Title 物上保証人に対する不動産競売手続の開始後に代位弁済

物上保証人に対する不動産競売手続の開始後に代位弁済
した保証人による差押債権者の地位承継の申出と求償権
の時効中断
Title
Author(s)
Citation
商学討究 (2007), 58(2/3): 229-255
Issue Date
URL
齋藤, 由起
2007-12
http://hdl.handle.net/10252/217
Rights
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物上保証人 に対す る不動産歳売手続の開始後 に
代位弁済 した保証人 による差押債権者の
地位承継の申出 と求償権の時効中断
斎
藤
由
起
最高裁平成1
8年1
1月1
4日第三小法廷判決 (
平成1
7
年 (
隻)第1
5
9
4号,求償権請
求事件,破棄 日刊)民集6
0
巻 9号3
402
頁,裁時1
42
3
号1
1
頁,金法1
7
9
4号42頁,
判 夕1
22
7
号1
1
6頁,金判1
2
6
0
号 21
頁,判時1
9
5
4号3
9頁
代表取締役 B 2) に対する貸付債権 を
【
事実 】 A信用金庫は,B l有限会社 (
担保するため, Cお よび Y l (
Cお よび Y lは B 2と同一の姓である。)所有
の不動産に根抵当権 (
以下では 「
本件根抵当権」という。
)の設定を受け,また,
B 2,C,Y l,Y 2,Y 3の 5名 と連帯保証契約 を締結 し,B lに対 して3
0
0
0
万円を貸 し付 けた (
以下では 「
本件債務」 という。)
。 この頃,Ⅹ信用保証協会
は,B lか ら保証の委託を受け,A との間で本件債務 を連帯保証する旨の契約
をし,また,B 2,C,Y l,Y 2,Y 3の 5名は,本件保証委託に基づ くB
lのⅩに対する求償債務 を連帯保証 した。
その後 , B lは佐賀手形交換所の取引停止処分 を受け,A との約定に基づ き
本件債務の期限の利益 を喪失 した。Aが本件債務にかかる残元本債権その他の
貸付債権 を被担保債権 とし,本件根抵当権 に基づ き,Cらに対 して不動産競売
(
以下では 「
本件競売」 とい う。
) を申し立てたところ,佐賀地方裁判所は競
売開始決定 をし,同決定正本はB l,B 2,C,Y lに特別送達郵便物 として
送達 された。上記競売手続中,XはAに対 して本件債務の残元本および利息の
合計25
0
0万8
41
2円を代位弁済 し,同 日, A か ら本件根抵当権の一部移転の付
記登記 を受けた。数 日後, Ⅹ は,佐賀地方裁判所 に債権届出書等 を提 出 し,
〔
2
2
9
〕
230
商
学
討
究
第5
8
巻
第 2・3号
Aの差押債権者の地位の一部承継 を申 し出,同裁判所の裁判所書記官は,民事
5
年最高裁判所規則第2
2
号 による改正前の もの)1
71
条に基づ き,
執行規則 (
平成 1
上記の とお り承継があった旨を B l,B 2,C,Y lに普通郵便で通知 したが,
この郵便 は,いずれ も転居先不明のため到達 しなかった。 しか し,本件競売手
32
続 は適法に続行 され (
民事執行規則 3条 1項,民訴規則 4条 5項参照),Ⅹは3
万21
97円の配当を受け,本件競売手続 は終了 した。
上述代位弁済か ら約 6年 8カ月後 , Ⅹは,本件求償債務の連帯保証人である
Y l,Y 2,Y 3の 3名 に対 して,求償残元金21
0
4万1
21
5円お よび遅延損害金
について連帯保証債務の履行 を請求 し,本訴 を提起 した。
6
年1
0月25日) は,いわゆる欠席判決によ り,Ⅹの請求
一審 (
佐賀地判平成 1
を全て認容 した。 これに対 して,Y 2のみ控訴 し,Y lお よび Y 3については
判決が確定 した。
原審 において,Y2は,Xの主張事実 を認めた うえで,本件求償権 はⅩによ
る代位弁済の 日か ら 5年の経過 によ り時効消滅 したため, Ⅹの Y 2に対す る連
帯保証債権 も時効消滅 した旨を抗弁 として主張 した。 これに対 して,Ⅹは差押
債権者の地位の一部承継の申出による時効中断の再抗弁 を主張 したO
7
年 4月27日民集 6
0
巻 9号3
42
2頁) は,原債権 と求償
原判決 (
福 岡高判平成 1
権 とは別異の法律 関係 に基づ く債権であることを理由に,Ⅹの上記地位承継の
47
届出によ り,本件求償権お よび本件連帯保証債権 について 「
差押 え」 (
民法 1
条 2号)がなされた とはいえない として,Y2の控訴 を認容 した。
Ⅹは上告受理 を申 し立て, これが受理 された。
【
判 旨】
破棄 自判
「
債権者が物上保証人に対 して申し立てた不動産競売につい
て,執行裁判所が競売開始決定 を し,同決定正本が主債務者に送達 された後に,
主債務者か ら保証の委託 を受けていた保証人が,代位弁済を した上で,債権者
か ら物上保証人に対す る担保権の移転の付記登記 を受け,差押債権者の承継 を
執行裁判所 に申 し出た場合 には,上記承継の申出について主債務者 に対 して民
55
条所定の通知が されな くて も,次の とお り,上記代位弁済 によって保証
法1
物 上保
証
に
人 対 る欄
す
産競売報
の 開始後に代 位
楠
した保 証
人
に
よる 差押 債権 者の 地位経
の申
出
と
求 償権 の 糊
中断
231
人が主債務者 に対 して取得す る求償権の消滅時効 は,上記承継の申出の時か ら
上記不動産競売の手続の終了に至 るまで中断す ると解す るのが相当である。
ア
保証人は,上記代位弁済によって,主債務者に対 して求償権 を取得す ると
ともに,債権者が主債務者に対 して有 していた債権 (
以下 「
原債権」とい う。)
01
条),原債権 と上記担保権
と上記担保権 を代位 によ り取得す るところ (
民法5
は,求償権 を確保することを目的 として存在す る付従的な性質を有す るもので
8年 (
オ)第8
81
号 同61
年 2月2
0日第一小法廷判決 ・民集40
あり (
最高裁昭和 5
巻 1号43頁参照),保証人の上記承継の申出は,代位 によ り取得 した原債権 と
上記担保権 を行使 して,求償権 の満足 を得 ようとす るものであるか ら,これに
よって,求償権 について,時効中断効 を肯認するための基礎 となる権利の行使
オ)第 1
493号 同 7年 3月2
3
があった もの とい うべ きである (
最高裁平成 3年 (
日第一小法廷判決 ・民集49
巻 3号 9
8
4頁)。
イ 物上保証人に対す る不動産競売の開始決定正本が主債務者に送達 された場
合 には,原債権の消滅時効 は,同決定正本が主債務者 に送達 された時か ら上記
不動産競売の手続の終了 に至 るまで中断す るが (
最高裁平成 7年 (
オ)第37
4
号同年 9月 5日第三小法廷判決 ・民集49
巻 8号 2
7
84頁,最高裁平成 5年 (
オ)
7
88号同 8年 7月1
2日第二小法廷判決 ・民集 5
0巻 7号 1
9
01頁参照), この こ
第1
とは,途中で,代位弁済による差押債権者の承継があった場合 も異 な らないの
で,差押債権者の承継は,一般 に,原債権の消滅時効 について主債務者 に不利
益 を生 じさせ るものではない。そ して,上記の とお り,原債権 は求償権 を確保
することを目的 として存在す るものであるか ら,このことは,同時に求償権の
消滅時効 について も当てはまるものである。
また,保証人に保証の委託 を していた主債務者 においては, 自ら弁済す るな
どして上記不動産競売の手続の進行 を止めない限 り,保証人が代位弁済 をして
差押債権者の承継 を申 し出るとい うことは,当然に予測すべ きこととい うべ き
である。
55条 は,時効の利益 を受ける者 (
以下 「
時効受益者」 とい う。)以外の
民法 1
者 に対 して時効 中断効 を生ずる行為が された場合 に,時効受益者が不測の不利
232
商
学
討
究
第5
8
巻
第 2・3号
益 を被 るこ とが ない ように,上記行為が あ った こ とを時効受益 者 に通知すべ き
こ とを定 め た規 定 で あ るが (
最 高裁 昭和 47
年 (
オ)第7
23号 同5
0年 11月21日第
二小法廷判 決 ・民集 2
9巻 1
0号 1
5
37頁参照),既 に物上保証 人 に対 す る不動 産競
売 の開始 決定正本 の送達 を受 けて時効 中断効 を生ず る行為 が あった こ との通知
を受 けてい る時効受益者 た る主債務者 につ いて は,上記 の とお り,一般 に差押
債権者 の承継 に よって原債権 の消滅時効 ひいて は求償権 の消滅時効 につ いて不
利益 を被 る こ とはな く, また,保証 人が代位弁済 を して差押債権者 の承継 を申
し出 るこ とは当然 に予測すべ きこ とであ るか ら,上記承継 の 申出が あ った こと
の通知 を受 けなけれ ば不測 の不利益 を被 る とい うこ とはで きない。
そ うす る と,民 法 1
55条 の法意 に照 らし,上記承継 の 申出 につ いて は,時効
受益者 たる主債務者 に対す る時効 中断の問題 に関す る限 り,主債務者 に通知す
るこ とを要 しない とい うべ きであ る。
り
以上 に よれば,前記 の場合 には,前記代位弁済 に よって保証 人が主債務者
に対 して取得す る求償権 の消滅 時効 は,前記承継 の 申出の時か ら前記不動 産競
売の手続 の終了 に至 る まで 中断す る とい うべ きであ る。」
【
評釈 】
Ⅰ.問題点 と本判決の意義
債権者 の物上保証 人 に対 す る不動産競売 申立 ては,被担保債権 に関す る消滅
時効 の中断事 由 (
「
差押 え」 〔
民法 1
47条 2号 〕
) であ り,被担保債権 の債務者 に
対す る消滅時効 の中断効 は,物上保証 人 に対 して 申 し立 て られた不動産競売 の
開始決定正本が債務者 に送達 され,それが到達 した時 (
「
通知 」 〔
民法 1
55条 〕
)
か ら不動産競売手続 の終 了時 まで継続す る との立場 が通説 であ る。
あ る債務 を担保す るため,上述 の物 的担保 のほか に保証人があ る場合 ,保証
人が保証債務 を履行す る と,主債務者 に対 して求償権 を取得す る (
民法 45
9条 ・
462条)。他 方 で,この求償権 の効力 を確 保す るため に,民法 は,代位弁済 に よっ
て客観 的 に消滅 した債権 (
以下 で は 「
原債権 」 とい う) を観 念上存続 させ ,代
位弁済 した保証 人 (
求債権者) が原債権 を求償権 の範 囲内で行使 す るこ とを認
物 上保
証
に
人 対 る欄
す
産競売報
の 開始後に代 位
楠
した保 証
人
に
よる 差押 債権 者の 地位経
の申
出
と
求 償権 の 糊
中断
233
める (
弁済による代位 〔
民法4
9
9
条以下〕)
。弁済 による代位 によれば,代位弁
0
0
条〕
),債権
済 した保証人 は法律上当然 に債権者 に代位 し (
法定代位 〔
民法 5
者の有 していた原債権 を行使することがで きるが (
民法 5
01
条), この とき,原
債権 は代位弁済 した保証人に 「
移転する」 と解す るのが,わが国の支配的見解
である1
)
。そ して,債権者の もとですでに生 じていた原債権 に関す る消滅時効
の中断効 は,代位弁済者 に移転 した後 もその効力 を変 じない。 したがって,債
権者が物上保証人に対 して申し立てた不動産競売の開始決定正本が主債務者 に
送達 された後 に代位弁済 をした保証人は,差押債権者の地位 を承継 した旨を主
債務者 に改めて通知す るまで もな く,すでに生 じていた原債権の時効 中断効 を
承継す る (
民法 1
4
8
条)0
では,上述の場合 において,求償権 に関す る消滅時効 は中断するだろうか。
本件では,債権者が物上保証人に対 して申 し立てた不動産競売の開始決定正本
が主債務者 に送達 された後 に代位弁済をした保証人が差押債権者の地位の承継
を申し出た場合,(
丑原債権 を被担保債権 とす る担保権 に基づ く競売手続 におけ
る差押債権者の地位の承継の申出 (
原債権お よびその担保権の行使) は,求償
権 に関す る消滅時効 を中断す るか,②(
丑を肯定するとして,求償権の時効中断
5
5
条に基づ き,差押債権者の地位の承
効 を主債務者 に及 ぼすためには,民法 1
継の申出について主債務者への通知が必要か,とい う点が争われた。本判決は,
(
丑については,破産手続 における破産債権 (
原債権)の債権者の地位承継 に関
す る最-小判平成 7年 3月2
3日 (
後掲判例 【3】
) を踏襲 して本件の事案 にお
いて もこれを肯定 し,② については,差押債権者の地位承継 についての主債務
者への通知 を不要 とした。本判決は,これ らの問題 について最高裁 として初め
て判断 した ものであ り,債権管理の観点か ら実務上重要な意義 を有す るととも
に,理論的な問題 を含 む判決であると考 えられる。
以下では,原債権 と求償権 との関係 (Ⅰ) お よび原債権の行使 による求償権
1) 我妻栄 『
新訂債権総論』 (
岩波書店,昭和3
9
年) 2
4
7
頁,最三小判昭和5
9
年 5月
2
9E
I
民集3
8
巻 7号 8
8
5
頁 (
後掲判例 【1】
)
。
234
商 学 討 究 第58巻 第 2 ・3号
Ⅱ) につ いて従 来の最 高裁 の立場 お よび学説 を中心 に検
の時効 中断効 の有無 (
討 し,民法 155条 に関す る立法者意思 ,従 来 の学説 お よび最 高裁判例 の判例法
理 を検 討 し (
Ⅳ),本判 決 を従 来 の判例 の流 れ に位置 づ け る。 そ の うえで,本
判 決 の判 旨につ いて若干 の検 討 を加 え (
Ⅴ),本判 決 の射程 (
Ⅵ) お よび残 さ
れた問題 (
Ⅶ ) につ いて論 じる。
Ⅰ.原債権 と求償権 との関係
原債権 と求償権 との関係 につ いて は,別異性 を強調す るか密接性 を強調す る
か に よって,個 々の問題 に対す る結論 が異 なって くるため,最三小判 昭和 59年
5月29日民集 38巻 7号 885頁 (
判例 【1】
)が 出 され る前後 か ら判例 お よび学説
において大 い に議論 されて きた。
前述 (Ⅰ) の ように,原債権 は債権者 の有 す る債権 (
本件 で は貸付債権)が
代位弁 済 に よって代位弁 済者 に移転 した ものであるの に対 して,求償権 は本件
で は保証委託契約 に基づ く費用償還請求権 であ り,両者 は発生原 因 も性 質 も額
も異 なる別個 の権利 と して,いず れ も代位弁 済 を した保証人 に帰属す る。 しか
し, と りわけかつ ての信用保証協会実務 においては,代位弁済 に よって原債権
が消滅 し,求償権 は消滅 した原債権 に とって代 わ る と して,求償権 と原債権 と
の同一性 を強調 す る見解 (「
接 木説 」
) が一般 的であ った2)。
これ に対 して,最高裁 は,判例 【1】以 降,接木説 を否定 し,求償権 と原債
権 とが別個 の債権 であ り,主従 的競 合 関係 に立つ こ とを明 らか に した3)。最 高
塚原朋- 「
弁済による代位をめ ぐる最高裁判例の概観 と展望」金法11
43
号 (
脂
和62年) 6頁,八木良一 「
判例 【3】解説」 『
最高裁判例解説民事篇平成 7年度』
(
法曹会)363頁以下,367頁,村 田利喜弥 「
弁済者代位の実務上の問題点」 『
担
保法理の現状 と課題 (
別冊 NBL31
号)
』(
平成 7年,商事法務研究会)1
87頁,村
田利喜弥 「
判例 【3】判批」銀法51
0号 (
平成 7年) 1
5頁以下,村 田利喜弥 「
消
30号 (
平成1
0年) 1
20
滅時効における原債権の確定等求償権 との関係」 ジュリ11
頁以下。
3) 最-小判昭和 5
9
年1
0月 4日金判71
1
号 3頁,
最二小判昭和 59年11月16日判時11
40
号7
4頁,最三小判昭和60年 1月2
2日金判71
7
号 3頁,最-小判昭和61年 2月20日
民集40巻 1号43頁 (
判例 【2】
),慕-小判昭和61
年1
1
月27日民集40巻 7号1205頁。
2)
物 上保
証
に
人 対 る欄
す
産競売報
の 開始後に代 位
楠
した保 証
人
に
よる 差押 債権 者の 地位経
の申
出
と
求 償権 の 糊
中断
235
裁判例 の到達点 とされ る最-小判 昭和 61年 2月20日民集 40巻 1号43頁 (
判例
【2】) は,原債権 の取立訴訟 にお ける求償権 の表示が問題 となった事案 に関
す る判決であ り,両債権 の関係 について次の ように述べ る。
「
弁済 による代位の制度 は,代位弁済者の債務者 に対す る求償権 を確保す る
ことを 目的 として,弁済 によって消滅す るはずの債権者 の債務者 に対す る債権
(
以下 「
原債権」 とい う。)及 びその担保権 を代位弁済者 に移転 させ,代位弁
済者がその求償権 を有す る限度で右 の原債権及 びその担保権 を行使す ることを
認め る ものである。それゆえ,代位弁済者が代位取得 した原債権 と求償権 とは,
元本額,弁済期,利息 ・遅延損害金の有無 ・割合 を異 にす ることによ り総債権
額が格別 に変動 し,債権 としての性 質に差異があることによ り別個 に消滅時効
にかか るな ど,別異 の債権 ではあるが,代位弁済者 に移転 した原債権及 びその
担保権 は,求償権 を確保す ることを 目的 として存在す る附従的な性質 を有 し,
求償権が消滅 した ときはこれによって当然 に消滅 し,その行使 は求償権の存す
る限度 によって制約 されるな ど,求償権 の存在,その債権額 と離れ, これ と独
立 してその行使が認め られ るものではない」。
判例 【2】か らは,①原債権 と求償権 とは別異 の債権 であ り,②原債権 は求
償権 を確保す ることを 目的 とす る附従 的性 質 を有 し,③ 原債権 は求償権 に対 し
主従的競合」 関
て独立性 をもたない, とい う 3つのテーゼが導かれ, これは 「
係 といわれるが,判例 【2】で重視 されていたのは,原債権 は求償権があって
は じめて存在 し,求償権 と切 り離 して移転 も存在 もしない ことである4)。
両債権 の関係 を判例 【2】と同様 に理解す る学説 もあるが 5),判例 【1日 2】
塚原朋- 「
判例 【2】解説」『
最高裁判例解説民事篇昭和61
年度』 (
法曹会)25
頁以下,31
頁参照。
5) 林良平は,「
今 日の民法の体系では,まず,求償権が存立する場合に,それの
強化 ・保障として弁済者の代位がある」 とした上で (
林良平 「
弁済による代位に
おける求償権 と原債権 一 信用保証委託契約を中心 として-」金法11
00号 (
昭和
60年) 5
2頁以下,5
2頁),「
原債権はその固有の成立根拠 と権利内容を有 し,求償
権 もまた固有の成立根拠をもちその権利内容をもっている。両者はなんら相関係
するところはない。ただ,代位による移転により,求償権の存続する限 りで原債
4)
236
商 学 討 究 第5
8
巻 第 2・3号
の担 当調査官 であ る塚 原朋- お よびそれ に追随す る学説 は,原債権 は求償権 を
「
確保 す る」 とい う文言 (
テーゼ② ) に 「
担保 す る とい う趣 旨」 を読み込み,
弁 済者代位 を「
債権 とい う権利 の譲渡の方法 に よる法定担保 制度」と理解 し了求
償権 は原債権 の被担保債権」 であ る との意味 をこめて 「
主従 的競合」 とい う表
現 を用 いてお り6),これが学説 の主流 になってい る といって も過言 で はない7)0
現在 の最高裁 は,一見す る と判例 【2】を維持 してい るかの よ うにみ えるが,
その実 質 は上述 の学説 の影響 を受 けて変容 してい る ともい え が
)。例 えば,最
-小判平成 7年 3月2
3日民集49
巻 3号 9
8
4頁 (
判例 【3】
) は,原債権 と求償権
との関係 につ いて,判例 【2】 を参照 し,原債権 は 「
求償権 を確保す るこ とを
目的 と して存在す る附従 的 な権利 である」 としてテーゼ(
むのみ を引用 し,原債
権を 「
保証 人が いわば求償権 の担保 と して取得 した」 ものであ る と述べ る。判
権利」 と表現 され, 「
債権」 とい う文言 は用
例 【3】 にお いて は,原債権 は 「
い られてお らず,原債権 の担保権 と しての性 質が強調 されてい る。
本判決 も,原債権 と求償権 の関係 につ いて,判例 【3】 と同様 の理解 の上 に
立 っている と思 われ る。
権 (
効力 ・担保) も存続 し,求償権の範囲内で, しか し,原債権固有の法理で原
債権が行使 されるのである。原債権 と求償権は完全に切断されている」 と述べる
1
0
0
号5
6
頁)
0
(
林良平 ・前掲注 5)金法1
6) 塚原朋- 「
保証人 と債務者及び保証人 と物上保証人 との間で成立 した特約の第
三者に対する効力」手研3
6
8
号 (
昭和6
0
年)1
0
頁以下,1
2
-1
3
頁,石田喜久夫 「
他
の利害関係人に対する求償権 と代位権の関係」金法1
1
4
3
号(
昭和6
2
年)1
3
頁以下,
1
4頁 (
接 ぎ木説か ら改説)
。判例 【3】の後の学説 として,山野 目章夫 「
求償債
1
0
5
号 (
平成 9年)1
3
8
頁以下。
権 と原債権の関係 一 相互性仮説の検証」 ジュリ1
7) なお,学説においては,代位制度の歴史的研究をふまえて,弁済者代位制度を
弁済者 と被求償者 との間の内部的法律関係に基づ く国有の求償権の存否 を詮索せ
ずに,弁済の事実を要件 とする求償制度 としての機能を内在 させる制度 として理
解する見解 (
寺田正春 「
弁済者代位の機能 と代位の要件 ・効果」椿寿夫編 『
担保
1
号)
』(
平成 7年,商事法務研究会) 1
3
5
頁以下,
法理の現状 と課題 (
別冊 NBL3
1
3
6
頁)や上記見解 を支持 しなが ら代位制度が求償制度を内在的に取 り込んでい
ると理解する見解 (
潮見佳男 「
求償制度 と代位制度」中田裕康 ・道垣内弘人編 『
金
融取引 と民法法理』 (
平成1
2
年,有斐閣)2
3
5
頁以下,2
5
2
2
5
8頁)が有力に主張
されているが,判例の採るところには至っていない。
8) 潮見佳男 ・前掲注 7)2
3
8
2
4
2
頁 もこのことを指摘する。
物 上保
証
に
人 対 る欄
す
産競売報
の 開始後に代 位
楠
した保 証
人
に
よる 差押 債権 者の 地位経
の申
出
と
求 償権 の 糊
中断
23 7
Ⅲ. 原債権の差押債権者の地位承継の申出による求償権の時効 中断効の有無
原債権 の行使 に よって求償権 の消滅時効が中断 されるかについては,原債権
と求償権 との関係 について判例 【2】の示 した 「
主従的競合」 の理解 を前提 と
す ると,債権者 の意思解釈 を通 じることによって可能である として も9),従 た
る債権 である原債権 を行使 しただけでは,論理的には,主たる債権であ る求償
権 に関す る時効 中断効 を生 じない と解す るのが 自然 であ る10)。求償権 と原債
権 との主従関係か らすれば,原債権の行使が求償権 に時効 中断効 を生 じる とい
うのは主従関係 に逆行す るか らである。
これに対 して,原債権 を求償権 の担保 である と理解す る見解 においては,担
保権 の行使 によって被担保債権 の時効 は当然 に中断 され るとして,原債権 の行
使 に よる求償権 の時効 中断 を当然 に肯定す る立場が多数 を占め る11)。 この見
解 の論者 の中には,原債権 の消滅時効が中断 した ときに求償権 の時効が中断す
ることを肯定す る理由 として,①原債権 と求償権が当事者 を同 じくす ること,
② 原債権 の行使 には求償権 を主張す る意味が客観的 に含 まれる (
論理の必然で
ある) こと,③ 原債権 と求償権 についてそれぞれ別個の権利主張行為 を期待す
ることが法律上 または事実上の見地か ら合理性 を欠 くこと,以上の 3つの要件
を満 たす こ とを挙 げ る もの 12)や,代位 弁済 を行 って求償権 を獲得 した者が原
債権 を行使 して抵 当権 に基づ き競売 を申 し立てる際 には, 申立書 に確保 される
べ き求償権があわせ て表示 されるので, この場合 には求償権 を行使す る意思が
林良平 ・前掲注 5)金法1100号57頁。
上野隆司 -佐久間弘道 -塩崎勤 -山野 目章夫 「〔
座談会〕不動産競売 と時効管
469
号 (
平成 8年) 23頁以下,31頁 〔
塩崎勤発
理をめ ぐる実務上の留意点」金法1
言〕,潮見佳男 ・前掲注 7)243頁も同旨。
l
l
) 塚原朋一 ・前掲注 6)手桝36
8号1
6頁,石田喜久夫 ・前掲注 6)金法1
1
43号1
4頁,
岡本坦 -塚原朋- -田井雅巳-江口浩一郎 -上野隆司 「〔
座談会〕時効中断の各
平成 6年) 6頁以下,32頁 〔
塚原朋一発
種手続 と実務上の諸問題」金法1398号 (
上野隆司発言〕
,上野隆司-佐久間弘道 -塩崎勤 -山野 目章夫 ・前掲
言〕,33頁 〔
469
号31頁 〔
山野日章夫,佐久間弘道,上野隆司発言〕
。
注1
0
)金法1
1
2
) 山野 目章夫 「
判例 【3】判批」判評443号199頁以下,201-2頁,山野 目章夫 ・
前掲注 6)ジュリ1105号140頁。山野 目章夫 「
本件判批」金法1812号 (
平成19年)
26頁以下は,この要件に従って本判決の正当性を論証する。
9)
1
0
)
238
商
学
討
究
第5
8巻
第 2 ・3号
明示 され てい る とい え るか ら,求償 権 の時効 中断効 を肯 定 す る こ とには問題 が
ない と した うえで, 「もっ と一般 的 に,原債 権 を行 使 した と きは, これ に よっ
て そのい わ ば被 担保債権 で あ る求償権 につ いて時効 中断 の効 力 が あ る」 とす る
もの 13)が あ る。
さ らに,原債権 と求償権 の経 済 的 ・実 質的一体性 また は密接 な関係 を根 拠 と
して原債 権 の行使 を求償 権 自体 の行 使 と同視 す る説 明 す る見 解 14)や , 当事 者
間の公平 を根 拠 に説 明す る見解 15)もあ る。
この よ うななか ,最 高裁 は,判 例 【3】 にお いて,債権者 が主債務者 の破 産
手 続 にお いて債 権全 額 の届 出 を し,債権 調査期 日の終 了後 に債権 全 額 を代位 弁
済 した保 証 人 が,破 産裁判 所 に届 出債権 (
原債 権) の届 出名 義 の変更 を 申 し出
た場 合 16)にお い て求 償 権 の消 滅 時効 の 中 断 の有 無 が 問題 とな った事 案 に関 し
て,次 の よ うに述べ て,求償権 の消滅 時効 は原債権 の届 出名義 の変更 時 か ら破
産手続 終 了時 まで 中断す る と判示 した。
弁 済 した保 証 人 が代 位 に よって取得 す る原債 権 は, 「
求償 権 を確 保 す る こ と
を 目的 と して存 在 す る附従 的 な権 利 で あ るか ら--・
,保 証 人 が い わ ば求償権 の
担保 と して取得 した届 出債 権 につ き破 産裁判所 に対 して した右届 出名 義 の変 更
塚原朋一 ・前掲注 6)手研 368号 16頁。
伊藤進 『
信用保証協会保証法概論』 (
平成 4年,信 山社)276頁,清水暁 「
判例
【3】判批」判評425
号1
92頁,福 田泰明 「
判例 【3】判批」金法 1
476
号 (
平成 9
年) 16頁以下 ,1
7頁。
15
) 野村豊弘 「
弁済者の代位 と消滅時効 (
名古屋地判平成 3年 1
2月 4日お よび名古
屋地判平成 4年 9月1
4日)」判 夕82
4号 (
平成 5年) 35頁 ,39頁。
1
6
) 破産債権の届 出 (
新破産法 111条) によって,当該破産債権 について,破産手
続終了 まで時効中断の効果が生 じる (
民法 1
52条)。届出後 に生 じた破産債権の移
転に基づいて行われる届出名義の変更は,届 出期間等 について特別の制限を受け
ず,新 たに破産債権 を取得 した者が一定の方式によって届出名義の届出書 を提出
3条,破産規則35
条)。届出名義の変更は,
することによってなされる (
新破産法 11
当該破産債権の時効中断効 との関係では,新債権者 (
代位弁済 した保証人)は,
当該破産債権 (
原債権) についてすでに生 じている時効中断効 を承継するにす ぎ
ないが,届 出後に破産債権 を取得 した新債権者にとって,破産債権の届出 と同様
の意義 を有すると解 される (
伊藤其 『
破産法 〔
第 4版補訂版〕
』(
平成 1
8年,有斐
閣)434-438頁)0
1
3
)
1
4)
物 上保
証
に
人 対 る欄
す
産競売報
の 開始後に代 位
楠
した保 証
人
に
よる 差押 債権 者の 地位経
の申
出
と
求 償権 の 糊
中断
23
9
の 申出は,求償権 の満足 を得 ようとしてす る届 出債権 の行使 であ って,求償権
につ いて,時効 中断効 の肯認 の基礎 とされ る権利 の行使 があ った もの と評価 す
るのに何 らの妨 げ もない」。
判例 【3】の直後 の最 三小 判平成 9年 9月 9日判 夕95
6号 1
60質 (
判例 【4】
)
ち,主債務者 の破 産後 ,債権調査期 日終了前 に代位弁 済 した保証 人が債権調査
期 日終 了後 に債権届 出名義 の変更 を申 し出た事案 において,同様 の判 断 を した。
判例 【3】が,破 産債権 (
原債権)の届 出名義 の変更 に よって,求償権 の 「
時
効 中断効 を肯認す るための基礎 となる権利」 が行使 され る と して求償権 の時効
中断効 を肯 定 した点 につ いて,判例 【3】 を担 当 した八木 良一調査官 は,原債
権 の届 出名義 の変更 は求償権 自体 の行使 で はな く,原債権 の破 産手続参加 が,
「いわ ば求償権 の担 保権 の実行 が あ った もの と同視」 され る と し17),求償権
につ いての時効 中断事 由 を,求償権 自体 の破 産手続参加 (
民法 1
52条)で はな く,
差押 え (
民法 1
47条 2号) と解 す る18)。
本判決の原審 (
民集6
0巻 9号3
43
3
-3
43
4頁参照) は,原債権 と求償権 とが別個
の債権 であることに着 目し,物上保証人 に対す る競売手続 における差押債権者 の
地位承継の申出によって,求償権 を直接行使せず とも求償権 の時効 中断効 を生 じ
る とす ると,求償保証人は,本来保証委託契約が履行 された結果生ず る求償権 を
保証す るに もかかわ らず,実質的には原債権 を担保 しているの と同 じことになっ
て しまうとして,本判決の事案では求償権の時効 中断効 は生ぜず,破産手続 の事
1
7
) 八木良一 「
判例 【3】解説」 『ジュリス ト最高裁時の判例 Ⅲ』1
8
0頁以下,1
81
頁,
前掲注 2)3
7
0頁Oこれに対 して,高橋 最 (
「
弁済者代位における原債権 と求償権
一 消滅時効に関連 して」銀法6
5
5
号 (
平成1
8
年)1
6
頁以下,2
0
頁)は,判例 【3】
は破産債権者の地位承継の申出によって,原債権 とともに求償権 も行使 したと評
価 していると解する。
「
判例 【3】判批」 リマーク
1
8
) この場合の時効中断事由について,松久三四彦 (
ス1
3
号 (
1
9
9
6
年 〔
下〕
)11頁以下,14頁)は,判示か らは,原債権の担保的性質
か ら,債務者 自身が設定 した担保権の実行 と同様に扱い,差押 えに準ずる外に 「
破
産手続に伴 う求償権行使の制約」 をも根拠 として破産手続参加 (
民法1
5
2条)に
準ず るという万が素直であろうか」 と述べるが,八木調査官 (
前掲注 2)37
6頁
注1
0
)
)は 「
求償権 自体は破産手続に何 ら参加 していない」としてこれを否定 し,
中断事由を差押え (
民法1
47
条 2号) とする。
240
商
学
討
究
第5
8巻
第 2・3号
案に関する判例 【3】の法理の射程は本判決の事案に及ばないとの立場であった。
これに対 して,本判決は,原債権 についての差押債権者の地位承継の申出は,
「
求償権の満足 を得 ようとす るもの」であ り,求償権の 「
時効中断効 を肯認す
るための基礎 となる権利の行使」であるとして,これによって求償権の時効中
断効が生 じるとした。 したがって,本判決は,判例 【3】の射程が破産手続 に
おける破産債権者の届 出名義の変更の申出の事案にとどまらず,物上保証人に
対する競売手続における差押債権者の地位承継の事案に及ぶことを明らかにした。
しか し,原債権が実質的に求償権 を担保す る機能を有す るとして も,法的に
は,求償権 と原債権 とが別個の債権であることを前提 とす る以上,主債務者が
47条 2号) と単純 に同視す
自らの物 に設定 した担保権 を実行す る場合 (
民法 1
ることはで きない。 また,原債権の破産債権者の届 出名義の変更が,求償権の
「
時効中断効 を肯認す るための基礎 となる権利の行使」であるとい う抽象的な
理 由づけだけでは,「
普通保証人 を訴 えた ときに も主債務の時効の中断効が認
」 との判例 【3】に対す る批判 19)は,
め られかねない (
民法456・434条参照)
本件事案 にも妥当するように思われる。
この点,執行実務 においては,代位弁済によ り原債権お よび抵当権が弁済者
に移転 した旨の付記登記 を行い,その付記登記の記載 された登記簿謄本 を添付
して原債権の差押債権者の地位承継の申出が行われている。 ここで,原債権の
の差押債権者の地位承継の申出には時効 中断 と関連 して 2つの側面があると考
えられる。 1つは,原債権 について,原債権者がすでに生 じさせていた時効中
断効 を承継するとい う側面である。 もう 1つは,求償権の行使 「的」側面であ
る。す なわち,求償権 自体 を行使 しているわけではないが,上述の執行実務 を
前提 とす ると,上記登記簿謄本の添付 によって 自らが求償権 を有す ることを明
示 した うえで,求償権の確保 に向けて行為 しているとい う側面である。 この第
2の側面 に着 目して原債権 の差押債権者の地位承継の申出20)を求償権 に基づ
1
9
) 松久三四彦 ・前掲注 1
8) リマー クス 1
3
号1
4頁。
原債権の差押債権者の地位承継の申出は,執行法の観点からは,競売開始決定
20)
物上保証人に対する欄 産競売報 の開始後に
代位楠 し
た保証人による差押債権者の地位経 の申出と
求償権の糊 中断
241
く 「
差押 え」 (
民1
47条 2号) に準 じる もの と評価す ることによっては じめて原
債権 の差押債権者の地位承継の 申出による求償権の時効 の中断効が正当化 され
るように思 われる21)0
Ⅳ.民法155条
前述 (
Ⅱ)の ように原債権 の差押債権者 の地位承継の 申出によって求償権 の
時効が中断す ることを認め るとして も,本件差押債権者 の地位承継の 申出は物
上保証人に向けて行 われているため,債務者 に対 して求償権の時効 中断効 を生
じるためには 「
通知」 (
民法1
55条)が必要 となるかが問題 となる。
1.立法経緯 および起草者の見解
民法1
55条 は,旧民法証拠編11
7条 3項 「
時効 ノ利益 ヲ受 クル者 二対 シテ差押
ヲ為 ササ ル トキハ其差押ハ此者 二告知 シ タル後 二非サ レハ 中断 ノ効力 ヲ生 セ
ス」 に由来す る。 同条 は,ボアソナー ドの発案 による ものであ り,法典調査会
において参照条文 としてイ タリア民法21
25条 1項が挙 げ られるのみの,立法例
としては珍 しい条文である。 ボアソナー ドは債権者が債務者 の債権 を差 し押 さ
える場合 を例 として考 えていた22)。法典調査会 において,起草者梅謙次郎 は,
①債務者の第三債務者 に対す る債権 に対す る差押 え,② 第三者の占有下 にある
債務者の物の差押 え,③ Aの財産 を もっていった Bがその財産 を Cに貸 し渡 し
てお り,Cに対 してその物が差 し押 え られた場合 ,以上 3つの例 を念頭 にお
き23), これ らの場合 には,「
何 レノ場合 二於 テモ未 ダ本人 ガ知 ラヌデ居 ル,本
人ノ知 ラナイデ居 ル間二時効 ガ中断セ ラ レテ居 ル ト云 フコ トハ何 ウモ私共ニハ
後に代位弁済により執行債権を取得 した保証人にとって,差押えと同様の意義を
有する。
21
) なお,原債権 と求償権 との関係および原債権の行使による求償権の時効中断効
の有無の問題に関しては,未だ私見が固まっていない。 したがって,本稿では,
従来の判例における最高裁の考えを正確に理解することを目指すにとどめ,上記
の問題の検討は別稿に譲 りたい。
2
2
) なお,この例は現在では民法1
5
5
条の問題として捉えられてはいない。
2
3
) 法務大臣官房司法法制調査部監修 『
法典調査会議事民法速記録 1巻』 (
商事法
梅謙次郎〕
。
務研究会,昭和58年)453頁 〔
24
2
商 学 討 究 第5
8
巻 第 2・3号
酷 ノヨウニ思ハ レ」 ることを理由に同条 を提案 した24)。 したが って,梅 に よ
れば,時効の利益 を受ける者が中断事由の存在 を知 り得 ることを前提 とす るの
で,時効が中断する時点は,差押 えの申立ての時点ではな く通知の時点であ り,
この ようにするために同条が必要であるとい う25)0
これに対 しては,箕作麟禅か ら,上記①の例 において, (
旧)民事訴訟法 598
条 3項が 「
差押ハ第三債務者二対スル送達 ヲ以テ之 ヲ為 シタルモノ ト看倣 ス」
と規定するにもかかわ らず,通知の送達時点で時効中断効が生 じるとすると,
第三債務者 に対 して差押 えをしたが債務者 に対 して通知が届かない段 階で時効
が完成 して しまうことにな り,せっか く第三債務者 に対 してな した差押 えが役
に立たな くなること26),第三債務者 に対 して権利行使 の意思 を表明 した以上
は, このことを債務者が知 らな くて も時効の中断の効力 を生ず るのは当然であ
ること27),以上 に基づ き,時効の利益 を受 ける者が中断事 由を知 らな くて も
中断効 を生 じさせ るべ きであるとして削除案が出されたが,採決によ り否決 さ
れた28)0
④物上保証人所有の抵当不動産への差押 えまたは仮差押 えの例 は,梅の旧民
1
7条 3項 について,被担保債権の消滅時
法の講義録 に登場 し,梅 は,証拠編 1
効が中断 しない とすると債権者 に酷であ り,直ちに中断するとしては債務者不
知の場合 に穏 当ではないので,その中間の最 も適当な方法 を規定 した ものであ
ると説明 し29),その後の民法要義においては,この例 を上記例③ とともに挙 げ,
上記 と同様 に説明 していた30)。
この ように,立法時においては,いずれの見解 も 「
通知」(
民法 155条)によっ
4
)
5
)
6
)
7
)
前掲注2
3
)4
5
3
頁 〔
梅謙次郎〕
。
前掲注2
3
)4
5
5
頁 〔
梅謙次郎〕
。
前掲注2
3
)4
5
2
3
頁 〔
箕作麟祥〕
。
前掲注2
3
)4
5
5
頁 〔
箕作麟祥〕
。
8) 箕作の削除案については,横田,高木,長谷川が支持,削除案に反対 したのは
梅,磯部であった。
2
9
) 梅謙次郎講述 『
時効法 全 〔
和仏法律学校第四期講義録〕
』(
和価法律学校講義
録出版部)7
7
-7
8
頁。
3
0
) 栴謙次郎 『
初版民法要義巻ノー総則編』 (
明治2
9
年,和仏法律学校)3
3
0
頁。
物 上保
証
に
人 対 る欄
す
産競売報
の 開始後に代 位
楠
した保 証
人
に
よる 差押 債権 者の 地位経
の申
出
と
求 償権 の 糊
中断
2
43
て時効中断効 (
相対効の原則 〔148条〕
) を人的に拡張す ることを前提 とす る点
で一致 しているが,拡張 に際 して 「
時効 ノ利益 ヲ受ケル者」が差押 え等の中断
事由を知 らなければな らないか どうかについては争いがあ り,
差押 申立時説 (
長
谷川喬),民事訴訟法 による差押 えの効力発生時説 (
箕作麟禅,高木豊,横 田
園臣)そ して債務者への通知の到達時説 (
梅謙次郎,磯部四郎) とに分かれて
いた。 しか し,民法 155条が立法 に至 った以上,立法者意思 は債務者-の通知
の到達時であると解 されるべ きであろう。
また,民法 155条の適用範囲は,立法時に想定 されていたのは上記 4つの例
のみであることか ら,民法 155条 によって中断効 をいかなる者 に対 して も無制
限に拡張 し得 るのではな く,同条の適用範囲は限定的に解 されるべ きである。
2.学
説
その後の学説においては, もっぱ ら④物上保証人の不動産に対す る差押 えの
民法 148条)の
場合 を例 として,民法 155条の趣 旨は時効中断効の相対的効力 (
強制執行 は請求権の義務者以
拡張 または例外 と解 され31),同条の必要性 は,「
外の者に対 しても行われることが多い,ということによる」と述べ られている32)0
被担保債権の債務者 に対す る時効中断効の発生時点は,一般的に,差押 え等
について債務者が了知 し得 る状態に置かれた時点であると解 されている。その
理由 としては,差押 え等が通知 されない うちに時効中断効が発生す ると,一般
的には,債務者が差押 え等 に対す る異議 を述べ る機会 を奪われ,債務 を弁済 し
た者が時効期間満了後 に安心 して受取証 などを破棄することによって,債務者
等 に酷 になることが挙 げ られ る33)。 これに対 して,債務者 に対す る通知が制
川島武宜 『
法律学全集 民法総則』(
昭和40年,有斐閣)496頁,川島武宜編 『
注
5
)
総則(
5
)
』(
昭和42年,有斐閣) 〔
川井健執筆〕も同旨,我妻栄 『
新訂民法
釈民法(
総則』(
昭和40年,岩波書店)469-70頁,松坂佐一 『
民法提要 総則 〔
第三版〕(
脂
民法総則 〔
第四版補正版〕
』(
平成 8年,弘
和49年,有斐閣)340頁,四宮和夫 『
文堂)31
8頁,山本敬三 『
民法講義 Ⅰ総則 〔
第二版〕
』(
平成17年,有斐閣)496頁。
32
) 川島武宜 ・前掲注31
)49
6
-7頁。
33
) 星野英一 「
判例 【5】判批」法協94巻 3号420頁,三村量- 「
判例 【3】解説」
『
最高裁判例解説民事篇平成 7年度』 (
法曹会)886頁。
31
)
24
4
商 学 討 究 第5
8
巻 第 2・3号
度 と して 自動 的 にな され る もので あ る ときは 申立 時説 に分 が あ る との見解 34)
や 「
他 の時効 中断の時期 とのバ ラ ンス上」差押 え等 の 申立時 と解 す るのが妥 当
だ とす る見解3
5
)もあ る。
物上保 証 人 に対 す る競 売 申立 ての場合 に民法 1
5
5条 を適用 す る こ とにつ いて
は,肯定す るのが通説 であ り,その理 由 と して,物上保証 人 に対 して競売手続
を進 め る債権者 に,時効 中断のため に債務者 に対す る訴 えの提起等 の措置 を と
る こ とを期待 す るの は無 理 で あ る と述べ る ものが あ る36)。 これ に対 して,法
律 上 の当事者 として債務者等以外 の者 を相 手 に差押 え等 が な された場令 ,一片
の通知 を もって債務者 に も中断の効力 を生ぜ しめ るの は中断の人的相対効 の原
則 (
民法 1
48条) を逸脱す る解釈 であ り, また, これ を認 め る と,保証 人 に対
す る差押 えが主債務者 に通知 された場合 に も主債務者 に対 して中断す るこ とに
5
5
条 は,執行手続 が事 実上 第三者 に対 して な され
な って しま うと して,民法 1
た場合 (
前記例②) に限定 して適用 され るべ きであ る とす る反対説が あ る37)。
また, 「
時効 の利益 を受 け る者」 (
民法1
5
5条) の意味 は,時効 の援用 権者 と し
ての 「当事者」 (
民法 1
45
条) にお ける 「
時効 の利益 を (
直接)受 け る者」 の概
なお,判例 【5】および星野評釈の出された当時,旧競売法の下で物上保証人
への競売開始決定についての債務者への通知は義務づけられていなかったので,
債務者への通知なされない場合に,債務者が,①差押 えについて異議 を述べる機
会を奪われること,②時効期間満了を信 じて受取証 を破棄する可能性,以上 2つ
の不利益 を回避することが民法1
5
5
条の通知の必要性 として指摘 されていたが,
5
年)施行 された民事執行法が債務者への通知 を義務づけている以
その後 (
昭和5
上,(
丑の問題は民事執行法上解決されてお り,時効中断のために要求 される通知
5
5
条) との関連では,②の問題のみが考慮 されるべ きである。
(
民法1
3
4
) 松久三四彦 「
高松高判平成 5年 7月1
9日刊批」リマークス1
9
9
5(
上)1
0
頁以下,
1
3
頁,石悶穣 (『
民法総則』 (
平成 4年,悠々社)5
8
2
頁。
3
5
) 石田穣 ・前掲注3
4
)5
8
2
頁。
3
6
) 石田穣 ・前掲注3
4
)5
81
頁。
3
7
) 薬師寺志光 『日本民法総論新講 下巻 (
改訂版)
』(
昭和4
2
年,明玄書房)1
0
8
2
3
頁。幾代通 『
民法総則 (
第二版)
』(
昭和 5
9
年,青林書院新社)5
7
6
頁 も,物上保
5
5
条を適用することに 「
疑問を残 してお きた
証人に対する差押 えの場合に民法1
い」 と述べる。
5
5
条 を類推適
これに対 して,保証人に対 して差押 えがなされた場合 にも民法1
4
)5
8
ト2
頁)
0
用すべ きであるとの見解 も主張 されている (
石田穣 ・前掲注3
物上保証人に対する欄 産競売報 の開始後に
代位楠 し
た保証人による差押債権者の地位経 の申出と
求償権の糊 中断
245
念 とは無 関係 ではない として,物上保証 人 も 「時効 の利益 を受 ける者」 に含 ま
れ,その者 に対 す る差押 え等 について民法 1
5
5条 は適用せず,同条 は時効 の利益
を受 けない者 に対す る差押 え等の場合 に限定す るとの解釈 も主張 されている38)。
なお,最近 の多 くの基 本書 ・概 説書 にお いて,民法 155条 に関す る詳細 な記
述 はみ られ ない。物 上保 証人 に対 す る差押 え事例 にお け る民 法 1
55条 適用 の可
香,「
通知」 あ り方 や時効 中断の時点 につ いて は,昭和 5
0年 以 降の諸判 決 お よ
びその評釈等 に よって明確化 されている。
3.従来 の最高裁判例
物上保証 人所有 の不動産競売 の 申立 て を債務者 に通知す るこ とに よって債務
者 に対 して被担保債権 の消滅時効 が 中断す るか につ いて,最二小判 昭和 50年 11
月 21日民集 29
巻1
0号 15
37頁 (
判例 【5】) は,民法 1
48条 は時効 中断効 の相対 的
効力 を定 め るが,物上保 証 人所有 の抵 当不動産 の競 売 の 申立 て は,「
被担保債
権 の満足 のための強力 な権利実行行為 であ り」,債務者本 人 に対 す る差押 え と
「
彼 此差 等 を もうけ るべ き実 質上 の理 由 はな」 く,民法 1
55条 は, 「同法 1
48条
の前記 の原則 を修正 し,時効 中断の効果が 当該 中断行為 の当事者及 びその承継
人以外 で時効 の利益 を受 け る者 に も及ぶべ きこ とを定め る とともに, これ に よ
り右 の ような時効 の利益 を受 ける者が 中断行為 に よ り不測 の不利益 を被 るこ と
の ない よう,その者 に対す る通知 を要す るこ ととし, もって債権者 と債務者 と
の間の利益 の調和 を図 った趣 旨の規定であ る」 と述べ て, これ を肯 定 した。
「
通知」 (
民法 1
55条) の方法お よび主体 につ いて,判例 【5】 は,執行裁判
所 が競売 開始 決定正本 を主債務者 に送達す る こ とで十分 であ り, この通知が債
権者 か ら発せ られ なければな らない とす る理 由は見 出 し難 い とす る39)。
3
8
) 金山直樹 「
東京高判平成 5年 7月1
9日 (
判例 【7】の原審)判批」判評42
8
号 (
辛
成 6年)2
31
頁以下,2
3
6
頁。
3
9
) 判例 【5】は旧競売法時代の判決であ り,その後の民事執行法 (
昭和 5
5
年1
0月
1日施行)によって競売開始決定正本を所有者および債務者に送達することが義
務づけられたので (
民執法 1
8
8条 ・45
条 2項 ・4
6条 1項),民法 1
5
5
条の通知は手
続法上 も整備 され,この判例法理の妥当性はいっそう高められている。
246
商
学
討
究
第5
8
巻
第 2・3号
通知 に よる中断効 の発生時点 につ いて,物上保証 人 に対 す る不動 産競売 申立
時 とす る下級裁判所裁判例 もあ り(
例 えば,
高知高判平成 5年 7月 1
9日刊時 1
484
号 80頁 〔
判例 【7】 の原審 〕
), この よ うに解 す る学説 もあ るが 40),最 二小 判
平 成 8年 7月 1
2日民集 5
0巻 7号 1
901頁 (
判例 【7】
) は,物 上保 証 人 に対 す る
不 動産競売 申立 てか ら競売 開始 決定正本 の債務者- の送達 までの間に被担保債
権 の消滅時効期 間が満了す る とい う事案 において, 中断効 の発生時点 を競売 開
始 決定正 本 の債務者- の送達 時 と解 し,その理 由 を, 「
債権者 が競売 の 申立 を
した ときに さかのぼって時効 中断の効力が生ず る とすれ ば,当該競売手続 の開
始 を了知 しない債務者 が不測 の不利益 を被 るお それが あ り,民法 1
55条が時効
の利益 を受 け る者 に対 す る通知 を要求 した趣 旨に反す る ことになる」と述べ る。
債務者 が所在不 明の場合 につ いて は,書留郵便 に付 された競売 開始 決定正本
が債務者 に受領 され る こ とな く返送 された事例 につ いて,最三小判平成 7年 9
月 5日民集 49巻 8号 27
84頁 (
判 例 【6】
) は,手続 法上 の送達 の効力 と実体 法
上 の通知 の到達 の効力 は別個 の問題 であ り,競売手続上 は競売 開始決定正本 の
発送 時 に送達 の効力 が発生 す るが,実体法規 であ る民法 1
55条 の適用 に際 して
は, 「
債務者 が右正本 の到達 に よ り当該競 売手続 の 開始 を了知 し得 る状態 に置
かれ るこ とを要す る」との考 えを示 した。これ に対 して,新民事訴訟法施行 (
平
成1
0年 1月 1日)後 に所在不 明の債務者 に対 す る競 売 開始決定正本 の送達が公
示送達 に よってな された事例 につ いて,最二小判平成 1
4年 1
0月25日民集 56巻 8
号1
9
42頁 (
判例 【8】
) は,新 設 された民訴訟 11
3条 の立法趣 旨は,表意者が,
現9
8条 一 引用者 注)所 定 の意思表
訴状 等 の公示 送達 とは別 に民法 97条 ノ 2 (
3条 の類 推
示 の手続 を重 ねて とる二 度手 間 を解 消 す る点 にあ る と し,民 訴法 11
適用 を認 め,競売 開始決定正本の債務者 に対す る公示送達 に よって民法 1
55条の
40
) 前述 (
Ⅳ 2) に挙げたもののほか,秦光昭 「
物上保証人に対する競売申立 と被
担保債権 についての時効中断等」金法1
3
3
0
号1
2
頁,同 「
物上保証人に対する抵当
権実行 としての競売開始決定の正本が書留郵便 に付 して発送 された場合 と民法
1
5
5
条による時効中断効」銀法5
21
号 4頁,吉田光碩 「
物上保証人に対する競売実
行 と主債務の時効中断効 (
判批)
」金法1
3
9
8
号4
4頁,4
8頁。
物 上保
証
に
人 対 る欄
す
産競売報
の 開始後に代 位
楠
した保 証
人
に
よる 差押 債権 者の 地位経
の申
出
と
求 償権 の 糊
中断
24 7
通知が到達 したもの として,被担保債権に関する消滅時効の中断の効力 を認めた。
なお,普通郵便 による通知は,民事訴訟手続 または民事執行手続 において,
付郵便送達の際に手続の進行 を事実上知 らせ るため執行裁判所 によって事実上
行われる措置であ り,何 らかの法律上の効果 を予定 した ものではないが,判例
【6】は,傍論 において,「
書面の内容 によ り,特定 の被担保債権 につ き物上
保証人に対 して競売手続が開始 されたことを債務者が了知 し得 るとき」には「
通
知」 (
民法 1
5
5
条) としての効果 を認める余地 を認める。
通知」 (
民法 1
5
5
条) による時効 中断の
以上 よ り,最高裁判例 においては,「
ためには,同条の趣 旨に基づ き,物上保証人所有の抵当不動産に対す る競売開
始決定の事実 (
「
差押 え」(
民法 1
4
7
条 2号))についての債務者の 「
了知可能性」
が要求 される。そのため,民事執行法上の競売手続の効力発生時 とは異 な り,
通知は,原則的に,債務者 に到達する必要がある (
判例 【5】【6】【7】
)
。し
か し,執行手続の過程で債務者 に通知がなされれば 「
了知可能性」が確保 され
るので,債権者 自身によって 「
通知」がなされる必要はない (
判例 【5】) 。す
なわち,債権者 としては,不動産競売手続 を申し立てれば,執行手続上職権 に
よって執行裁判所 によって債務者への通知が なされ (
民事執行法 1
8
8
条 ・4
5
条
2項),これが時効中断のための 「
通知」(
民法 1
5
5
条)と解 されるのであるか ら,
債務 に対す る時効中断のための特別 な行為 を要求 されていない。 もっとも,債
権者 自らが通知することを要 しない とはいえ,債務者が偶然 に差押 えの事実 を
知 ること,また,「
他人の気 まぐれな行為」による通知だけでは不十分である41)。
債務者の所在不明のために通知が現実 に到達不能である場合 には, 自ら競売
開始の事実 を了知 し得 ない状態 に逃げ廻 っている不誠実な債務者 に通知が送達
されないことを理由に債務者 に中断効 を及ぼさないことが債権者 と債務者 との
間の妥 当な利害調整 といえるかが問題視 される ところであるが42),判例上,
4
1
) 友納治夫 「
判例 【
5】解説」 『
最高裁判例解説民事篇昭和5
0
年度』(
法曹会)5
1
4
頁以下 ,5
2
0
頁。
4
2
) 法典調査会において既に横田隊臣は, 「
借金ノアルモノ トカ何 ントカ云フ者ハ
逃ゲテ廻ツテ居ツタリ何ニカシテ其者二通知スル杯ノ事ハ中々出来ヌ ト云フヤウ
24
8
商
学
討
究
第5
8巻
第 2 ・3号
行方不明の債務者 に対 して も,付郵便送達の場合 には通知が到達 しない限 り時
),公示送達の場合 には観念の通知であ
効中断効が認め られないが (
判例 【6】
通知」の到達が擬制 される (
判例 【8】)。 したが って,判例
る民法 155条の 「
によれば,「
通知」の 「
現実の到達」 ひいては競売開始決定の事実 についての
債務者の 「
現実の了知」 は要求 されていない。
4.本 判 決
従来の判例の考 えを本件の事案に論理的に当てはめると次の ようになる。本
件事案では,債権者が 申し立てた物上保証人に対す る不動産競売の開始決定正
本 は主債務者 に送達 されてお り,原債権の消滅時効 は中断 している (
民法 155
秦)。その後,代位弁済 を した保証人は求償権 を獲得 し,原債権 お よび担保権
501条)
。先の 「
通知」 に求償権の存在 自体の表示 はない
は保証人に移転 した (
から (
そ もそ も求償権 は発生 していなかった),差押債権者の地位承継の申出
をした保証人は,原債権 とは発生原因 も性質 も異 なる求償権の時効 を中断 させ
「
差押 え」 (
民法 147条 2号))の事実 を主
るためには,差押債権者の地位承継 (
債務者 に通知 しなければな らない。 しか し,本件では,普通郵便 によ りなされ
た「
通知」が主債務者 に到達 してお らず,公示送達 もなされていない。したがっ
て,主債務者に対 して求償権の時効 中断の効力 は生 じないはずである (
民法 155
条)43)0
しか し,本判決は,差押債権者の地位承継 について主債務者に通知 (
民法 155
条)をしな くて も主債務者は 「
不測の不利益」を被 ることはないので,「
民法 155
条の法意」 に反 しない と判断 した。
この ように,本判決の結論が民法 155条 に関す る従来の最高裁判例の流れか
ナコ トガアラウ ト思ヒマス」 と述べてこの間題を指摘 し,民法155条削除案に賛
横田囲臣〕
)
。半田吉信 「
判例 【7】判批」判評459
成 していた (
前掲注23)457頁 〔
号3
8-39頁,石井憤司-伊藤進 -上野隆司 「
鼎談 ・不動産競売手続 と貸出債権の
伊藤進 ・上野隆司発言〕,石松勉 「
判例 【8】
時効中断効 (
中)」銀法533号47頁以下 〔
判批」判評536号1
83頁以下,1
86頁。
43
) 絹川泰毅 「
時の判例 (
本件解説)」 ジ ュ リ 1
3
40号 (
平成1
9年) 97頁以下,9
8頁
も同旨。
物 上保
証
に
人 対 る欄
す
産競売報
の 開始後に代 位
楠
した保 証
人
に
よる 差押 債権 者の 地位経
の申
出
と
求 償権 の 糊
中断
249
ら当然 に導 き出されない以上,本判決の基礎 にある価値判断お よび本判決が根
5
5
条の法意」の意味が問題 となるので,以下で検討する
拠 とす る 「
民法 1
(
Ⅴ)
0
V.本判決の評価
本判決によれば,競売開始決定正本の主債務者-の送達後 に代位弁済 した保
証人が求償権の時効 を中断す るためには,差押債権者の地位承継 を執行裁判所
5
5
条)は不要であ り,
に申し出れば,それについての主債務者-の通知 (
民法 1
その理由は,①主債務者 はすでに物上保証人に対す る不動産競売の開始決定正
本の送達 を受 けて原債権の時効 を中断 されてお り,求償権の消滅時効が中断さ
れて も 「
不利益 を被 ることはない」 こと,②保証委託 をした主債務者は, 自ら
弁済等 をしない限 り,保証人が代位弁済を して差押債権者の承継 を申 し出るこ
とを 「
当然 に予測すべ き」 こと,以上に基づ き,主債務者に 「
不測の不利益」
5
5
条の法意」 に反 しないか らである。
を生 じず,「
民法 1
上記の 「
不測の不利益」 に関 して,① については,原債権 と求償権 とが発生
原因お よび期間等 について別個の権利である以上,求償権 よ りも原債権の時効
期間が短い場合 には,主債務者の知 らない うちに求償権の時効が中断するとす
れば,弁済証拠確保の点で時効受益者たる主債務者 に不利益が生 じる可能性 は
残 されている44)45)。 もっ とも, この ようなことについて も保証 を委託 した主
債務者 は予測すべ きだ とい うならば,(
むの問題 も(
参に帰着す ることになる。
しか し,② については,保証人 と主債務者 との間に委託関係があるだけで,
主債務者 は自己の負担する債務の時効が中断 されることを「当然 に予測すべ き」
であると解すべ きではない。 このように解す ると,例 えば,債務者か らの委託
酒井巌幸 「
物上保証人に対する担保不動産競売手続を承継 した代弁済者の求償
5
1
号 (
平成 1
9
年)1
0
1
頁以下,1
0
7
頁がこれを
権の時効中断の有撫 (
下)」NBL8
指摘する。
45) 例えば,主債務者が個人で,銀行から住宅購入のための貸付を受けて (
賃付債
求償権の
権の時効期間は 5年),家族 ・友人などの個人等が保証人となる場合 (
時効期間は1
0
年)などがそうであろうか。
44)
250
商
学
討
究
第5
8
巻
第 2・3号
に基づ き自己の不動産 に抵当権 を設定 した物上保証人が差押 えを受けた場合 に
ち,債務者は被担保債権の時効 を中断 されることを 「当然に予測すべ き」 とい
うことにな り, この場合 にも通知 を要 しないことになって しまい,これは民法
1
48条お よび1
55条 と矛盾 し, また,主債務者か らの委託 を受 けた保証人が差押
えを受けた場合 には,保証人は主債務の時効 を中断 されることを 「当然 に予測
すべ き」であ り,主債務の時効中断効 を生ず るとの帰結 (
民法456条 ・434条参
照) に もな りかねない。
本判決は,保証人に保証 を委託 しておいて自ら弁済等 をせず,かつ,物的担
原債権)の時効
保 を実行 され46),競売 開始決定の通知 によって被担保債権 (
中断事由の生 じたことを知 り, これによ り原債権 に関す る時効 を中断 されてい
る主債務者 については,代位弁済 した保証人による差押債権者の地位の変更に
不
よって,
結果的に求償権の時効 を中断 されて も,
民法 155条が想定す るような「
測の不利益」 を被 ることはないので,求償権 の時効中断について,改めて主債
務者に通知することを要 しない とするものである。主債務者 に求償権 について
時効 中断事 由の生 じたことを知 らしめる上記下線部のプロセス全体 をとらえ
通知」 の役割 を果たす と理解す
て,求償権の時効 中断に関す る民法 155条の 「
ることは可能であるとして も,単に債権者 によってなされた競売開始決定正本
の送達 を将来の求償権の時効中断のための通知 として読み替 えるとい う趣 旨で
はない と思われる47)0
なお,(
参について,保証人 と主債務者 との間に委託関係があって も,受託保
証人が代位弁済を した後 に通知 を怠 り,主債務者 自身が債権者に任意弁済 した
場合には,主債務者 は自己の弁済 を有効 とみなす ことがで き (
民法463条 2項 ・
46
) 物的担保たる抵当権 と人的担保たる保証をとっている債権者が実行手続に時間
がかか り面倒な抵当権を実行 してくる場合には,主債務者としては,より実行 し
やすい保証人に請求等をしてくることは,当然に予想がつ くであろう。
47
) 酒井贋幸 ・前掲注4
4
)NBL85
1
号1
01
頁は,「
本件の核心は,原債権に基づ く競
売開始決定正本が,民法1
5
5
条の適用上,求償権の通知に代替できるか,という
8
4
号 (
辛
問題である」 と述べる。これに対 しては,吉田光碩 「
本件判批」判評5
成1
9年) 8頁以下,1
1
頁も,本稿 と同旨の見解を述べる。
物 上保
証
に
人 対 る欄
す
産競売報
の 開始後に代 位
楠
した保 証
人
に
よる 差押 債権 者の 地位経
の申
出
と
求 償権 の 糊
中断
251
4
43
条 2項), この ような場合 に差押債権者の地位承継の主債務者への通知 を不
要 とす る と,主債務者が求償権 に基づ く差押 えに対 して異議 を述べ る機会が奪
われ る可能性 が考 え られ る48)。 しか し, この問題 は,民事執行法上差押債権
者の地位承継の 申出について債務者への通知が義務づけ られていることによっ
5
5
条 の適用 との関連 において
て,執行法上解決 されてい るのであ り49),民法 1
論ずべ き問題 ではない。
求償権 の時効 中断のためには差押債権者の地位承継の通知が主債務者 に到達
す ることを要す るか とい う問題 は,た しかに,保証人に保証委託 を した主債務
者が 自ら弁済 をせず,「
通知」 について了知 し得 ない状態 に 自ら行方 を くらま
せ た, とい う本件事案の特殊性 においては じめて顕在化す る問題であ り,本判
決 もこの ような事案 における保証人 と主債務者 との間の利益衡量 を前提 として
い るようであ る50)。 しか し,本判決 は,競売 開始決定正本 の主債務者へ の送
達後 に代位弁済 した保証人が求償権 の時効 を中断す るためには,一般的に,原
債権 の差押債権者 の地位承継 を執行裁判所 に申 し出れば よ く,求償権 の時効 中
5
5
条) は必要 ない とす る もの
断事 由の発生 について主債務者へ の通知 (
民法 1
である以上,本判決の意義 は本件事案の ような場面 に限 られない。そ して,差
押債権者の地位承継 を申 し出る行為 は,法的に も実質的に も求償権 自体 の行使
ではな く原債権 に代位す る行為 にす ぎない以上,競売開始決定正本 の主債務者
へ の送達 に よって原債権 の時効 がす で に中断 された後 に代 位弁済 した保証 人
48)
信用保証協会による保証がなされる場合には,信用保証委託契約事例第 5条第
1項において,信用保証協会が弁済する際の事前通知義務が排除されている。こ
れに対 して,代位弁済履行後の通知義務 (
事後通知義務)は,求償権の保全行使
の上からも重要であることを理由に排除されていない。信用保証協会の実務上,
』〔
平
代位弁済後は必ず通知を発するという (
江口浩一郎編 『
信用保証 〔
第 3版 〕
成1
7
年,金融財政事情研究会〕2
3
4
5
頁)
。 したがって,求償権者が信用保証協会
である場合には,このような不利益は生 じる可能性は低いともいえる。
4
9
) 注3
3
)参照。なお,差押債権の地位承継に関する通知が付郵便送達によって行
われる場合,債務者への現実の到達は要求されていない (
民事執行規則 3条 1項,
。したがって,本件でも競売手続は適法に進行 している。
民事訴訟規則 4条 5項)
5
0
) 絹川泰毅 ・前掲注4
3
)ジュ リ1
3
4
0
号9
8
頁。
252
商
学
討
究
第5
8
巻
第 2・3号
は,求償権の時効管理 としては,求償権その ものに向けた独 自の中断行為 を要
しない とい うことになる。
Ⅵ. 本判決の射程
本判決の射程は,保証人 と主債務者 との間に委託関係がない場合 には及ばな
い と思われる。保証の委託 をしていない主債務者 は 「
保証人が代位弁済 をして
差押債権者の承継 を申 し出ることは当然 に予測すべ き」 とはいえないので,求
償権 の消滅時効 の中断が生 じる と不測の不利益 を被 る可能性があるか らであ
る。
また,本件事案では,Y2らはいずれ も求償保証人であると同時に,主たる
債務 (
原債権)の連帯保証人であ り,主たる債務 を信用保証す るⅩとの間で,
Ⅹの負担部分 を 0とす る求償特約 を結んでいた とい う事情があ り51), この よ
うなことは信用保証協会の実務 において通例行われているようであるが, この
ような事情 は請求原因 との関係上当事者か ら主張 されず,判決において も考慮
されていない ようである (
この点については,と りわけ原判決を参照のこと)0
したがって,本判決の射程 は,求償保証人が原債権 自体 を保証 していない場合
にも及ぶ と考 え られる。
Ⅶ.残 された問題
1.求償権の消滅時効期間の延長効 (
民法174条の 2第 1項)の有無
本件 において,信用保証協会であるⅩが取得する求償権の時効期間は 5年で
ある (
商法 522条)52)。短期消滅時効 は短期 間に決済すべ き債権債務 について
弁済の証拠の不明確 さを防 ぐための制度である。民法 174条の 2第 1項が確定
判決等 によって確定 した権利の時効期間を10年 に延長す る趣 旨は,債権の存在
かかる事実関係につきましては,青山隆徳弁護士より御教示を賜わりました。
記 して御礼申し上げます。
5
2
) 最二小判昭和 42
年1
0月 6日民集21
巻 8号 2051
頁,最三小判 昭和 6
0年 2月1
2日民
)
51
集3
9巻 1号 89頁。
物 上保
証
に
人 対 る欄
す
産競売報
の 開始後に代 位
楠
した保 証
人
に
よる 差押 債権 者の 地位経
の申
出
と
求 償権 の 糊
中断
2
53
が公に確定 され,強い証拠力が与 えられた権利 に関 しては,短期消滅時効 を適
用す る理 由が乏 しい ことにある53)。 この ような趣 旨に鑑み,求償債権 の限度
で原債権の履行 を命ず る旨が判決主文で明 らかにされる場合 には,求償権の時
効期 間の延長が認め られる54)。 また,破産債権 の届 出は裁判所 に対 して破産
債権 としての確定 を求め る訴訟行為 としての性質 をもつので55),債権表 に記
載 された債権 については 「
確定判決 と同一の効力-によって確定 した権利」(
氏
法 174条の 2第 1項) によって時効期間延長効が認め られる。判例 【3】 【4】
によれば,債権調査期 日において破産債権 (
原債権)の届 出名義の変更 を申 し
出た場合 には,求償権の時効期 間の延長効が肯定 されそ うである56)。 しか し,
そ もそ も競売手続 によっては債権の存在 は公に確定 されないため,本件 におい
ては,原債権 について も求償権 について も時効期間は延長 されない57)0
2.求償権の時効中断効の及ぶ範囲
原債権額が求償権額 を下回る場合,保証人が原債権 についての差押債権者名
義の承継の申出を した場合 に,求償権 についての時効中断の範囲はその全額 に
及ぶか。
4】は,「
破産手続に伴 う求償権行使の制約」を考慮 し,
この点,判例 【3】【
破産手続 において届出債権の届出名義の変更 を申 し出た保証人は,特段の事情
のない限 り,求償権全部 を行使す る意思 を明 らかに した もの とす る。八木調査
官 は,私見 として,「
破 産手続 に伴 う求償権行使の制約」の意味 を,破産手続
における求償権者 による求償権 自体の行使の可否,求償権 を破産債権 と解す る
ことの可否は,破産法26条,民法460条 1号の解釈 と関連 して問題 となるため,
求償権の額が原債権 を上回る場合で も,保証人が届 出名義の変更 をして届 出さ
れた原債権の額 を基準 として財団か ら配当を受ける地位 を取得す るのは,破産
3)
4)
5
)
6)
7
)
川島武宜編 ・前掲注31
)369頁 〔
平井宜雄執筆〕。
塚原朋一 ・前掲注 4)3
5頁,山野 目章夫 ・前掲注 6) ジュ リ1
1
05
号1
40頁。
伊藤其 ・前掲注 1
6)43
4頁。
川島武宜編 ・前掲注31
)371頁 〔
平井宜雄執筆〕。
吉岡伸一 「
本件判批」判 夕1232号 (
平成1
9年) 5
4頁以下,57頁。
25
4
商
学
討
究
第5
8巻
第 2・3号
財団か ら求償権 を回収するのに可能な限 りの権利行使 をした と評価可能である
とす る58)0
本件の抵当不動産の競売手続 における求償権行使の可能性 を検討す ると,煤
証 人が当該不動産 に対 して予め求償権 のための抵 当権 を設定 していない限 り
(
この場合 には原債権者 よ りも後順位 に設定せ ざるを得 ない),代位弁済 した
保証人が求償権 に基づいて競売手続 に参加 した として も,一般債権者 と同等の
地位 しか得 られない。そのため,原債権の差押債権者の地位 を承継す ることが
求償権者 にとっては最善の策であるが,上述の通 り,「
競売手続 に伴 う求償権
行使の制約」 は破産手続の場合 ほど厳格ではない。 この間題 は一部請求の訴 え
の場合 59)と同様 に,保証人が原債権 の額 を超 える部分 について除外す る意思
のない場合 には,それを超 える部分 について も時効中断効 を認める余地がある
と解すべ きであるであろ うが60),裁判上の請求 と差押 え とを全 く同様 に考 え
て よいかについては, さらに検討す る必要があろう。
*本判決の評釈等 として,酒井廉幸 「
物上保証人に対す る担保不動産競売手続
」NBL850号 38
を承継 した代位弁済者の求償権の時効 中断の有無 (
上) (
下)
頁以下 ,NBL851号 101頁以下,階猛 -上原敬 「
求償権の消減時効の中断方法」
4頁以下,
青 山隆徳 ・信用保証 11
3
銀法 671号 64頁以下,吉岡伸一 ・判 夕1232号 5
号 74頁以下,関沢正彦 ・金法 1
802号 4頁以下,
谷本誠司 ・銀法674号47頁以下,
号 11
8頁以下,絹川泰毅 ・ジュリ1
340号97頁以下,山野
原田昌和 ・法セ ミ631
812号 26頁以下,吉田光碩 「
本件判批」判評 584号 8頁以下 (
以
日章夫 ・金法 1
5
8) 八木良一 ・前掲注 2)37
0
-71
頁,小磯武男 「
判例 【3】判批」金法1
5
81
号 (
平
成1
2年) 2
02頁以下,2
03頁,山野目章夫 ・前掲注1
2)判評4
43号 2
02頁も同旨。
5
9
) 最二小判昭和3
4年 2月 2
0日民集1
3巻 2号209頁,最二小判昭和45年 7月2
4日民
集2
4巻 7号1
1
7
7
頁。
60
) 破産手続における破産債権者の名義変更の申出の事案ではあるが,名古屋地判
平成 4年 9月 1
4E
はU
時1
476
号1
39頁は,一部請求に関する判例 (
往5
9
)参照)を
引用 してこれを当事者の意思解釈に関する事実認定の問題であるとし,破産債権
の名義変更の届出には権利行使の範囲が明示されていないとして,当該事案の事
実関係から,求償権全額を請求する意思は明確であると認定した。
物上保証人に対する欄 産競売報 の開始後に
代位楠 し
た保証人による差押債権者の地位経 の申出と
求償権の糊 中断
255
上,全て平成 1
9
年)がある。
本稿 は,平成 1
9
年度科学研究費補助金 (
課題番号 1
8
7
3
0
0
5
6
)による研究成果
の一部である。