電気化学インピーダンス測定による表面・界面の解析

日本金属学会誌 第 78 巻 第 11 号(2014)419
425
特集「分析・解析法の多面的アプローチ―表面・界面現象の解明を例にして―」
オーバービュー(解説論文)
電気化学インピーダンス測定による表面・界面の解析
片山英樹
独立行政法人物質・材料研究機構材料信頼性評価ユニット腐食解析グループ
J. Japan Inst. Met. Mater. Vol. 78, No. 11 (2014), pp. 419
425
Special Issue on Multiple Approach for Analysis of the Surface and Interface Phenomena
 2014 The Japan Institute of Metals and Materials
OVERVIEW
Surface and Interfacial Analysis Using Electrochemical Impedance Measurement
Hideki Katayama
Corrosion Analysis Group, Materials Reliability Unit, National Institute for Materials Science, Tsukuba 3050047
Fundamentals of an electrochemical impedance measurement were reviewed. The impedance characteristics under charge
transfer control and under diffusion control, and their equivalent circuits are described. Analytical method using the Nyquist plot
and the Bode plot for typical impedance spectra was explained. In addition, a change in impedance behavior for CPE (constant
phase element) parameter, which is often used in equivalent circuit modeling and data fitting of electrochemical impedance data,
was represented. In the latter of this paper, research reports for degradation estimation of steel materials used for infrastructure
using an electrochemical impedance measurement were provided. The degradation of organic coated steels, the structure of thermally sprayed coating exposed to outdoors for a long term, and the corrosion performance of reinforcing steel bars in concrete
were estimated by electrochemical impedance method. [doi:10.2320/jinstmet.JB201402]
(Received June 2, 2014; Accepted June 26, 2014; Published November 1, 2014)
Keywords: electrochemical impedance, organic coating, thermally sprayed coating, reinforcing steel bar, corrosion
の電気回路素子の組合せ(等価回路)により表すことができ,
は じ
1.
め に
これらの電気的な情報を得ることによって,金属/水溶液界
面の物性や反応に関する知見を得ることができる.たとえ
電気化学インピーダンス法は,対象とする電極に微小な正
ば,電気化学反応において電荷移動過程が律速する場合,そ
弦波交流を与え,その伝達関数としてインピーダンス(また
の等価回路は Fig. 1(a)で表すことができる.ここで,Rc は
はアドミッタンス)を求めることにより電極反応機構などを
電荷移動抵抗,Cdl は電気二重層容量,Rs は溶液抵抗である.
解析する非定常測定法の一つである.インピーダンスの測定
Fig. 1 ( a )の等価回路において,微小振幅(通常< 10 mV )の
は,古くは波形の直接観察により行われ,測定時間および測
正弦波交流電圧が印加されると,金属/水溶液界面での電気
定結果のデータ整理に時間がかかるという欠点があったが,
二重層(コンデンサー)の存在から,印加した電圧の周波数に
エレクトロニクスの進歩により広い周波数範囲でのインピー
よって異なる振幅および位相差をもつ電流応答が得られる.
ダンス測定を短時間で精度良く測定できる周波数応答解析器
すなわち,インピーダンスは絶対値|Z|と位相差 u によって
( FRA: Frequency Response Analyzer ) が 普 及 し , さ ら に
特徴づけられ,さらに測定系に周波数の異なる交流を与える
PC 制御によって測定が容易になり,その理論や応用はすで
ことで周波数に対する特性も得ることができる. Fig. 1 ( a )
に多くの研究者によって総説されている16).
の等価回路のインピーダンス Z は,式( 1 )で与えられる.
本稿では,電気化学インピーダンス測定の基礎について概
Z=Rs+Rc/(1+jvRcCdl)
(1)
説するとともに,急速な老朽化が問題となっているインフラ
ここで, j は複素数, v (= 2p f, f は周波数)は角周波数であ
構造物関連材料の評価・解析に電気化学インピーダンス測定
る.今,高周波数の正弦波交流電圧を印可すると,コンデン
を適用した例について紹介する.
サーのインピーダンス( 1 / vCdl )は非常に小さくなるため電
流は Cdl 側に流れ,全体のインピーダンスは Z≒Rs となる.
電気化学インピーダンス測定の基礎
2.
2.1
等価回路
電気化学インピーダンス法では,基本的に金属/水溶液界
面およびそこで起こる現象をすべて電気的回路に置き換えて
解析を行う.電気的回路は抵抗,コンデンサー,コイルなど
一方,低周波数になると,コンデンサーのインピーダンスは
無限大となり,電流は Rc 側を流れ,全体のインピーダンス
は Z≒Rc+Rs となる.これを利用して,2 周波数のインピー
ダンスから腐食速度のモニタリングなどを行う研究報告も少
なくない.
一方,溶液内での物質の拡散が関与する場合には,拡散の
420
第
日 本 金 属 学 会 誌(2014)
78
Fig. 2
(a).
Nyquist plot for the equivalent circuit shown in Fig. 1
Fig. 3
Bode plot for the equivalent circuit shown in Fig. 1(a).
巻
Fig. 1 Typical equivalent circuits: (a) under charge transfer
control and (b) under diffusion control.
インピーダンスである Warburg (ワールブルグ)インピーダ
ンス ZW が等価回路に入り Fig. 1(b)のようになる.ZW はフ
ィックの拡散の第二法則から式( 2 )で与えられる.
ZW=sv-1/2-jsv-1/2
(2)
ここで,s は Warburg 係数であり式( 3 )で表される.
s={RT/21/2nF }{1/(D1O/2cO)+1/(D1R/2cR)}
(3)
DO と DR はそれぞれ酸化体,還元体の拡散係数,cO と cR は
それぞれ酸化体,還元体のバルク濃度を表す.また,R は気
体定数,T は絶対温度,n は電気化学反応に関与する電子数,
F はファラデー定数である.
2.2
インピーダンス特性とその表示法
電気化学インピーダンスの表示法としては,一般にナイキ
スト線図(Nyquist plot)およびボード線図(Bode plot)が用い
られる.ナイキスト線図は複素平面上に横軸にインピーダン
スの実数成分,縦軸に虚数成分を表示する方法であり,Fig.
1(a)の等価回路で Rc=1 kQ, Rs=50 Q, Cdl= 10 mF のときの
インピーダンスの計算結果をナイキスト線図で示すと Fig. 2
きる.また,位相差を示すグラフにおいて,時定数 1 個に
のように図示される.これは式( 1 )を実数部 Re |Z |と虚数
対し,基本的には 1 個の極小値がみられる.
部 Im | Z |に分け各周波数でのそれぞれの値を計算しプロッ
一方,拡散が関与する Fig. 1(b )の等価回路で表せるイン
トしたものである.このように 1 つの時定数( RcCdl)に対し
ピーダンスをナイキスト線図で表したものが Fig. 4 であ
て 1 つの半円が描ける.実軸上の切片から Rs(高周波側),
る.拡散が関与する場合,低周波数域のインピーダンスに傾
Rs+ Rc (低周波側)となり,半円の半径から電荷移動抵抗 Rc
き 45°
の直線部があらわれるという特徴がある.図に示すよ
を,また半円の頂点(虚数部が極大を示す)の周波数 v(=1/
うに高周波数領域の半円から Rs, Rc, Cdl が求められ,低周
RcCdl)から Cdl を決定できる.
波数領域にあらわれる直線が実軸と交わる切片から
ボード線図は横軸に周波数 f の対数,縦軸にインピーダン
Warburg 係数 s が求められる.式( 2 )で表される拡散のイ
スの振幅と位相差を表示する方法であり,Fig. 2 と同じパラ
ンピーダンスは,拡散層が時間とともに無限に成長するとい
メータで同様にボード線図に示すと Fig. 3 のようになる.
う条件で導出されているが,現実には自然対流などがあり,
前述したように,高周波数領域で周波数依存しないインピー
拡散層の厚さは有限の値をとる. Fig. 1 ( b )において,有限
ダンスから溶液抵抗,低周波数領域で周波数依存しないイン
拡散の場合のインピーダンスは Fig. 4 中の低周波数領域に
ピーダンスから溶液抵抗と電荷移動抵抗の和を得ることがで
見られる点線で表される.
11
第
Fig. 4
(b).
号
電気化学インピーダンス測定による表面・界面の解析
421
Nyquist plot for the equivalent circuit shown in Fig. 1
Fig. 6 Bode plot for the equivalent circuit using CPE constant
instead of Cdl in Fig. 1(a).
面での反応速度分布,電流分布,液組成の不均一性など諸
説913)あるが,未だ明らかではない.
評価・解析例
3.
Fig. 5 Nyquist plot for the equivalent circuit using CPE constant instead of Cdl in Fig. 1(a).
3.1
塗装金属の劣化評価
塗膜にピンホールなどの巨視的な欠陥がない塗装金属にお
いて,塗膜の劣化は塗膜の電解質透過から始まり,塗膜/下
2.3
地金属界面での水層の形成,塗膜下腐食の発生,塗膜剥離部
実際の測定系におけるインピーダンス
の拡大という過程をたどる14,15)ことが知られている.このと
これまでは等価回路を元に計算で得られたインピーダンス
きのインピーダンス特性は,一般に Fig. 7 に示すような等
について図示したが,実際の測定では Fig. 2 や Fig. 4 のよ
価回路(( a )健全な塗膜,( b )劣化しつつある塗膜の等価回
うな真円の容量性半円ではなく,実数軸方向につぶれた形を
路)で表せることが報告されている14).健全な塗膜から塗膜
示す場合が多い.このようなインピーダンスに対し,各パラ
劣化が進行すると,等価回路の各回路定数は変化し,たとえ
メ ー タ の 値 を 決 定 す る た め に は , CPE ( Constant Phase
ば,塗膜の電解質透過が始まれば塗膜の静電容量 Cf の増加
Element)を含む等価回路7,8)を用いてカーブフィッティング
や塗膜の抵抗 Rf の低下が起こる.さらに塗膜劣化が進行
やデータ解析を行う必要がある. CPE のインピーダンス
し,塗膜剥離や塗膜下腐食が発生すると,等価回路において
ZCPE は, CPE 定数 Q と CPE 指数 n を用いて式( 4 )のよう
塗膜/下地金属界面の電気二重層容量 Cdl や下地金属の腐食
に表される.
抵抗 Rc を考慮する必要が出てくる.さらに塗膜剥離が広が
ZCPE=1/{( jv)n・Q}
(4)
ると, Cdl は面積に比例する値であることから Cdl の値は増
ここで n は 0 から 1 の値をとり, n = 1 のとき ZCPE はコン
大する.なお,(b)の回路は塗膜下腐食のアノードふくれ部
デンサーのインピーダンスと同じになり,式( 4 )において
に対応しており,カソードふくれ部では拡散のインピーダン
Q は C と等しくなる. Fig. 5 および Fig. 6 に Fig. 1 ( a )の
スが Rc に直列に入る等価回路となる15).
Cdl を Q としたときの全体のインピーダンスをナイキスト線
巨視的欠陥のないアルキド・クリア塗装 Al 板について,
図およびボード線図で示す.ナイキスト図において,n の値
つくばで屋外暴露試験を行った後の電気化学インピーダンス
が小さくなるにつれて半円がつぶれた形に変化するのがわか
測定結果16) を Fig. 8 に示す.インピーダンスの測定は 0.5
る.一方,ボード線図上では,中間周波数域における傾き
M NaCl 水溶液中に十分浸漬した後に 100 kHz から 10 mHz
log | Z |/ log f が小さくなり,位相差では極小値が小さくな
の周波数範囲で行った.周波数に対するインピーダンスの特
る.なお, CPE が生じる原因については,表面の粗さや表
性において, 92 日後までは 1 つの時定数しかみられないの
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日 本 金 属 学 会 誌(2014)
第
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巻
に対し,183 日後以降では高周波部と低周波部に 2 つの異な
る.ここで,低周波数側で周波数依存しない(たとえば,
る時定数をもつインピーダンスがみられる.これらのイン
100 mHz)インピーダンスは塗膜の抵抗 Rf に対応し(実際に
ピーダンス特性は,Fig. 7 に示した等価回路であらわすこと
は溶液抵抗 Rs が含まれるが Rf≫ Rs であるためほぼ Rf に等
ができ,暴露試験前および 92 日後のインピーダンスは( a )
しい), 92 日後では塗膜抵抗がおよそ 1/10 に低下すること
の等価回路,それ以降は( b )の等価回路で表すことができ
がわかる.一方,183 日後および 425 日後の試料のインピー
ダンスにおいて,高周波数側は劣化した塗膜のインピーダン
ス,低周波数側は塗膜/金属界面のインピーダンスに対応す
る.また,中間周波数で周波数依存しないインピーダンスの
絶対値は塗膜抵抗 Rf′に相当し(Rf′
≫Rs),425 日後の試料で
は暴露試験前に対して塗膜の抵抗がおよそ 1/1000 に低下す
ることがわかる.また,低周波数領域において塗膜/金属界
面のインピーダンスが見られることから,暴露試験 183 日
以降では塗膜/金属界面で塗膜剥離が生じていることが示唆
される.
3.2
金属溶射材料の皮膜構造の評価
約 33 年間,大気暴露試験(日本ウェザリングテストセン
ター( JWTC)の銚子暴露試験場)された Zn, Al および ZnAl
の金属溶射材料(封孔処理無し)について,溶射皮膜の構造お
よび特性を電気化学インピーダンス測定と断面観察・分析に
より評価・解析した17) .電気化学インピーダンス測定は一
般的な 3 電極系で行い,印可電圧を 10 mV ,周波数範囲を
100 kHz から 10 mHz として, 0.1 M NaCl 水溶液中で行っ
Fig. 7 Equivalent circuits: (a) for the nondeteriorated area
of coated steel and (b) for the degraded coated steel.
た.オリジナルの皮膜厚さが 100 mm の金属溶射材料につい
て,電気化学インピーダンス測定を行った結果および断面観
株 製, JXA 
察・EPMA 分析結果(日本電子
8900R)を Fig. 9
および Fig. 10 に示す.
Fig. 8 Experimental Bode plots for alkydclear coated aluminum exposed to outdoors in Tsukuba.
Fig. 9 Impedance characteristics of Al, Zn and ZnAl thermally sprayed coating after exposure test in Choshi for about 33
years.
第
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号
電気化学インピーダンス測定による表面・界面の解析
423
Fig. 10 Backscattered electron image of Al, Zn and ZnAl thermally sprayed coating and the distribution of Cl and S obtained by
EPMA on the crosssection perpendicular to the front surface.
3.2.1
Al 溶射皮膜の構造
Al 溶射皮膜のインピーダンスには, 1 つの時定数のみが
観察されており, Fig. 1 ( a )に示した Randles 型の等価回路
で表すことができる.実線はその等価回路をもとに計算した
結果であり,測定結果と計算結果がよく一致していることか
ら,等価回路の妥当性が確認できる.また,計算で得られた
Al 溶射皮膜上の腐食抵抗は金属 Al の腐食抵抗と比較して非
常に大きな値を示していることから,長期腐食試験後の Al
溶射皮膜上には Al の酸化物が形成されていると考えられ
る.断面分析においては皮膜表面に特に酸化物層は認められ
なかったものの,環境側からの侵入元素と考えられる Cl や
S の侵入程度が低いことから,間接的ではあるが, Al 溶射
皮膜上には Al 酸化物が形成されこれにより高い耐食性を示
すものと考えられる.
3.2.2
亜鉛溶射皮膜の構造
Al 溶射皮膜の時定数が 1 つだったのに対し,亜鉛溶射皮
膜のインピーダンスでは 2 つの時定数が観察された.断面
分析の結果,亜鉛溶射皮膜上には 10 mm から 20 mm 程度の
厚さの亜鉛の腐食生成物が形成されているおり,また,飛来
海塩に由来すると考えられる S および Cl が腐食生成物下層
Fig. 11 Electrical equivalent circuits employed to metal
covered with film having defects.
にほぼ均一に濃化していることが確認された.
皮膜を有する金属で皮膜中に欠陥が存在する場合,一般に
Fig. 11 に示すような等価回路で表せることが知られてい
ポーラスな亜鉛の腐食生成物が形成されると報告しており,
る.これらの等価回路をもとに,得られた測定データに対し
環境等は違うものの本結果を指示するものである.
てカーブフィッティングを行った結果,亜鉛溶射皮膜のイン
3.2.3
Zn30Al 溶射皮膜
ピーダンスは Fig. 11(a)に示す等価回路で表せることがわか
Zn 30Al(以下, ZnAL)溶射皮膜のインピーダンススペク
った.ここで,等価回路を決定する上でポイントとなるの
トルでは,亜鉛溶射皮膜と同様に 2 つの時定数が確認され
は,腐食生成物層が比較的薄く,また S および Cl が腐食生
た.これについては,断面観察において皮膜表面から内部に
成物下層にほぼ均一に分布していた点である.これは,腐食
かけて皮膜の酸化が進行し,全体として 2 層構造になって
生成物が溶射皮膜の腐食を抑制しているものの,完全に保護
いることに対応する.しかしながら,周波数に対する位相差
しているのではなく,例えば,電解質溶液があれば容易に浸
の変化は亜鉛溶射皮膜と明らかに異なっており,異なる等価
透し溶射皮膜まで達する可能性があることを意味する.亜鉛
回路が予想できる.得られた測定データに対してカーブフィ
の腐食生成物の構造について, Mouanga ら18) は NaCl 水溶
ッティングを行った結果,ZnAL 溶射皮膜のインピーダンス
液中での純亜鉛の腐食挙動について調査を行い,純亜鉛上に
は Fig. 11 ( b )に示す等価回路で表せることがわかった.こ
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日 本 金 属 学 会 誌(2014)
第
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の違いについては,腐食生成物の構造の違いに起因すると考
法が有効であることが示されており,特に電気化学インピー
えられる.
ダンス法は耐食性に対する非破壊評価法の一つとして,利用
腐食生成物層の厚さについては,断面観察から亜鉛溶射皮
されている4,22,23).
膜と比較してかなり厚い腐食生成物層が形成されていること
金らはモルタル中の腐食過程における炭素鋼の腐食メカニ
がわかる. ZnAL 溶射皮膜では 50 mm 厚さの溶射皮膜でも
ズムを明らかにするために,乾湿繰り返しにより模擬構造体
下地からの赤さび発生が観察されていないことから,厚い腐
の腐食試験を行い,電気化学インピーダンス法により炭素鋼
食生成物層が外からの腐食性因子の侵入を物理的に抑制して
の腐食を評価した.腐食試験には 3 NaCl 水溶液を用い,
いると考えられる.しかしながら,完璧なバリア層として機
インピーダンスの測定は浸漬過程の際に測定された. Fig.
能しているわけではなく,溶射皮膜層と腐食生成物層間の剥
12 は塩化物を含まないモルタル(かぶり厚 5 mm )に埋め込
離や腐食生成物層中の細かい割れが観察されている.結果と
んだ炭素鋼について,インピーダンス測定を行った結果(ナ
して, Zn100 ほど多くはないものの酸化物層の下部に Cl や
イキスト線図)である24).2 サイクル後から 14 サイクル後で
S が分布しているのが確認されている.特に S の分布を見る
は半円は 1 つであり,その半円の直径は大きく低下した.
と,亜鉛溶射皮膜において比較的均一に分布していたのに対
45 サイクル以降では,半円の直径はさらに小さくなり,ま
し,局部的に濃化しているのが観察される.すなわち,
ZnAL 溶射皮膜では,クラックなどの局部的に弱い部分が存
在する厚い腐食生成物層で覆われる構造であることを示すも
のと考えられる.
3.3
鉄筋コンクリート中の鉄筋の腐食評価
鉄筋コンクリート中の鉄筋は,初期は通常,アルカリ環境
になっており19) 不働態化している.しかしながら,コンク
リートの中性化や塩化物などの影響によりコンクリート中の
鋼材が腐食し,コンクリート構造物のひび割れ等の原因にな
るといわれている.コンクリート中の鋼材の耐食性について
は,腐食電位測定20) や分極抵抗測定21) などの電気化学的手
Fig. 12
Fig. 13 Proposed equivalent circuit for steel rebar in
mortar.24,25)
Experimental Nyquist plots and the curve fitting for carbon steel in chloridefree mortar, mortar thickness: 5 mm.24)
第
11
号
電気化学インピーダンス測定による表面・界面の解析
た,低周波数領域に拡散によるワールブルグインピーダンス
が確認された.これらのインピーダンスに対するカーブフィ
ッティングから,モルタル中の鉄筋の等価回路が Fig. 13 で
説明できることがわかった.この等価回路については,阪下
ら25) が塩水浸漬による腐食試験で行った研究においても同
じ等価回路が示されており,その妥当性は高いと考えられる.
4.
お わ
り に
本稿では,電気化学インピーダンス測定の基礎について概
説するとともに,電気化学インピーダンス測定による実際の
適用例としてインフラ構造物に着目し,塗装金属の劣化評
価,金属溶射材料の皮膜構造の評価,鉄筋コンクリート中の
鉄筋の腐食評価に関する研究例を紹介した.
インピーダンスの測定は,エレクトロニクスの進歩ととも
に非常に簡単に測定できる電気化学測定法の一つとなり,現
在では測定から解析までほぼソフトウェアのみで行うことが
できる.実際の系におけるインピーダンスは複数の円やつぶ
れた円など複雑な形になることが多いが,条件を変えた測定
や他の電気化学測定,表面観察などと併用することで詳細な
解析が可能となる.本稿が電気化学インピーダンス測定や解
析を行う際の一助となれば幸いである.
文
献
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