建築と建築学会の持続的発展をめざして

年 頭 所 感 New Year ’s Gr eetin g s
建築と建築学会の持続的発展をめざして
─ 建築としての声を一つに
Toward Sustainable Development of Japan’s Architecture and AIJ
─ Uniting the Voice of Japan’s Architecture Community
中島正愛
Masayoshi Nakashima
第 54 代日本建築学会会長・京都大学防災研究所教授
新年あけましておめでとうございます。日本建築学会(以
本会では、会長、副会長、理事から構成される理事会
下、本会)会員の皆さまにとって2016 年が健やかな年になる
と事務局を中心に、会員諸氏の協力を得て会の運営にあ
ことをお祈り申し上げます。
たりますが、「建築としての声を一つに」を強化する活動に
年頭所感
も理事会メンバーが分担して取り組んでいます。以下では
昨年 6月の会長就任時の所信(『建築雑誌』2015 年 6月号)で、
これら活動の幾つかを紹介することで、2016 年の始まりに
私は、わが国の建築と本会の持続的発展に微力を尽くした
あたっての私の抱負に代えたいと存じます。
いこと、また、そのために「建築としての声を一つに」の機
運を一層盛り上げたいことを申し上げました。地球規模で
中長期計画・アクションプランの策定
大きな転換を迎えつつある人間社会が思考すべき新しい生
き方において、人とその生活に直結する建築が果たすべき
本会は、2006年4月に当時の村上周三会長主導の下で
役割は多大です。計画、構造、環境に代表される、「多様
策定した「建築学と本会の発展のための中長期計画」を、
なジャンル」を包含した幅広い取組みを特徴とするわが国
その後 10 年にわたる本会運営の一貫性を保つ拠り所として
の建築は、巨大組織にありがちなジャンルごとの縦割りに
きました。この 中 長 期 計 画 で 示したアクションプランが
陥ることなく、建築としての声を一つにし、「実社会との連
2015 年度末をもって終了することから、建築と本会をめぐ
携」や文理融合を含めた「学際性の豊かさ」を一層強化す
る内外状況の変化を踏まえた中長期計画の見直しとも併せ
ることによって、その責務を果たしてゆかねばなりません。
て、次の10年の道しるべとなるアクションプランの策定に取
り組むことにしました。昨年 7月には「中長期計画検討タス
わが国の大学では、時代への適合や縮小均衡の名の下に
クフォース」を立ち上げ、同計画・プランの策定に入ってい
リストラへの動きが加速し、そこではリストラの根拠となる
「評
ます。会員の皆さまには、この原案をまもなく配信し「パブ
価」の厳しさが増しています。一昔前のように、
「よくやってい
リックコメント」を依頼する予定です。次期中長期計画・ア
る」では済まず、評価とその根拠となる目標が「Measurable」
クションプランの実質を高めるためにも、どうぞご意見やご
(計量可能)であることが強く求められています。国の科学技術
助言を多数お寄せください。
政策の基本である
「第5期科学技術基本計画」においても、
「女性研究者の新規採用割合30%の速やかな達成」
「引用
本会創立 1 3 0 周年記念事業
回数が世界で上位1割に入る論 文数を全 体の10%」など、
002
具体的な数値目標が掲げられようとしています。計画でも構
1886 年に発足したわが国工学系最古の学会の一つであ
造でも環境でもない、
「建築」
というディシプリンとしての定量
る本会(設立時は造家学会)は、本年4月9日に創立130周年を
指標は何であるのかが今後厳しく問われるなか、多様なジャ
迎えます。社会に「変化」が強く求められる昨今にあって、
ンルと多様な評価指標を持つ建築は、従来にも増してその声
その対極にある「継続」の大切さへの認識も深まっています。
を一つにして対応してゆく必要があります。
130 年間にわたって本会を盛り立ててくださった先輩達の
建築雑誌 JABS | vol.131 No.1679 | 2016.01
不断の努力に感謝し勇気づけられるとともに、本会を未来
について、昨年以来、自前の英文誌発行の是非も含めて
へとつないでゆくためにも、直近 10 年の活動を振り返り次
学術レビュー委員会を中心に議論しています。この課題に
の10年に向けての努力を誓い合うという趣旨の下に、創立
対する本会の基本方針を速やかに策定すべく一層努力する
130 周年記念事業実行委員会を立ち上げました。本年 5月
ことを表すとともに、会員の皆さまからも積極的なご意見を
30日の本会総会に併せた記念式典、『建築雑誌』別冊号と
お寄せいただきたいと存じます。
しての130 年略史、本年大会に併せた記念企画、各支部
企画からなる記念事業を企画しています。会員の皆さまに
グローバル 人材の育成
は、本記念事業に奮ってご参加ください。
グローバル化が加速するこの時代において、わが国建築
男女共同参 画の推 進
のグローバル化への適合と、そこでの協調や競争は焦眉の
課題であり、「多様なジャンル」を包含する特質を体現しつ
つ世界に伍して活動できる建築人の育成は、わが国建築
す。わが国の工学系教育を見ると、他の工学系学科の女
の持続的発展にとっての生命線です。その機運を盛り立て
性比率が約 10%であるのに対して、建築系学科ではその
るために、昨年7月に「グローバル時代を生きぬくことができ
比率が 30%を超えるなど他を圧倒しています。女性の感性
る建築人の育成特別委員会」を設置し、グローバル化が加
に訴えるところが大きい建築の持続と躍進には、彼女達の
速する世界においてわが国の建築がどう位置づいているの
力を最大限に生かすことが必須です。男女共同参画を一
かをさまざまな角度から調査したうえで、グローバル化を生
層推進するための情報交換・ 発信の場として、昨年 10月
きぬくことができる建築人育成のためになすべき取組みを議
に、「建築学会女性会員の会」を本会の男女共同参画推
論しています。この特 別 委 員 会の前 期(1 年目)では中 堅・
進委員会傘下に立ち上げました。その推進には、多様な取
若手の人材を中心に議論を重ね、従来のしがらみや現実
組みが不可欠なこと、地域や身近な環境との調和が欠か
とのすり合わせにこだわらない主張を奨励することによって、
せないことを踏まえ、この会を、全国 9 支部の特色に合わ
将来への活路を見いだそうとしています。この委員会での
せた支部活動の一環として展開することにしました。この会
議論をできるだけ広く会員の皆さまに示しフィードバックを得
は、本会女性会員のみならず、建築関連分野で学ぶ女子
ることによって、 実 質 的な 提 案 に 結び つけたいと念じて
学生・ 大学院生(会員内外を問わず)や、関心のある本会男
います。
年頭所感
男女共同参画は、わが国が最も重視する施策の一つで
性会員の参加を奨励しています。会員の皆さまには、ぜひ
この会の趣 旨にご賛 同のうえ積 極 的な参 加をお願いいた
この他にも、本会が蓄積してきた学術・技術・芸術関連
します。
情報の電子アーカイブ化を通じた会員サービスの向上、支
部活動の安定的持続のための本部─支部間の連携強化、
学術情報の国 際 発 信
本会の社会貢献活動の柱である「災害からの復興と防災・
減災の推進」「低炭素都市・ 建築の実現」「建築ストック
わが国の学術活動は世界標準に沿って評価される時代
の利活用」の持続とこれら課題の融合を促進するための仕
に移行しています。第 5 期科学技術基本計画でも世界規模
組 みづくりにも注 力しています。また、 本 年 1月号からの
での論文引用回数への数値目標が記載されようとしていま
『建築雑誌』は、久方ぶりに技術系(環境工学)の編集委員
すし、 大 学 の 教 員・ 組 織 評 価 に お い ても、“Impact
長が率いる編集委員会が担当します。従来とは違う趣向を
Factor”、“SCI Journal”、“h-index” 等々、 論 文 の 質を
もつ誌面にご期待ください。
示す「Measurable」な指標が声高に議論されるようになり
ました。このような指標に対して、残念ながら、本会の論
ご承知のように、建築を巡る内外の状況には厳しいもの
文集をはじめとする日本語で掲載される論文群はほぼ無力
も少なくありません。それらに真摯に向き合う努力は怠るこ
です。その一方で、本会が発行してきた科学技術論文が
となく、未来の建築を支える若い人材の夢を一層育むこと
建築技術の進歩に果たしてきた役割は多大です。日本語
ができる環境づくりに向けて、これから一年間精進する所
論文に対する国内ニーズに応えつつも、「Measurable」な
存です。会員の皆さまからのご支援を重ねてお願い申し上
評価に耐える学術情報をどう発信するかという喫緊の課題
げます。
建築雑誌 JABS | vol.131 No.1679 | 2016.01
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