特集:日本産業の動向〈中期見通し〉(紙・パルプ) 紙・パルプ 【要約】 ■ 国内紙・板紙需要は減少基調で推移している。欧米先進国でも、日本同様紙需要の減少、 板紙需要の堅調が続いている。紙需要は、新興国においても需要が伸び悩んでいる。 ■ 日本、欧米先進国では今後も紙需要の減少トレンドが続くだろう。日本の板紙需要は底堅く 推移するが、大きな需要変動はないものと予想する。中国では紙が需要停滞期に入り、周辺 アジア地域における需給緩和が続くことが懸念される。板紙については需要拡大が続くが、 これまでのような高成長は望めず緩やかな成長に留まるものと予想する。東南アジアでは板 紙を中心とした成長が続く一方、紙の伸び率は徐々に鈍化していくものと思われる。 ■ 中国の需要成長が鈍化する中、成長率の高い東南アジア市場に対する関心は中国や台湾 企業からも高まっている。日本企業は東南アジア市場開拓に先行しているものの、参入プレ ーヤーの増加により競争は厳しくなることが予想される。こうした中、日本企業は品質以外の 面でも競争力を高めていくことが求められる。 【図表5-1】 需給動向と見通し 【実額】 摘要 (単位) 2014年 2015年 2016年 2020年 ( 実績) ( 見込) ( 予想) ( 予想) 国内需要 紙・板紙 (千t) 26,909 26,352 26,028 24,907 輸出 紙・板紙 (千t) 1,200 1,354 1,353 1,333 輸入 紙・板紙 (千t) 1,736 1,515 1,424 1,251 国内生産 紙・板紙 (千t) 26,479 26,065 25,927 24,974 【増減率】 (対前年比) 摘要 (単位) 2014年 2015年 2016年 2015-2020 CAGR ( 実績) ( 見込) ( 予想) ( 予想) 国内需要 紙・板紙 (%) ▲1.0% ▲2.1% ▲1.2% ▲1.1% 輸出 紙・板紙 (%) +13.0% +12.8% ▲0.1% ▲0.3% 輸入 紙・板紙 (%) ▲5.8% ▲12.8% ▲6.0% ▲3.7% 国内生産 紙・板紙 (%) +0.9% ▲1.6% ▲0.5% ▲0.9% (出所)経済産業統計協会資料等よりみずほ銀行産業調査部作成 みずほ銀行 産業調査部 60 特集:日本産業の動向〈中期見通し〉(紙・パルプ) 内需~紙需要の縮小、板紙需要の堅調が続く I. 2015 年の紙・板紙内需は、2,635 万 t(前年比▲2.1%)を見込む(【図表 5-1】)。 消費税率引き上 げの反動で 2015 年 1-3 月期は紙・ 板紙ともに不振 2014 年の消費税率引き上げ前の駆け込み需要の反動で 2015 年 1-3 月期の 内需は前年同期比で大幅に減少した。4 月以降板紙は持ち直しているものの、 新聞用紙や印刷用紙は需要の低迷が続いている。雑誌推定発行部数をみる と、4 月以降縮小ペースが加速しており、1-9 月期で前年同期比▲6.9%となっ た。消費税率引き上げ後に紙の需要が戻らず、2015 年は前年比で減少幅が 拡大する見込み。段ボールの需要部門別消費動向をみると、通販・宅配・引 越用が 1-8 月で前年同期比+9.1%となっているほか、加工食品や日用品向け は年央以降概ね前年同期比プラスで推移している。通年では紙が前年比▲ 3.6%、板紙が略横ばいで着地すると予想。 2016 年の紙・板紙内需は 2,603 万 t(前年比▲1.2%)を予想する。2015 年と比 紙需要は減少継 続、板紙需要は 横ばいを予想 べて減少幅は縮小するが、引き続き需要減少が続く。紙は、無料情報誌の紙 媒体発行の取り止めや雑誌の休刊、新聞の夕刊廃止を含む発行部数の減少、 広告の電子媒体へのシフト等、需要にマイナスな動きが継続することから引き 続き縮小(前年比▲2.3%)が予想される。一方板紙は、食品向け需要の底堅 さや通販向けの需要好調等に支えられ、微増(前年比+0.1%)を予想する。 2020 年の紙・板紙内需は 2,491 万 t を予想する。2015 年から 2020 年の間、 オリンピックは包 材関連需要に恩 恵をもたらすも、 紙需要への影響 は限定的と予想 紙は年率▲2.1%の減少、板紙は同+0.1%の増加、紙・板紙全体では年率▲ 1.1%の減少を見込む(【図表 5-2、3】)。2020 年については、オリンピック関連 需要が下支えとなり、内需減少ペースは 2015 年から 2019 年の間と比べて緩 やかになると予想する。もっとも、紙はプロモーションツールとしての役割が 年々低下していく中、オリンピック効果による需要喚起は限定的となるだろう。 一方、衛生用紙や板紙にはプラスに働くと考えられる。 【図表5-2】 紙内需推移(予測) 【図表5-3】 板紙内需推移(予測) (1000t) (1000t) その他板紙 その他紙 衛生用紙 包装用紙 印刷情報 新聞用紙 紙器用板紙 段原紙 14,000 20,000 18,000 12,000 16,000 10,000 14,000 12,000 8,000 10,000 6,000 8,000 6,000 4,000 4,000 2,000 2,000 0 0 00 02 04 06 08 10 12 14 16(e) 18(e) 20(e) CY 00 02 04 06 08 10 12 14 16(e) 18(e) 20(e) CY (出所)【図表 5-2、3】とも、経済産業統計協会資料よりみずほ銀行産業調査部作成 みずほ銀行 産業調査部 61 特集:日本産業の動向〈中期見通し〉(紙・パルプ) II. グローバル需要~新興国でも紙需要の伸びは限定的 【図表5-4】 グローバル需要の内訳 摘要 2014年 2015年 2016年 2020年 ( 見込) ( 見込) ( 予想) ( 予想) (2015( 実数) 2020 C AGR) ( 実数) ( 前年比) ( 実数) ( 前年比) ( 実数) ( 前年比) (単位) グローバ ル 需要 米国 (万トン) 西欧 (万トン) 中国 (万トン) 合計 (万トン) 7,106 ▲ 0.8% 7,043 ▲ 0.9% 7,005 ▲ 0.5% 6,953 ▲ 0.3% 7,708 + 0.9% 7,659 ▲ 0.6% 7,618 ▲ 0.5% 7,522 ▲ 0.4% 10,071 + 3.0% 10,310 + 2.4% 10,536 + 2.2% 11,292 + 1.8% 24,885 + 1.2% 25,012 + 0.5% 25,159 + 0.6% 25,767 + 0.6% (出所)CEPI、中国造紙協会、AFPA、日本製紙連合会、日本紙類輸出組合資料等よりみずほ銀行産業調査部作成 (注)米国の需要はみずほ銀行産業調査部の推定値 ① 米国 パッケージ好調、 グラフィック用紙 不調が続く 米国の紙・板紙需要はリーマンショックを境に 7,100 万 t 程度で需要が停滞し ている(【図表 5-4】)。品種別でみると衛生用紙需要は堅調、パッケージ関連 用紙はリーマンショックの際に需要が大きく減少したものの、その後は増加基 調に転じている。一方、グラフィック用紙(新聞・印刷情報用紙)は需要縮小が 続いている。2015 年上半期の印刷情報用紙の需要は前年同期比▲4.6%とな ったとみられる。成長品種の需要拡大幅を上回るペースでグラフィック用紙需 要が縮小していくため、中期的に米国の紙・板紙需要は緩やかに縮小してい くものと予想する。 ② 欧州 西欧、東欧ともに 紙需要は振るわ ず 2014 年の欧州の紙・板紙需要は 7,708 万 t(前年比+0.9%)となった(CEPI 統 計1)。グラフィック用紙はマイナス成長(同▲1.4%)となった一方、パッケージ 関連用紙はプラス成長(同+2.6%)で着地した(【図表 5-4】)。2015 年入り後も グラフィック用紙の不振が続いている。西側のみならず、東欧諸国でもグラフィ ック用紙需要はピークアウトしたとみられ、ほとんどの国で需要は漸減傾向を 辿っている。板紙は、一部で需要が減少基調となっている国がみられるものの、 西側諸国では総じて底堅く推移している。東欧における需要は底堅いが、ポ ーランドのように安定的な需要成長を遂げている国は限られている。 1 対象は、オーストリア、ベルギー、チェコ、フィンランド、フランス、ドイツ、ハンガリー、イタリア、オランダ、ノルウェー、ポーランド、 ポルトガル、ルーマニア、スロバキア、スロベニア、スペイン、スウェーデン、イギリス みずほ銀行 産業調査部 62 特集:日本産業の動向〈中期見通し〉(紙・パルプ) 先進国の消費が 大半を占めるた め、需要拡大は 期待しにくい 中期的に、欧州の紙・板紙需要は漸減傾向を辿るものと考えられる。板紙は、 大半が西側の先進諸国で消費されていることから伸び代は限られている。一 方、グラフィック用紙は西欧、東欧ともに需要縮小が続くことから、紙・板紙全 体の需要は減少していくものと予想する。 ③ 中国 紙は需要停滞期 に入った可能性 2014 年の中国の紙・板紙需要は、10,071 万 t(前年比+3.0%、中国造紙協会 発表)と、前年のマイナスからプラス成長に転じたとみられる(【図表 5-4】)。需 要成長を牽引したのはパッケージ関連で、段ボール原紙は前年比+6.6%とな った。一方、グラフィック系では新聞用紙が前年比▲11.3%と大幅に減少、非 塗工紙と塗工紙も微増に留まるなど、需要は低迷している。中国の経済成長 率の減速が予想される中、不動産や小売関連広告向けの紙需要が振るわな い可能性があること、少子高齢化が進行する中で就学人口の減少によりテキ スト関連向けの紙需要の減少が見込まれること、先進国同様中国でも紙が電 子媒体に代替されていくことなどから、グラフィック用紙は今後横ばいないしは 緩やかな減少が続く可能性があるとみる。板紙についても景気減速等を背景 に需要成長は鈍化し、年率 2~3%程度に低下するものと予想する。 ④ ASEAN パッケージ需要 は好調だが、全 体として需要成 長は鈍化 ASEAN の紙・板紙需要は約 2,000 万 t(2013 年)と、2000 年比約 2 倍に拡大 した。海外メーカーの進出等を背景に包装材需要が増加しており、紙・板紙 に占めるパッケージ関連用紙のシェアは高まっている。グラフィック用紙につ いても需要は伸びているものの、伸び率は鈍化傾向にある。今後、経済成長 に伴い紙・板紙の需要成長が続くと考えられるが、グラフィック用紙需要の伸 びは振るわず、成長率は全体として鈍化していくものと考えられる。 III. 生産~国内は需要縮小を背景に減少トレンド、海外は製紙以外でも事業展開が続く 国内生産は内需 と同様縮小する も、円安が下支え 要因に 2015 年の紙・板紙生産量は 2,606 万 t(前年比▲1.6%)を見込む。内需が減少 する一方、輸出の増加と輸入の減少が見込まれることから、生産量は内需と 比べて小幅な落ち込みに留まる見通し。2016 年の紙・板紙生産量は 2,593 万 t(同▲0.5%)を見込む。一段の円安進行という前提条件の下、輸入が減少す ることで内需と比べて生産量の落ち込み幅は限定的となる見通し。 中期的に国内生 産は内需と同じト レンドを辿る 国内生産量は、中期的に内需と同様縮小トレンドを辿るものと考えられる。足 元、円安が輸出の増加と輸入の減少をもたらし生産量の減少に歯止めをかけ ている。しかし、輸出の主要品目である印刷用紙はヨーロッパや中国で供給 過剰となっており、輸出市場における競争は厳しさを増している。また、輸入 に関しても円安により印刷情報用紙の輸入量は既に 130 万 t 程度(2014 年) みずほ銀行 産業調査部 63 特集:日本産業の動向〈中期見通し〉(紙・パルプ) まで縮小している。国内市場に根付いている品種もあることを勘案すれば、輸 入の減少が内需縮小を補完する効果の持続性は限られていると思われる。 製紙事業以外で も海 外生 産は拡 大 国内需要が縮小する中、海外市場の捕捉は日本企業にとって重要性を増し ている。ASEAN 地域における王子 HD、レンゴーの段原紙・段ボール事業展 開、北越紀州製紙の中国における白板紙事業、王子 HD のオーストラリア、ニ ュージーランドに拠点を有する CHHPP 社(Oji Fibre Solutions へ改名)買収、 日本製紙のオーストラリアンペーパー社買収等、近年日本企業は海外市場 進出を積極化している。もっとも、上流のパルプや川下の加工事業等製紙以 外での展開もみられ、製紙事業以外でも海外売上高を増加させる方向性にあ る。 IV. 輸出~円安を追い風に増加するも、中期的には減少に転じる 円安を背景に、 印刷用紙だけで なく、板紙も輸出 好調 2015 年の紙・板紙輸出量は、135 万 t(前年比+12.8%)を見込む。円安や内需 不振を背景に企業は輸出を増やしており、月に 10 万 t 程度が輸出へ振り向け られている。印刷用紙に加え、段原紙の輸出が好調である(【図表 5-5】)。 2016 年の輸出量は、前年比略横ばいを見込む。前年同様、円安と内需不振 により輸出が高水準で推移すると考えられる。紙は、円安により競争力が高ま るものの中国等アジアでの印刷用紙の需要が弱含む中、微減を予想する。板 紙は、東南アジア向け輸出の拡大等により微増を見込む。 印刷用紙の輸出 市場は厳しさを増 していく方向性 中期的に輸出は縮小するものと予想する。これまでは、生産能力の削減が進 まない中で輸出が調整弁としての役割を果たしてきた。しかし、主要輸出品種 である印刷用紙需要のアジアにおける成長余力は乏しくなっており、さらに中 国や欧州の供給過剰が是正されない中では輸出市場における競争は厳しさ を増していく方向性にある。また、内需は紙を中心に需要が大幅に減少する ことが予想され、いずれ設備の統廃合を行わざるを得ないであろうことから、 輸出量は減少に向かうものと予想する。 V. 輸入~円安により輸入量は抑制 2015 年、2016 年 とも円安が輸入 を抑制 2015 年の輸入量は、151 万 t(前年比▲12.8%)を見込む。円安を背景に輸入 量は減少基調で推移している(【図表 5-6】)。2016 年の輸入量は 142 万 t(同 ▲6.0%)を見込む。アジアでの需給緩和は続くものの、引き続き円安が輸入 量を抑制すると予想する。 円安に加えて内 需が縮小すること により輸入品は 減少 中期的に輸入量は縮小すると予想する。円安基調が続くという前提条件の下、 輸入品が流入しにくい状況が続くだろう。PPC 用紙のように日本市場に浸透し た品種については一定水準の流入が続くと考えられるが、内需の縮小に伴い 数量は減少傾向となることが考えられる。リスクファクターとしては、欧州やアジ ア市場で印刷用紙のさらなる需給緩和が進むこと、原燃料価格上昇による製 品価格引き上げに伴い内外価格差が縮小すること、等が挙げられる。 みずほ銀行 産業調査部 64 特集:日本産業の動向〈中期見通し〉(紙・パルプ) 【図表5-6】 紙・板紙輸入量推移 【図表5-5】 紙・板紙輸出量推移 (1000t) 450 中国 その他アジア 台湾 米州 香港 オセアニア (1000t) マレーシア その他 中国 フィンランド インドネシア 北米 その他アジア その他 スウェーデン 700 400 600 350 500 300 250 400 200 300 150 200 100 10/1Q 10/2Q 10/3Q 10/4Q 11/1Q 11/2Q 11/3Q 11/4Q 12/1Q 12/2Q 12/3Q 12/4Q 13/1Q 13/2Q 13/3Q 13/4Q 14/1Q 14/2Q 14/3Q 14/4Q 15/1Q 15/2Q 15/3Q 0 0 10/1Q 10/2Q 10/3Q 10/4Q 11/1Q 11/2Q 11/3Q 11/4Q 12/1Q 12/2Q 12/3Q 12/4Q 13/1Q 13/2Q 13/3Q 13/4Q 14/1Q 14/2Q 14/3Q 14/4Q 15/1Q 15/2Q 15/3Q 100 50 (出所)【図表 5-5、6】とも、日本紙類輸出組合資料等よりみずほ銀行産業調査部作成 VI. 日本企業のプレゼンスの方向性 生産量でみた場 合日本企業のプ レゼンスは低下 生産量でみた場合、アジア新興国企業の台頭と欧米企業の再編進展に伴い 中期的に日本企業の世界ランキングは低下することが予想される。アジアで は、巨大な内需や豊富な原料を背景に新興国企業が急成長を遂げており、 生産量は近年大幅に増加した。米国では、急速な内需縮小により製紙業界 の再編が進み、1 企業当たりの規模が拡大している。日本企業の現状維持を 前提とすれば、新興国企業、先進国企業双方が企業規模を拡大させる中で、 日本企業の相対的な地位低下は避けられないだろう。 東南アジア地域 における日本企 業のプレゼンス は拡大 一方、地域や品種別でみれば日本企業のプレゼンス拡大が見込まれる分野 もある。王子 HD の GSPP(マレーシア)、レンゴー(SCG との JV)の Vina Kraft (ベトナム)のように、大手製紙メーカーは包装材事業で東南アジア市場開拓 を進め、地域のトッププレーヤーとなっている。日本やグローバル製造大手の 東南アジア進出に伴い高品質な包装材需要が高まる中で、こうした企業につ いては需要成長を捕捉しつつ、東南アジア市場での存在感を増していくこと が可能と思われる。また、欧米企業がリストラクチャリングを進める中で、ノンコ ア事業と判断された資産を買収することにより買収対象地域におけるプレゼン スを大きく飛躍させる可能性がある。 製紙以外でも事 業を拡大していく 方向性 国内製紙事業が縮退していく中、日本企業は川中(製紙)中心であったバリュ ーチェーンを見直し、より広く捉える方向性にある。木材やパルプ、エネルギ ー事業といった川上に寄った事業への取り組みや、段ボールや紙加工事業、 おむつ等、川下に近い事業への取り組み強化がみられる。こうした取り組みに より、製紙メーカーは川中以外の市場でプレゼンスを高める可能性がある。 みずほ銀行 産業調査部 65 特集:日本産業の動向〈中期見通し〉(紙・パルプ) VII. 産業動向を踏まえた日本企業の戦略と留意すべきリスクシナリオ 日 本 以外 の ア ジ ア企業も東南ア ジア市場参入に 意欲をみせる 中国では 2000 年以降、高成長品種に対して投資が急速に拡大した。結果と して、塗工紙や衛生用紙等多くの品種が供給過剰となっている。内需が巨大 なことから、同国の輸出入比率の増減は周辺市場に対して大きな影響を及ぼ す。段原紙に関しては、今のところ国内で供給量を吸収できており周辺市場 への影響は限定的となっているが、今後需給バランスが他の品種同様に崩れ る可能性も否定できない。そうなった場合、日本企業が先行して投資し、需要 成長を享受している東南アジア市場への輸出増加が懸念される。また、中国 企業は現地での生産拠点構築にも乗り出している。中国最大の板紙メーカー Nine Dragons はベトナムに既に生産拠点を保有しているが、生産能力拡大を 企図し、2016 年末に年産 50 万 t のマシンを稼働させる計画である。また、台 湾企業で中国に生産拠点を保有する Cheng Loong は 2、3 年の間にベトナム に年産 45 万 t 程度の段原紙工場と新たな加工拠点を構築する計画を進めて いる。同社は既に加工拠点をベトナムに保有しているが、中国から東南アジア へ生産拠点を移した消費財メーカーの需要取り込みを狙い、タイ、インドネシ ア、カンボジアといった他の東南アジア地域でも加工拠点を増やしたい意向 である。ユーザーの東南アジア進出に伴う市場開拓は日本企業が先行してい るが、アジア企業の追随により競争環境は厳しくなることが予想される。日本 企業とローカルメーカーの間では、これまで原紙や加工技術による品質の違 いからユーザー層の棲み分けがある程度できていたものと思われる。しかし、 今後は高成長が期待される高品質市場へローカルやアジア企業が参入を目 指す動きが増えるだろう。 品質以外の面で 競争優位性を確 保することが必要 競争環境が厳しくなる中、日本企業は品質以外の面でも優位性を確保するこ とが必要となるだろう。新興国では原料アクセス(古紙)に課題を抱えているこ とが多く、輸入依存度が高いことからコストが嵩みがちである。こうした課題へ の解決策を示すことができるか、また、ローカル企業でも将来的に顧客となり 得るポテンシャルユーザーを早期に発掘・獲得することができるか、といった 要素が競争力を左右する可能性があり、バリューチェーン全体に亘って最適 化を図ることの重要性が増すものと考える。さらに、参入市場での競争優位性 を確保・維持し続けるためには相応の投資が必要である。そのための手段とし て、既存事業の継続を所与のものとせず事業の取捨選択を進め、過当競争を 回避しながら自社が最も競争力を発揮できる事業に集中することが選択肢と して考えられる。国内事業をキャッシュカウ化することで、グローバル市場でも 勝ち続けられる強固な事業基盤を築くことが求められる。 (素材チーム 大野 晴香) [email protected] みずほ銀行 産業調査部 66 /53 2015 No.5 平成 27 年 12 月 25 日発行 ©2015 株式会社みずほ銀行 本資料は情報提供のみを目的として作成されたものであり、取引の勧誘を目的としたものではありません。 本資料は、弊行が信頼に足り且つ正確であると判断した情報に基づき作成されておりますが、弊行はその正 確性・確実性を保証するものではありません。本資料のご利用に際しては、貴社ご自身の判断にてなされま すよう、また必要な場合は、弁護士、会計士、税理士等にご相談のうえお取扱い下さいますようお願い申し上 げます。 本資料の一部または全部を、①複写、写真複写、あるいはその他如何なる手段において複製すること、②弊 行の書面による許可なくして再配布することを禁じます。 編集/発行 みずほ銀行産業調査部 東京都千代田区大手町 1-5-5 Tel. 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