年の瀬が迫る大熊町と楢葉町の厳しい現実 伊藤久雄(認定NPO法人まちぽっと理事) 大震災と原発事故から 4 年 8 か月。年の瀬が迫るが、現実はきわめて深刻である。大熊 町と楢葉町の現状を報告する。 (1)大熊町、「戻らないと決めている」が 63.5%に 今年 8 月に実施された大熊町と富岡町の住民意向調査(復興庁、福島県、大熊町・富岡 町共同調査)の速報版が 2015 年 10 月 27 日に復興庁から公表されている。大熊町は、全世 帯主(5,331 世帯)を対象に実施され、回答者数 2,667 世帯(回収率 50.0%)であった。 この意向調査から 2 点取り上げる。 ◆ 避難指示解除後の帰還の意向 戻りたいと考えている (自宅以外の大熊町内への帰還や、将来的な希望も含む) まだ判断がつかない 戻らないと決めている(戻れないと考えている) 11.4%(13.3%) 17.3%(25.9%) 63.5%(57.9%) ※ (カッコ)書きはそれぞれ前回(2014 年 9、10 月)結果 ◆ 復興公営住宅の入居意向 入居希望※ 現時点では判断できない 入居を希望しない 14.0%( 374 世帯) 14.7%( 391 世帯) 68.4%(1,824 世帯) ※ 「既に当選または入居が決定している(入居している)」、 「入居の申し込み中である」、「今後、入居申し込みしたい」の合計値 帰還意向や復興公営住宅入居意向は、回答率が 50%ときわめて低かったことを考えると、 もっと高率になると考えられる。なぜなら、回答しなかった世帯の多くは国や県、町に対 して不信を持っているからと考えざるをえないからである。したがって、帰還しないと決 めている世帯の割合は、全世帯の 8 割を超えると考える町民が多い。 復興公営住宅整備 進捗状況(2015 年 11 月 30 日現在) 計画戸数 用地完了戸数 建築設計着手済戸数 建設工事着手済戸数 建物完成戸数 戸数 4,890 4,521 3,600 2,266 862 割合(%) ― 92.5 73.6 46.3 17.6 一方、復興公営住宅はどうか。原発災害による避難者に向けた復興公営住宅は、基本的 には福島県が建設、運営し、一部市町村が建設、運営する。その合計計画数は福島県内 15 市町村、4,890 戸である。福島県土木部が公表した復興公営住宅整備の進捗状況は上表のと おりである。 今日なお、完成戸数が 2 割に満たず、工事着手も 5 割に届かない。これが復興公営住宅 整備の現実である。このような整備の遅れの最大の要因は用地取得の難航であった。その 現実は、いまだに 7.5%の用地が取得完了していないことが物語っている。用地取得の困難 さは、土地所有の不明者が多いこと、土地価格の高騰などが原因として上げられる。 そして、大熊町の町民の 7 割近くは復興公営住宅への入居を希望しない。それは、仮設 住宅などで新たに築いたコミュニティが再び解体されることや、復興公営住宅の居住面積 が狭いこと(2LDKや 3LDK)、戸建てもあるものの集合住宅も多いことなどが理由とし て上げられる。 (2)楢葉町、避難指示解除から 3 か月-帰還した町民は 5% 国は 9 月 5 日、楢葉町全域の避難指示を解除した。避難指示解除、帰還宣言から 3 か月、 福島民友は次のように伝えている。 ▽ ▽ ▽ 福島民友(2015 年 12 月 5 日) 楢葉町は 5 日、東京電力福島第1原発事故に伴いほぼ全域に出ていた避難指示が解除さ れてから 3 カ月になる。町によると、4 日現在の町内帰還者数は 388 人と町人口の約 5%に とどまり、住民の帰還は十分に進んでいない。 1 日現在の町の人口は 7,364 人。帰還した町民からの申請や町職員、防犯パトロール隊に よる訪問調査などを通じて週 4 日以上、町内の自宅で生活する町民の数をまとめた。年代 別では 60 代が 128 人と最多で、次いで 70 代が 97 人と多い。60 歳以上が全帰還者数の 7 割 を占めている。 町内は避難指示解除の一方で、町民の放射線や原発に対する不安は根強く、買い物場所 などの生活環境も震災前に比べると悪化している。 また、小、中学校も 2017(平成 29)年 4 月までは町内で再開しないため、特に若年層に ついては帰還が進んでいない。 △ △ △ ところで筆者は、さる 12 月 15 日、楢葉町を訪ねてきた。私が訪ねたのは楢葉町の上重 岡地区。そんなに広い地域を歩いたわけではないが、次のような現状にあるのではないか と感じた。 ○ 帰還もしくは帰還準備をしていると思われる世帯 非常な大邸宅で、大震災でも被害が少なかったと思われる。また二世帯、三世帯が暮 らしていたと想像できる。数は少ない。 ○ 帰還準備は全くされておらず、家屋内の整理もされていない世帯 大震災の被害があり(屋根や壁などに大きな被害があり、半壊状態)、高齢一人世帯か 二人世帯だったと思われる。避難したままの状態で、帰還の意思はないと想像される。 このような家屋は多い。 ○ すでに家屋は解体し、更地になっているところ 更地も相当目立つ。これから家屋を新築するのかどうかは、外見からは判断できない。 楢葉町役場は、避難先のいわき明星大に置いていた仮庁舎(町いわき出張所)を退去し、 全ての業務をもとの町役場で再開している(ただし、いわき市内に窓口は設けている)。し かし、帰還町民がわずかに 5%という状況で、町民の不便ははかり知れない。役場の再開も 「復興」の 1 つなのであろうか。 ところで楢葉町と富岡町には、原発事故にともなう福島県内の指定廃棄物の民間処分場「フク シマエコテッククリーンセンター」 (国有化の方針)で最終処分する環境省の計画に対して、福 島県は地域振興策として計 100 億円を交付する(財源は中間貯蔵施設に対する国の交付金を検 討)。両町ともこれを受け入れ、指定廃棄物処分場に同意した(楢葉町は搬入路にあたる)。「カ ネで解決する」手法はここでもまかり通ってしまっているのだ。
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