九州大学大学院総合理工学府 大気海洋環境システム学専攻 大気環境モデリング第一 講義資料 竹村 俊彦(大気環境モデリング研究室) 1. IPCC評価報告書に基づく気候変動に関する基礎知識(過去∼現在) 2. IPCC評価報告書に基づく気候変動に関する基礎知識(現在∼将来) 3. 大気放射の基礎 4. 自然起源および人為起源の気候変動に関するメカニズム 5. 気候変動研究・大気エアロゾル研究の最前線 九州大学大学院総合理工学府大気海洋環境システム学専攻 大気環境モデリング第一(2014年度) 竹村 俊彦 Special Report on Emissions Scenarios (SRES) •IPCCの特別報告書の1つ •人口・経済・技術・エネルギー・環境的観点から2100年までの温室効果気体・ 大気汚染物質排出量の予測シナリオ(地球温暖化軽減政策は含まない) •IPCC第3次評価報告書(TAR)および第4次評価報告書(AR4)で利用される •A1: 高成長型社会シナリオ ‣ A1T: 非化石エネルギー源を重視 ‣ A1B: 各エネルギー源のバランス ‣ を重視 A1FI: 化石エネルギー源を重視 •A2: 多元化社会シナリオ •B1: 持続的発展型社会シナリオ •B2: 地域共存型社会シナリオ (SRES, 2001) 九州大学大学院総合理工学府大気海洋環境システム学専攻 大気環境モデリング第一(2014年度) 竹村 俊彦 Representative Concentrations Pathways (RCP) ✴ 代表的濃度経路(Representative Concentration Pathways (RCPs)) 気候モデルを用いた気候変動の将来予測のために必要な気候強制因子(温室効果 気体・エアロゾル等)の濃度や排出量の将来シナリオ 放射強制力が • • • • RCP8.5: RCP6.0: RCP4.5: RCP2.6: 2100年に約+8.5Wm‒2に到達 約+6Wm‒2以内で2100年以降に安定化 約+4.5Wm‒2以内で2100年以降に安定化 最大約+3Wm‒2で2100年より以前に減少 ✴ 2100年までの最大二酸化炭素濃度は RCP2.6: 421ppm, RCP4.5: 538ppm, RCP6.0: 670ppm, RCP8.5: 936ppm 九州大学大学院総合理工学府大気海洋環境システム学専攻 大気環境モデリング第一(2014年度) 竹村 俊彦 将来の気温変化の予測 IPCC AR5による将来の気温変化予測の要点 • RCP8.5とRCP6.0では1850∼1900年平均に対して世界平均気温が2˚Cを上回る 可能性が高い (66%以上).RCP4.5では2˚Cを上回る可能性は50%以上. • RCP2.6以外では2100年以降も気温は上昇. • 二酸化炭素の累積排出量により21世紀後半およびその後の地球温暖化の大部分が 決定づけられる. 1986∼2005年平均に対する(左)全球平均地上気温の変化 (右)2081∼2100年平均地上気温の変化 (IPCC AR5, 2013) 九州大学大学院総合理工学府大気海洋環境システム学専攻 大気環境モデリング第一(2014年度) 竹村 俊彦 日本の気候モデルMIROCによる地球温暖化予測 九州大学大学院総合理工学府大気海洋環境システム学専攻 大気環境モデリング第一(2014年度) 竹村 俊彦 将来の海洋・雪氷圏の変化の予測 IPCC AR5による将来の海洋・雪氷圏の変化の予測 海洋の温暖化が強まることや氷河・氷床の融解により, 全て • 全球平均海面水位は, のRCPシナリオにおいて1971∼2010年に観測された上昇率を超える可能性が非 常に高い. RCP8.5において海氷がほとんど存在しない状態となる可能性 • 北極域の9月には, が高い. (IPCC AR5, 2013) 九州大学大学院総合理工学府大気海洋環境システム学専攻 大気環境モデリング第一(2014年度) 竹村 俊彦 各シナリオの世界平均地上気温と海面水位の変化予測 2046∼2065年 2081∼2100年 シナリオ RCP2.6 世界平均 地上気温 RCP4.5 の変化 RCP6.0 (̊C) RCP8.5 RCP2.6 世界平均 海面水位 RCP4.5 の上昇 RCP6.0 (m) RCP8.5 平均 可能性が高い予測幅 平均 可能性が高い予測幅 1.0 0.4∼1.6 1.0 0.3∼1.7 1.4 0.9∼2.0 1.8 1.1∼2.6 1.3 0.8∼1.8 2.2 1.4∼3.1 2.0 1.4∼2.6 3.7 2.6∼4.8 0.24 0.17∼0.32 0.40 0.26∼0.55 0.26 0.19∼0.33 0.47 0.32∼0.63 0.25 0.18∼0.32 0.48 0.33∼0.63 0.30 0.22∼0.38 0.63 0.45∼0.82 九州大学大学院総合理工学府大気海洋環境システム学専攻 大気環境モデリング第一(2014年度) 竹村 俊彦 将来の海洋酸性化の予測 IPCC AR5による将来の海洋酸性化の予測 • 海洋のさらなる炭素吸収による酸性化が進行することはほぼ確実. 1986∼2005年平均に対する (上)全球平均海面pH(右) 2081∼2100年平均地海面pH の変化 (IPCC AR5, 2013) 九州大学大学院総合理工学府大気海洋環境システム学専攻 大気環境モデリング第一(2014年度) 竹村 俊彦 二酸化炭素累積排出量と気温変化の関係 二酸化炭素累積排出量によって21世紀後半およびその後の世界平均地上気温上昇の 大部分が決定づけられる。気候変動の大部分は二酸化炭素の排出が停止したとして も何世紀にもわたって持続する。このことは過去・現在・将来の二酸化炭素排出に よる大規模で数世紀にわたる気候変動の不可避性を表している。 (IPCC AR5, 2013) 九州大学大学院総合理工学府大気海洋環境システム学専攻 大気環境モデリング第一(2014年度) 竹村 俊彦 極端現象の予測(1) 現象・変化傾向 1950年以降の変化発生 観測された 変化に対する 人間活動の寄与 ほどんどの陸域で 暑い日や暑い夜の 頻度の増加や昇温 可能性が非常に高い 可能性が 非常に高い ほぼ確実 ほとんどの陸域で 熱波の頻度や 持続期間の増加 世界規模で確信度が中程度 ヨーロッパ・アジア・ オーストラリアの大部分で 可能性が高い 可能性が高い 可能性が非常に高い 大雨の頻度・強度 減少している陸域より 増加している陸域の方が 多い可能性が高い 確信度が中程度 中緯度の大陸のほとんど と湿潤な熱帯域で可能性 が非常に高い 干ばつの強度や 持続期間の増加 世界規模で確信度が低い いくつかの地域で変化した 可能性が高い 確信度が低い 地域規模から世界規模で 可能性が高い (確信度は中程度) 強い熱帯低気圧の 活動度の増加 長期(百年規模)変化の 確信度が低い 1970年以降北大西洋で ほぼ確実 確信度が低い 北太平洋と北大西洋で どちらかと言えば 将来変化の可能性 (IPCC AR5, 2013) 九州大学大学院総合理工学府大気海洋環境システム学専攻 大気環境モデリング第一(2014年度) 竹村 俊彦 28 極端現象の予測(2) (a) (b) Cold days (TX10p) 12 18 Wettest consecutive five days (RX5day) historical RCP2.6 RCP4.5 RCP8.5 12 10 8 8 6 6 4 4 Exceedance rate (%) 10 historical RCP2.6 RCP4.5 RCP8.5 2 1980 2000 2020 2040 2060 2080 20 15 15 10 10 5 5 0 0 2 0 1960 Relative change (%) 20 18 0 2100 1960 1980 2000 Year (c) historical RCP2.6 RCP4.5 RCP8.5 60 70 50 40 40 30 30 20 20 10 10 1960 1980 2000 2020 2040 2060 2080 60 18 60 40 20 20 0 0 2100 Future change in 20yr RV of warmest daily Tmax (TXx) 2100 40 1960 Year (e) 2080 historical RCP2.6 RCP4.5 RCP8.5 60 50 2060 Precipitation from very wet days (R95p) 18 Relative change (%) 70 Exceedance rate (%) (d) Warm days (TX90p) 2020 2040 Year 1980 2000 2020 2040 2060 2080 2100 (a) 1961∼1990 年平均日最高 気温の10パー センタイルを 下回る確率 (b) 連続5日間合 計の最大降水 量の相対変化 (1986∼2005 年基準) (c) 1961∼1990 年平均日最高 気温の90パー センタイルを 上回る確率 (d) 95パーセンタ イルを上回る 日降水量の年 間積算量の相 対変化(1986∼ 2005年基準) (IPCC AR5, 2013) Year (f) Future RP for present day 20yr RV of wettest day (RX1day) 九州大学大学院総合理工学府大気海洋環境システム学専攻 大気環境モデリング第一(2014年度) 竹村 俊彦 29 29 地域的な気候変動予測 21世紀に予測される世界平均気温1˚C上昇あたりの (a) 年平均地上気温変化 (b) 日最高気温 90パーセンタイル (c) 年平均降水量変化と (d) 降水量が95パーセンタイルを超える日の割合 (IPCC AR5, 2013) 九州大学大学院総合理工学府大気海洋環境システム学専攻 大気環境モデリング第一(2014年度) 竹村 俊彦 将来の気候変動による主要なリスク 1) 高潮・沿岸洪水・海面水位上昇による沿岸の低地・小島嶼開発途上国・その他の小島嶼におけ る死亡・負傷・健康障害・生計崩壊のリスク 2) いくつかの地域における内陸洪水による大都市に住む人々についての深刻な健康障害や生計崩壊 のリスク 3) 極端な気象現象が電気・水供給・保健・緊急サービスのようなインフラ網や重要なサービスの 機能停止をもたらすことによるシステムのリスク 4) 特に脆弱な都市住民・都市域または農山漁村地域の屋外労働者についての極端な暑熱期間にお ける死亡および罹病のリスク 5) 特に都市・農山漁村の状況におけるより貧しい住民にとっての気温上昇・干ばつ・洪水・降水の 変動性ならびに極端現象に伴う食料不足や食料システム崩壊のリスク 6) 特に半乾燥地域における最小限の資本しか持たない農民や牧畜民にとっての飲料水・灌漑用水へ の不十分なアクセスならびに農業生産性の低下によって農山漁村部の生計や収入を損失するリス ク 7) 特に熱帯と北極圏の漁業地域社会において、海洋生態系・沿岸生態系・生物多様性およびそれ らが沿岸部の生計に与える生態系商品・機能・サービスを損失するリスク 8) 陸域および陸水生態系・生物多様性ならびにそれらが生計に与える生態系商品・機能・サービ スを損失するリスク (IPCC WG2 AR5, 2013) 九州大学大学院総合理工学府大気海洋環境システム学専攻 大気環境モデリング第一(2014年度) 竹村 俊彦 温暖化に対して予測される影響 (1) 湿潤熱帯地域と高緯度地域での水利用可能性の増加 水 資 源 中緯度地域と半乾燥低緯度地域での水利用可能性の減少および干ばつの増加 数億人が水不足の深刻化に直面する 最大30%の種で 絶滅リスクの増加 生 態 系 珊瑚の白化の増加 ほとんどの珊瑚が白化 地球規模での重大な (40%以上)絶滅 広範囲に及ぶ珊瑚の死滅 生態系が影響を受け以下の割合の陸域植物圏の正味炭素放出源化: ∼15% ∼40% 種の分布範囲の変化と森林火災リスクの増加 海洋の深層循環が弱まることによる生態系の変化 0 1 2 3 4 5 1980‒1999年平均値に対する全球平均地上気温の変化 (˚C) (IPCC AR4 WGII, 2007) ✴ ✴ は関連する影響を示し, は温暖化に伴い影響が継続することを示す. 各記述の左端は影響が出始めるおおよその位置を示す. 九州大学大学院総合理工学府大気海洋環境システム学専攻 大気環境モデリング第一(2014年度) 竹村 俊彦 温暖化に対して予測される影響 (2) 小規模農家・自給的農業者・漁業者への複合的な局所的マイナス影響 食 料 沿 岸 域 低緯度地域における 穀物生産性の低下 低緯度地域における 全ての穀物生産性の低下 中高緯度地域における いくつかの穀物生産性の向上 いくつかの地域における 穀物生産性の低下 洪水と暴風雨による損害の増加 世界の沿岸湿地の約30%消失 毎年追加的に数百万人が沿岸洪水被害 栄養失調・下痢・呼吸器疾患・感染症による社会的負荷の増加 健 康 熱波・洪水・干ばつによる罹病率と死亡率の増加 いくつかの感染症媒介生物の分布変化 医療サービスへの重大な負荷 0 1 2 3 4 5 1980‒1999年平均値に対する全球平均地上気温の変化 (˚C) (IPCC AR4 WGII, 2007) ✴ ✴ は関連する影響を示し, は温暖化に伴い影響が継続することを示す. 各記述の左端は影響が出始めるおおよその位置を示す. 九州大学大学院総合理工学府大気海洋環境システム学専攻 大気環境モデリング第一(2014年度) 竹村 俊彦 主要な地域リスク 〜~アジア〜~ アジア域の主要リスクと適応の可能性 •各地域のリスクは、適応と緩和の程度などによって変化する (IPCC AR5 WG2 SPM p.20, 34行目) ※リスクレベルは必ずしも比較可能ではないことに留意(IPCC AR5 WG2 SPM p.21,13-14行目) 気候に関連する影響をもたらす要因 リスクレベルと適応の可能性 リスク低減のための 追加適応の可能性 温暖化傾向 極端な気温 乾燥傾向 主要リスク 極端な降水 降水 積雪 破壊的な サイクロン 海面上昇 海洋酸性化 適応の課題と展望 気候的動因 アジアにおけるインフラ、生活、居住 ・ 構造的及び非構造的対策、効果的な土地利用計画、選択的な移住 を介した曝露の減少 地への広範な被害につながる河岸、 ・ ライフラインインフラ、サービス(例.水、エネルギー、廃棄物管理、 沿岸、都市の洪水の増加(中程度の 食糧、バイオマス、モビリティ、地域的生態系、情報通信)の脆弱性 確信度) の低減 ・ モニタリングと早期警戒システムの構築、曝露地域の特定、脆弱な 地域、世帯を支援し、生活を多様化させるための措置 ・ 経済の多様化 熱関連死亡のリスク増加(高い 確信度) 二酸化炭素 肥沃化 ・暑熱に関する健康警戒システム ・ ヒートアイランドを低減するための、建築環境向上のための、持続 可能な都市開発のための都市計画 ・ 屋外業務従事者の、熱ストレスを回避するための、新たな就業形 態 高い適応を伴う リスクレベル 時間軸 現行の適応を伴う リスクレベル リスクと適応可能性 非常に 低い 中程度 非常に 高い 非常に 低い 中程度 非常に 高い 非常に 低い 中程度 非常に 高い 現在 近い将来 (2030-2040) 長期的将来 (2080-2100) 現在 近い将来 (2030-2040) 長期的将来 (2080-2100) 栄養失調を引き起こす水不足・食 料不足に関連する干ばつのリスク 増加(高い確信度) ・ 早期警戒システムや地域の対処戦略を含む防災 ・ 適応的/総合的水資源管理 ・ 水インフラと貯水池の開発 ・ 水の再利用を含めた水源の多様化 ・ 水のより効率的な利用(例.農作業の改善、灌漑管理、レジリエ ントな農業) 現在 近い将来 (2030-2040) 長期的将来 (2080-2100) 出典: IPCC AR5 WG2 SPM Assessment Box SPM.2 Table1一部抜粋 環境省 (IPCC WG2 AR5, 2013) 九州大学大学院総合理工学府大気海洋環境システム学専攻 大気環境モデリング第一(2014年度) 竹村 俊彦 41 参考文献 •気候変動に関する政府間パネル (IPCC) http://www.ipcc.ch/ •IPCC第1作業部会(WG1)第5次評価報告書 (AR5) http://www.climatechange2013.org/ •気象庁によるIPCC WG1 AR5日本語訳 http://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/ipcc/ar5/ •環境省によるIPCC AR5のページ http://www.env.go.jp/earth/ipcc/5th/ •IPCC第2作業部会(WG2)AR5 http://www.ipcc-wg2.gov/AR5/ •IPCC第3作業部会(WG3)AR5 http://mitigation2014.org/ •IPCC AR5統合評価報告書 http://www.ipcc-syr.nl ✴ 講義スライド http://sprintars.net/toshi/lecturej.html 九州大学大学院総合理工学府大気海洋環境システム学専攻 大気環境モデリング第一(2014年度) 竹村 俊彦
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