各種コンクリートの温度応力に対するひび割れ抵抗性の推定 柿本 啓太郎 1.研究の背景・目的 コンクリート構造物におけるひび割れは,塩害や中性化等の劣化の進行を促進し,耐久性に大きな影響を与 え,施工後の維持管理にも大きな影響を及ぼす.そこで,コンクリート構造物のライフサイクルにおいて,ひ び割れを制御すること及びひび割れの発生を予測することは,耐久性を評価する上で重要な課題のひとつとい える.コンクリート構造物に発生するひび割れには,初期欠陥として問題となる体積変化に起因するひび割れ があり,近年,実構造物においてその発生が数多く指摘されている.コンクリートの体積変化に起因するひび 割れを精度良く予測するためには,コンクリート部材に発生する応力やひずみを精度良く推定するとともに, ひび割れが発生する条件についての定量的な判断基準が必要になる. しかし,これらを実構造物で試験を行い, データを収集することは難しく,計測データの少ないのが現状である. そこで,TSTM(Thermal-Stress Testing Machine)試験装置を用い て,いくつかの実構造物を想定した部材を対象とし,応力の発生状況 やひび割れ抵抗性について推定することを目的とした. 2.研究の方法 2.1 試験概要 本研究は,表-1 に示す数種の実構造物を想定した検討ケースで試 験を行った.ケース 1 では,大学で使用している骨材を用い,水セ 図-1 実構造物図面(ケース 2) メント比を 50%とし,ケース 2,3 では,実際の現場と同配合,同 じ材料を用いて実験を行った.ケース 2,3 における実構造物の断 面図を図 1,2 に示す.なお,各ケースにおいて,それぞれ実構造 物の温度計測結果を温度履歴として用い,拘束度はいずれも完全拘 束(拘束度=1.0)とした.試験期間は 14 日間とし,ひび割れが発生 しなかった場合は,14 日を経過した時点で中止した.また,力学特 性試験は,TSTM 開始から材齢 3・5・7・14 日目及びひび割れ発生 日の 5 材齢とした.力学特性試験の試験項目を表-2 に示す. 図-2 実構造物図面(ケース 3) 表-1 要因と水準(TSTM) ケース セメント種 W/C(%) 拘束度 温度履歴(計測部材) 1 普通セメント 50 1.0 橋梁高欄部 2 低熱ポルトランドセメント 42 1.0 ボックスカルバート 1 本柱 3 高炉 B 種セメント 50 1.0 2 連ボックスカルバート 底版部 表-2 力学特性試験 試験項目 圧縮試験,ヤング係数試験,割裂引張試験 試験日 3 日,5 日,7 日,14 日,ひび割れ発生日 2.2 試験装置 TSTM は,コンクリートの凝結始発時間を試験開始とし, コンク リート内部の温度, 変位, 及びコンクリート供試体に加えた荷重の 測定を行った.TSTM は,任意の拘束度を与える拘束試験装置と, 無拘束試験装置からなる.温度は拘束供試体で 5 点,無拘束供試体 で 3 点,変位はともに左右 1 点ずつの計 4 点で測定した.TSTM 試 験装置の概略図を,図-3,4 に示す. 図-3 拘束試験装置 3.結果と考察 検討ケース 1 について,TSTM で測定した応力と割裂引張強度との比 較を図-5 に,検討ケース 3 について,応力の比較を図-6 に示す.なお, TSTM 試験と割裂引張試験の養生方法(強度発現)が異なるため,温度依 存性を考慮し,いずれも積算温度において評価した. 図-5 より,検討ケース 1 の条件下においては,ひび割れが 発生した時の応力は,その時点における割裂引張強度の 90% 図-4 無拘束試験装置 程度と同等な傾向を示した.したがって,TSTM によって得 られた引張強度は,割裂引張強度よりもおおよそ 1 割程度小 さいと考えられる. 図-6 より,検討ケース 3 の条件下においても,同様の傾向 を示した.ただし,材齢が経つにつれて割裂引張強度が増進 すると仮定した場合である. 以上の結果から,コンクリート部材に発生するひび割れを 数値解析によって算出する際,割裂引張強度を用いた場合, ひび割れ抵抗性を過大評価する可能性があると考えられる. したがって,ひび割れ抵抗性を精度良く推定するためには, 図-5 応力比較(ケース 1) 割裂引張強度を 1 割程度低減して検討するべきである. しかし,試験データ数が少ないことや,若材齢時において は割裂引張強度にばらつきが出やすいことから,今後さらに 試験を行い,再現性等の確認を行っていく必要がある. 4.結論 本研究では,若材齢時におけるコンクリートを対象とし, TSTM を用いた試験および力学特性試験によって,いくつか の実構造物を想定した部材の,応力発生やひび割れ抵抗性の 検討を行った.その結果,TSTM を用いてひび割れ抵抗性を 図-6 応力比較(ケース 3) 評価する際は,温度依存性を考慮して評価することが有効で ある.本検討の範囲内では,引張応力が割裂引張強度の約 90%を超えた時にひび割れが発生するという結果で あった.そのため,コンクリート部材に発生するひび割れ抵抗性を推定する際は,割裂引張強度を低減して考 えるべきであると考えられる.ただし,試験データ数が十分ではないため,今後さらに試験データを蓄積する 必要がある.
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