診療放射線技師国家試験の受験生について思うこと 私は、診療放射線技師である。昭和 62 年に行われた第 38 回春の国家試験に合格し免許 を得た。今年は平成 28 年、第 68 回の国家試験がある。診療放射線技師国家試験の合格率 は当時から医療職種の試験としては異例の低さで、私の受験した第 38 回も 59.1%であっ た。第 38 回から第 67 回までの国家試験の合格率を平均すると 74.1%となる。 私は、診療放射線技師になって臨床現場で約 10 年。その後、専門学校の専任講師を経て 現在は大学で教鞭をとっている。その 20 年ほどの間、診療放射線技師を目指す学生ととも 射線技師を目指す学生にはいくつかのタイプがあることが分かってきた。タイプ A、卒業基 に、私なりに国家試験に臨んできたのである。そして途中で進路変更する学生以外で診療放 準を満たし国家試験に合格する学生。タイプ B、卒業基準を満たして卒業するが国家試験に 不合格の学生。タイプ C、卒業基準を満たすことができず、国家試験が受けられない学生。 ちなみに卒業基準とは、必要単位をすべて取得しており国家試験に合格する実力を持って 試験に合格するために必要なこと」とは何かについて、タイプ B と C を対象に考えてみた いるということである。学生の中には、このタイプ間を移動する者もいる。今回は、 「国家 いと思う。 私が学生だった当時国家試験のためにどんな取り組みをしていたのかを整理してみたい と思う。まず初めに行ったことは、国家試験問題の傾向と内容の分析。そして自分の実力の 把握である。しかし実力の把握は、模擬試験や卒業試験の正答率で代用した。いわゆる過去 問題の載っている参考書を買ってきて傾向と内容をチェックしながら自分にとってわから ない項目を拾い上げる。拾い上げた項目は名刺サイズの単語カードの表側に書いておく。1 記入する。この作業を一ヶ月続けると、カードは 100 枚くらい貯まったように記憶してい 週間ほど続るとけっこうな枚数のカードがたまるので、それを週末にまとめて調べ裏面に で、模擬試験と卒業試験は、国家試験形式の問題が 100 問。これを合計 10 回は行ったよう る。卒業試験の直前はこのカードの暗記に終始した。私は、夜間の専門学校で学んでいたの に思う。国家試験が 3 月だったことを考えると、8 月くらいから毎月 1~2回程度のペース で試験は行われていた。当時、試験結果の分析シートなどは配布されないので、すべて自分 で正答率を調べ、表にまとめていたのを思い出す。 ひとつの試験が終われば、過去問題と併せて、項目を拾い上げる分量が増えるので同様の ことを繰り返した。カードは、表裏どちらでもかまわないから、見た瞬間に反対面に何が書 いてあるかわからないカードだけを常に持ち歩いた。それでも、2 週間に一度くらいはすべ てのカードを混ぜて、わかるカードと、わからないカードに分類し同様のことを繰り返した。 国家試験が近づくにつれ、項目を拾い上げて新しいカードを作成するという作業は少なく なっていった。 1 とがある。すると 600 枚以上あり、その時点でわかるカードと、わかららないカードに分 国家試験を一ヶ月後に控えたころ、いったいどれだけのカードがあるのか数えてみたこ けてみたところ、わからないカードの数は 100 枚無かったと記憶している。この一ヶ月の 間にやったのはカードの暗記だけ。国家試験直前にもう一度 600 枚のカードを分類してみ ると、わからないカードは 30 枚ほどであった。 国家試験を 2 日後に控えた日、私は秘蔵していた昨年と一昨年の国家試験問題を取り出 した。夜型だった自分を朝方に戻すための訓練として、当日予定している時刻に起き、午前 の国家試験と同じ時間で、一昨年の午前の国家試験問題を解く。昼食後同様に午後の国家試 試験当日も含め同じペースで 3 日間を過ごした。 験問題を解いて、アルコールは飲まずに早めに寝た。国家試験の前日も同様に過ごし、国家 国家試験には暗記だけで対応できない問題もあるだろう。その通りである。例えば計算問 題がそういった問題といえるのではないか。どのように対策したかというと、国家試験問題 も含め簡単な演習問題からはじめ次第に難易度の高い問題を解く練習を繰り返すのである。 普段から解けない計算問題が、本番でいきなり解けるわけはないのだから、普段からきっち り練習しておく。ぶっつけ本番はしない。また自分が知らない、教科書や過去問題にも出て きたことがない内容の問題はどうするのか。このような問題が国家試験で出題される数は 少ないのだが、気持ちが動揺したりしてあまり気分のよいものではない。自分が培ってきた 実力や常識、もしくは消去法、あるいは感や運で対処する以外にない。計算問題は、ミスさ えしなければ確実にものにできるし、今までにない問題は、万が一できなくてもそれだけで 不合格になることはない。 本題に戻ろう。 「国家試験に合格するために必要なこと」とは何か。私は、今まで多くの 学生を見てきて思っていることがある。国家試験合格のためには勉強しなければならない という。誤解を恐れずに言うならば、私は国家試験合格のために勉強したつもりはない。じ えたい。このような資格試験の合格基準は低い。200 問中 120 問以上の正解かつ、試験科目 ゃあ何をしていたんだと問われるならば、国家試験合格のための準備をしてきたのだと答 が 14 科目ある中で、0 点の科目が 1 科目以下である。このような試験に合格するために必 要なのは万全の準備であるはずだ。 その 1、暗記。暗記は用語、文法、数値、公式・・・そういった知っていなければ会話も できない英単語のようなものだ。我々日本人だって、知らない日本の単語が出てきたらわか らなくて困ったり、恥をかいたりするだろう。暗記しなければならないことは多い。これは 当たり前の話で、わからないから教えてくれと言ってくる学生の中には、使っている単語の 意味がわからなくて聞きに来たことの説明が理解できないという場合だってある。 2 その 2、練習。計算問題には練習が大切である。例えばスケートで 4 回転をいきなり飛ぼ うと思っても飛べるものではないと思う。日頃から練習して 1 回転から 2 回転、そして 3 回転が飛べるようになって初めて 4 回転にチャレンジできるのではないのか。これはどん なことにも言えるのだと思う。普段からできないことが本番でいきなりできると思ってい るのだとしたら、頭がどうかしているのだ。黒板を使って丁寧に計算問題を解いてみせ、学 しかし次の日もしくは 1 週間後でもそうだが、ほぼ同じ計算問題を解くことができないの 生はそれを丁寧にノートに書きとっているという当たり前の光景を何度も目にしている。 は、単に練習をしていないからではないのか。 ここで、PDCA サイクルを一つの例とするならば、その3、分析と評価。その4、改善。 と続くところだが、そんなことができるのであれば、国家試験で不合格など眼中にないであ ろう。そんな優秀な学生への思いは横に置いてある。したがって、その3、分析と評価は、 模擬試験や卒業試験にお任せする。通常、結果を分析したシートが各学生に配られるので、 これを参考にしてもらおう。そして、その4、改善については、先生に相談ということでご 勘弁いただこう。 このような過程は、旅行やゲームなど一見遊びと思える分野にも同様に言えることであ る。準備しないで旅行に行く人は少ないだろうし、ゲームなんて練習しなければいくら待っ ててもうまくなりはしない。料理だってそうだと思う。材料や調理法を覚える必要があるし、 それだけを知っていても実際に料理してみなければうまくはならないだろう。包丁の使い 方や火加減だって非常にデリケートで熟練を要することもある。 例えば、「リンゴの皮むき試験」というのがあったとしよう。ここでは指定された皮のむ き方が試される。そこでリンゴの皮のむき方を調べたとしよう。いろいろな皮のむき方のあ ることがわかり、それをノートにまとめた。これって勉強じゃない、自分は今、勉強してい るじゃないか・・・。実は勉強という言葉のマジックで、この段階までの勉強を延々と試験 直前まで繰り返し、実際には皮のむけない受験生が出来上がってしまう。ではなぜ繰り返す のか。私が思うに、それは調べることが{楽でおもしろい}勉強だからなのではないか。実 際に覚えてやってみるのが億劫なのか、それともやってはみたものの、うまくいかなかった。 だから楽な勉強にはしるのではないか。これでは試験に合格するわけがない。合格のための 準備というのは、いろいろな皮のむき方を暗記し、実際にできるように練習して試験に備え るということであるはずだ。リンゴの皮をむいたこともないのに本番でいきなり皮がむけ るはずがない。ましてやまとめたノートは持ち込みできるわけもなく、皮のむき方だって覚 えていないという現実にぶち当たるはずだ。 でも勉強しないよりはした方がいい。だとすると勉強とは何か。勉強=努力、苦労して身 3 につける知識に必要な方法。こんなイメージなのか。たしかに「勉強は嫌い」というのはよ く聞く言葉だが、 「勉強が好き」というのはイコールがり勉のイメージがあるのか。いやい や、今の学生は、勉強をしていないからできないとか、勉強しているふりをしているだけだ とか、これもよく聞く言葉である。私は、単に「勉強」と括られるような、あいまいな表現 より、もっと具体的な「準備」という言葉を使いたい。暗記や練習のような本当に必要な内 容を、やっていないとか、忘れたとかいうことがないように、しっかり準備すること。これ はルーチンワークをこなすこと。すなわち、きまりきった手続きや手順、動作。日常の仕事。 日課。を、きちんとこなすことである。 国家試験に合格して診療放射線技師になっていく学生の多くは、このようなルーチンを しっかり、こなせていると思う。不合格となる学生は、参考書と国家試験問題集を多用した り、もしくは、それしか持っていない学生が多い。教科書や授業のノートはどうしたのか。 プリントは整理できているのか。そしてもう一つ、コピーを多用する。これは何が問題なの かというと、参考書の利用は、自分で調べるという貴重な時間を、参考書の解説を読む(ま たは写す)という時間にすり替えている。コピーは、自分で記録するという貴重な体験をコ ピー機のボタン操作にすり替えている。時間がもったいないと思うのだろうが、その時間を あえて使って自分で調べ、文章にまとめ、図を写す作業に充てた方が実になると思うのだが、 いかがなものだろうか。 国家試験合格の準備に近道はない。かえって回り道をした方がわかってくることが多い。 そして、準備もより万全になると思うのは私だけであろうか。できるだけ楽をして資格を取 りたいとうい思いは、人間の性として仕方がないのかもしれない。しかし楽をしてたどり着 いた道程よりも、苦労をしてたどり着いた道程の方が思い出深いし達成感もある。国家試験 合格に王道はあっても近道はない。 平成 28 年 1 月 11 日 文責 診療放射線技師ワタル 4
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