石油 - みずほ銀行

特集:日本産業の動向〈中期見通し〉
(石油)
石油
【要約】
■ 国内石油製品需要は燃費改善等の構造要因から年率 2%程度の減少トレンドが継続すると
予想している。一方で高度化法対応から設備能力が削減され、需給はウェルバランスで推移
するだろう。
■ アジアは輸出ポジション、輸入ポジションそれぞれの国が存在するが、全体では若干の余剰
となっている。今後のアジア需給見通しでは中国の動向が懸念される。中国の需給バランス
が崩れた場合、需給がタイトな ASEAN 諸国等へ過剰玉が輸出されることが想定され、アジア
全体の市況下落に繋がるだろう。
■ 我が国における製油所の競争力向上のためには、コンビナート全体の競争力向上が不可欠であ
る。精製同士の再編に留まらず、石油化学も含めたコンビナート全体の競争力強化が求められ
る。統合プロセスを進める上では精製と化学の双方が恩恵を受けるスキームや信頼関係の構築、
コンビナートの競争力を強化したいという経営陣の強い意志が必要だろう。
【図表2-1】 需給動向と見通し
【実額】
摘要
(単位)
2014年
2015年
2016年
2020年
( 実績)
( 見込)
( 予想)
( 予想)
国内需要
千k l
185,450
184,266
176,876
164,976
輸出
千k l
27,936
31,558
31,500
28,402
輸入
千k l
35,600
37,020
37,150
36,366
国内生産
千k l
178,100
177,319
170,226
157,011
グローバル需要
万b/d
9,209
9,388
9,507
9,877
【増減率】
(対前年比)
摘要
(単位)
2014年
2015年
2016年
2015-2020
CAGR
( 実績)
( 見込)
( 予想)
( 予想)
国内需要
千k l
▲4.3%
▲0.6%
▲4.0%
▲2.2%
輸出
千k l
▲1.2%
+13.0%
▲0.2%
▲2.1%
輸入
千k l
▲1.9%
+4.0%
▲4.0%
▲0.4%
国内生産
千k l
▲5.1%
▲0.4%
▲4.0%
▲2.4%
グローバル需要
万b/d
+0.9%
+1.9%
+1.3%
+1.0%
(出所)石油連盟統計、BP 統計、IEA 資料等よりみずほ銀行産業調査部作成
(注)2015 年以降はみずほ銀行産業調査部予想
みずほ銀行 産業調査部
20
特集:日本産業の動向〈中期見通し〉
(石油)
I.
内需~燃費改善や燃転によって年率▲2%程度の構造的な減少へ
【図表2-2】 国内需要の内訳
摘要
国内
需要
2015年
2016年
( 実績)
( 見込)
( 予想)
( 実数)
(単位)
ガソリン
ナフサ
ジェット燃 料
灯油
軽油
A重 油
C重 油
燃料油計
2014年
千kl
( 前年比)
53,608
43,651
5,215
17,214
33,789
12,741
19,232
185,450
千kl
千kl
千kl
千kl
千kl
千kl
千kl
▲2.9%
▲3.7%
+7.0%
▲4.4%
+0.1%
▲5.1%
▲14.8%
▲4.0%
( 実数)
53,323
46,990
5,338
16,378
33,696
11,702
16,839
184,266
( 前年比)
( 実数)
▲0.5%
+7.6%
+2.4%
▲4.9%
▲0.3%
▲8.2%
▲12.4%
▲0.6%
2020年
( 前年比)
52,256
46,144
5,311
15,723
32,012
11,116
14,313
176,876
( 予想)
(2015-2020
( 実数)
C AGR)
▲2.0%
▲1.8%
▲0.5%
▲4.0%
▲5.0%
▲5.0%
▲15.0%
▲4.0%
▲1.8%
▲1.2%
▲0.5%
▲4.0%
▲0.8%
▲4.2%
▲7.1%
▲2.2%
48,690
44,210
5,206
13,354
32,416
9,442
11,658
164,976
(出所)石油連盟統計等よりみずほ銀行産業調査部作成
(注)2015 年以降はみずほ銀行産業調査部予想
我が国の石油製品需要は燃費改善や他エネルギーへの燃料転換といった構
2015 年は油価低
下が構造要因を
緩和
造的要因に伴い減少を続けているが、2015 年は燃料油全体で 184.3 百万 kl
(対前年比▲0.6%)と原油価格低下に伴う増加から減少幅は緩和される見込
みである(【図表 2-2、3】)。油種別では、ガソリンは油価下落の影響や前年度
の天候不順の反動があったものの燃費改善により 53.3 百万 kl(同▲0.5%)へ
と減少、灯油および軽油は燃転によりそれぞれ 16.3 百万 kl(同▲4.9%)、33.7
百万 kl(同▲0.3%)へと減少、C 重油は電力向けが他エネルギーに燃料転換
することで 16.8 百万 kl(同▲12.4%)と大幅減となる見込みである。
2016 年は構造要因に加え電力向け C 重油の大幅減少によって燃料油全体
構造要因による
減少トレンドが
継続
では 176.9 百万 kl(対前年度比▲4.0%)への減少を予想する(【図表 2-2、3】)。
その後、2020 年にかけて構造要因によって燃料油全体で年率▲2%での減
少トレンドを想定している。2014 年の内需はピーク時(1996 年)より既に 25%
減少しているが、2020 年にかけて更に 10%以上減少する見込みである。消費
地精製主義を採用する我が国では輸出入が内需と比較すると限定的であり、
内需の減少は生産の減少に直結することになる(【図表 2-4】)。
【図表2-3】 石油製品国内需要の推移
【図表2-4】 石油製品の国内需給バランス
(100万KL)
(100万KL)
250
250
200
200
C重油
150
A重油
内需
150
生産
軽油
灯油
100
輸入
100
輸出
ジェット
ナフサ
50
50
ガソリン
0
(出所)石油連盟統計よりみずほ銀行産業調査部作成
(注)2015 年以降はみずほ銀行産業調査部予想
CY20e
CY16e
CY14
CY15e
CY13
CY12
CY11
CY10
CY09
CY08
CY07
CY06
CY05
CY04
CY03
CY02
CY20e
CY16e
CY15e
CY14
CY13
CY12
CY11
CY10
CY09
CY08
CY07
CY06
CY05
CY04
CY03
CY02
0
(出所)石油連盟統計よりみずほ銀行産業調査部作成
(注)2015 年以降はみずほ銀行産業調査部予想
みずほ銀行 産業調査部
21
特集:日本産業の動向〈中期見通し〉
(石油)
II. グローバル需給~アジアを中心に需要は拡大
【図表2-5】 グローバル需要の内訳
摘要
グロー
バル
需要
2015年
2016年
( 実績)
( 見込)
( 予想)
( 実数)
(単位)
米国
欧州
中国
ASEAN
世界
2014年
万b/d
( 前年比)
+0.4%
▲1.4%
+3.3%
+2.2%
+0.9%
1,903
1,381
1,106
445
9,209
万b/d
万b/d
万b/d
万b/d
( 実数)
( 前年比)
( 実数)
+1.7%
+1.4%
+4.9%
+3.3%
+1.9%
1,936
1,401
1,160
460
9,388
2020年
( 前年比)
( 実数)
+0.8%
+0.0%
+2.9%
+3.3%
+1.3%
1,951
1,401
1,193
475
9,507
( 予想)
(2015-2020
C AGR)
▲0.2%
▲0.6%
+2.5%
+3.3%
+1.0%
1,920
1,361
1,313
541
9,877
(出所)BP 統計、IEA 資料等よりみずほ銀行産業調査部作成
(注)2015 年以降はみずほ銀行産業調査部予想
アジアが需要を
けん引
燃費改善によるマイナス影響は日本に限らず世界的なトレンドであるが、世界
の石油製品需要は 2015 年の 9,388 万 b/d から 2020 年の 9,877 万 b/d へと
489 万 b/d(年率+1.0%)増加する見込みである(【図表 2-5】)。内訳をみると米
国は年率▲0.2%、欧州は年率▲0.6%、中国は年率+2.5%、ASEAN は年率
+3.3%となっており、アジアが需要増加をけん引する構図である。石油需要に
影響を与えるファクターは経済活動やエネルギー政策、自動車普及等である。
中国および ASEAN は自動車保有台数が年率 3~4%程度で増加していくこと
がガソリンや軽油需要を押し上げる。また、足元の油価低下は需要増に繋が
る要因であるが、ASEAN ではインドネシアのように財政問題を抱える国では
油価低下をきっかけに補助金を削減・撤廃し、需要拡大を抑制している。
供給過剰は継続
需要の増加に合わせて製油所の設備能力も増加が予想され、石油製品の世
界的な供給過剰は継続する見込みである(【図表 2-6】)。一方、アジアは輸出
ポジション、輸入ポジションそれぞれの国が存在するが、全体では若干の余
剰となっている(【図表 2-7】)。今後のアジア需給見通しでは中国の動向が懸
念される。足元で中国のガソリン需要は自動車保有台数の拡大によって堅調
である一方、経済活動の影響を受けやすい軽油やナフサの需要はやや弱含
んでいる。中国の需給バランスが崩れた場合、需給がタイトな ASEAN 諸国等
へ過剰玉が輸出されることが想定され、アジア全体の市況下落に繋がるだろ
う。
【図表2-6】 世界の石油製品需給見通し
【図表2-7】 アジアの石油製品需給見通し
(出所)BP 統計、IEA 資料よりみずほ銀行産業調査部作成
(注)2015 年以降はみずほ銀行産業調査部予想
設備
需要
CY20e
-2
CY16e
10
CY14
0
CY15e
15
CY13
2
CY12
20
CY10
4
CY09
25
CY08
6
CY07
30
CY06
8
CY05
35
CY04
0
余剰(右軸)
CY20e
60
CY16e
1
CY14
65
CY15e
2
CY13
70
CY12
3
CY11
75
CY10
4
CY09
80
CY08
5
CY07
85
CY06
6
CY05
90
CY04
7
CY03
95
CY02
8
CY01
100
CY00
10
(100万b/d)
9
需要
CY03
設備
CY02
余剰(右軸)
CY01
105
40
CY11
10
(100万b/d)
CY00
110
(出所)BP 統計、IEA 資料よりみずほ銀行産業調査部作成
(注)2015 年以降はみずほ銀行産業調査部予想
みずほ銀行 産業調査部
22
特集:日本産業の動向〈中期見通し〉
(石油)
III. 生産~第二次高度化法対応で稼働率は 9 割に改善
【図表2-8】 設備能力および原油処理量
2014年
2015年
2016年
( 実績)
( 見込)
( 予想)
摘要
( 実数)
(単位)
設備能力
国内
原 油 処理 量
生産
稼働率
石 油 製 品 生産量
万b/d
( 前年比)
万b/d
%
千k l
( 実数)
▲9.0%
▲4.7%
▲4.2%
395
329
81%
178,100
( 前年比)
391
326
83%
177,319
( 実数)
▲1.0%
▲1.0%
▲0.4%
2020年
( 前年比)
345
313
91%
170,226
( 予想)
(2015-2020
( 実数)
CAGR)
▲11.8%
▲4.0%
▲4.0%
▲2.5%
▲2.4%
▲2.4%
345
288
84%
157,011
(出所)石油連盟統計等よりみずほ銀行産業調査部作成
(注)2015 年以降はみずほ銀行産業調査部予想
2000 年半ばより我が国の石油製品需要が減少傾向であることから、それに合
設備能力は削減
され稼働率は改
善見込み
わせて設備能力も段階的に引き下げられてきた(【図表 2-9】)。我が国の場合
は資源エネルギー庁がエネルギー供給構造高度化法を策定し、政策主導で
能力削減を進めてきている。現在は第二次高度化法の対応期間中であり、
2017 年 3 月までに各社合計で約 40 万 b/d 以上(現在の能力全体の 1 割程
度)が削減される見込みである。原油処理量や石油製品生産量は内需見合
いで減少していくが、2016 年の稼働率は高度化法対応によって 90%程度ま
で改善する。
一方、アジアの需要拡大を捕捉しようと多くの製油所プロジェクトが立ち上
がりつつあり、日本企業が参画している。例えば出光興産はベトナムにお
いて同国国営 Petro Vietnam 等とともに 90 億ドルかけ製油所新設を進めて
いる(20 万 b/d、2017 年商業運転開始予定)。JX もインドネシアやベトナム
で製油所プロジェクトを検討している。ASEAN 諸国等において輸入ポジシ
海外製油所プロ
ジェクトへの参画
ョンの国が存在し、製油所の新設/改修プロジェクトの参画は検討に値する
だろう(【図表 2-10】)。
【図表2-9】 我が国の稼働率の推移
600
設備能力
原油処理量
【図表2-10】 石油製品の需給ギャップ(2014 年)
稼働率(右軸)
(万b/d)
500
400
100%
1,600
90%
1,400
80%
1,200
70%
1,000
60%
300
50%
40%
200
(万b/d)
設備能力
需要
800
600
400
30%
200
20%
100
10%
CY20e
CY16e
CY14
CY15e
CY13
CY12
CY11
CY10
CY09
CY08
CY07
CY06
CY05
CY04
CY03
0%
CY02
0
0
中
国
日
本
イ
ン
ド
韓
国
イ
ン
ド
ネ
シ
ア
タ
イ
シ
ン
ガ
ポ
ー
ル
豪
台
湾
マ
レ
ー
シ
ア
パ
キ
ス
タ
ン
(出所)BP 統計等よりみずほ銀行産業調査部作成
(出所)石油連盟統計等よりみずほ銀行産業調査部作成
(注)2015 年以降はみずほ銀行産業調査部予想
みずほ銀行 産業調査部
23
ベ
ト
ナ
ム
フ
ィ
リ
ピ
ン
特集:日本産業の動向〈中期見通し〉
(石油)
IV. 輸出~円安は追い風も競争激化から緩やかな減少へ
2015 年度の輸出は円安による採算改善を受けて 31.6 百万 kl(前年度比
アジアの製油所
との競争から輸
出は減少へ
+13.0%)となる見込みである(【図表 2-11】)。統計上、ジェット燃料や C 重油の
うち国内における国際線・外国船舶に対して供給された製品が輸出扱いとな
っており、実質的な輸出は軽油が主力である。その軽油の輸出先は製油所閉
鎖に伴い供給が不足している豪向けが中心である(【図表 2-12】)。2020 年に
かけて我が国の能力削減に伴い余剰ポジションが減少することやアジアでの
製油所の新設による競争激化から輸出量は減少すると見ている。
【図表2-11】 我が国からの輸出量の推移
【図表2-12】 我が国からの軽油輸出先(2014 年)
45
(100万KL)
40
35
30
合計
25
C重油
その他, 18%
豪, 30%
韓国, 9%
A重油
20
軽油
15
シンガポール,
19%
灯油
10
ジェット
5
ナフサ
香港, 24%
ガソリン
CY20e
CY16e
CY14
CY15e
CY13
CY12
CY11
CY10
CY09
CY08
CY07
CY06
CY05
CY04
CY03
CY02
0
(出所)経済産業省資料よりみずほ銀行産業調査部作成
(出所)石油連盟統計等よりみずほ銀行産業調査部作成
(注)2015 年以降はみずほ銀行産業調査部予想
V. 輸入~ナフサの輸入ポジションは変わらず
我が国ではナフサが継続的に輸入ポジションであり、主にインド・韓国・中東
ナフサの輸入は
継続
から輸入している(【図表 2-13、14】)。2020 年にかけて国内のエチレン需要は
低迷すると見られるが、能力削減による国内のナフサ生産も同時に減少する
ことからナフサの大幅な輸入ポジションは継続すると見ている。
【図表2-13】 我が国の輸入量の推移
【図表2-14】 我が国のナフサ輸入先(2014 年)
45
40
(100万KL)
35
30
合計
25
C重油
その他, 21% インド, 16%
A重油
20
ロシア, 8%
韓国, 15%
軽油
15
UAE, 9%
灯油
10
ジェット
5
ナフサ
サウジ,
9% クウェート,
10%
ガソリン
CY20e
CY16e
CY15e
CY14
CY13
CY12
CY11
CY10
CY09
CY08
CY07
CY06
CY05
CY04
CY03
CY02
0
カタール,
11%
(出所)石油連盟統計等よりみずほ銀行産業調査部作成
(注)2015 年以降はみずほ銀行産業調査部予想
(出所)経済産業省資料よりみずほ銀行産業調査部作成
みずほ銀行 産業調査部
24
特集:日本産業の動向〈中期見通し〉
(石油)
VI. 市況~精製マージンは需給改善や業界再編から緩やかに改善へ
精製マージンは
改善へ
2015 年の精製マージンは油価変動に伴う不安定な動きとなった(【図表
2-15】)。これまで設備能力やプレイヤー数が過剰であったことから石油販売
の競争環境は厳しかった。しかし、第二次高度化法対応に伴う需給改善およ
び JX・東ゼネおよび出光・昭シェル連合の誕生による競争環境の緩和から国
内の精製マージンは中期的に改善トレンドと見ている(【図表 2-16】)。
【図表2-15】 我が国の精製マージンの推移
【図表2-16】 我が国とアジアの精製マージンの見通し
20
12
(円/L)
ガソリン
軽油
灯油
A重油
(円/L)
日本
(ドル/bbl)
シンガポール(右軸)
7
6
10
15
5
8
4
10
6
3
4
2
5
CY20e
CY14
CY13
CY12
CY11
CY10
CY09
CY08
CY07
CY06
CY05
CY04
CY03
0
CY02
0
CY01
1
CY00
15/10
15/4
14/10
14/4
13/10
13/4
12/10
12/4
11/10
11/4
10/10
10/4
09/10
09/4
0
2
(出所)日経新聞、石油連盟統計等よりみずほ銀行産業調査部作成 (出所)日経新聞、石油連盟統計、BP 統計よりみずほ銀行産業調査部作成
(注)2020 年はみずほ銀行産業調査部予想、日本は白油 4 品
VII. 日本企業のプレゼンスの方向性
我が国の石油製品需要は世界 3 位の地位にあるが(【図表 2-17】)、2000 年以
上位 20 カ国中、
最大の減少幅
降の石油製品の需要増減をみると、日本は 120 万 b/d 以上減少しており、上
位 20 カ国中最大の減少幅である(【図表 2-18】)。我が国では消費地精製主
義を採用し、国内の市場規模にあわせた事業展開を行ってきており、国内市
場の縮小は石油元売の事業規模縮小に直結する。石油元売は海外製油所
プロジェクトへの参画がなければ、グローバルなプレゼンス低下が避けられな
い状況にある。
【図表2-18】 上位 20 ヶ国の需要増減(2000⇒2014 年)
【図表2-17】 石油製品需要上位 20 ヶ国(2014 年)
20
7
(100万b/d)
18
(100万b/d)
6
16
5
14
4
12
3
10
2
8
(出所)BP 統計よりみずほ銀行産業調査部作成
(出所)BP 統計よりみずほ銀行産業調査部作成
みずほ銀行 産業調査部
25
日本
イタリア
米国
フランス
ドイツ
スペイン
英国
メキシコ
豪
韓国
カナダ
インドネシア
タイ
イラン
シンガポール
ロシア
ブラジル
インド
中国
豪
イタリア
スペイン
タイ
シンガポール
英国
フランス
インドネシア
イラン
メキシコ
ドイツ
カナダ
韓国
ロシア
サウジ
ブラジル
-2
インド
0
日本
-1
中国
0
2
米国
4
サウジ
1
6
特集:日本産業の動向〈中期見通し〉
(石油)
一方、伸びゆくアジアの需要に対して、韓国(SK)やインド企業(Reliance)は
輸出で攻め、タイ企業(PTT)は現地で製油所建設を計画しており、アジア需
要の捕捉しようと競合がひしめきあっている。
輸出戦略および
製油所建設計画
VIII.
産業動向を踏まえた日本企業の戦略と留意すべきリスクシナリオ
精製事業のキャ
ッシュカウ化
まず投資余力を拡大させるために国内石油精製事業のキャッシュカウ化が不
可欠である。今後の需要減少に対応すべく製油所の統廃合や経営統合によ
る合理化等、更なるコスト削減を継続していかなくてはならない。
精製と化学の連
携強化
加えて、製油所の競争力向上のためには、コンビナート全体の競争力向上が
不可欠である。アジアの主要コンビナートに比すれば、日本の各製油所や各
エチレンセンターの能力規模は小さい。しかし、我が国の主要コンビナート
(千葉等)では複数企業の設備が集積しており、「精製間或いは化学間の水
平連携」や「精製と化学の垂直連携」を行うことで、規模を拡大し、コスト競争
力を高める余地が十分にある。石油元売にとって石油化学製品価格は国内
石油製品価格と比較して相対的に高く、追加的な生産コストを加味しても石
化シフトによって収益性を高めることが可能となる(【図表 2-19】)。
エチレンセンター
を製油所の二次
装置に見立てる
海外で精製と化学の連携が進んでいる事例として ExxonMobil が挙げられる
が、世界中の製油所がエチレンセンターや潤滑油プラントと 8 割程度統合して
いる。その他にも海外ではエチレンセンターをあたかも製油所の二次装置の
一つであるかのように連携を深化させる動きも見られる(BP と PDVSA の合弁
会社がドイツ Gelsenkirchen に保有するコンビナート)。精製と化学の統合は留
分を有効活用することで付加価値の高い製品を優先的に生産することができ
るのみならず、原料の最適化やユーティリティの共有化によって競争力を強化
することが可能となる。海外における精製・化学一体運営を行う企業の収益性
は石油精製専業や石油化学専業よりも高い傾向がある(【図表 2-20】)。
資本の壁をクリ
アするために
メリットが大きいにも関わらず我が国での統合を妨げる最大の要因は精製と化
学を異なる会社が運営する「資本の壁」である。統合プロセスを進める上では
双方が恩恵を受けるスキームや信頼関係の構築、コンビナートの競争力を強
化したいという経営陣の強い意志が必要だろう。生き残る製油所の更なる競
争力強化のためには、業界を超えたコンビナート連携に期待したい。
【図表2-19】 製品価格の比較(2011-2015 年平均)
1600
【図表2-20】 海外主要企業の収益性比較
18%
(ドル/トン)
1400
16%
1200
14%
1000
12%
800
原油
国内石油製品
スチレン
パラキシレン
ベンゼン
プロピレン
4%
エチレン
6%
0
C重油
200
軽油
8%
灯油
400
ガソリン
10%
Dubai
600
2%
0%
石油精製専業
アジア石油化学製品
(出所)各種公表資料等よりみずほ銀行産業調査部作成
(注)2015 年は 9 月まで
石油化学専業
精製・化学一体型
(出所)IOCL 公表資料よりみずほ銀行産業調査部作成
(注)ROCE(Return on capital employed)ベース
みずほ銀行 産業調査部
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特集:日本産業の動向〈中期見通し〉
(石油)
海外製油所プロ
ジェクトへの参画
次に海外の成長を取り込むことが求められる。ASEAN 諸国等においては輸
入ポジションの国が存在し、製油所の新設/改修プロジェクトの参画は検討
に値する。その ASEAN 諸国は原油調達や高度化、資金調達等の課題を抱
えるが、我が国の特長を活かすことでベストパートナーとなりうる(【図表 2-21】)。
日本企業が有する自国権益が限定的であるなか、海外製油所プロジェクトを
推進するにあたっては、産油国との連携は強みであり、今後とも産油国との強
固な関係を維持・向上していく努力が求められる。
化学、販売まで
含めた投資判断
海外石油精製単体では比較的安定した販売量を確保することができる一方、
マージンの変動リスクが高いという課題がある。そこで精製から販売まで一貫
したバリューチェーンを展開できれば、国内で培った安定かつ効率的な製品
供給ネットワークのノウハウを海外で活かすことが可能となる。投資判断にお
いては石油精製単体のみならず、石油化学や石油販売への事業展開を考慮
した上で総合的に評価すべきである。海外製油所プロジェクトは相対的にリス
クが高く、そのリスクに耐えられるだけの財務基盤の強化も忘れてはならない。
【図表2-21】 各国プレーヤーの精製事業の特徴
原油調達
製油所規模
高度化
立地/ 輸出
BTX/ 潤滑油
資金調達
日本
(大手元売)
△
自国権益小も
産油国と密接
△~○
中小規模以下
○
NCI 9
△
需要減
○
アジアにおける
一定の規模
○~◎
政府・メインバンク
サポート
欧米メジャー
(ExxonMobil等)
◎
自社権益
△~◎
競争力低い
先進国を縮小
◎
NCI 10
○~◎
国によって区々
◎
技術、ブランド力
◎
金融市場の発達
中国
(SINOPEC等)
○~△
原油確保
ニーズあり
△~◎
小~大規模
まで様々
○
NCI 8
◎
需要増
○
規模大
◎
政府サポート
韓国
(SK等)
△
自国権益小
◎
輸出競争力高い
○
NCI 8
○~◎
輸出
○
ベースオイル
に強み
○
自力調達可能
中東
(SaudiAramco等)
◎
国等が保有
○~◎
輸出競争力高い
△
NCI 5
○~◎
輸出
△~○
一定の規模
○
政府サポート
ASEAN
(PetroVietnam等)
△
原油確保
ニーズあり
△
製油所建設中
△
NCI 4
◎
需要増
△
限定的
△
資金
ニーズあり
(出所)各種公表資料よりみずほ銀行産業調査部作成
(注)NCI=Nelson Complexity Index(製油所の高度化を示す指標)
縮小均衡からの
脱却
石油元売各社はこれまで国内石油精製事業に依存してきたが、国内市場の
需要減少が確実視され、縮小均衡に陥っている。 この逆境を乗り越え、石油
元売各社が世界に羽ばたく成長企業に変革することを期待したい。
(素材チーム 松本 成一郎)
[email protected]
みずほ銀行 産業調査部
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2015 No.5
平成 27 年 12 月 25 日発行
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