リーフレット版「こんにちは!気象庁です!」【PDF形式:約448KB】

気象庁
です!
1月号
平成28年
(2016年)
北西太平洋域における海洋内部の海洋酸性化について
海洋は、産業活動によって大気中に排出された二酸化炭素を吸収することで、地球温
暖化の進行を抑制する働きをしています。しかし、二酸化炭素を吸収・蓄積してきたこと
によって、海水中の水素イオン濃度が上昇(pHが低下)する「海洋酸性化」が顕著に進
行しています。一般に海水はpH8程度の弱アルカリ性を示しています。海洋酸性化とは
このpHが低くなっていくことを指し、海水がいきなり酸性(pHが7未満)になってしまうとい
うことではありません。海洋酸性化の進行については、「気候変動に関する政府間パネ
ル(IPCC)第5次評価報告書」や、「世界気象機関(WMO)温室効果ガス年報」において
報告され、「もうひとつの二酸化炭素問題」とも呼ばれています。
気象庁では、これまで東経137度線及び太平洋域における海洋表面の海洋酸性化に
関する情報を提供してきました。今回、当庁の海洋気象観測船の観測データに加え、国
際的な海洋観測データも取り入れた解析を行い、新たに東経137度線及び東経165度線
に沿った海洋内部の酸性化について「海洋の健康診断表」※で発表しました。今後は定
期的(毎年3月)に内容を更新して発表する予定です。
北西太平洋域の深さ約150~800mにおける海洋内部でのpHは、東経137度線で10年
あたり0.008~0.025、東経165度線で10年あたり0.001~0.031低下しており、いずれの観
測線においても北緯15度以北の海洋内部で海洋酸性化が進行していることが分かりま
した(図)。両観測線とも、北部ほどpHの低下速度が早い傾向がみられます。この結果
は、亜熱帯域(北緯20~30度)北部ほど人為起源二酸化炭素蓄積量が多いことと整合
がとれています。
海洋酸性化の進行は、海洋の生態系に大きな影響を与える可能性があります。例え
ば、海水のpHが低下すると、サンゴやプランクトン、貝類、甲殻類などの殻や骨格の成
分である炭酸カルシウムが形成されにくくなります。その結果、海洋における生物多様
性の宝庫となっているサンゴ礁では、造礁サンゴの発達や形成が阻害されるとともに、
プランクトン、貝類、甲殻類は、小型化するのではないかと考えられています。さらに、食
物連鎖の下位に位置するプランクトン類が成長・繁殖しにくい環境になると、食物連鎖の
より上位を占める生物、すなわち魚類などの成長・繁殖にも影響が及ぶ可能性があり、
ひいては水産業や海洋観光産業などの経済活動へ打撃を与えるおそれもあります。
また、海洋酸性化によって海洋が大気中の二酸化炭素を吸収する能力が低下する可
能性も指摘されています。これは、海水のpHが低下することで、化学的に二酸化炭素が
海水に溶けにくくなるためです。その結果、産業活動によって排出された後に大気中に
残る二酸化炭素の割合が増え、地球温暖化が加速することが懸念されます。
図 東経137度線及び東経165度線の各緯度における海洋内部での水素イオン濃度指数偏差の長期変化
東経137度線及び東経165度線の各緯度における(深さ約150mから800m)の海洋内部でのpHの平均平
年偏差時系列を示します。平年値は1991年から2010年までの平均としています。塗りつぶしは標準偏差の
範囲(±1σ)、破線は長期変化傾向を示しています。図中の数字は10年あたりの変化率(低下速度)を示し
、”±”以降の数値は変化率に対する95%信頼区間を示しています。
気象庁では、海洋観測を長期にわたり継続し、二酸化炭素をはじめとして精度の高い
データを取得しています。これらの観測データは、「海洋の健康診断表」で公開しており、
国内外の政府・研究機関などで広く利用されています。また、気象庁が長期にわたって
取得してきた観測データを用いた研究成果のいくつかは、IPCC第5次評価報告書にお
いても引用されており、地球温暖化をはじめとする気候変動や、海洋酸性化などの地球
環境変化の監視・予測研究の進展に貢献しています。
※【気象庁ホームページ / 海洋の健康診断表】
http://www.data.jma.go.jp/gmd/kaiyou/shindan/index.html
「海洋酸性化」に関する情報
北西太平洋(海洋内部):
http://www.data.jma.go.jp/gmd/kaiyou/shindan/a_3/pHin/pH-in.html
北西太平洋(表面海水):
http://www.data.jma.go.jp/gmd/kaiyou/shindan/a_3/pHtrend/pH-trend.html
太平洋(表面海水):
http://www.data.jma.go.jp/gmd/kaiyou/shindan/a_3/pHpac/pH-pac.html
気象科学館の年末年始のお休みについて
気象科学館は、平成27年12月29日(火)~平成28年1月3日(日)まで、お休みをいただきま
す。
(気象科学館について)
気象庁では、現在の気象業務や、災害から身を守る方法を知っていただくために、映像や機
械の展示などを中心とした「気象科学館」を設けております。
年末年始を除き、10時~16時まで開館しております。土日、祝日(年末年始を除く)は、気象
予報士が説明員として常駐しております。
気象科学館に関するお問い合わせ先
気象庁総務部総務課広報室
TEL:03-3212-8341(代表)