パリ通信 最新号

ト
ピ
ア
Bestopia
< 2015 年 12 月 >
古賀 順子
フランスで一番空が高い街
「オルレアンは、フランスで一番空が高く見える街な
んですよ!」
夕暮れ前のオルレアン、FRAC CENTRE(サントル
地方)で出迎えてくださった学芸員エマニェエルさん
の言です。FRAC とは、現代アートを通して地方の活
性化を振興する機関で、地方自治体が出資し、フラン
ス全土に21 ヶ所あります。
オルレアンFRAC は、
1999
年から「Archilab」(アーキラボ)の名前で、現代アー
トと実験的な現代建築の推奨に力を入れ、国際的な拡
がりを築いてきました。日本の現代建築家、アーチス
トのコレクションも数多く所蔵しています。
「Turbulences」(乱気流の意) と呼ばれるホールは、
2013 年に出来たばかりで、
地殻から迫り出したような
動 き の あ る 建 物 で す 。 建 築 家
「JAKOB+MACFARLANE」の作品で、パリ・オー
ステルリッツ駅前、セーヌ河に面した「モードとデザ
イン館」(Cité de la Mode et du Design」(2012)の設計
もしています。全てを取り壊さずに、既存の建物の一
部を残し、その上に移植するように建てられ、生まれ
変わる前の姿を上手に取り込んでいます。
パリ・オーステルリッツ駅から列車で1時間15 分、
オルレアンはパリから 130km の距離です。オルレア
ン、ブロワ、トウール、アンジェなど、ロワール河に
沿う街々は、中世からフランス王家の住まいとなった
地方で、温暖な天候に恵まれ、地理的にもフランスの
ほぼ中央に位置しており、空が高い理由も分かるよう
な気がします。オルレアンの人口は 11 万人、郊外に
は資生堂フランスやロレアルの工場があり、コスメテ
ィックの拠点となっていますが、目玉になるような観
光地ではありません。パリへ通勤する人も多く、こじ
んまりとした、静かな地方都市です。その街並みに一
際高く空に向かっているのが、114m の尖塔を有する
オルレアン大聖堂です。聖十字架を祀る大聖堂で、特
「 パリ通信 48号 」
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平 成 二 十 七 年 十二 月
ス
第四十八号
ベ
異な歴史があります。
シャルトル、アミアン、 ブルジュなどのゴチック大
聖堂と様式は同じですが、建てられた時代は異なりま
す。1601 年、ブルボン王朝アンリ 4 世が大聖堂の礎
石を置きます。その後、主要な工事はルイ 14 世(17 世
紀後半)、つまり古典主義時代に行われます。時代を逆
行して聖堂が完成するのは、1829 年、ジャンヌ・ダル
クがオルレアンを解放した 1429 年から 400 年後のこ
とです。
オルレアンとジャンヌ・ダルクは、今もなお、深く
結びついています。大聖堂に入ると、ジャンヌ・ダル
クの生涯が 10 枚の美しいステンドグラスに描かれて
います。1893 年から 1897 年に作られ、ドンレミ(ロ
レーヌ地方)の田舎に生まれ、神の声を聞くジャンヌ、
シノン城で初対面のシャルル 7 世を見分けるジャンヌ、
オルレアン入城、オルレアン解放、シャルル 7 世の戴
冠式、パリに近いコンピエーニュでイギリス軍に捕え
られ、投獄され、19 歳でルーアンの火刑に没する劇的
な生涯を辿ることができます。
中世からの古い歴史と、FRAC に代表される現代ア
ートや実験的な試みが共存するオルレアンの街に、今
年もクリスマスのイリュミネーションが点灯していま
した。
「11 月 13 日、
パリでテロ事件が起こってからは、
FRAC へ来る人の数も目立って減りました。クリスマ
スの時期ですが、街全体が、なんとも言えない奇妙な
雰囲気です。
」
と、
エマニェエルさんも暗い表情でした。
パリも同じで、重苦しい陰を引き摺りながら年末年始
を迎えなければなりません。夜の闇を照らすイリュミ
ネーションは、テロの犠牲者の魂のようでもあり、日
常生活の光にも思え、人を信頼へと導く灯火のようで
もあります。様々な思いを静かに灯しているクリスマ
スツリーの輝きが、暴力で消されないことを願いたい
と思います。
パリで悲惨なテロ事件が起こる度に、
安否を気遣い、
温かい励ましの言葉を送っていただきました。皆様に
心からお礼を申し上げます。
―― 平成 27 年 12 月 パリ通信 48 号 ――