「普段やっている授業に、ピリリといい もの(ICT)をちょっとだけ

今回の ICT 活用実践者
「島根の教育の情報化に向けて」実践者インタビューシリーズ①
「普段やっている授業に、ピリリといい
もの(ICT)をちょっとだけプラスしてよ
り良くする。」
聞き手:足立校長先生は、どのようなお考えで ICT 活用を学校に
普及されたのですか。
足立 :「基本的に ICT 機器を入れて特別な授業をするという
のでは、おそらく先生方はやりたがらないでしょう。普
段やっている授業に、ピリリといいもの(ICT)をちょっ
とだけプラスしてより良くする。そういう発想でやって
います。それだけでずいぶん変わってきます。
」
聞き手:具体的には、どのようなことが変わりましたか。
足立
:「本校の生徒の傾向として、かつては自信のない子
ども達が多く、授業中も視線が下がりがちで、また発言
する声も下を向いているので通りにくかったです。そこ
に実物投影機とプロジェクタという ICT を使って映し出
すことで、子ども達の視線が上がる。集中する。声が出
るようになりました。プロジェクタで映したものは、子
ども達の手元にある教科書と同じものですが、視線が一
点に集中でき、指示を分かりやすく伝えることができ、
声が出るような指導もやりやすい。この変化は大きいで
すよ。」
「モデルを示していいものとわかれば、
自ずと普及していく。」
聞き手:
足立
鎌手中学校のブログを拝見しますと、先生方が普段の
授業で ICT を利用していらっしゃる様子がうかがえま
すが、どのようにして先生方に普及されたのですか。
: 先生方にこうしてほしいという授業を、全校集会
で自分自身が模擬授業的にやりました。声を出す場
面も意図的に作りました。普通は下を向いて話を聞
く子ども達がみんな顔をあげて聞く。先生方からは
「なんでこんなに視線が上がっているのですか。」と
聞かれ、
「簡単です。ここにプロジェクタで映したか
らです。
」と答えました。その後は、教室に ICT 機器
を設置し、「良かったら使ってみてください」と言い
ました。それで一人の先生がやってみる。その先生
の実感として良かったことが口コミで他の先生に伝
わる。それで今度は他の先生もやってみる。
モデルを示していいものとわかれば、自ずと普及
していきます。また、先生方は、生徒に「なんで A
先生は(ICT 機器を)使うのに、先生は使わない
の?」と言われると結構こたえる(笑)。
益田市立鎌手中学校
足立
賢治
校長
経歴
中学校数学科教諭、島根県教育庁
義務教育課指導主事、出雲教育事
務所指導主事を歴任。
大社中学校教諭時代に通商産
業省・文部省(当時)事業「100 校プ
ロジェクト」(初等中等教育にイン
ターネットを利活用する試みとして
実施されたプロジェクト)に携わる。
全国規模のセミナーでの実践発表
や、本年 8 月に刊行された教育情
報化に関する書籍に、「授業改善
のための ICT 活用を実現する管理
職の役割」をテーマに執筆するな
ど、全国レベルで活躍している。
現在、校長として、学校や地域の
ICT 活用、情報モラル教育を推進し
成 果を上げている 。ま た 、ブログ
「鎌手中学校の日常」や Web サイト
「島根の教育研究会」で、全国に向
けて情報発信をおこなっている。
このインタビュー記事すべてについて
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ICT は学力向上に大きく貢献し
ている。
鎌手中学校 英語科の授業風景
実物投影機、プロジェクタ、パソコン(デジタル
教科書)、ホワイトボードを使いながらの授業。
黒板とホワイトボード両方を使いながら、テンポ
のよい活気のある授業が実施されていた。
聞き手: ICT を効果的に活用すると学力向上
にもつながるというデータが示されて
います*1 が、校長先生はどうお考えで
すか。
足立 : 例えば英語では、パソコンでデジタ
ル教科書 とフラッシュ教材を使 いま
す。知識理解の定着には、フラッシュ
教材でカウントダウン方式をすると、
紙でやる よりもはるかに テンポ がよ
く、生徒も集中するし緊張感も生まれ
ます。家 で復習をしなさいでは なく
て、授業中に覚えてしまう。そういう
授業構成 とそれをより活かすた めの
ICT の活用によって、生徒の英語の語
彙力が増 えました。これは一例 です
が、このように ICT は学力向上に大き
く貢献していると考えます。
「一番使われているのは、実物
投影機とプロジェクタ」
学び合いでのいろいろな議論
聞き手: 鎌手中学校の先生方が一番よく利用し
ておられる ICT 機器は何ですか。
を活性化するための道具とし
足立 : 実物投影機とプロジェクタです。これだ
ての ICT 活用にしたい
けでいろいろなことができ、教育効果も十
分に上がります。そして先生によっては、
そこにパソコンもつないでいます。パソコ
ンをつなぐ理由は、パワーポイント資料や
デジタル教科書、フラッシュ教材を使うた
めです。
「言語力育成のためのきっかけ
として ICT の活用」
足立
*1
:
現在の子ども達の言語力は落ちている
と感じます。映像世代の子ども達にとっ
ての言語力は、まず映像、視覚から入っ
て最終的に頭の中で構築していきます。
だから、言語力育成のためのきっかけと
して ICT 機器を使っています。
見せることで興味を引くことは間違い
ないです。ですが見せることで終わりな
のではなく、そこから言語力を育成する
ためのきっかけとして ICT を使います。
言語力の育成は、子どもが他の子ども
に分かるように説明するというのが言語
力の育成への第一歩と考えます。子ども
同士のたどたどしい説明であっても、そ
れを行なわせ、最後に教員が補足してい
くような授業へ徐々に近づけていきたい
と思います。そのきっかけとしての ICT
です。
聞き手: 島根県教育委員会は、「学び合い」
を重視しています。学び合いと ICT 活
用についてどうお考えですか。
足立 : 学び合いに ICT 活用をすれば、より
学び合いが活性化するし、学び合いを
すれば ICT 活用が活性化する。相互作
用により効果を出すものと思います。
本校では、今は一斉指導における
ICT 活用ということで始めています
が、これはスタートであってゴールで
はないです。この後で学び合いの方向
に持っていって、学び合いでのいろい
ろな議論を活性化するための道具とし
ての ICT 活用に持っていきたいと考え
ています。ですから、今は教員の ICT
活用ですが、いずれは生徒の学び合い
の道具としての ICT をうまく活用させ
たいと思います。
聞き手:本日はどうもありがとうございました。
編集後記
足立校長先生には、大変明快にお話いただ
きました。生徒の実態を的確に把握し、その
改善ための手立てとしての ICT 活用であると
いう基本線が明確であることを強く感じまし
た。また言語力の育成や学び合いという今日
的教育課題についても ICT が果たせる役割が
あることなど、示唆に富むお話をいただきま
した。
「教育の情報化に関する手引」文部科学省 平成21年3月 第3章「教科指導における ICT 活用」