リサーチ TODAY 2015 年 12 月 25 日 12キーワードの2015年回顧、世界水没不安の1年 常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創 2015年を総括する観点から、TODAYで示した各月の12のキーワードをレビューしたい。 ■図表:2015年のみずほ総合研究所『リサーチTODAY』を中心とした12のキーワード キーワード 1月 麻酔と手術 2月 金利水没と浮き輪 3月 欧州、経常収支黒字が最大 地域の自国通貨安の矛盾 4月 中国の日本化とバランスシー ト調整 5月 『原油安経済』 6月 「○年振り」10 事例 7月 カナリア指数 8月 端境期の不安 9月 LED 戦略 10 月 格差問題 11 月 普通の国 12 月 世界的バランスシート調整の 第 3 局面 内 容 日銀は金利機能を喪失させる麻酔で企業に対して意識を変えて手術を促す 状況に。「国債市場は麻酔常態かモルヒネか、その間に手術はできるか」(『リ サーチ TODAY』2015 年 1 月 8 日) 欧州のマイナス金利で世界の金利が「水没」、米国は沈まぬ「浮き輪」の状 態。「米国債は世界の『浮き輪』、『運用難民』でドル高に」(『リサーチ TODAY』2015 年 2 月 16 日) 経常収支の黒字が最大であるユーロ圏がマイナス金利でユーロ安を誘導す る矛盾。「ユーロはパリティに戻るか、でも経常収支黒字の矛盾も」(『リサーチ TODAY』2015 年 3 月 18 日) 中国の減速は日本化とされるバランスシート調整へ。「中国の病は『日本病』、 デフレとバランスシート問題」(『リサーチ TODAY』2015 年 4 月 8 日) 新興国のバランスシート調整と金利水没、これらと表裏一体の関係として生じ うる原油安経済の到来を展望。「激震 原油安経済」(『リサーチ TODAY』 2015 年 5 月 14 日) 「○年振り」の事例が多くみられることが示唆する歴史的局面の転換を展望。 「『○○年振り』10 事例が示す歴史的転換の兆し」(『リサーチ TODAY』2015 年 6 月 2 日) 米国の利上げが展望されるなか、日本のインフレ状況の転換の兆しを展望。 「みずほ総研の『カナリア指数』が示す予兆」(『リサーチ TODAY』2015 年 7 月 27 日) これまで世界を支えた新興国への不安と先進国の回復。新興国から先進国 へのバトンタッチの不安。「再び生じた『金利水没』、世界は端境期の底が見 えない不安」(『リサーチ TODAY』2015 年 8 月 25 日) 金利水没のなかでの運用は、①長期化、②海外、③多様化と、その反動の繰 り返し。「中国版『ブラックマンデー』は『LED 戦略』の巻き返しで止まる」(『リサ ーチ TODAY』2015 年 9 月 1 日) 日本の格差問題は、低所得者層の増大と中間層の衰退である。「日本の格 差問題の本質、低所得者層や中間層衰退への対処が鍵」(『リサーチ TODAY』2015 年 10 月 5 日)。 アベノミクス下の 3 年間の大きな転換は、政治の安定と政策の連続性という点 から日本が世界で普通の国に戻ったこと。「アベノミクス 3 周年、漸く『普通の 国』になった大きな変化」(『リサーチ TODAY』2015 年 11 月 13 日) 新興国問題は、世界のバランスシート調整における①先進国の民間債務、② 先進国の政府債務問題の次の第 3 局面。「新興国問題、『懸念すべき 4 か 国』・『その次の 5 か国』に留意」(『リサーチ TODAY』2015 年 12 月 15 日) (資料)みずほ総合研究所 1 リサーチTODAY 2015 年 12 月 25 日 下記は、2015年の12のキーワードである。 1月 今年は金融政策で「麻酔と手術」 7月 「カナリア指数」 2月 「金利水没」と「浮き輪」 8月 「端境期」 3月 経常収支黒字最大地域の通貨安誘導 9月 「LED 戦略」 4月 「中国の日本化」 10 月 格差問題 5月 「原油安経済」 11 月 「普通の国」 6月 「○年振り」の転換 12 月 「第3局面」 2015年、バランスシート調整の後遺症による世界的ディスインフレが続くなか、世界の中央銀行は従来 禁じ手であった金利水没戦略に踏み出した。一方、これまで10年近く世界の成長を支えてきた新興国が減 速し、世界のバランスシート調整が「第3局面」に入った。それゆえ世界のけん引役が交代する「端境期」の 不安が生じた。この「第3局面」入りに伴う新興国への不安は同時に「原油安経済」の現実を世界に直視さ せた。2015年は期待を込めて新たな局面到来との認識を我々は示していたが、振り返れば結局、転換へ の期待は足踏みし、期待外れの1年となった。ただし、変化の胎動を期待させる「○年振り」の事例が多く見 られたことを認識する必要はある。 2015年を反省を込めて振り返ると、2012年後半以降のアベノミクスの潮流の中で転換が生じることに期 待を込めていたものの、現実にはその転換は極めて緩やかであり、時には後退も生じた。それは、今回の 日米欧のバランスシート調整が、大恐慌以来の戦後最も深刻なものだったからである。さらに、新興国で調 整が生じ、また地政学的不安も加わって不確実性(もやもや感)が高まった。その結果、経済への見方が時 として悲観的なバイアスを抱えることになった。しかも、世界的な金融緩和の反動が断続的に生じやすいた め、思った以上にボラティリティが高まりやすかったのも2015年の特徴だ。世界的なバランスシート調整から 脱するには時間を要し、我慢が必要であることを改めて認識させられた。 深刻な後遺症が残る中で、金融政策は「異次元」なものとなることが世界的レベルで広がった結果が、 「金利水没」である。日銀により異次元の金融緩和が行われるなか、欧州という経常黒字の最大の地域が 「金利水没」を通じて捨て身の自国通貨安政策を行った。他方で今年、米国は歴史的な利上げを行った。 これは先進国経済の転換を象徴するものではあったが、過去の延長線上とは全く異なる対応であるとの認 識が必要だ。 今年1年は期待外れであったが、バランスシート調整が続く冬の状態に時代が再び逆戻りしたと考えるの も早計だろう。今年はバランスシート調整の長期化の重さ(日本化)を改めて再認識させられたものの、回 復に向けて螺旋階段をもやもやした雲の間で前後している状況というのが、今の景気局面についてのより 妥当な評価であろう。 本年もご愛読ありがとうございました。次回は 1 月 7 日(木)の発行を予定しております。 当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに基づき 作成されておりますが、その正確性、確実性を保証するものではありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります。 2
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