イランの新石油契約(IPC)の概要:テヘラン・サミット参加報告 1

更新日:2015/12/24
調査部: 増野 伊登
イランの新石油契約(IPC)の概要:テヘラン・サミット参加報告
(「Tehran Summit」会議資料、イラン政府機関プレスリリースや、その他報道など)
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2015 年 11 月 28~29 日、イランの首都テヘランにおいて、石油・天然ガス探鉱開発契約の新方式
IPC(Iranian Petroleum Contract)の説明会「Tehran Summit」が開催された。
契約形態はリスクサービス契約であるため、一見これまでのバイバック契約と変わらないが、契約期
間の短さやコスト回収の上限設定など、国際石油会社(IOC)にとってネックとなっていた点において
改善が見られる。
一方、本会議では IPC の枠組みおよびコンセプトの紹介にとどまったため、今後明確にすべき点が
残る。2016 年2 月22~24 日にロンドンでも説明会が開催される予定であり、更に詳細な内容が提示
されるものと期待される。
本会議では、IPC の紹介と併せて、70 件の石油・ガス関連事業(52 件の開発案件と 18 件の探鉱案
件)が紹介された。IPC導入後1回目となる入札の実施は来年に予定しているとのことで、イラン進出
を検討している企業は各油・ガス田のポテンシャル評価にかかっている。
制裁解除(特に米ドル決済にかかる制裁)の行方や IPC の詳細など、依然不透明性は残る。一方の
イランは、今後 IOC から提示される提案の内容によっては、公開入札の外で交渉を行う余地を示唆
している。
1.「Tehran Summit」の概要
2015 年 11 月 28~29 日、イランの首都テヘランの International Conference Center において「Tehran
Summit—The Introduction of New Iran Petroleum Contracts」が開催され、石油・天然ガス探鉱開発契約の
新方式 IPC(Iranian Petroleum Contract)についての説明と、外資参入案件として、探鉱 18 鉱区と開発案
件 52 件(29 油田、23 ガス田)の発表が行われた(サミット公式 HP:http://www.tehransummit.com/)。
本会議は、2016 年2 月22~24 日に予定されているロンドン説明会に先んじて急きょ開催が決まったも
のだ(ロンドン説明会の詳細については右 URL を参照:http://www.iranoilgas-summit.com/)。およそ 1
か月半前という直前のアナウンスではあったが、イラン国外からは欧州、露、アジア等の企業から約 250
名が出席し、全体で 1,300 名を超える規模の会議になった(報道ベース)。
①会議の主な対象はイラン企業
会議の主な対象は、参加者の約 8 割を占めるイラン企業であった。会議では基本的にペルシア語が
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本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま
れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの
投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責
任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
使用され、外国人向けに英語の同時通訳サービスが提供された。ローカルコンテントや技術移転強化の
必要性など、国内企業を意識した発言が多く聞かれた。IPC の紹介に特化した一日目に続き、プロジェク
ト紹介が行われた二日目では、冒頭のセッションにおいて国内企業のレベルの高さを PR する 2 時間の
セッションも設けられた。
サミット会場前にて
②冒頭セッションにおける要人発言
冒頭のセッションでは、アミーンザーデ法務担当副大統領、ザンギ
ャネ石油大臣、ジャヴァーディー国営石油会社NIOC 総裁(兼石油省
次官)、ホセイニー石油契約改定委員会委員長がスピーチを行った。
主な発言として、ザンギャネ大臣からは、石油収入への過度の依
存に対する懸念から(ザマーニーニーヤ石油省次官によれば、イラ
ンの国家予算の約 5 割を石油収入が占める)、石油を単に主要な収
入源としてではなく、経済発展の原動力として見るようなアプローチ
への転換が必要との発言が聞かれた。契約改定はそのために必要
なステップであり、IPC はイラン企業と外国企業にとって Win-Win な契約形態になるとのことだ。石油産
業における優先課題として、大臣は、これまでと同様、隣国との国境にまたがる油・ガス田の開発、
IOR/EOR(増進回収法)による老朽油田の生産最適化、ローカルコンテントの強化、石化産業の拡大な
どを挙げた。
また、ジャヴァーディーNIOC 総裁は、イランの政治的安定、教育水準の高さ、制裁下に自力で産業を
発展させてきたイラン人およびイラン企業の底力をアピールし、外資企業に対し地場企業を最大限起用
するとともに、油層管理の最適化と開発の迅速化のため、最新技術の移転(Transfer of Technology)にも
貢献するよう強く呼びかけた。一
方、IPC について総裁は、具体的
な内容は入札の際に明かされるこ
とになるとも明言した。
会議の様子(筆者撮影)
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本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま
れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの
投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責
任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
2.IPC の枠組み
IPC は 8 部 41 条から構成されている(表 1)。契約形態は既存のバイバック契約と同様リスクサービス
契約である。埋蔵量と生産物の主権・所有権はイラン側にあり、コントラクター(IOC)に対しては資金・技
術の提供が求められるという大原則は変わらない。ゆえに、契約の基本的枠組みは変わらないものの、
契約期間の長期化、IOC による生産段階への関与、コスト回収の上限撤廃、柔軟な報酬設定など、IOC
に対する様々なインセンティブが設けられた。一方で、本会議では IPC の枠組みおよびコンセプトの紹
介にとどまったため、今後見極めが必要な点も複数ある。主要な改善点や不明点については以下に項
目別に説明する。
①IOC の生産段階への関与
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バイバック契約下では IOC は探鉱・開発のみに関与し、生産開始後一定期間内にオペレーターシ
ップをイラン側に移転しなければならなかった。一方、IPC においては、IOC はイランの地場企業と
ジョイントベンチャー(JV)を組んで生産段階にも関与することが可能になる。
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一方で、イラン企業の選定においてイラン国営石油会社である NIOC が何らかの決定権を持つか否
かについては不明だ。
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JV を組むイラン企業の選定には慎重を期す必要があるとの声が多く聞かれる。保守強硬勢力であ
る革命防衛隊と何らかのつながりがある場合や、核開発に直接・間接的にでも関与している企業で
あれば、米制裁の対象リストに名前が挙がっている、もしくは今後追加される可能性もあるからだ。イ
ラン・ビジネスの現場を知る専門家の多くが、会社の成り立ちや出資者などの背景を十分に精査し
ておくことが肝要との見方を示している。
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また、IOC は JV の参加比率に応じた利益配分を受け取ることになるが、会議では権益比率につい
ての言及は特になかった。今後最低比率が設定されるのか、あるいは JV 組成時に企業間の協議に
より決定されるということになるのか、現時点でははっきりしない。
②契約期間
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契約期間については、開発・生産フェーズが 20 年間(EOR の場合には最長 5 年間の延長が可能)
に設定されるもようだ(バイバックにおいて開発期間は 5~7 年間)。
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IOC の長期的な関与が可能になることで、IOC にとってはコスト回収・報酬の面でより確かな展望を
持つことが可能になるだけでなく、イランにとっては、国内への最新技術の移転促進にもつながる。
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れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの
投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責
任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
表 1. IPC の構成
第1 部
Definitions and Scope of contract
第2 部
Term of the contract and relinquishment
第3 部
Rights and Assistance of NIOC
第4 部
Rights and Obligation of Contractor
第5 部
Petroleum Operations, Work Programs and
Budgets and Joint Management
Committee(JMC)
第6 部
Petroleum Cost Recovery and Fee
第7 部
Books, Accounts, Verification, Auditing,
Maximum Utilization of Iranian Content
Imports, Exports and Foreign Exchange
第8 部
General
第1 条
第2 条
第3 条
第4 条
Definitions
Scope of Contract
Term of Contract
Relinquishment
第5 条
Rights and Assistance of NIOC
第 6 条 Rights and Obligation of Contractor
第 7 条 Levies, Charges, Fees and Taxes
第 8 条 General Standard of Conduct
第 9 条 Wells and Surveys
第 10 条 Fixtures and Installations
第 11 条 Liability and Insurance
第 12 条 Local Employment, Transfer of Technology and Know-how and Training
第 13 条 Data and samples
第 14 条 Reports and records
第 15 条
Environmental, Safety, Security, Social and Health Impact Assessment (ESHIA)
第 16 条 General Provisions
第 17 条 Petroleum Operations
第 18 条 Work Program and Budget
第 19 条 Joint Management Committee(JMC)
第 20 条 Commercial Field
第 21 条 Associated Natural Gas
第 22 条 Production Levels
第 23 条 Measurement of Petroleum
第 24 条 Non-associated Natural Gas and Condensate
第 25 条 Cost Recovery and Fee
第 26 条
第 27 条
第 28 条
第 29 条
第 30 条
第 31 条
第 32 条
第 33 条
第 34 条
第 35 条
第 36 条
第 37 条
第 38 条
第 39 条
第 40 条
第 41 条
Books, Accounts, Verification, Auditing
Maximum Utilization of Iranian Content
Imports and Exports
Currency Exchange Rates
Assignment
Title to Assets
Confidentiality and Intellectual Property ownership
Force Majeure
Waiver of Recourse
Termination of the Contract
Abandonment and Site Restoration
Governing Law
Settlement of Disputes
General Business Ethics
Heading and Miscellaneous
Notices
Appendices
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③埋蔵量の資産計上
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埋蔵量の資産計上の可否は、イラン進出を検討する外資企業や投資家にとっては非常に重要な点
だ。しかし、契約形態がリスクサービス契約であり、埋蔵量と生産物の主権・所有権がイランに帰属
するという大原則から考えれば、基本的にはバイバック同様資産計上は不可能ということになる。
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一方、会議においては「条件付きで認められる」という趣旨の発言が聞かれた。しかし、どういう根拠
で計上が可能か、可能であればどのような条件の下でかなどについて明確な説明は為されなかっ
た。
④コスト回収
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バイバック契約においては、契約締結から18~24カ月以内に、NIOC との間で合意された開発計画
に基づきコスト回収の上限(シーリング)が設定される。IOC は同上限内でしかコスト回収が出来ず、
超過した分については IOC が 100%負担することになる。これが、バイバックが外資企業の不評を買
った最大の要因の一つだ。一方、IPC は、契約締結時点でコスト回収の上限を設定しない。コストに
ついては、年間事業計画の策定および NIOC による承認の過程で見直しの余地が設けられることに
なる。

留意すべき点は、探鉱リスクは全て IOC が負うことになり、探鉱・評価フェーズで発生したコストは、
商業性が確認されて生産フェーズに到達した場合のみ回収が可能になるということだ。

コスト回収および報酬の支払いは First Production(本格的な商業生産というよりも、むしろ早期生産
(early production)という意味合いが強いと思われる)から開始し、生産収入の 50%を上限とする。
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また、以下のとおり回収の期限を設定している。
コストの種類
回収期限
① First Production 以前の direct capital cost / indirect cost
First Production から 5~7 年間
② First Production 以後の direct capital cost
支出の翌年から 5~7 年間
③ First Production 以後の indirect cost および Opex
current basis
 Direct Capital Cost の 定義: All capital costs directly related to exploration, appraisal,
development and enhance oil recovery (EOR) operations and required to schieve the targets of
development plan.
 Indirect Cost の定義:All costs indirectly related to Direct Capital Cost paid to Iranian
government, ministries, governmental organizations, offices & public entities (Iranian charges)
such as Social Securities (SSO), Custom Duties, Value Added Tax (VAT) and alike.
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本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま
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任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
 コスト回収は、Opex→First Production 以後の indirect cost→First Production 以前の indirect
cost→direct capital cost→探鉱・評価コストの順で優先される。
 もし期限内にコストが回収できなかった場合、コントラクター側の問題が認められないという条
件の下で、契約期間の延長が可能となる。

コスト回収および報酬は生産物あるいはキャッシュで支払われ、コントラクター側に選択権がある。
⑤報酬

バイバックにおいては、契約締結時に IOC の報酬額が確定してしまうため、油田の規模が上下して
も IOC の収入が相応に変動することはない。つまり、油価下落時には損害を被ることはないものの、
油価上昇時にはその恩恵を被ることもないということだ。一方、IPC では、種々のパラメーターが設
定され、より柔軟な報酬設定方法が採用されることになる。

報酬は、コスト回収率(R-Index:四半期ごとの累積収益/四半期ごとの各種コストの累積)に応じて、
Per Barrel/Mscf により決定する。
Fee per Barrel/ Mscf
(US$)
R-Index
Less than 1
1=<RI<2
2=<RI<3
A1
A2
A3
A1>A2>A3
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また、フィールド特性(陸上/海上、リスクの度合い)、生産規模、EOR/IOR などによりインセンティブ
が設けられる。これらは報酬設定のコンセプトにとどまっており、より包括的な報酬算定のフォーミュ
ラは依然不明ではあるが、現時点で判明している事項は下記のとおりである。
 生産量規模を基に報酬額を設定する(生産量の小さい油田ほど報酬額を上げる)。
 EOR 案件については、回収率(20%以下、21~40%、41~60%、61~80%、81%以上)に応じて設
定する。
 市場価格の変動に応じて設定する。算出方法は以下のとおり。
報酬 = 1/2 × 契約時に設定した報酬 × ( 1 + 実際の年間輸出価格/契約時に設定した年間輸出価格 )
上記フォーミュラに基づき、当該油田の実際の年間輸出価格が、契約時に設定した輸出価格を
上回った場合には(1.5 倍が限度)、価格に応じて報酬額は最大 25%増額される。反対に、下回
った場合には(0.5 倍が限度)、最大 25%減額されることになる。
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投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責
任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
 探鉱案件は、リスクの度合いと陸上/洋上などの特性を基に 4 分類し、これに応じて設定する。
Area 1
低リスクの陸上フィールド
Area 2
中リスクの陸上フィールド、 低リスクの洋上フィールド
Area 3
高リスクの陸上フィールド、 中リスクの洋上フィールド
Area 4
超高リスクの陸上フィールド、 隣国との国境にまたがる洋上フィールド
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報酬支払は First Production から開始する。

上述のとおり、コスト回収および報酬の支払いは生産収入の 50%を上限とする。

コスト回収および報酬は生産物あるいはキャッシュで支払われ、コントラクター側に選択権がある。
⑥生産目標
生産目標は開発計画において規定されることになるが、目標に到達しなかった場合は、バイバック契
約と同様にペナルティが課されるか否かについて、明確な言及はなかった。
⑦ボーナス
各種ボーナスの支払いは、IPC においては義務付けられていないとの説明があった。
⑧ローカルコンテント、技術移転

ローカルコンテント(外国企業の進出に際して、受け入れ国が、原材料、部品、サービスなどを現地
で調達する割合を指定し義務付けること)は最低 51%という比率が設けられている一方で、最大限の
活用が推奨されるという内容の発言がスピーカーからは多く聞かれた(開発フェーズでは 70~80%、
生産フェーズでは 95%以上が理想との発言あり)。

再三重要性が強調された技術移転に関しては、今後具体的な計画の策定と実施が求められるとの
ことであり、現段階では詳細は不明である。
⑨フォースマジュール
核関連制裁について注意すべき点をあげる。

2015 年 7 月 14 日、P5+1 とイランが、同国の核問題に関する「包括的共同行動計画(Joint
Comprehensive Plan of Action: JCPOA)」に合意したことは記憶に新しい。関係各国はすでに合意
内容を承認しており、現在欧米側は制裁解除/停止に向けた準備段階にある。一方のイラン側は
JCPOAで取り決められた核関連措置の履行を進めている段階だ。イランが必要な措置を履行したこ
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任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
とが国際原子力機関(IAEA)によって確認されれば、制裁が解除/停止する。しかし、イランによる
JCPOA の違反が露見すれば、制裁再発動(snapback)の可能性はある。
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ここで重要なのは、snapback がフォースマジュールの発動要件とはなり得ないという発言が会議で
聞かれたことだ。法務コンサルタントなどからは、IOC 側として、snapback 時のリスク回避を可能とす
るような文言を契約文書に追加するなどの対策が必要との意見も聞かれる。
IPC の詳細な内容についての発表が見送られた背景について、イランの国内事情に詳しい専門家ら
は、国内保守派との折り合いがつかなかったのではないかとの見方をしている。2016 年 2 月 22~24 日
にロンドンでも説明会が開催される予定であり、更に詳細な内容が提示されるものと期待する。
サミット会場付近の山頂に積もる雪
(筆者撮影)
テヘラン市内の様子
(筆者撮影)
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投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責
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3.対外開放対象となる油・ガス田
本会議では、IPC の紹介と併せて、NIOC やその子会社(NISOC、IOOC、ICOFC、POGC、AOGC 等)
による石油・ガス関連事業の紹介が行われた。これら対外開放が予定されているプロジェクトのうち既発
見油・ガス田の開発案件は 52 件(29 油田、23 ガス田)、探鉱案件は 18 件である(図 1)。IPC 導入後初と
なる入札の実施は来年に予定しているとのことで、イラン進出を検討している企業は各油・ガス田のポテ
ンシャル評価にかかっている。なお、IPC 専用ウェブサイト(http://ipc.nioc.ir/Portal/Home/)が設けられ
ており、会場で配布された冊子(145 ページにわたって各プロジェクトの詳細を掲載)の PDF 版を閲覧す
ることができる(図 2)。
図 1 対外開放が予定されている探鉱・開発案件
出所:IPC 専用ウェブサイト(http://ipc.nioc.ir/Portal/Home/)
注:会場で配布された冊子に若干修正を加えたもよう
図2
IPC ウェブサイトで閲覧可能なプ
ロジェクトの詳細(Moghan 鉱区の場合)
出所:上記と同じ
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投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責
任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
①探鉱案件
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探鉱18鉱区は、その多くが国境付近に位置している(図3)。イラン主要油田群が集中する南西部の
4 鉱区(Zahab, Timab, Abadan, Tudej)、ペルシア湾の洋上 3 鉱区(Parsa, Mahan, Bamdad)、アフガ
ニスタン国境の 2 鉱区(Sistan, Taybad,)、トルクメニスタン国境の 3 鉱区(Dusti, Sarakhs, Raz)、カス
ピ海の洋上 4 鉱区(Sardar-e-Jangal (Block6), Block 24, Block 26, Block 29)、アゼルバイジャン国境
の 1 鉱区(Moghan)と、最後に内陸の 1 鉱区(Kavir)である。
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NIOC 探鉱部門の発表によれば、GIS というデータベースによって、各鉱区の坑井データや物理探
査(2D/3D 震探・重磁力)等の情報を一元的に管理している。IOC からの要望に応じて、技術者によ
るプレゼンテーションやデータへのアクセスが可能とのことであった。
対外開放が予定されている探鉱案件 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 Zahab Timab Abadan Tudej Parsa + Mahan + Bamdad + Sarakhs Dusti (Dousti) Raz Moghan Kavir Taybad Sistan Block ‐24 + Block ‐26 + Block ‐29 + Sardar‐E‐Jangal Field (Block 6) + 図3
対外開放が予定されている探鉱鉱区
出所:会議資料を基に JOGMEC 調査部作成
+ は洋上鉱区 <カスピ海の領有権問題>
カスピ海の 4 鉱区(沿岸から 100~250 キロに位置)について留意すべき点は、領有問題が決着し
ていないということだ。カスピ海沿岸の 5 カ国(アゼルバイジャン、イラン、トルクメニスタン、カザフス
タン、ロシア)が集まるカスピ海サミットは、2002 年、2007 年、2010 年、2014 年の計4 回開催されいる。
これまでに、ロシア・カザフスタン・アゼルバイジャンはそれぞれ 2 国間協定を交わし、2003 年には
実質的に地下資源の境界を画定している。一方、2 国間の中間線を境界にしようと考える旧ソ連 4 カ
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国に対し、均等分割案を主張するイランとの間で未だ意見の一致を見ていないため、イラン、アゼ
ルバイジャン、トルクメニスタン間の境界は未確定のままだ。
2014 年にロシアで開催された第 4 回サミットでは、各国の沿岸 25 海里(約 46 キロ)に、国家主権
と排他的漁業権を行使できる帯状の水域を設けることで合意したが、海底や地下資源の分割につ
いては具体的な言及を避けた。次回カスピ海サミットは 2016 年夏頃までにカザフスタンで開催され
る予定で、海底分割に関する最終合意を目指すとのことである。
②開発案件
52 の開発案件(29 油田、23 ガス田)は、既生産油・ガス田の開発のみならず、第 2 フェーズ以降のも
のや、アフワズバンゲスタンをはじめとする老朽大型油田のIOR/EOR案件なども含まれる(図4)。これら
油・ガス田のデータについては、イラン側から未だ開示の準備が整っていないとの発言があったため、
今後の進捗に期待したい。
図4
対外開放が予定されている開発・生産中の鉱区
出所:会議資料を基に JOGMEC 調査部作成
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投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責
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<油田>
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29 油田の多くが、主力油田が乱立する南西部の陸上に位置している。
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29 油田中、南アザデガン油田をはじめとする 20 油田が生産開始済みで、残り 9 油田は未生産の段
階にある。既生産油田のうち、アフワズバンゲスタン油田、ソリューシュ油田、ノウルーズ油田などを
含む 10 弱が 1979 年のイラン・イスラーム革命よりも前に生産を開始している老朽油田だ。

また、今回発表された油田リストにあげられた案件の多くは重質油のプロジェクトである。
対外開放が予定されている開発案件(油田)
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 South Azadegan South Pars (Oil Layer)* + Changuleh* Darquin (フェーズ 3) Ferdowsi (heavy oil)* + Golshan (heavy oil)* + Sohrab* Arvand* Band‐e‐Karkheh* Jufair Sepehr* Susangerd* Ahwaz‐Bangestan Mansuri‐Bangestan Ab‐Teymour 16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
Salman + Foroozan + Soroosh + Norooz + Dorood + Aban Paydar West Paydar Danan Cheshmeh‐Khosh Dalpari Naft‐Shahr Sumar Dehloran * は未生産油田、+ は洋上鉱区
サミット会場の外観
(筆者撮影)
サミット会場内
(筆者撮影)
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Global Disclaimer(免責事項)
本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま
れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの
投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責
任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
<ガス田>

23 ガス田のほとんどが南西部に位置しており、うち 8 ガス田が洋上に位置している。生産開始済み
のものはわずか 2 ガス田で、残り 21 は未生産である。

後述するが、Farzad B と South Pars(フェーズ 11)は対外開放対象から外れる可能性がある。
対外開放が予定されている開発案件(ガス田)
1 South Pars (フェーズ 11) + (→除外?) 2 FarZad‐A + 3 FarZad‐B + (→除外?) 4 Balal + 5 Kish + 6 North Pars + 7 Golshan + 8 Ferdowsi + Khami Fields 9 Qaleh‐Nar 10 Kuh‐e‐Asmari 11 Ahwaz 12 Karanj 13 Pazanan 14 Bibi‐Hakimeh 15 Binak 16 Milatun (Milaton) 17
18
19
20
21
22
23
Halegan Sefied‐Baghouns Sefied‐Zakhour Dey Aghar (フェーズ 2) Karun‐Bangestan & NGL‐1700 Tang‐e‐Bijar & Ilam Refinery * は未生産油田、+ は洋上鉱区
③対外開放対象から除外される可能性のある鉱区

会議冒頭のジャヴァーディーNIOC 総裁の発言によれば、北アザデガン油田、ヤダバラン油田、
Farzad-B ガス田は対外開放対象から除外されるとのことである。これら油・ガス田については中国
国営企業と直接交渉を行っているとの一部報道も見受けられる。

Farzad-B ガス田は会議で発表された外資開放のリストに含まれているものの、プレゼン中に言及さ
れなかった。同ガス田については、2015年夏、インドの ONGC Videshが率いる JV(Oil India Limited
(OIL)と Indian Oil Corporation (IOC))が開発権を取得したとの報道も為された。元々Farzad-B は
ONGC が 2008 年に発見したガス田であるが、欧米制裁を恐れて開発を断念したという経緯がある。
ONGC は、今回イランに対して 100 億ドル規模の開発計画を提示したとも言われている(The Times
of India 2015/9/15)。

また、会議中に言及はなかったものの、報道によれば、対外開放案件リストに記載されているサウス
パース(フェーズ 11)についても、中国企業との間で協議が進んでいるとのことで、今後リストから除
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任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
外される可能性もある(Shana 2015/11/29)。
④今後の流れ
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上記探鉱・開発案件への外資参入は基本的に公開入札によって行われることになる。入札のスケジ
ュールについては明らかにされなかったものの、現地の報道紙では、早くて年明け、あるいは 3 月
などといった記事も見られた。しかし、IPC の説明会が 2016 年 2 月にロンドンで開催される予定であ
ることを考えると、少なくとも 2016 年初めに入札を実施することは現実的に難しいだろう。
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一方、ホセイニー契約改定委員長からは、今後 IOC から提示される提案内容をイラン側が吟味した
うえで、随時契約の可能性を検討するという趣旨の発言があり、入札ではなく直接交渉を行う余地を
示唆した。
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制裁解除(特に米ドル決済にかかる制裁)の行方や IPC の詳細など、依然として不透明性が残る一
方で、外資企業に対し迅速な対応を求めるイラン。イランを取り巻く今後の政治・経済動向に注目が
集まる。
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