08 自動車(PDF/823KB)

特集:日本産業の動向〈中期見通し〉(自動車)
自動車
【要約】
■ 日本の自動車業界は足許、乗用車を中心に国内需要の減少に直面しており、これに伴い国
内生産、輸入台数は減少圧力に晒されている。国内需要は今後も減少すると予想され、輸
入台数は減少基調で推移するものと思われる。
■ 他方、グローバル需要は、足許は新興国市場の停滞に伴い足踏みの状況にあるが、中長期
的には一段の成長が見込まれる。日系完成車メーカーは過去円高に伴う輸出競争力低下か
ら海外への生産移転を進めたが、為替水準が円安にシフトしたことを受け、輸出を増加させ
ており、その結果、国内生産の減少幅は限定されると予想する。
■ 日系完成車メーカーは ASEAN や北米で高い地位を確立することで母国市場の縮小のなか
でも、プレゼンスを発揮して来た。この地位を活かしたシェアの維持に努めつつ、規制の厳格
化による構造変化に適切な対応を行うことが、更なるプレゼンスの拡大とリスクの回避に繋が
ることになろう。
【図表8-1】 需給動向と見通し
【実額】
内需
輸出
輸入
国内生産
グローバル需要
摘要
2014年
2015年
2016年
2020年
(単位)
( 実績)
( 見込)
( 予想)
( 予想)
( 千台)
( 千台)
( 千台)
( 千台)
( 千台)
5,563
4,466
336
9,775
88,888
5,073
4,527
328
9,272
88,927
5,065
4,600
309
9,356
90,668
4,632
4,920
307
9,246
99,217
【増減率】
内需
輸出
輸入
国内生産
グローバル需要
摘要
2014年
2015年
2016年
(単位)
( 実績)
( 見込)
( 予想)
(%)
(%)
(%)
(%)
(%)
+ 3.5%
▲ 4.5%
▲ 2.9%
+ 1.5%
+ 3.2%
▲ 8.8%
+ 1.4%
▲ 2.4%
▲ 5.1%
+ 0.0%
▲ 0.2%
+ 1.6%
▲ 5.9%
+ 0.9%
+ 2.0%
2015-2020
C AGR
( 予想)
▲ 1.8%
+ 1.7%
▲ 1.3%
▲ 0.1%
+ 2.2%
(出所)(一社)日本自動車工業会資料等よりみずほ銀行産業調査部作成
国内需要は低
迷、海外需要は
堅調
自動車業界の需給動向と見通しについて【図表 8-1】にまとめた。内需は 2014
年の増加から 2015 年は減少に転じ、以降も緩やかな減少が続くと予想する。
輸出はグローバル需要に従った緩やかな増加基調を見込む。輸入は足許で
は VW 問題による下押し圧力が働き、中期的には内需の低迷の影響を受ける
ことになろう。国内生産は、足許では内需減少の影響を大きく受けているもの
の、輸出の緩やかな増加が内需の漸減を補い、微減に留まると予想する。以
下各項目について詳述したい。
みずほ銀行 産業調査部
89
特集:日本産業の動向〈中期見通し〉(自動車)
I.
内需~中長期的な減少基調が続く
【図表8-2】 国内需要の内訳
【実額】
乗用車
商用車
合計
摘要
2014年
2015年
2016年
2020年
(単位)
( 実績)
( 見込)
( 予想)
( 予想)
( 千台)
4,700
863
5,563
( 千台)
( 千台)
4,233
840
5,073
4,230
835
5,065
3,823
810
4,632
【増減率】
摘要
2014年
2015年
2016年
(単位)
( 実績)
( 見込)
( 予想)
乗用車
商用車
合計
(%)
(%)
(%)
+ 3.0%
+ 6.2%
+ 3.5%
▲ 9.9%
▲ 2.7%
▲ 8.8%
▲ 0.1%
▲ 0.6%
▲ 0.2%
2015-2020
C AGR
( 予想)
▲ 2.0%
▲ 0.7%
▲ 1.8%
(出所)(一社)日本自動車工業会資料等よりみずほ銀行産業調査部作成
2015 年の国内自
動車販売は低
調、2016 年は横
這いを予想
2015 年の国内自動車市場は、2014 年に堅調であった軽自動車を中心に反
動的な販売減が見られ、乗用車の需要が低迷した。商用車は、軽商用車を除
き堅調に推移したものの、軽商用車の販売減少を補い切れず、全体では縮
小傾向を辿った。2015 年の国内自動車販売台数は 5,073 千台(前年比▲
8.8%)での着地を見込む。2016 年は反動減の影響が薄れることに加え、年末
に掛けては 2017 年 4 月に控える消費増税に向けた駆け込み需要が想定され
る。生産年齢人口の減少や生活様式の変化などから自動車需要は趨勢的に
減少を続けると見込まれるが、2016 年についてはその減少幅は限定的なもの
になると見る。2016 年の国内自動車販売台数は 5,065 千台(前年比▲0.2%)
を予想する。
中期的には市場
縮小が見込まれ
るが商用車は相
対的に堅調
国内自動車市場は趨勢的な需要の減少が続くと見込まれる。商用車におい
ては、長年の投資抑制の反動たる更新需要に加え、トラックにおける工事需
要、バスにおける旅客需要の増加などに下支えされ、一部車種においては架
装工程のキャパシティを超える需要が見られる状況にあり、減少のスピードは
緩やかになると見込まれる。一方、乗用車については減少基調の継続が見込
まれる。2020 年の国内自動車販売台数は 4,632 千台(年率▲1.8%)を予想す
る。
みずほ銀行 産業調査部
90
特集:日本産業の動向〈中期見通し〉(自動車)
II. グローバル需要~明暗分かれる新興国も、中期的には成長を見込む
【図表8-3】 グローバル需要の内訳
【実額】
グローバル
需要
米国
欧州5カ国
中国
インド
ロシア
ブラジル
ASEAN5カ国
タイ
インドネシア
その他
摘要
(単位)
( 千台)
2014年
2015年
2016年
2020年
( 実績)
( 見込)
( 予想)
( 予想)
16,845
10,894
23,489
3,182
2,692
3,498
3,124
881
1,208
1,035
( 千台)
( 千台)
( 千台)
( 千台)
( 千台)
( 千台)
(千台)
(千台)
(千台)
17,798
11,829
23,537
3,359
1,850
2,539
2,911
764
1,006
1,141
18,168
11,946
24,253
3,549
1,861
2,434
2,982
765
1,010
1,208
18,475
12,476
28,027
4,754
2,198
2,983
3,663
929
1,279
1,454
【増減率】
グローバル
需要
米国
欧州5カ国
中国
インド
ロシア
ブラジル
ASEAN5カ国
タイ
インドネシア
その他
摘要
(単位)
(%)
2014年
2015年
2016年
( 実績)
( 見込)
( 予想)
6.1%
5.6%
6.8%
▲1.7%
▲11.4%
▲7.1%
▲11.4%
▲33.7%
▲1.8%
7.3%
(%)
(%)
(%)
(%)
(%)
(%)
(%)
(%)
(%)
5.7%
8.6%
0.2%
5.6%
▲31.3%
▲27.4%
▲6.8%
▲13.3%
▲16.7%
10.2%
2.1%
1.0%
3.0%
5.7%
0.6%
▲4.1%
2.4%
0.1%
0.3%
5.9%
2015-2020
C AGR
( 予想)
0.4%
1.0%
3.4%
7.5%
4.5%
5.1%
5.2%
5.0%
6.2%
4.6%
(出所)(一社)日本自動車工業会資料等よりみずほ銀行産業調査部作成
(注)欧州 5 カ国はドイツ、フランス、イタリア、スペイン、イギリス。ASEAN5 カ国はタイ、インドネシア、マレー
シア、フィリピン、ベトナム。
① 米国
米国市場は当面
堅調が見込まれ
る
2015 年の米国における自動車販売台数は、堅調に推移した。原油価格の低
位推移や積極的な販売金融供与等により、需要は下支えされ、17,798 千台
(前年比+5.7%)での着地を見込む。既に自動車販売台数は過去最高に近い
水準まで伸長して来ており、一層の伸長余地は限定されると見られるものの、
2016 年についても 18,168 千台(前年比+2.1%)と増加を見込む。2016 年には、
金融緩和の巻き戻しが徐々に進むと想定されることから、自動車ローン金利
の上昇や、これに伴う変動金利建自動車ローンのデフォルト率の増加につい
ては注視を要する。ただし 2016 年中の自動車需要への影響は限定的と見
る。
成長は徐々に鈍
化傾向に
中期的にも市場は拡大を続けると考えられるものの、世界最大の自動車保有
国であるアメリカでは自動車需要の大部分は買い替えに伴うものである。従来
の買い替え期間を大幅に短縮する購買行動は起こり難いと見られることから、
その成長速度は次第に低下することが見込まれ、2020 年の自動車販売台数
は 18,475 千台(年率+0.4%)を見込む。
みずほ銀行 産業調査部
91
特集:日本産業の動向〈中期見通し〉(自動車)
② 欧州 5 カ国
欧州は足許堅調
も成 長の 持続性
には注視の要あ
り
欧州市場も堅調な動きを見せている。イギリスでは自動車販売台数が過去最
高水準を更新しているほか、スペインでは繰り返し延長されて来た PIVE(スク
ラップインセンティブ制度)による後押しもあり、前年比 2 割増と循環的な買い
替え需要が回復している。これらにより 2015 年の欧州主要 5 カ国の自動車販
売台数は 11,829 千台(前年比+8.6%)と拡大を見込む。一方、足許の販売増
加はこれまで抑制されてきた買い替え需要の反動的な増加と政策的な需要
喚起に依るところが大きく、市場拡大の継続性については注視の要があるも
のと考えられる。また、スペインの PIVE も終了となる見通しであり、2016 年は
微増に留まる 11,946 千台(前年比+1.0%)を予想する。
中期的にはごく
緩やかな拡大を
予想
欧州においては自動車保有台数の増加余地は限定的であり、経済成長も鈍
化基調にあることから、今後の成長は極めて緩やかになると予想する。2020
年の自動車需要は 12,476 千台(年率+1.0%)を見込む。
③ 中国
2015 年の中国市
場は伸び悩み
も、成長軌道へ
の回帰が見込ま
れる
2015 年の中国自動車出荷台数は 23,537 千台(前年比+0.2%)と微増での着
地を見込んでおり、成長鈍化傾向が見られる。商用車の伸び悩みに加え、乗
用車についても 6 月から 8 月まで 3 ヶ月に亘り前年割れを記録した。経済成
長の鈍化に伴う需要の伸び悩みに対し、生産調整が遅れ、在庫が積み上が
ったことが要因として挙げられる。足許では在庫水準も適正化しつつあり、生
産水準も緩やかに増加に向かうと見る。2016 年の中国自動車出荷台数は
24,253 千台(前年比+3.0%)と緩やかな成長を予想する。
成長鈍化を見通
すものの市場拡
大余地は依然大
きい
中国においては、沿海部の都市を中心に自動車普及に伴う渋滞、大気汚染、
交通事故等の外部不経済の深刻化が見られる一方、内陸部や沿海部であっ
ても都市部以外では依然自動車は普及途上にあり、中国全土を見渡した場
合、自動車普及余地は非常に大きく残されている。経済成長の鈍化に伴い、
市場拡大の速度は低下するものの、今後も市場は堅実に拡大するものと見る。
2020 年の中国市場は 28,027 千台(年率+3.4%)まで拡大すると予想する。
④ インド
インド市場は再度
成長軌道に
インド自動車市場は、2015 年より小型車向けの物品税減税が撤廃され、需要
の反動減が懸念されたものの、実際には消費マインドの改善を受け、年初か
ら堅調な動きを見せた。2015 年の自動車販売台数は 3,359 千台(前年比
+5.6%)での着地を見込む。2016 年についても 3,549 千台(前年比+5.7%)と
拡大を見込む。
インド市場の有望
度は高く、当面は
堅調な拡大が期
待される
インドは、12 億人に及ぶ巨大な人口を抱える一方、自動車普及率、一人当た
り GDP は依然低位に留まっており、今後の成長が強く期待される市場である。
インフラの未整備や都市部における公害の深刻化など、新興国に共通の課
題が存在するものの、今後も経済成長に従った緩やかな拡大が見込まれる。
2020 年の自動車販売台数は 4,754 千台(年率+7.5%)まで拡大すると予想す
る。
みずほ銀行 産業調査部
92
特集:日本産業の動向〈中期見通し〉(自動車)
⑤ ロシア
ロシア市場は急
速に縮小
ロシア自動車市場は、厳しい経済環境を受け急減速に陥った。ロシア政府は、
販売支援策による下支えを図っているものの、2015 年の自動車販売台数は
1,850 千台(前年比▲31.3%)と、二年連続での減少を見込む。景気底打ちの
兆候は見られ 2016 年は GDP のマイナス成長に歯止めが掛かる見通しである
ものの、回復の足取りは極めて緩やかになると見られる。2016 年の自動車販
売台数は 1,861 千台(前年比+0.6%)とほぼ横這いを見込む。
経済成長に伴う
回復を見込むが
ボラティリティの
大きさには留意
の要
ロシアはピーク時(2008 年)には自動車販売台数 3,218 千台を記録するなど、
ポテンシャルのある市場だが、その翌年(2009 年)には 1,599 千台まで市場が
縮減するなど、極めてボラタイルな市場である。経済が再び成長軌道に回帰
すれば需要は回復軌道に復すると見るものの、拡大、縮小両面の振れ幅の
大きさには留意する必要があろう。2020 年の自動車販売台数は 2,198 千台
(年率+4.5%)と予想する。
⑥ ブラジル
ブラジル市場は
縮小が続く
ブラジル自動車市場は、景気減速に加え、自動車向け減税措置(IPI)の撤廃
も受け、急速に縮小した。2015 年の自動車販売台数は 2,539 千台(前年比▲
27.4%)と、二年連続の減少を見込む。経済環境の回復にはなお時間を要す
る見通しで、需要を後押しする材料に乏しく、2016 年についても縮小が見込
まれる。2016 年の自動車販売台数は 2,434 千台(前年比▲4.1%)と三年連続
での市場縮小を見込む。
回復に転じた場
合の成長余力は
大きい
足許では経済低迷を受け、自動車需要は伸び悩んでいるものの、南米最大
の自動車保有国であるブラジルは循環的な買い替え需要による需要回復が
期待される。また若年層の多い人口構成をもち、経済成長の余地もあることか
ら、中期的に市場は拡大していくものと見る。2020 年の自動車販売台数は
2,983 千台(年率+5.1%)を予想する。
⑦ ASEAN5 カ国
タイ市場は 2015
年 は 減 速 、 2016
年は伸び 悩みを
予想
タイ自動車市場は、2012 年のファーストカーインセンティブの反動減に起因す
る急速な自動車市場の縮退の流れから依然脱却できない状況が続く。前年
比▲33.7%減となった 2014 年に続き、2015 年についても▲13.3%減の 764 千
台での着地を見込む。
中長期的には緩
やかな成長を予
想
干ばつ被害が拡がる一方、民政移管のスケジュールは延期が続くなど、消費
マインドも停滞しており、自動車販売が回復に向かうシナリオが描き難い状況
が続く。2016 年は 0.1%増の 765 千台を予想する。一方、タイにおいて自動車
は依然普及途上にあり、経済成長が継続する中で中長期的には自動車需要
の安定的成長が見込まれる。2020 年の自動車販売台数は 929 千台(年率
+5.0%)を予想する。
インドネシア市場
は足踏みが続く
がポテンシャル
は大きい
インドネシア自動車市場も、経済成長の鈍化により減速、2015 年の自動車販
売台数は 1,006 千台(前年比▲16.7%)を見込む。販売台数の回復は 2016 年
後半以降となり、回復ペースは極めて緩慢になるものと予想する。2016 年の
みずほ銀行 産業調査部
93
特集:日本産業の動向〈中期見通し〉(自動車)
自動車販売台数は 1,010 千台(前年比+0.3%)を予想する。インドネシアは 2
億人を超える人口を擁し、一人当たり GDP(2013 年)は 1,830 ドルと、これから
モータリゼーションを迎える局面にあることから、中期的には国内需要は着実
に拡大するものと見込まれる。2020 年の自動車販売台数は 1,279 千台(年率
+6.2%)を予想する。
マレーシアは緩
やかな成長を維
持。ベトナムとフィ
リピンの成長期
待は大きい
その他 3 カ国においては、2015 年は 1,141 千台(前年比+10.2%)での着地を
見込む。マレーシア市場は伸び悩んでいるものの、好況が続くベトナム(前年
比+49.1%)、フィリピン(前年比+17.2%)で急速な市場の拡大が見られた。
2016 年は、ベトナム市場の拡大ペースは減速を見込むものの、マレーシア、
フィリピンでの成長が継続し、1,208 千台(前年比+5.9%)と市場拡大を見込む。
中期的には、既に域内最高水準の自動車普及が進んでいるマレーシアは緩
やかな成長になると見込まれるものの、ベトナム、フィリピンにおいてはモータ
リゼーションの進展に伴う市場拡大が見込まれる。2020 年の自動車販売台数
は 1,454 千台(年率+4.6%)を予想する。
III. 生産~内需の減少続くも、輸出の緩やかな伸長により横這い推移を予想
【図表8-4】 国内生産動向
国内生産
増減率
摘要
2014年
2015年
2016年
2020年(注)
(単位)
( 実績)
( 見込)
( 予想)
( 予想)
( 千台)
9,775
1.5%
( %)
9,272
▲5.1%
9,356
0.9%
9,246
▲0.1%
(出所)(一社)日本自動車工業会資料等よりみずほ銀行産業調査部作成
(注)増減率は 2015 年から 2020 年までの年平均成長率(CAGR)
国内自動車生産
は内需の減少の
影響を受け減少
2015 年の国内生産台数は国内自動車販売の低調により下押しされた。輸出
台数は前年並で推移したものの、9,272 千台(前年比▲5.1%)での着地を見
込む。2016 年は輸出台数の増加に加え、国内需要の減少幅も小さくなると見
込まれ、国内生産台数は 9,356 千台(前年比+0.9%)と微増を予想する。
地産地消化の進
展に伴い、海外
から の生 産回帰
は見通し難い
日系完成車メーカーは、為替レート等の外部環境によって影響を受けない事
業構造を作り上げることを企図し、需要地近接生産(=地産地消)化を進めて
来た。今後現状並み、あるいはそれ以上の円安水準となったとしても、直ちに
海外生産が国内に回帰することにはつながらず、円安の効果は、主として海
外生産の稼働率が高い状況において、国内生産活用が選択肢となる程度の
影響に留まる。
輸出に支えられ
国内生産は微減
に留まると予想
足許では、具体的かつ大規模な海外生産移管計画は見当たらず、国内生産
能力余剰を活かした、生産回帰の動きが見られている。この動きを前提とすれ
ば、中期的にはグローバル需要の拡大により、輸出については伸長が見込ま
れる。一方、国内自動車需要は減少基調を見込んでおり、2020 年の国内自
動車生産台数は 9,246 千台(年率▲0.1%)を見込む。
みずほ銀行 産業調査部
94
特集:日本産業の動向〈中期見通し〉(自動車)
IV. 輸出~足許の状況を前提とすれば、緩やかな成長が見込まれる
2015 年は先進国
向けが堅調、
2016 年も緩やか
な成長を期待
2015 年は中国、ロシア向け輸出が各国における自動車需要の低迷により減
少したものの、北米、西欧向け輸出が堅調に推移した。2015 年の自動車輸出
台数は 4,527 千台(前年比+1.4%)と前年比増加での着地を見込む。2016 年
は大きな海外生産移管案件が見当たらない中で、海外需要の伸びに従い、
緩やかな増加を見込み 4,600 千台(前年比+1.6%)を予想する。
地産地消の流れ
を円高が後押し
し、海外生産移
管が進行して来
た
日本からの自動車輸出は 1985 年に 6,730 千台とピークを迎えた。その後は貿
易摩擦の激化を受け、海外需要への対応は国内生産と輸出から、海外現地
生産へと大きく舵が切られることとなった。2008 年に一旦は新興国需要の高ま
りを受け、6,727 千台に到達したものの、その後は急速に円高が進行し、日系
完成車メーカーにおける地産地消化の流れは一層後押しされた【図表 8-5】。
海外への生産移
管は一服を見込
むが、国内への
生産回帰は強い
潮流とは成り得
ない
大局的な流れは依然地産地消にあるものの、足許では一部で国内生産と輸
出への回帰の流れが見られる。中期的な動向については、為替や各国での
市場成長の動向に基づく完成車メーカーの生産計画に応じて変化するもの
ではあるが、足許の動向を前提とすれば、2020 年の自動車輸出台数は 4,920
千台(年率+1.7%)と予測する。
【図表8-5】 自動車輸出台数と為替レートの推移
(千台)
(円/ドル)
8,000
290
商用車
乗用車
ドル円
7,000
260
6,000
230
5,000
200
4,000
170
3,000
140
2,000
110
1,000
80
0
50
(CY)
(出所)(一社)日本自動車工業会資料、日本銀行資料よりみずほ銀行産業調査部作成
(注)ドル円レートは当該年の月中平均レートの年平均値
みずほ銀行 産業調査部
95
特集:日本産業の動向〈中期見通し〉(自動車)
V. 輸入~短期的には VW 問題、中期的には内需減少の影響を受ける
2015 年の自動車輸入台数は年初から前年を上回る動きを見せて来たが、
2015 年の自動車
輸入は VW 問題
を受け失速、問
題は長期化の兆
しも
2015 年 9 月の VW 問題の発覚を受け、2015 年 10 月の海外メーカー製乗用
車の輸入台数は前年同月比▲10.0%となった。当初特定エンジン搭載車種
のみが対象とされた問題も、その後他のエンジンを搭載したモデルにも指摘
がなされるなど、長期化の兆しを見せ始めている1。2015 年の自動車輸入台
数は前年比▲2.4%の 328 千台を見込む。この影響は 2016 年までは継続する
と見込まれる。2016 年の自動車輸入台数は 309 千台(▲5.9%)を予想する。
日本における自動車輸入台数とドル円、ユーロ円為替レートとの相関関係は
日本における自
動車輸入台数は
為替や通商政策
の影響は薄いと
見られる
極めて弱い。自動車内需との相関性は一定程度存在するものの、充分な説
明力を有しているとは言い難い水準に留まる。専らユーザーの嗜好により輸
入車は選択されていると見ることができよう。なお、1978 年に日本における自
動車の輸入関税は撤廃されており、TPP をはじめとする通商政策による自動
車輸入台数への影響はほぼ無視しうると言えよう。
日本の自動車販売台数については中長期的な減少を予想しており、自動車
中期的には内需
減少の影響を受
けると予想
輸入台数もこの影響を受けることになろう。一方、足許の VW 問題については
中期的には解消されると思われる。以上を踏まえて 2020 年の自動車輸入台
数は 307 千台(年率▲1.3%)を予想する。
VI. 日本企業のプレゼンスの方向性
日本の自動車市場は、自動車購買層たる生産年齢人口の縮小、更には購買
母国市場縮小の
中でも販売台数
は成長
行動の変化により、今後も縮小が見込まれる。一方、日系完成車メーカーは
北米、ASEAN 市場2で着実に地位を確立し、国内市場が伸び悩みに転じた
後も販売台数の成長を遂げ、プレゼンスを拡大して来た【図表 8-6】。
【図表8-6】 日系・欧系・米系完成車メーカーの地域別販売台数成長(2000 年⇒2014 年)
日系
(千台)
26,000
24,000
1,131
22,000
777
28,000
26,000
1,224
24,000
874 24,000
26,000
130
20,000
1,857
▲411
16,000
2,325
14,000
15,382
日
欧
米
ASEAN
中
印
10,000
南米 その他 2014
22,000
18,000
24,159
16,000
66
▲1,685
12,000
2000
▲4,161
▲14
14,000
17,568
12,000
10,000
2000
629
16,000
1,262
20,000
5,263
51
18,000
26,036
325
14,000
12,000
28,000
22,000
3,426
20,000
18,000
米系
欧系
28,000
日
欧
米
ASEAN
中
印
10,000
南米 その他 2014
15,736
2000
日
838
欧
米
137
2,640
ASEAN
中
(出所)みずほ銀行産業調査部作成
1
2
フォルクスワーゲングループは当該指摘内容を否定している。
ASEAN5 カ国合算(2014 年)では、日系完成車メーカーが小型自動車で 77.5%、中・大型商用車で 43.0%のシェアを持つ。
みずほ銀行 産業調査部
96
487
118
▲93
15,688
印
南米 その他 2014
(CY)
特集:日本産業の動向〈中期見通し〉(自動車)
電動化技術で世
界に先行し、技術
蓄積が進む
海外市場での地位の確立に加え、自動車の電動化に関する技術蓄積は日系
完成車メーカーの大きな強みと言えるであろう。トヨタ自動車は世界に先駆け
てストロングハイブリッド車、直近では燃料電池車を市場投入した。また、電気
自動車では日産自動車のリーフが販売台数トップを維持し続けている。
電動化技術の重
要性は高まる
自動車の需要拡大に伴う外部不経済の深刻化を受け、環境規制は厳格化す
る流れが進行している 。このような中、規制対応は先進国のみならず新興国
においても完成車メーカーにとっての課題となっており、電動化技術の重要
性はますます高まることが確実視され、そこに強みを持つ日系完成車メーカ
ーは高いプレゼンスを維持し続けるものと思われる。
VII.
産業動向を踏まえた日本企業の戦略と留意すべきリスクシナリオ
① 崩れる「市場の棲み分け」
棲み分けた市場
の深堀りからシェ
ア争奪の激化へ
自動車市場はグローバルに成長が見込まれる。しかしながら BRICS 以外に大
きな新規市場が見当たらない中、当面は既存市場におけるシェア獲得競争に
軸足が置かれると見込まれる。
完成車メーカーは、現状米系は北米、中南米と中国で、欧州系は欧州、中国、
中南米で、日系は日本、北米、ASEAN、インドで、とそれぞれに得意な地域
を持ち、互いに市場を棲み分けている。今後はこの棲み分けを崩す動きが活
発化してくることになろう。
日系完成車メーカーにとっては従来不得手としてきた中国市場等での反攻の
加速に加え、ASEAN、インド等、成長市場の防衛が求められることになる。
成長余地 を残す
ASEAN 市場では
欧州系、米系と
の競争激化が懸
念される
ASEAN 市場においては、VW が 2019 年までにタイで現地生産を開始する
計画を発表している。2015 年中に予定される AEC 発足に伴い、2018 年まで
には ASEAN 域内での完成車の流通が容易になる。VW はタイ進出によって
ASEAN 域内をカバーする戦略を描いているものと思われる。また、今後の
FTA 動向に応じては、欧州系、米系が生産体制を整えている中国から、
ASEAN に自動車を輸出する展開も想定される。
一方、インド市場では欧州系完成車メーカーによる、インド系完成車メーカー
との協働余地を探る動きが水面下で進行していると見られる。欧州系が、イン
ド系の現地における販売網を活用し、日系の完成車メーカーのプレゼンスを
脅かす展開が懸念される。
守る日系完成車メーカーの強みは、高いブランド力、ユーザーの支持と、地
場ユーザーのニーズに関する知見にある。強みを生かした市場防衛が求めら
れることになろう。
②
規制対応に伴う競争環境の変化
自動車の普及拡大に伴う大気汚染、事故などの外部不経済の深刻化に伴い、
環境規制、走行安全規制とも基準の厳格化が進むと見込まれる。加えて環境
規制については、2015 年 9 月の VW 問題の発覚を受け、所定の条件に基づ
くベンチマークテストによる運営から、より実走行を重視した運営に向かうこと
みずほ銀行 産業調査部
97
特集:日本産業の動向〈中期見通し〉(自動車)
が見込まれ、基準達成の難易度は高まることが想定される。
規制強化は完成
車メーカーとメガ
サプライヤーの
パワーバランスを
変化させる
完成車メーカーには厳格化する規制に対応した製品の投入が求められるが、
そのための技術開発負担は極めて重く、自社の販売台数だけで開発投資を
回収することが困難になって来ている。かかる中、技術開発を主導し、複数の
完成車メーカーに製品を納入することで規模の経済を実現して投資回収を図
ると共に自社技術のグローバル標準化を進める、欧米系のシステムサプライ
ヤーが大きな交渉力を持ち始めている。
日本の自動車産業は、完成車メーカーの強い求心力の下に、垂直統合的な
系列構造を築いてきたため、欧米に比べて競争力のあるシステムサプライヤ
ーが育っていない。
日本においても、グローバルな存在感をもつシステムサプライヤーの創出に
向けて、完成車メーカーやサプライヤーには、必要に応じて系列内分業体制
を改め、範囲・規模の経済性の追求や系列外への提案力の向上を図る等、
果断に対応していくことが求められよう。
規制のあり方に
より、競争環境は
大きく変化しうる
加えて、規制や補助金等、各国政府の自動車産業に関する政策の動向も競
争環境に大きな影響を及ぼす。中国では、日系が得意とするストロングハイブ
リッド車が補助金や税制面で優遇される新エネ車に認定されず普及が進まな
かった一方で、独系が推進するダウンサイジングターボが標準的な環境技術
として広く市場に浸透した。
この背景には、電動化技術で後れをとった独系による中国政府への働き掛け
があったと言われている。
ルールメイクへの
関与の重要性は
高まる
今後も環境規制を導入する国は増加を続け、その規制の形態も企業平均燃
費規制に留まらず、各国事情に合わせた様々なものが導入されることになる
だろう。日系完成車メーカーに不利な政策が日系シェアの大きい市場で導入
された場合、欧州系、米系に攻勢の好機を与えることになろう。今まで以上に
ルールメイクへの関与の重要性は高まっていくと思われる。
(自動車・機械チーム 竹田 真宣)
[email protected]
みずほ銀行 産業調査部
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2015 No.5
平成 27 年 12 月 25 日発行
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