立ち読み - 日本貿易振興機構

ISSN 2187-4255
No.600
ジェトロ
中
国
経
済
1
2016
<視点>
大連市の経済活性化に向けた取り組み
············································ 荒 畑
稔
1
裕弥
2
真
10
克彦
22
いづみ
30
<グラフでみる中国経済動向> ·······································
48
<トピックスレポート>
中国における日系物流業の課題と対応
············································ 日 向
<現地レポート>
広東省における加工貿易の変遷と産業構造転換
············································ 盧
<現地レポート>
中国第4の経済圏を目指す中国中部地域
-発展が期待される中国長江中流域-
············································ 中 嶌
<特集>
中国ビジネスに関わる営業秘密保護問題とその対応
············································ 林
視 点
大連市の経済活性化に向けた取り組み
荒畑 稔
(大連事務所長)
遼寧省大連市の経済は 2014 年半ばから低迷が続いている。2014 年 1~6 月の経済成長率は
7.3%であったが、同年 1~9 月は 6.2%と 1 ポイント以上低くなった。2014 年通年ではさらに
5.8%と低くなっている。2015 年に入ってからも、中国全体の 1~9 月の経済成長率が 7.0%を
下回ったと大騒ぎされる中、同市の経済成長率は 1~3 月が 2.0%、1~6 月が 3.5%、1~9 月
が 3.8%と、その数値にすら遠く及んでいない。推測される要因の一つは、原油価格の下落に
伴う石油製品の販売不振である。中国東北地区で製造される石油製品の品質はあまり高くない
が、国際価格が高かったときはそれなりに売れていた。しかし、国際原油価格の下落により同
石油製品の競争力が低下し、国内外での販売が不振となっている。東北地区で製造された石油
製品は大連から輸出されており、販売不振は大連にとっても影響が大きい。
このような状況を打開するため、市政府は新しい動きを進めている。その一つは、2014 年 6
月に中央政府から認可された「金普新区(現在の金州新区、保税区、普湾新区を抱合)
」であり、
もう一つは現在申請中の「自由貿易試験区」である。
「金普新区」は 2014 年 6 月に全国で 10 番目の国家新区として国務院から認可され、2015
年 3 月に管理委員会が正式に発足している。同区は大連市のみならず中国東北地区の経済の牽
引役として期待されているが、現在体制整備が進められているところで、本格的に動き出すに
はもう少し時間がかかるようである。
「自由貿易試験区」については、2013 年 10 月に大連市から遼寧省政府経由で中央政府(商
務部)に設立の申請が行われた。2014 年 12 月末に発表された自由貿易試験区第 2 弾の指定地
域の中に大連市は選ばれず、現在も指定待ちの状況である。大連市政府の担当部局によると、
2016 年 4 月に現在の自由貿易試験区(上海市、天津市、福建省、広東省)の評価が発表され
る予定で、その後大連市が指定されることを期待しているとのことである。
経済の低迷は大連市だけでなく、中国東北地区とりわけ遼寧省が際立っている。同省の 2015
年 1~3 月の経済成長率は 1.9%、1~6 月は 2.6%、1~9 月は 2.7%といずれも全国最低の伸び
となっている。同省の 2015 年 1~9 月の貿易総額は、大連市の減少が響き、前年同期比 16.0%
減(輸出額:13.1%減、輸入額:19.2%減)と大きく減少し、省政府も対外経済政策として、
投資誘致よりも貿易の振興に力点を移したほどである。
「自由貿易試験区」の指定により、ネガティブリスト管理による投資の利便性向上、とりわ
けサービス産業の開放拡大、そして対外貿易の利便性向上が進めば、日本企業にとって、貿易・
投資の両面で大連市を活用するメリットが増えてくることが期待される。報道によると、大連
市の地の利を生かし、日本、韓国との貿易協力強化につながる政策を打ち出す可能性も高い。
遼寧省政府、大連市政府から今後、どのような政策が発表されるか注視していきたい。
-1-
中国経済 2016.1
現地レポート
広東省における加工貿易の変遷と産業構造転換
盧
真
(ジェトロ 広州事務所)
〔要 旨〕
□ 広東省の輸出額は 1983 年から加工貿易が一般貿易を上回る状態が 31 年間続いてきた。
しかし、2015 年 1~9 月累計の輸出額は一般貿易が加工貿易を上回り、通年でも逆転
する可能性が高まっており、構造的な変化がみられる。
□ 2000 年からの 15 年間の貿易推移をみると、広東省の著しい経済発展は、外資系企業
の加工貿易による貢献が大きい。しかし、人件費の上昇、人手不足、海外市場の継続
的な低迷などにより、労働集約に依存する加工貿易の仕組みは徐々に行き詰まる。
□ 加工貿易の行き詰まりから、貿易構造の転換、産業の高度化に迫られ、広東省では 2008
年から来料加工工場を法人企業に転換する動きがあった。加えて、広東省政府は 2013
年から 3 年計画で加工貿易モデルの転換・アップグレードを推進する措置を打ち出し
た。
□ こうした事業環境変化の中、日系加工貿易企業が直面する課題を取り上げ、それを解
決する仕組みの構築が重要である。
1.はじめに
加工貿易は、製品を輸出する前提で原材料を海外から保税で輸入、それを加工した最終
財や半製品を輸出するビジネスモデルである。広東省には、廉価かつ大量の農村からの出
稼ぎ労働者を雇用し、来料加工、進出加工などの加工貿易を行ってきた企業が多数存在し
ている。特に珠江デルタ地域を中心に輸出向け労働集約型の製造業が集積し、30 年にわた
り「世界の工場」と称されてきた。
広東省の輸出額は 1983 年から 30 年以上にわたり加工貿易が一般貿易を上回ってきた。
しかし、近年の人件費の上昇、人手不足、海外市場の低迷などにより、加工貿易を主力と
する仕組みは徐々に行き詰まりをみせ始めた。この 15 年間をみると、2001 年の広東省の
輸出額 954 億 2,100 万ドルに占める加工貿易比率は 80%に達したが、その比率は縮小し続
けている。2015 年 1~9 月累計の輸出額は一般貿易が加工貿易を上回っており、通年でも
32 年ぶりに逆転する可能性が高まっている。
本稿では、過去 15 年間の広東省の貿易について、その構造変化と原因を明らかにし、広
東省政府が取り込む対策を紹介する。
また、大幅に変化する事業環境において日系企業が直面する共通の課題を取り上げ、ど
のような対応を取っているか紹介し、日系企業が今後広東省でビジネスを行う上でどのよ
うなことが必要とされるかを明らかにする。
中国経済 2016.1
10
現地レポート
中国第 4 の経済圏を目指す中国中部地域
-発展が期待される中国長江中流域-
中嶌 克彦
(ジェトロ 武漢事務所 海外投資アドバイザー)
〔要 旨〕
□ 国務院は 2015 年 3 月、
「長江中流都市群発展計画」を正式に承認し、中部地域戦略を国
家戦略として正式に認めた。これにより、珠江デルタ、長江デルタ、京津冀(北京市・
天津市・河北省一部)に続いて、中国の経済成長における 4 番目の成長エンジンを目指
す経済圏が誕生した。
□ 同計画の対象地域は湖北省、長江流域の湖北省 13 都市、湖南省 8 都市、江西省 10 都市
の合計 31 都市で、
面積は全国の 3.3%に当たる約 31 万 7,000 平方キロ、2014 年の GRP
(域内総生産)は全国の 8.8%に当たる 6 兆元、年末の総人口は全国の 8.8%に当たる 1
億 2,100 万人に達する。
□ 本計画では、3 省にまたがる地域の行政障壁を打破し、都市・農村、産業、インフラ、
生態環境保護、公共サービスの五つの分野で共同発展を目指す。同地区では、一帯一路
にも積極的な参加を目指すが、現在は模索の段階である。
□ 長江流域通関区域通関一帯化が 2014 年 12 月から開始され、通関の迅速化、安定化が
期待される。武漢市と日本との海上輸送では、2015 年 9 月からコンテナ快速航路が試
験運用を開始し、優先通関や優先積み下ろしにより、必要日数が半減近くになる。
□ 2014 年の中国中部地区の対内直接投資は、3 省ともに 10%以上の伸びを維持している。
中部地区の中核である湖北省では、2014 年の日本からの直接投資が 8.0%減少したが、
中国全体の 38.8%減に比べ投資が継続している。
□ ジェトロが 2014 年 10~11 月に実施した「在アジア・オセアニア日系企業実態調査」で
は、今後 1~2 年の事業展開の方向性について、「拡大」と答えた企業の割合が湖北省で
は 61.3%と中国全体(46.5%)より高く、日系企業の中国中部地区での事業拡大意欲が
継続している。一方、投資環境については、中国沿岸部に比較して改善の余地が大きく、
今後も投資環境の改善を引き続き地方政府に要望していく必要がある。
1.今後の中国経済発展の牽引を期待される長江中流都市群
2011年からの中三角都市開発計画の中部3省に安徽省が加わり長江中流域都市群発展プ
ロジェクトを開始したが、2015年3月26日に国務院は、国函[2015]62号文書で「長江中流都
市群発展計画」
(以下「計画」
)を正式に承認し、中部地域戦略を国家戦略として正式に認
めた。これにより、珠江デルタ、長江デルタ、京津冀(北京市・天津市・河北省一部)に
続いて、中国の経済成長における4番目の成長エンジンを目指す経済圏が誕生した。同計画
の対象地域の2014年のGRP(域内総生産)は全国の8.8%に当たる6兆元、年末の総人口は
中国経済 2016.1
22
特 集
中国ビジネスに関わる営業秘密保護問題とその対応
林
いづみ
(桜坂法律事務所 弁護士)
〔要 旨〕
□ 経済・産業のグローバル化、情報のデジタル化、人材流動の活発化を背景に、秘密情
報の流出被害とその対策は、主要国の目下の最重要課題の一つとなっている。
□ 日本では、今般、
「営業秘密管理指針」が全部改訂され、また、抑止力強化のために不
正競争防止法が民事・刑事両面の多岐にわたり改正された。改正項目には、立証責任
の転換や没収規定など、他の知的財産法に先駆けた新たな制度の導入も含まれており、
普及・実践のための具体的な取り組みが急がれている。
□ 一般に、営業秘密は、人や取引を通じて、その他、企業買収・事業譲渡等を通じて、
漏れる。人を通じた流出としては①転職型、②引抜型、③スパイ型がある。
□ 中国では終身雇用が根付いておらず、従業員の流動性が高いことを背景として、中国
ビジネスに関わる営業秘密侵害紛争の約 8 割が①転職型である。従って、中国におい
ては特に、従業員の流動に伴う営業秘密侵害リスクに対して効果的な対策を講じるこ
とが必要である。
□ 中国ビジネス実務上の運用ポイントとしては、労働契約において、法的に有効な範囲
の競業避止義務規定を置くこと、のみならず、秘密保持条項も規定して実際に秘密管
理体制を講じることが必要である。
1.はじめに
いわゆる「オープン・クローズ戦略」の下、情報の秘匿化ニーズが増大している。特許
権などの知的財産権と異なり、営業秘密は一旦漏えいすれば価値が喪失し、秘匿化戦略が
破綻してしまう。このため、企業においては、自社の営業秘密の管理・漏えい対策が必要
であることはもちろんであるが、さらに、特許権・営業秘密の侵害警告に対する防衛上、
日常的な企業取引を通じて外部秘密情報が自社情報に混入する(いわゆる)情報コンタミ
ネーションリスク対策も忘れてはならない。
日本では、今般、
「営業秘密管理指針」が全部改訂され、また、抑止力強化のために不正
競争防止法が民刑両面の多岐にわたり改正された。改正項目には、立証責任の転換や没収
規定など、他の知的財産法に先駆けた新たな制度の導入も含まれており、普及・実践のた
めの具体的な取り組みが急がれている。
中国経済 2016.1
- 30 -
グラフでみる中国経済動向
中国からの訪日外客数の推移
(万人)
中国からの訪日外客数
(%)
前年同月比伸び率
60
200
55
50
150
45
40
100
35
30
50
25
20
0
15
10
-50
5
0
-100
1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 (月)
(年)
2012
2013
2014
2015
〔注〕2012~2014年は確定値、2015年1~8月は暫定値、9~10月は日本政府観光局(JNTO)が独自に算出し
た推計値。
〔出所〕日本政府観光局(JNTO)
日本政府観光局(JNTO)によると、2015 年 10 月の中国からの訪日外客数は、前年同
月比 99.6%増の 44 万 5,600 人と引き続き旺盛な訪日需要を維持している。
訪日外客数に占める中国の構成比
中国
(%)
韓国
台湾
香港
米国
その他
100
90
27.1
29.8
26.2
25.6
26.6
27.4
26.9
8.4
9.1
8.6
7.7
6.6
5.9
5.9
5.8
7.2
6.9
14.7
16.0
17.5
21.3
21.1
26.7
24.4
22.1
80
70
9.2
60
6.6
50
16.6
10.3
6.6
19.1
15.1
40
30
19.8
28.3
28.5
23.4
12.0
14.8
16.4
16.8
17.1
12.7
2008
2009
2010
2011
2012
2013
23.7
20
10
5.2
7.6
20.5
18.0
26.3
0
2014
2015 (年)
1~10(月)
〔注〕2014年までは確定値、2015年1~8月は暫定値、9~10月は日本政府観光局(JNTO)が独自に算出した
推計値。
〔出所〕日本政府観光局(JNTO)
2015 年 1~10 月の中国からの訪日外客数は、前年同期比 112.9%増の 428 万 3,700 人
だった。国・地域別構成比で見ると最大の 26.3%を占める。
中国経済 2016.1
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