 のためいったん開発が中断された。しかしその後シスプラチン投与時に大量 の水分負荷と、さらに利尿薬を使用することによって腎障害を軽減することが 可能となった。その後の臨床開発により、1978年にカナダ、アメリカ等で承認 され、1983年に日本で承認された。 核酸医薬の例;シスプラチンのメカニズム シスプラチンはDNAのグアニン,アデニンのN-7位に結合す る.2つの塩素原子部位でDNAと結し,DNA鎖内に架橋が形 成される.シス体に比べトランス体は架橋が形成されにくい ため,活性は弱く,投与量の制限によりトランスプラチンは 臨床的には用いられていない. 古典的な医薬品開発から理論的な 創薬への歴史について説明できる SBO18 医薬品(創製)の歴史 古代・中世には薬用植物が主に用いられていた. 19世紀末に 合成医薬品の創製が始まる. 現在用いられている医薬品の 大半は20世紀後半の,ここ50年位の間に創製された. 創薬化学研究の現在 21世紀の創薬化学は,周辺科学の粋を取り込んだ統合創薬 化学の様相を呈している. 2.5万化合物に1つ薬にな るかどうか! (2008年) SBO19 医薬品開発の標的となる代表 的な生体分子を列挙できる。 生体が健常な機能を維持(ホメオスタシス)するのに酵素,受容 体,イオンチャネル,トランスポーター,核酸等生体分子が重要な機能 を担っておりその機能変調が疾患に直結する!! 20世紀までの創薬においては,個々の疾病の発症や進展に重要 な内因性リガンドが作用する部位としての酵素,受容体,イオ ンチャネル等が主要なターゲットであり,多くの成功を収めて きた. お ま け 武田薬品工業(株)における各部門トップの多国籍化 平手晴彦 Haruhiko Hirate コーポレート・コミュニケーションズ&パブリックアフェアーズ オフィサー コーポレート・コミュニケーション部長 ナンシー・ジョセフ=リッジ Nancy Joseph-Ridge, M.D. 医薬開発本部長 マーク・プリンセン Marc Princen EUCAN ビジネス ユニット プレジデント 廣内忠雄 Tadao Hirouchi 医薬営業本部 副本部長 ダグラス・コール Douglas Cole US ビジネス ユニット プレジデント デイビッド・オズボーン David Osborne グローバル HR オフィサー 丸山哲行 Tetsuyuki Maruyama 医薬研究本部長 中川仁敬 Yoshihiro Nakagawa グローバル ジェネラル カウンセル クリストフ・ビアンキ Christophe Bianchi グローバル オンコロジー ビジネス ユニット プレジデント ラジーヴ・ヴェンカヤ Rajeev Venkayya グローバル ワクチン ビジネス ユニット プレジデント ジャイルズ・プラットフォード Giles Platford エマージング マーケッツ ビジネス ユニット プレジデント トーマス・ウォスニフスキー Thomas Wozniewski グローバル マニュファクチャリング&サプライ オフィサー ジェラード・グレコ Gerard Greco グローバル クオリティ オフィサー ムワナ・ルゴゴ Mwana Lugogo グローバル コンプライアンス オフィサー タミフルの分子標的 ノイラミニダーゼは、ウイルスが 宿主細胞から遊離する際に必要 で、宿主細胞内で増殖したウイ ルスは、ノイラミニダーゼにより、 ウイルスの赤血球凝集素(HA) と宿主細胞のウイルス受容体と の結合を外す。 タミフルは、ウイルスのノイラミ ニダーゼ(NA)を阻害し、宿主細 胞内で増殖したウイルスが、宿 主細胞外への遊離を抑制し、イ ンフルエンザウイルスの増殖を 抑制する。 オセルタミビルはスイスロシュ社により商品名タミフルで販売。日本ではロシュグループ傘 下の中外製薬が製造輸入販売元。A型、B型インフルエンザに作用。C型には効果がない。 トリインフルエンザはA型、H5N1型の高病原性トリインフルにもある程度有効。 オセルタミビルは従来、香 辛料に使われるトウシキ ミの果実である八角から 採取されるシキミ酸から 合成されていた。しかし、 シキミ酸の供給量は限ら れたものであり、オセルタ ミビルをより大量に得るた めには入手容易な原料化 合物を用いた全合成を行 う必要がある。 国内予防試験で発現した主な有害事象(2%以上) 有害事 象 リン酸オセルタミビル(n=155) 腹痛 18(11.6%) 下痢 13(8.4%) 頭痛 11(7.1%) 嘔気 9(5.8%) 嘔吐 7(4.5%) 腹部膨 満 6(3.9%) ・オセルタミビル投与後の耐性ウイルスに関しては、耐性ウイルスの出現率は、 1.4%とされる(成人及び青年では0.34%、小児では4.5%)。 柴崎正勝ら(東大名誉教授)による純化学合成 全合成を行う場 合、分子内に3か 所存在する不斉 点をどのように導 入するかが問題 となる。柴崎法で はアジリジン 6 の不斉開環反応 (f) が鍵反応と なっている。 柴崎正勝ら(微化研)による第四世代化学合成 林雄二郎ら(東北大院理)によるポットエコノミー合成 Synthesis of (–)‐Oseltamivir by Using a Microreactor 33 タミフルを超えた? イナビル(R)吸入粉末剤20㎎ (第一三共) 純国産の長時間作用型ノイラミニダーゼ阻害剤で、本剤による治療は1回で完結します。 また、オセルタミビルの5日間投与と同等の効果を示します。 一般名:ラニナミビルオクタン酸エステル水和物、製造販売承認取得日:本年9月10日、 薬価基準収載日:本年10月4 日 Yamashita, M. et al. 2009. Antimicrob. Agents Chemother. 53(1):186-192 34 タミフルを超えた? イナビル(R)吸入粉末剤20㎎ (第一三共) Roche社 タミフル Biota社(GSK) リレンザ 第一三共 (Biota社との共同研究) イナビル(R) Yamashita, M. et al. 2009. Antimicrob. Agents Chemother. 53(1):186-192 35 タミフルを超えた? イナビル(R)吸入粉末剤20㎎ (第一三共) イナビル(R) (プロドラッグ) イナビル ラニナミビル コントロール リレンザ ラニナミビル(活性本体) In vivo efficacy of CS-8958 and R125489 in a mouse influenza virus infection model. Influenza A virus A/PR/8/34- infected (500 PFU, 0 h) mice were given 0.2 µmol/kg of CS-8958 (filled squares), R-125489 (open squares), zanamivir (filled circles), and saline (open circles) at 4 h before infection and 4 h and 18 h p.i. The dose of 0.2 µmol/kg corresponded to 95, 69, and 66 µg/kg for CS-8958, R-125489, and zanamivir, respectively. The number of surviving mice was monitored for 20 days p.i. (n = 10).
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