EY Institute 29 October 2015 シリーズ:成長戦略としてのコーポレートガバナンス (速報) ISS が 2016 年版議決権行使助言方針(ポリシー) の改定案を発表 執 筆 者 EY 総合研究所では、「シリーズ:成長戦略としてのコーポレートガバナンス」と して関連する情報を発信している。本稿では最新のトピックスについて紹介・解説す る。 議決権行使助言の世界最大手 ISS(Institutional Shareholder Services Inc.) は 10 月 27 日、2016 年版の日本向け議決権行使助言方針の改定案(以下、新ポリ 「取締役会構成要件の厳格化」と「買 シー)を発表した※ 1。変更が予定されているのは、 ISS は 11 月 9 日までオープンコメン トを募集した上で、正式決定することになる。なお新ポリシーは 16 年 2 月開催の 収防衛策ポリシーの厳格化」の 2 点である。 藤島 裕三 EY 総合研究所株式会社 未来経営研究部長 主席研究員 <専門分野> • コーポレートガバナンス • 敵対株主対応 • IR 株主総会から、全ての上場会社を対象として適用される。 以下、改定案で示された 2 点について、その概要および予想される影響について、 株主総会の議決権行使およびコーポレートガバナンス・コード(以下、CG コード) 対応の観点から考察する。 1. 取締役会構成要件の厳格化 取締役会に複数の社外取締役がいない場合、経営トップの選任議案に反対を推奨す る。従来のポリシーでは社外取締役がゼロの場合だったが、新ポリシーでは賛成推奨 を得るためのハードルが上がることになる。ただし同変更については 2014 年 10 月時点で公表されており※ 2、上場会社においては想定していた範囲内での改定とい えるのではないか。 東証の調査※ 3 によると、社外取締役を 2 名以上選任している上場会社は 1,599 Contact EY 総合研究所株式会社 03 3503 2512 [email protected] 社と、全上場会社の 46% となっている。機関投資家の注目度の高い JPX 日経イン デックス 400 に限定すると、同採用銘柄全体の 80% である 319 社にまで達する。 すなわち議決権行使で大きな影響が生じ得る企業の大部分は既に新ポリシーに対応済 みで、未対応でも多くは 16 年の株主総会で対応するものと考えられる(2 人目の社 外取締役を選任する、監査等委員会設置会社に移行する、など)。 副次的には、各運用機関における議決権行使基準の厳格化につながる可能性がある。日本版ス チュワードシップ・コードの指針 5-4 は、「議決権行使助言会社の助言に機械的に依拠」すべきで ないとしており、運用機関としては ISS よりも緩い基準では議決権を行使しにくいものと思われる。 そのため社外取締役に独立性を求める、20% や 30% など比率を基準とする、などを検討する運 用機関が出てくる可能性もある。企業としては個々の運用機関を意識した対応が必要となろう。 なお今回の改定に当たって ISS は、社外取締役に独立性を求めていない。その背景として、「形 式上の独立性にのみ注力し、候補者の資質が軽視される可能性」を挙げており、具体的には「ビジ ネスの経験のない」社外取締役を疑問視している。CG コードの原則 4-7 は独立社外取締役の役割・ EY | Assurance | Tax | Transactions | Advisory 責務を規定しているが、その役割・責務を果たすための資質として「ビジネスの経験」が求められ ていることは、コード対応において適切に留意する必要があるといえるだろう。 EY について EY は、アシュアランス、税務、トランザ クションおよびアドバイザリーなどの分野 における世界的なリーダーです。私たちの 2. 買収防衛策ポリシーの厳格化 深い洞察と高品質なサービスは、世界中の 買収防衛策の導入・更新を評価する際、第一段階の形式審査として挙げる項目のうち、以下の 3 資本市場や経済活動に信頼をもたらします。 つにつき変更する(基準を厳格化)。 私たちはさまざまなステークホルダーの期 待に応えるチームを率いるリーダーを生み 出していきます。そうすることで、構成員、 ⅰ)取締役会に占める独立取締役の割合を、5 分の 1 から 3 分の 1 に引き上げる(かつ 2 名以上) クライアント、そして地域社会のために、 ⅱ)委員会の委員は社外有識者でなく、出席率に問題のない社外取締役・社外監査役とする より良い社会の構築に貢献します。 ⅲ)招集通知を総会 3 週間前に発送するだけでなく、同 4 週間前に証取のウェブサイトで開示する EY とは、アーンスト・アンド・ヤング・グロー もっとも今回の変更で賛否推奨に大きな変化が生じることはないだろう。ISS は形式審査だけで バル・リミテッドのグローバル・ネットワー クであり、単体、もしくは複数のメンバー ファームを指し、各メンバーファームは法 的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ ヤング・グローバル・リミテッドは、英国 の保証有限責任会社であり、顧客サービス は提供していません。詳しくは、ey.com を なく、第二段階として個別審査(株主価値向上の具体的施策を評価)を実施している。さらに更新 に際しては、新規導入して以来の株価パフォーマンスを同業他社と比較するとしている。その結果 として例年、賛成推奨するのは 1・2 議案に止まっている模様であり、そもそも支持を得ること自 体が極めて難しいという状況に対して、今回の変更が何らかの影響を及ぼすことは考えにくい。 ご覧ください。 EY 総合研究所株式会社について EY 総合研究所株式会社は、EY グローバル 一方で CG コード対応の観点では、上記変更は少なからぬ示唆を含んでいる。原則 4-8 は「3 分の 1 以上の独立社外取締役を選任することが必要と考える」場合に取り組み方針の開示を規定 ネットワークを通じ、さまざまな業界で実 しているが、ⅰ)は買収防衛策の存在を「必要と考える」要件としているのではないか。原則 1-5 務経験を積んだプロフェッショナルが、多 は買収防衛策につき「適正な手続を確保」すべきとしているが、ⅱ)は会社法上の社外役員が関与 様な視点から先進的なナレッジの発信と経 しなければ「適正な手続」が担保されないとも読める。補充原則 1-2 ②は「総会議案の十分な検 済・産業・ビジネス・パブリックに関する 調査及び提言をしています。常に変化する 討期間」の確保を求めているが、ⅲ)は買収防衛策が存在する場合には 4 週間ないと「十分」で 社会・ビジネス環境に応じ、時代の要請す ないと判断しているのだろう。 るテーマを取り上げ、イノベーションを促 す社会の実現に貢献します。詳しくは、eyi. eyjapan.jp をご覧ください。 © 2015 Ernst & Young Institute Co., 以上については買収防衛策に限った話ではない。原則 1-6「株主の利益を害する可能性のある 資本政策」や原則 1-7「関連当事者間の取引」など、利益相反が生じる恐れのある局面においては、 Ltd. 同様に意識すべき論点と考えられる。これら特定の議案やトピックスがなくても、業績低迷などで All Rights Reserved. 資本市場の視線が厳しい企業においては、平素のコード対応から取り組みを検討すべきである。 ED None 「1」については既知の内容であること、「2」はもとより賛成推奨 今回の ISS ポリシー変更は、 本書は一般的な参考情報の提供のみを目的に作成さ れており、会計、税務及びその他の専門的なアドバ イスを行うものではありません。意見にわたる部分 は個人的見解です。EY 総合研究所株式会社及び他の EY メンバーファームは、皆様が本書を利用したこと を得るのが難しいことから、2016 年の株主総会シーズンに対する直接的な影響は限定的と考え られる。しかし、その背景にある「機関投資家の考え方」は軽視しがたいものであり、当面ひいて は継続的な CG コードの対応において大いに参考とするべきだろう。 により被ったいかなる損害についても、一切の責任 を負いません。具体的なアドバイスが必要な場合は、 個別に専門家にご相談ください。 EY Institute ※1 ※2 ※3 http://www.issgovernance.com/file/policy/japan-comment-period.pdf http://www.issgovernance.com/file/publications/japan-comment-period_japanese20141010.pdf http://www.jpx.co.jp/listing/stocks/ind-executive/tvdivq0000001j9j-att/20150729_1.pdf 2 (速報)ISS が 2016 年版議決権行使助言方針(ポリシー)の改定案を発表
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