(速報)ISSが2016年版の議決権行使助言方針

EY Institute
13 January 2016
シリーズ:成長戦略としてのコーポレートガバナンス
(速報)ISS が 2016 年版の議決権行使助言方針
(ポリシー)を発表
執 筆 者
EY 総合研究所では、
「シリーズ:成長戦略としてのコーポレートガバナンス」とし
て関連する情報を発信している。本稿では最新のトピックスについて紹介・解説する。
議決権行使助言の世界最大手 ISS(Institutional
Shareholder Services Inc.)は
1 月 8 日、2016 年版の日本向け議決権行使助言方針を発表した(以下、新ポリシー)※ 1。
新ポリシーは 2016 年 2 月 1 日から施行される。
これに先立って ISS は、昨年 10 月 27 日から 11 月 9 日まで日本向けポリシーの
改定に関するオープンコメントを募集、その際にポリシーの改定案が示されている※ 2。
藤島 裕三
EY 総合研究所株式会社
未来経営研究部長
主席研究員
従来のポリシーからの変更点について一覧すると下表の通り。
議案
剰余金処分
① 資本金の減少について原則反対とする解説文を削除
取締役選任
② 監査等委員会設置会社の基準を不動産投資法人(REIT)の役員選任に準用
③
<専門分野>
• コーポレートガバナンス
• 敵対株主対応
• IR
EY 総合研究所株式会社
03 3503 2512
[email protected]
最低 2 人の社外取締役がいない場合(従来は社外取締役が 1 人もいない場
合)、経営トップに反対
④ 監査(等)委員会の出席率が 75% 未満の監査(等)委員に反対
⑤「経営権の争いがある場合」に関するポリシーを新設
定款変更
買収防衛策
Contact
変更内容
⑥
指名委員会等設置会社への移行(原則賛成)につき、例外とする要件(独立
取締役が 1 名もいない場合)を削除
⑦
自社株式取得の取締役会授権につき、原則反対から個別判断にスタンスを変
更(株主提案が排除される場合は反対)
形式審査の条件を厳格化(独立取締役の割合を 20% から 1/3 に引き上げ、
⑧ 特別委員会メンバーの要件に法定の社外役員であることを追加、招集通知を
4 週間前にウェブ開示することを要求)
⑨
個別審査の条件に、どのように買収防衛策が株主価値向上施策の実行に役立
つかを説明することを追加
⑩ 株主価値向上施策などの説明を招集通知で行うことを要求
出典:2015・2016 年版 ISS ポリシーより EY 総合研究所作成
表中の③と⑧については、上述したポリシー改定案ですでに明らかにされている※ 3。その他、改
定案には含まれていなかった変更内容の中でも、特に重要だと考えられるものとして、取締役選任
の⑤および定款変更の⑦が挙げられる。
⑤「経営権に争いがある場合の取締役選任」に関しては従来、株主提案に対するポリシーとして「個
別判断する」としていたが、今回の変更で取締役選任について明確化された。具体的には次の観点
が示されている。
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同業種他社と比較した、長期で見た会社の経営成績
現経営陣の実績
経営権に争いが生じた背景
候補者の経歴・資格・資質
株主が提案する経営戦略および現経営陣に対する批判の妥当性
両サイド(現経営陣および提案株主)の提案の実現可能性
これまでわが国における株主提案は、総会屋はじめ特殊株主が経営陣に揺さ振りをかける目的で
行われるものと見なされる傾向が強く、ISS も個別判断として反対推奨することが多かったと見ら
れる。しかし最近では、資本効率やコーポレートガバナンスに問題のある企業を対象とした、企業
価値および株主共同の利益に資する提案内容も珍しくなくなってきた。ISS が新ポリシーで個別判
断の基準を明確にした背景としては、資本市場において「正当な株主提案」が受け入れられる時代
が到来しつつあることが指摘できる。
昨年まで⑦「自社株式取得の取締役会授権に関わる定款変更」に対しては、「原則として反対を
推奨する」とのみ示されていた。しかし新ポリシーでは一転して、「下記の観点に基づいて個別判
断する」とのスタンスに変わっている。
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バランスシートの状況
資本生産性と ROE
過去の自社株取得と配当の状況
取締役会構成
株主構成
その他考慮すべき事項
会社法が自社株式取得など広範な権限を株主総会に認めているのは、取締役会の独立性が不十分
で株主利益の代弁者たり得ないことの裏返しである。しかし近年、コーポレートガバナンス・コー
ドの導入などにより、社外取締役を活用した監督機能の強化が急速に進められている。新ポリシー
の導入は、監督機能の充実を前提として、機動的な資本効率の向上が求められるステージに、わが
国資本市場が移行している証左と言えよう。
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(速報)ISS が 2016 年版の議決権行使助言方針(ポリシー)を発表
ISS は 15 年から取締役選任について、ROE 基準(過去 5 期平均かつ直近期が 5% を下回る場合、
経営トップである取締役に反対)を導入した※ 4。これによって従来、コーポレートガバナンスの
形式チェックに偏っていた感のある議決権行使に、企業業績(資本生産性)というコーポレートガ
バナンスの実質面が盛り込まれたと言える。
今回の新ポリシーは、その実質面を高めるために必要な形式面として、③社外取締役の複数選任
(資質を重視するため形式的な独立性は不問)、⑧買収防衛策の形式基準(利益相反の局面における
独立社外取締役の重視、招集通知の早期開示)が変更されることにつき、すでに改定案で明らかに
されていた※ 5。加えて確定版においては、上述した⑤と⑦の改定を通じて、わが国資本市場の変
化(もしくは変化すべき方向性)を踏まえた、より実質的な議決権行使を実施すべきことが打ち出
されたと解釈できるだろう。
13-15 年のアベノミクスによるコーポレートガバナンス改革とはすなわち、ROE 重視を基軸
とした資本市場改革に他ならない。16 年は上場会社にとって、機動的な資本政策(自社株取得など)
を通じた ROE 向上が求められるとともに、同水準が不十分な場合には経営権の異動(株主提案な
ど)も十分に有り得るという、グローバル資本市場のロジックを強く意識することになる端緒の年
となるのかもしれない。
※ 1 http://www.issgovernance.com/file/policy/2016-japan-voting-guidelines-japanese-jan-2016.pdf
※ 2 http://www.issgovernance.com/file/policy/japan-comment-period.pdf
※ 3 詳しくは拙稿参照 http://eyi.eyjapan.jp/knowledge/future-business-management/2015-10-29.html
※ 4 詳しくは拙稿参照 http://eyi.eyjapan.jp/knowledge/future-business-management/pdf/2014-11-11.pdf
※ 5 注記 3 を参照
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• IR 戦略の策定・実行
• 被買収リスク対応
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