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文 献 紹 介
大結腸左背側変位を発症した142頭の馬について、
治療法決定と治療直後の生存率に関連した要因の解析
Nephrosplenic entrapment of the large colon in 142 horses (2000‒2009): Analysis of
factors associated with decision of treatment and short-term survival
C. LINDEGAARD, C.T. EKSTRØM, S. B.WULF, J. M. B.VENDELBO and P. H. ANDERSEN
(2011) 43 (Suppl. 39): 63-68.
つくばレースホースクリニック 石川貴士
【はじめに】
し
[<2ℓ]
・あり
[>2ℓ]
)
、腹部膨満
(あり・なし)
、
馬の大結腸左背側変位は、大病院に来院する疝痛
血漿乳酸値、血漿グルコース値、血漿タンパク値、
馬の原因の9%を占めている。過去の報告では、大
腹水のタンパク値、腹水の白血球数、粘膜スコア
結腸左背側変位馬は外科療法を行う行わないに関わ
(0;CRT<2秒で正常色・1;CRT=2 ∼ 3秒で正常色か
らず、予後が良く、生存率は84.2%∼ 95.9%と言わ
淡い充血色・2;CRT>3秒か重度の変色)
、治療法
(保
れている。
存療法・外科療法)
、入院期間、治療直後の生存率
一般的に外科療法は様々なリスクがあるため、大
であり、これらについて比較・分析した。
結腸左背側変位の治療に関しても保存療法(外科療
なお、保存療法については、絶食、補液、鎮痙攣
法を行わない)をもっと取り入れた方が良いと思わ
薬投与、鎮痛薬投与を行った。また、馬房で馬自身
れる。そこで、コペンハーゲン大学の大動物病院で
が転がる動作を行っても、自由にしておいた。
は、保存療法を大結腸左背側変位の主な治療方針と
することにした。
【結果】
この研究の目的は上記の治療方針に基づく生存率
1576頭の疝痛による入院馬のうち、142頭
(9%)
が
を求めること、ならびに予後判定に関連する要素と
大結腸左背側変位であり、品種については、温血
外科療法適応に関連する要素について調べることで
種が71頭、ポニー種が13頭、アイスランド種が7頭、
ある。
その他が40頭、品種不明が11頭であった。そのうち
114頭
(82%)を保存療法で治療し、25頭
(18%)を外
【材料と方法】
科療法で治療した。他の3頭に関しては外科療法適
2000年1月から2009年10月にコペンハーゲン大学
応であったが飼主の経済的理由で安楽死とした。
の大動物病院に来院した急性疝痛馬の診療記録を用
治療後の生存馬は全体で130/142頭
(91.5%)であ
いた。なお、大結腸左背側変位の確定診断は、直腸
り、そのうち保存療法馬が110/114頭
(96.5%)
、外科
検査・エコー検査・開腹手術所見を用いた。
療法馬が20/25頭
(80%)
であった。
取り入れた情報は、年齢、性別、品種、来院まで
外科療法を行った馬は、胃への逆流あり・痛みの
の時間、直腸検査、心拍数、腸温、ヘマトクリッ
増加・腹部膨満ありに対して、高い関連性があった。
ト、痛みの程度
(なし・わずかな・ほどほど・かな
治療直後の生存率に関しては、心拍数と治療法選
り)
、腸蠕動音
(普通か違和・なし)
、胃への逆流
(な
択に対して、高い関連性があり、心拍数が高い馬や
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馬の科学 vol.51(3)2014
外科療法を選択した馬は生存率が悪かった。
よりも外科療法の割合が圧倒的に高かった。
また、外科療法馬は、保存療法馬よりも有意に長
外科療法は即効性の治療法であるが、麻酔のリス
く入院していたという結果が出た。
クや合併症の可能性もある。手術費や入院費などの
経済的負担も多く、腹側正中線切開を行った場合は、
【考察】
4から6ヶ月の長い回復期間が必要となる
(保存療
今回、大結腸左背側変位を発症した142頭を調査
法では数週間で済む)
。
し、そのうち82%は保存療法
(全身麻酔下でのロー
これらのことから、外科療法の必要性も注意深く
リング法も行わず)にて治療を行った。外科療法を
考慮しながら、大結腸左背側変位は主に保存療法で
行った馬も合わせると、全体の生存率は91.5%で
治療すべきである。なお、外科療法を選択する時は、
あった。この生存率数は、過去のいくつかの文献と
胃への逆流・痛みの増加・腹部の膨満を参考にすれ
同様の値を示していたが、過去の文献では保存療法
ば良い事が今回の研究で判明した。