ゴム粒子を使用した新たな凍結抑制舗装

ゴム粒子を使用した新たな凍結抑制舗装
「アイストッパー」「薄層凍結抑制舗装」
菅野
大林道路株式会社
善次郎
エンジニアリング部
生産技術課
課長代理.
ゴム粒子を使用した新たな凍結抑制舗装として,粗面型ゴム粒子入り凍結抑制舗装「アイス
トッパー」と薄層ゴム粒子入り凍結抑制舗装を開発した.粗面型ゴム粒子入り凍結抑制舗装「ア
イストッパー」(以下,アイストッパーR)は,砕石マスチック舗装(粗面型)1)にゴム粒子
を混合するとともに,舗装表面にゴム粒子を散布接着させた物理系凍結抑制舗装である.
薄層凍結抑制舗装(以下,アイストッパーT)は,最大粒径を 5mmとした混合物中にゴム粒
子を混合した物理系凍結抑制舗装で,薄層化を実現し,施工厚が制限された橋梁部や薄層オー
バーレイに適用できる工法である.本文ではこれら 2 工法について紹介する.2)
キーワード:凍結抑制,ゴム粒子,粗面型,水膜発生抑制,低騒音,薄層化,建設コスト縮減
1.はじめに
冬期の道路における交通安全確保のために,凍結抑制
舗装が各地で施工されている.凍結抑制舗装はロードヒ
ーティング等の消雪効果を発揮するものではなく,降雪
時や凍結初期に凍結抑制効果を発揮し,冬期の路面管理
を補う工法である.つまり,路面の凍結する時間帯や期
間を短くできること,凍結防止剤の散布量や散布回数を
減らすことおよび除雪作業回数を減らすことなどの効果
をねらったものである.このような効果から,スリップ
事故の低減による交通安全確保,凍結防止剤散布量の低
減による沿道環境保全および冬期路面管理コスト低減に
つながると考えられる.凍結抑制舗装は,その凍結抑制
効果の発現原理の違いから「物理系凍結抑制舗装」
,
「化
学系凍結抑制舗装」および両者の特徴を有した「物理・
化学系凍結抑制舗装」に分類される.
ゴム粒子入り凍結抑制舗装は,これまでに密粒ギャッ
プ舗装タイプやポーラスアスファルト舗装タイプといっ
たものが開発されており,これまでに多くの実績を有し
ている.
今回,新たな凍結抑制舗装として,砕石マスチック舗
装(粗面型)タイプの「アイストッパーR」と薄層舗装
タイプの「アイストッパーT」を開発した.本文では,
これらの新たに開発したゴム粒子入り凍結抑制舗装の概
要,室内試験,施工事例やその効果について紹介する.
2.砕石マスチック(粗面型)舗装タイプ3)
「アイストッパーR」
(1)工法概要
本工法は,砕石マスチック舗装(粗面型)
(以下,粗面
型SMA)にゴム粒子を混合するとともに,舗装表面に
もゴム粒子を散布接着させた物理系凍結抑制舗装であり,
舗装表面がポーラスアスファルト舗装と同様の「きめ深
さ」を有しており,舗装体下部は,砕石マスチックと同
様に骨材間隙がアスファルトモルタルで充填された緻密
性を有する舗装構造である.アイストッパーRの概念図
を図-1 に示す.
図-1 アイストッパーRの概念図
本工法の特長を以下に示す.
a)凍結抑制性能
工業用ゴム端材利用品のゴム粒子を混入した粗面型S
MAに変更し,舗装表面にゴム粒子を散布接着させた舗
装体とすることにより,舗装表面および混合物中のゴム
粒子が交通荷重によりたわむことで,氷雪を破砕・除去
し,路面露出を促進する凍結抑制性能が発揮される.
b)水膜発生抑制性能
舗装表面を粗面型としたことにより,ポーラスアスフ
ァルト舗装と同等のきめ深さが確保でき,雨天時の路面
水膜発生抑制性能が発揮される.
c)低騒音性能
粗面型SMAにゴム粒子を混入するとともに舗装表面
にゴム粒子を散布接着させたことにより,きめ深さと舗
装表面に突出したゴム粒子の効果で,騒音低減性能が発
揮される.
d)耐久性の向上
粗面型SMAと同様な骨材飛散抵抗性,耐流動性や耐
水性の向上が得られる.
全体を圧雪が覆っている状態であった.その後,粗面型
ゴム粒子入り凍結抑制舗装は 1500 回走行時に路面が露
出しはじめ,2000 回走行時には車輪走行箇所のほとんど
が露出していた.一方,粗面型SMAは,走行回数の増
加とともに路面の空隙部分および骨材上面に圧雪による
氷板が形成し,2000 回走行時にもそれらの多くが残って
いた.このことから,アイストッパーRは積雪状態から
早期に路面を露出させる凍結抑制性能を有しているとい
える.
アイストッパーR
粗面型ゴム粒子入り凍結抑制舗装
(2)アイストッパーRにおける凍結抑制性能の検証
粗面型SMA
粗面SMA
4)
a)氷板ホイールトラッキング試験
氷板ホイールトラッキング試験(以下,氷板WT試験)
は,WT 試験用供試体の表面に氷板を作製し,-5℃の恒
温室内で荷重走行試験を行い,氷板の破砕・はく離の評
価を行うものである.
試験は,アイストッパーRに加え,比較混合物として
密粒度アスファルト混合物(以下,密粒)
,粗面SMAに
ついて実施した.試験結果を図-2 に示す.粗面型ゴム粒
子入り凍結抑制舗装の氷板ひび割れ・はく離率は 83%で
あるが比較混合物はいずれも 10%未満である.本試験に
より,氷板状態の路面において凍結抑制性能を有してい
る結果となった.
2000回走行後
2000回走行後
写真-1 回転ラベリング試験結果
(3)施工事例
平成 25 年 8 月に富山県内の国道において,本工法を施
工した.
本工事で使用したアイストッパーRの配合試験結果を
表-1 に示す.なお,本工事は,性能規定工事であり,凍
結抑制舗装について,
塑性変形輪数 3000 回/mm 以上,
氷着引張強度 0.5MPa 以下と規定されていた.
粗面型ゴム粒子入り
アイストッパーR
凍結抑制舗装
表-1 配合試験結果
試験結果
目標値
10500
3000以上
2
0.20
0.7以下
(%)
4.8
20以下
不透水
1×10 -7 以下
1.3
1.2以上
粗面SMA
密粒
0
20
破砕
しにくい
40
60
80
100
破砕
氷板ひび割れ・はくり率 しやすい
(%)
図-2 氷板WT試験結果
b)回転ラベリング試験
回転ラベリング試験は,供試体上に作製した擬似積雪
上に車輪を走行させ,路面状態を目視観察することで凍
結抑制性能を評価するものである.回転ラベリング試験
機ではタイヤの蹴り出し効果により,実際の積雪路面に
おける路面状態を再現できると考えられる.擬似積雪は,
削氷機で作った砕氷を,1.18mm ふるいを使って母体供
試体上に被せて作製した.本試験は,比較混合物として
粗面 SMA についても実施した.
試験結果を写真-1 に示す.500 回走行時までは粗面型ゴ
ム粒子入り凍結抑制舗装および粗面型SMAともに路面
動的安定度
(回/mm)
すり減り量
(cm )
カンタブロ損失率
(-20℃)
透水係数
きめ深さ(MPD)
(cm/sec)
(mm)
塑性変形 締固め度100%
輪数
(回/mm) 締固め度97%
氷着引張強度
(MPa)
17,940
3000以上
11,370
0.2
0.5以下
本施工は,アスファルトフィニッシャにて混合物の敷
きならし後,表面散布接着用ゴム粒子をフィニッシャ後
部に取り付けたチップスプレッダにて散布した.締固め
には,初期転圧にタンデムローラ(4t 級)
,二次転圧に水
(4)現道における各性能の検証
a)凍結抑制性能
当該区間は,積雪寒冷地域の重交通路線(交通量区分
N7)である.積雪時の時間経過による路面の露出状況を
観察し,隣接する密粒度舗装と比較を行うことで,凍結
抑制性能を評価した.密粒度舗装部は,度重なる車両交
通により,タイヤのトレッドパターン状,いわゆる洗濯
板状の氷板層が形成されていた.それに対して,アイス
トッパーR工区は,氷着した雪は形成されず,路面が露
出した状態となった.路面状況を写真-2 に示す.
c)低騒音性能
施工直後の路面騒音を普通タイヤによるタイヤ路面騒
音測定方法により測定した.比較のため,隣接する密粒
度舗装についても測定した.なお,タイヤ路面騒音の測
定方法は,
「舗装調査・試験法便覧 S027-1T 普通タイヤ
によるタイヤ路面騒音測定方法」に準拠した.タイヤ路
面測定結果を図-3 に示す.
94
92.8
93
騒音値(dB)
平振動ローラ(8t 級)
,仕上転圧にタイヤローラ(8~12t
級)を使用した.
施工後の表面の仕上がりは,路面のきめ深さ(MPD)
は 1.3mm であり配合時と同等の値となった.また,表面
ゴムの状態も良好であり,目標とした仕上がりとなった.
92
91
90
89.9
89
88
アイストッパーR
密粒度舗装
図-3 タイヤ路面騒音測定結果
図より,アイストッパーRの騒音値は 89.9dBとなり,
密粒度舗装と比較して,
アイストッパーRは 3dB程度の
路面騒音の低減効果が確認された.
密粒度舗装
3.薄層凍結抑制舗装タイプ5)
「アイストッパーT」
アイストッパーR
写真-2 アイストッパーRの積雪時路面状況
b)水膜発生抑制性能
雨天時における水膜発生抑制状況を写真-3 に示す.ア
イストッパーR部の路面において,水膜が発生していな
いことがわかる.
水
膜
発
生
(1)工法概要
本工法は,骨材の最大粒径が 5mm のアスファルト混
合物中にゴム粒子を質量比で 2~3%混合した物理系凍結
抑制舗装である.従来工法の密粒ギャップ舗装タイプの
凍結抑制舗装は,骨材の最大粒径が 13mm または 20mm
であるため,施工厚は 4~5cm であったのに対し,本工
法では 2~3cm での施工が可能である.アイストッパー
Tの概念図を図-4 に,アイストッパーTおよび従来工法
(最大粒径 20mm)の混合物断面を写真-4 に示す.
なお,従来舗装では,廃タイヤを破砕したゴム粒子を
使用しているが,本工法に使用しているゴム粒子は,工
業用ゴム端材を有効利用したもので,本工法専用に材
質・形状等を選定したものである.
水
膜
抑
制
写真-3 アイストッパーRの雨天時水膜発生抑制状況
図-4 アイストッパーTの概念図
アイストッパーT
施工厚 20~30mm
写真-4 従来工法とアイストッパーTの断面
本工法の特長を以下に示す.
a)凍結抑制性能
舗装表面および混合物中のゴム粒子が交通荷重により
たわむことで,氷雪を破砕・除去し路面露出を促進する
凍結抑制性能が発揮される.
b)薄層化の実現
骨材の最大粒径を 5mm としたことで,施工厚さを 20
~30mmとすることが可能となった.薄層化の実現によ
り,施工厚さが制限された橋梁部や薄層オーバーレイな
どに適用できる.
c)建設コスト縮減
薄層化の実現により建設コストが縮減できる.
(2)アイストッパーTにおける検証
a)氷着引張強度試験
氷着引張強度試験結果を図-5 に示す.比較のため,従
来工法(最大粒径 20mm)
,密粒度舗装および細粒度ギャ
ップ舗装の結果も併せて示す.アイストッパーTの氷着
引張強度はおおよそ 0. 50MPa であり,密粒度舗装およ
び細粒度ギャップ舗装よりも小さく,従来工法と同程度
であることから凍結抑制性能が確認できた.
1
0.9
氷着引張強度(MPa)
0.8
0.7
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
100
90
アイストッパーT
薄層型凍結抑制舗装
80
砕石マスチック舗装
砕石マスチック
70
60
BPN
従来工法
施工厚40~50mm
た擬似積雪の上に車輪を走行させて走行回数ごとにすべ
り抵抗値(BPN)を測定することにより凍結抑制効果
を検証した.比較として,砕石マスチック舗装(最大粒
径 5mm)についても試験を実施した.
車輪走行回数 100 回から 3000 回までの走行回数とB
PNの関係を図-6 に示す.比較用の砕石マスチック舗装
については,走行回数 3000 回においてもBPNは初期の
値と変化が見られなかったが,アイストッパーTについ
ては,車輪が走行することで路面が露出しBPNが上昇
したことにより,本工法の凍結抑制効果が確認できた.
50
40
30
20
10
0
0
500
1000
1500
走行回数(回)
2000
2500
3000
図-6 回転ラベリング試験後のBPN
c)建設コスト縮減(経済性)
本工法は,ルビット舗装と比較して,混合物単価は若
干高くなるが薄層化(20~30mm)の実現により,施工
面積当たりの単価は低減される.コストの試算例からは,
従来工法(最大粒径 20mm,施工厚 5cm)と比較して,
施工厚 2cm で 50%程度,施工厚 3cm で 30%程度のコス
ト低減となった.
(3)施工事例
本工法の特長の一つとして,前項のアイストッパーR
同様,混合物の製造および施工方法の容易な点が挙げら
れる.
施工機械編成例を図-7 に示す.図に示したように,本
工法は一般的な舗設機械で施工可能である.なお,小規
模施工の場合は,初期転圧および二次転圧を水平振動ロ
ーラで兼用することも可能である.なお,アスファルト
量が多い混合物のため,施工直後のすべり抵抗性を確保
するために,舗装表面に硬質骨材を散布・定着させる.
0.1
0
薄層型
アイストッパーT
凍結抑制舗装
ルビット
従来工法
舗装
密粒度
密粒度
アスコン
細粒度ギャップ
細粒度ギャップ
アスコン
アスファルトフィニッシ ャ
(混合物敷きならし)
水平振動ローラ
(二次転圧)
マカダムローラ
(初期転圧)
硬質骨材散布
図-5 氷着引張強度試験結果
b)回転ラベリング試験
回転ラベリング試験機を使用して,供試体上に作製し
図-7 施工機械編成例
タイヤローラ
(仕上げ転圧)
アイストッパーTにおける施工事例を表-2 に示す.
施工事例(1)および(2)は,舗装厚が制限された橋梁部への
適用であり,施工事例(3)は薄層オーバーレイ工法での適
用である.
アイストッパーT
通常舗装
表-2 アイストッパーTの施工事例
項目
施工箇所
施工面積
施工内容
施工事例(1)
県道橋梁部
施工事例(2)
県道橋梁部
施工事例(3)
県道土工部
435m2
表層3cm
切削オーバーレイ
1313m2
表層3cm
基層4cm
3250m2
表層3cm
オーバーレイ
写真-7 アイストッパーTの積雪時の路面状況
当該箇所において,現在のところ良好な路面状態を保っ
ている。施工事例(1)における供用後 2 年 5 ヶ月経過した
舗装の状況を写真-5 に示す。
写真-5 2 年 5 か月経過したアイストッパーTの状況
(4)現道における凍結抑制性能の検証
アイストッパーTの橋梁部施工箇所における冬期供用
状況を写真-6 に,路面状況を写真-7 に示す.既設の通常
舗装と比べ,早期の路面露出が確認された.
写真-6 アイストッパーTの冬期供用状況
4.今後の課題とまとめ
今回,新たな凍結抑制舗装として,砕石マスチック舗
装(粗面型)タイプの「アイストッパーR」と薄層舗装
タイプの「アイストッパーT」の概要,室内試験,施工
事例やその効果について紹介した.2工法とも現在の供
用状況は,良好な状態を保っているが,追跡調査等によ
り,長期にわたる各性能の持続性や供用性の評価を明ら
かにしていく予定である.
今後は,ゴム粒子を使用した凍結抑制舗装シリーズと
して,
「密粒ギャッブ舗装型」や「ポーラスアスファルト
舗装型」と併せて,道路管理者の様々なニーズに対応し
ていきたいと考える.
最後に,ゴム粒子を利用した凍結抑制舗装が道路利用
者の交通安全確保の一助になれば幸いである.
参考文献
1)(社)日本道路協会:環境に配慮した舗装技術に関す
るガイドブック,2009
2)東本ほか:ゴム粒子を使用した新たな凍結抑制舗装の
開発,舗装,Vol.48 No.4,pp.20~25(2013.4)
3)北野原ほか:粗面型ゴム粒子入り凍結抑制舗装,第 12
回北陸建設技術報告会報文集,2012
4)澤田ほか:粗面型ゴム粒子入り凍結抑制舗装「アイス
トッパー」
,第 13 回北陸建設技術報告会報文集,2013
5)東本ほか:薄層ゴム粒子入り凍結抑制舗装の開発,第
29 回日本道路会議