UNFCCC - (財)地球環境戦略研究機関

パリ協定における市場メカニズムの位置付
け及び2020年までの国際的な緩和策強
化メカニズムについて
地球環境戦略研究機関(IGES)
気候変動とエネルギー領域 エリアリーダー
小圷 一久
IGES COP21 速報セミナー
2015年12月25日(金)
パリ協定における市場メカニズムの概要(第6条)
市場メカニズムの活用(協調アプローチ):第6条2項~3項
 海外で実現した緩和成果の国際的な移転と削減目標の達成に向けた活用を明記
 ダブルカウント回避等のガイダンスを策定
 二国間クレジット制度(JCM)が市場メカニズムとしてパリ協定に位置づけられる。
緩和と持続可能な開発メカニズム:第6条4項~7項
 UNFCCC(パリ協定締約国会合)が管理・実施をするメカニズム
 排出削減量は全ての国が削減目標(約束草案)達成に活用可能
 ルール・手続き細則をパリ協定策定
行動と支援のための透明性枠組み(第13条)
 約束草案の実施及び内容の理解(第2条) 、緩和(第4条)、適応(第7条)、グロー
バル・ストック・テイク(第14条)の進捗状況に関する理解を高める枠組み
 緩和の国別目標に関する算定のガイドラインを策定(第4条13項)
2
市場メカニズムの活用がパリ協定第6条に明記
 緩和成果の国際的な移転(Internationally transferred mitigation outcomes)と国別目
標への活用(to achieve nationally determined contributions)が明記(6条2項、3項)
 ダブルカウント回避等を含むガイダンスを策定(6条2項、COP決定パラ37)
 二国間クレジット制度(JCM)や排出量取引制度(ETS)の国際的リンクなどが含まれる。
2. Parties shall, where engaging on a voluntary basis in cooperative approaches that involve the
use of internationally transferred mitigation outcomes towards nationally determined
contributions, promote sustainable development and ensure environmental integrity and
transparency, including in governance, and shall apply robust accounting to ensure, inter alia,
the avoidance of double counting, consistent with guidance adopted by the Conference of the
Parties serving as the meeting of the Parties to the Paris Agreement.
3. The use of internationally transferred mitigation outcomes to achieve nationally determined
contributions under this Agreement shall be voluntary and authorized by participating Parties.
削減量 緩和成果の国際的な移転
国別目標
(NDC)
A国
目標への
活用
削減量
国別目標
(NDC)
B国
3
UNFCCC主導の市場メカニズムがパリ協定にて設立
 「温室効果ガス緩和への貢献と持続可能な開発支援メカニズム」(A mechanism to
contribute to the mitigation of greenhouse gas emissions and support sustainable
development)
 パリ協定締約国会議により運営・管理が行われ、排出削減量は国別目標の達成に
活用可能
 途上国を含む全ての国が本メカニズムに参加をできる。
 クレジットの一部を適応への資金に活用
UNFCCC(パリ協定締約国会合)
緩和への貢献と持続可能な開発支援
メカニズム
削減量
A国
国別目標
削減量
B国
国別目標
C国
国別目標
今後:メカニズムに関するルール手続き細則を策定(6条7項、COP決定パラ39)
4
国際的アカウンティングを行う透明性枠組みの設立
 行動と支援のための透明性枠組み(第13条)
 国別目標の実施状況及び内容の理解(第2条) 、緩和(第4条)、適応(第7条)、グ
ローバル・ストック・テイク(第14条)の進捗状況に関する理解を高める枠組み
 既存のMRV報告制度(国別報告書、隔年(更新)報告書等)を基礎
UNFCCC(パリ協定締約国会合)
透明性枠組み(Transparency Framework)
• 国別GHG排出量の定期更新と方法論の統一化
• 目標の達成状況に関する情報 緩和の国別目標に関する算定のガイドラインを
作成
(第4条13項、COP決定パラ31)
削減量
A国
国別目標
B国
国別目標
C国
国別目標
D国
国別目標
E国
国別目標
F国
国別目標
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目標達成に向けた市場メカニズムに対する期待
 約束草案(INDC)を提出した国(188カ国、全体の96%)の約63%(119カ国)がINDCの実施に際して
市場メカニズムの活用を言及
 先進国(欧州連合(EU)、日本、カナダ、NZ等)、中国、インド、韓国、多くの途上国が支持。
 地域市場メカニズムの活用にはEUを中心として、インドネシア、タイ、エジプト、メキシコ、フィジーな
どが支持
 二国間の市場メカニズム活用には、カンボジア、インドネシア、タイ、ベトナム、モルドバ、メキシコ、
フィジー、セントビンセント及びグレナディーン諸島などが言及
250
UNFCCC締約国
200
150
100
196
188
約束草案(INDC)を提出した
国
INDCにおいて市場メカニズ
ムの活用に言及している国
119
国際市場メカニズムの活用
に言及している国
79
地域市場メカニズムの活用
に言及している国
38
50
9
0
二国間の市場メカニズム活
用に言及している国
Categories
出典: IGES INDCs and Market Mechanism Database (2015年12月15日)
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各国及び研究機関等の反応
COP最終日(12/12)締約国のステートメント
アンブレラグループ(米、豪、NZ、日、ノルウェー等)
「市場メカニズムが果たす役割は大きい」
ニュージーランド
パリ協定の下で2020年以降も市場メカニズムの重要性を示す「炭素市場に関する閣僚宣
言」を発出。18カ国が賛同(米、豪、加、NZ、独、オランダ、伊、、アイスランド、ウクライナ、
韓、メキシコ、インドネシア、コロンビア、チリ、パナマ、PNG、セネガル、が賛同)
新たな市場メカニズムの時代の到来
• Internationally transferred mitigation
outcomes (ITMOs)の登場(Carbon Pules)
• Carbon Market 2.0の誕生(世界銀行)
• CDMやJIのオフセットの目的を超えた、純
削減(overall mitigation)の達成( New
Climate Institute)
今後定められるルール手続き細則、ガイダ
ンスの実施面での重要性
• ITMOs活用にあたってのアカウンティング
、ダブルカウント防止をどう確実にするか
?(Carbon Market Watch)
• 純削減をどう達成するか?(Perspectives)
• 国際的なリンクは今後起こりえるのか?
(IETA)
出典:1)Carbon Pulse (http://carbon-pulse.com/13339/) 2) New Climate Institute (http://newclimate.org/2015/12/14/what-the-paris-agreementmeans-for-global-climate-change-mitigation/) 3) Evolution Markets (http://www.evomarkets.com/desks/carbon/post/6164)
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京都メカニズムの現状と方向性
 クリーン開発メカニズム(CDM)による国際的な緩和と適応への貢献
 7,600件のプロジェクト登録(95カ国)
 280件のプログラムCDM(1,800件の個別プロジェクト)
 16億トンの認証済排出削減量(CER)を発行(3,000億ドル相当の投資額)
 570万トンのCERが自発的にキャンセル(地球規模の緩和(削減)に寄与)
 3,200万トン分のCERが適応基金の資金として徴収
 CERの売却を通じて200億円(1.9億ドル)が適応基金に
 パリ協定における市場メカニズムへ既存メカニズムの経験・知見を移行
 プロセスの簡素化を継続(標準化、電子化、手続きの省略等)
 CDMを他のメカニズムの参照ツールへ→パリ協定の下でのメカニズム
 条約の下での資金メカニズム(緑の気候資金)との連携→補助機関会合(5月)に
てワークショップを開催
 JIの仕組みやダブルカウントといった、これまでのJIの運用経験をJI以外の緩和メカ
ニズムへの適用可能性の検討
CMP11決定 「Guidance relating to the clean development mechanism」及び「Guidance on the
implementation of Article 6 of the Kyoto Protocol]を参照
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個人によるCERの自主的キャンセルが可能に
1トンあたり1ユーロから5ユーロで販売されている
https://offset.climateneutralnow.org/allprojects?specs=
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2020年に向けた野心向上メカニズム
 技術評価プロセス(TEP):野心(緩和と適応)の向上に向けた経験の共有、具
体的行動の特定、協力活動の促進。
 適応もTEPの対象となる。
 促進対話及びハイレベルイベントを活用して対策向上の機運づくり
2017年
2016年
技術評
価プロセ
ス(TEP)
2018年
2019年
2020年
緩和
技術専門家
会合(TEM)
技術メカニズ
ムの参画
技術ペー
パー
政策決定者
サマリー
途上国・非国
家主体の参加
適応
技術専門家
会合(TEM)
適応委員会
の参画
技術ペー
パー
政策決定者
サマリー
途上国・非国
家主体の参加
緩和策の向上に向け
た対話の促進
(@COP22)
ハイレベ
ル・イベ
ント
リマ・パリ行動アジェンダの強化
ハイレベルの政
策関与向上
新たなイニシア
ティブの宣言
政策オプション・
行動の強化
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市民社会、企業、都市自治体の行動を促進
 非国家主体(市民社会、民間企業、金融機関、都市自治体等)の役割の重要性が
UNFCCCの下で認識された。
 気候変動に対する行動と支援をサポートするプラットフォーム(非国家主体気候行動
プラットフォーム:NAZCA)を設立
 行動と支援を繋げるインセンティブとして炭素価格(カーボン・プライス)に言及
リマ・パリ・アクションアジェンダ (LPAA)の登録状況
その他
0.39%
再生可能エネル
ギー
24%
排出量削減
52%
短期的な汚染物質
0.08%
建物
1%
交通
1%
6,500件を超える気候行動ア
クションが登録される。
 935自治体
 117地域
 1,778の企業
 418の投資家
(2015年11月13日現在)
エネルギーアクセ
スと省エネ
21%
レジリエンス
0.29%
プライベートファイ
ナンス
森林
0%
1%
出典:NAZCA「Lima-Paris Action Agenda」(http://climateaction.unfccc.int/)よりIGES作成
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TEPを新たな政策作りやプロジェクト発掘に活用すべき
 技術評価プロセス(TEP)と非
国家主体気候行動プラット
フォーム(NAZCA)、UNFCCCに
おけるメカニズム(技術、資
金)をリンクさせて、具体的な
成果に繋げることが重要。
非国家主体気候行動
プラットフォーム
(NAZCA)
技術メカニズム
(気候技術センター
ネットワーク)
資金メカニズム
(緑の気候基金)
資金支援
技術支援
参加
技術評価プロセス(TEP)
レビュー・
評価
登録
企業
市民社会
都市・自治体
締約国
政策の実施
プロジェクトの特定と実施
金融機関
参考:三木、小圷(2015年)「UNFCCCと自治体の連携強化に向けた考察」IGESワーキングペーパー
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今後の予定
成果
今後のアクション
2016年~2020年
技術評価プロセスの強化
・京都議定書第2約束期間、カンクン合意の実行
・技術評価プロセスの強化
・2020年目標達成への市場メカニズムの活用
・技術と資金メカニズムの連携
2020年以降
JCMを含む市場メカニズムの活用 ダブルカウント回避等に関するガイダンスの策定
(補助機関会合(2016年5月)にて検討開始、第1回パリ協定
締約国会議にて決定)
緩和・持続可能な開発メカニズム
(UNFCCC管理・運営型)
ルール及び詳細手続きの策定
透明性枠組み(国際アカウンティ
ング)
締約国の目標達成に向けたアカウンティングに関する
ガイダンスの策定
(補助機関会合(2016年5月)にて検討開始、第1回パリ協定
締約国会議にて決定)
(パリ協定特別作業部会(2016年5月)にて、検討を開始、第1
回パリ協定締約国会議にて決定)
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市場メカニズム及び2020年までの緩和強化まとめ
2007年のバリ行動計画にて明記された条約の下における市場を活用するアプ
ローチが8年間の交渉を経て、パリ協定にて結実した。
二国間クレジット制度(JCM)は緩和成果の国際移転と目標達成に活用できる
メカニズムとしてUNFCCCの下で位置づけられた。これにより、UNFCCCが管理する
中央集権型のメカニズムと分散型のメカニズムがUNFCCCの下で役割を果たすこ
ととなり、様々なアプローチが共存する新たな枠組みの誕生を意味する。
様々な市場メカニズムが緩和に向けた役割を果たす中で、ダブルカウントの防
止等のためのアカウンティングのガイダンス策定など2020年以降の実施に向け
たガイダンスやルールの策定が重要となる。
2020年までの取り組みに関して、技術評価プロセスに非国家主体(企業、自治
体、市民社会)を深く関与させることが重要。単なる経験の共有にとどまらず具体
的な行動の特定と支援とのリンクを作ることが必要。NAZCAプラットフォームと技
術評価プロセス、そしてUNFCCCの下でのメカニズム(技術及び資金)を有機的に
連携していき、しっかりとしたアウトプットをUNFCCCの下で実現することが野心向
上に繋がる。
非国家主体との連携と、それを実現するインセンティブ(炭素価格)の構築が
緩和野心の向上に向けて不可欠な要素となる。
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