ストックマネジメント手法を踏まえた下水道長 寿命化計画策定に関する

エンジニアリング
リポート 1
ストックマネジメント手法を踏まえた下水道長
寿命化計画策定に関する手引き(案)について
前研究第1部 研究員
坪川 貴芳
ら,現在策定されている長寿命化計画の多くは,個々
はじめに
の施設の長寿命化対策,更新計画の域を脱しておら
ず,施設の全体を最適化するストックマネジメント
わが国の下水道ストックは,昭和40年代から平成10
(以下,SM)の考え方が浸透しているとは言い難い。
年代に集中的に整備され,今後急速に老朽化すること
以上の状況を踏まえ,国土交通省下水道部は,下水
が見込まれる。その一方で,本格的な人口減少社会の
道施設におけるストックマネジメント手法の普及促進
到来による使用料収入の減少により,地方公共団体の
と,効率的な長寿命化計画の推進が図られるよう,本
財政状況は逼迫化しており,投資余力が減退の方向に
手引き(案)を策定することを企画し,日本下水道新
ある。以上のことから,維持管理から改築更新までの
技術機構(以下,本機構)がこれを支援してきたとこ
ライフサイクルコストの低減化や,予防保全型施設管
ろである。
理の導入による安全の確保等,戦略的な維持管理・改
本機構は,検討委員会やその他の下水道関係者等の
築更新を行い,もって住民に対する良質な下水道サー
助言を頂きながら,下水道施設全体を最適化するSM
ビス提供の持続性を確保することが重要である。
の考え方のもと,効率的・効果的な長寿命化計画を策
このような背景のもと,国土交通省下水道部では平
定するため,具体的な手順や手法を示し,「ストック
成20年度に,従来の改築の考え方に長寿命化対策を加
手引き」と「長寿命化計画手引き」を踏まえ「ストッ
えた「下水道長寿命化支援制度」を創設するととも
クマネジメント手法を踏まえた下水道長寿命化計画策
に,平成23年度には,「下水道施設のストックマネジ
定に関する手引き(案)」(以下,手引き(案))とし
メント手法に関する手引き(案)」を策定し,下水道
てとりまとめた。
施設の計画的な改築更新を推進してきた。しかしなが
第1編 総論
第1章 総論
SMの目的・定義、ストックマネジメントと長寿命化計画の関係、本手引き(案)の適用対象及び用語の定義について記載。
第2章 ストックマネジメントの導入効果の検討
今後の長期的な改築需要見通しの検討など、SMの導入により期待される効果について記載。
第2編 ストックマネジメントの実施
第3編 長寿命化計画の策定
第1章 共通事項
第1章 共通事項
第2章 管路施設
第2章 管路施設長寿命化計画の策定
第3章 処理場・ポンプ場施設
第3章 処理場・ポンプ場施設長寿命化計画の策定
SMに関する基本的考え方・実施フロー、導入準備,施設情報の
収集・整理、目標設定、リスクに関する基本的考え方、施設情報シ
ステムの構築・活用について記載。
管路施設に対するリスクの検討及び点検・調査と改築・修繕の計
画策定・実行・評価・見直しについての概要を記載。
処理場・ポンプ場施設に対するリスクの検討及び点検・調査と改
築・修繕の計画策定・実行・評価・見直しについての概要を記載。
SMにおける長寿命化計画の位置付け、長寿命化支援制度の目的、
下水道長寿命化支援制度の対象範囲、長寿命化対策の考え方、ライ
フサイクルコストの比較方法について記載。
管路施設の長寿命化計画策定にあたっての基本的考え方・検討フ
ロー、策定方法及び留意事項を記載。
処理場・ポンプ場施設の長寿命化計画策定にあたっての基本的考
え方・検討フロー、策定及び留意事項を記載。
図-1 本編の構成
図-1 本編の構成
20 —— 下水道機構情報
Vol.7 No.18
エンジニアリング・リポート ■■
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明確化。
手引き(案)の概要
3.2 第2編 ストックマネジメントの実施
手引き(案)は,本編と参考資料編から構成されて
第1編 総論
○ストックマネジメントを導入・実践することにより
第1章 総論
いる。本編は,図-1に示すように,総論,SMの実
アカウンタビリティの向上が図れることを詳述し,
施,長寿命化計画の策定の項目ごとに,各段階での手
事例を追加。
SMの目的・定義、ストックマネジメントと長寿命化計画の関係、本手引き(案)の適用対象及び用語の定義について記載。
第1編 総論
総論
第2章第1章
ストックマネジメントの導入効果の検討
順や実施事項(何をするか)を記載している。
○管路施設と処理場・ポンプ場施設では内容が異なる
SMの目的・定義、ストックマネジメントと長寿命化計画の関係、本手引き(案)の適用対象及び用語の定義について記載。
今後の長期的な改築需要見通しの検討など、SMの導入により期待される効果について記載。
参考資料編では,導入効果事例,長期的な改築需要
第2章 ストックマネジメントの導入効果の検討
ため,それぞれ分けてマネジメント方法を詳述。
見通しの検討例,管路施設のストックマネジメント,
○点検・調査および改築・修繕の優先順位の決め方と
SMに関する基本的考え方・実施フロー、導入準備,施設情報の
第2編 ストックマネジメントの実施
処理場・ポンプ場施設のストックマネジメント,下水
収集・整理、目標設定、リスクに関する基本的考え方、施設情報シ
第1章 共通事項
ステムの構築・活用について記載。
道長寿命化計画の検討例(管路施設)
,下水道長寿命
SMにおける長寿命化計画の位置付け、長寿命化支援制度の目的、
第3編
長寿命化計画の策定
して,情報の蓄積状況に応じ,簡易な方法から詳細
下水道長寿命化支援制度の対象範囲、長寿命化対策の考え方、ライ
第1章
共通事項
フサイクルコストの比較方法について記載。
な方法まで複数のリスク評価例を記載。
第2章ステムの構築・活用について記載。
管路施設
化計画の検討例(処理場設備)
,主な設備に関する主
第2章
管路施設長寿命化計画の策定
○改築・修繕計画の策定について,長期計画の策定と
フサイクルコストの比較方法について記載。
第2編 ストックマネジメントの実施
第3編 長寿命化計画の策定
今後の長期的な改築需要見通しの検討など、SMの導入により期待される効果について記載。
第1章 共通事項
SMに関する基本的考え方・実施フロー、導入準備,施設情報の
収集・整理、目標設定、リスクに関する基本的考え方、施設情報シ
管路施設に対するリスクの検討及び点検・調査と改築・修繕の計
画策定・実行・評価・見直しについての概要を記載。
要な部品の判定項目の例,下水道長寿命化計画の例の
第2章 管路施設
管路施設に対するリスクの検討及び点検・調査と改築・修繕の計
各編について,具体的な手法の例を記載している。
第3章画策定・実行・評価・見直しについての概要を記載。
処理場・ポンプ場施設
処理場・ポンプ場施設に対するリスクの検討及び点検・調査と改
築・修繕の計画策定・実行・評価・見直しについての概要を記載。
第3章 処理場・ポンプ場施設
主な改訂内容
処理場・ポンプ場施設に対するリスクの検討及び点検・調査と改
築・修繕の計画策定・実行・評価・見直しについての概要を記載。
第1章 共通事項
SMにおける長寿命化計画の位置付け、長寿命化支援制度の目的、
下水道長寿命化支援制度の対象範囲、長寿命化対策の考え方、ライ
管路施設の長寿命化計画策定にあたっての基本的考え方・検討フ
ロー、策定方法及び留意事項を記載。
長期計画を踏まえた短期計画の策定手順を明確化。
第2章
管路施設長寿命化計画の策定
管路施設の長寿命化計画策定にあたっての基本的考え方・検討フ
第3章
処理場・ポンプ場施設長寿命化計画の策定
ロー、策定方法及び留意事項を記載。
3.3 第3編 長寿命化計画の策定
処理場・ポンプ場施設の長寿命化計画策定にあたっての基本的考
え方・検討フロー、策定及び留意事項を記載。
第3章 処理場・ポンプ場施設長寿命化計画の策定
処理場・ポンプ場施設の長寿命化計画策定にあたっての基本的考
○SMを導入し,それを活用して長寿命化計画を策定
え方・検討フロー、策定及び留意事項を記載。
図-1 本編の構成
することを基本とすることを記載。
図-1 本編の構成
○管路施設において管きょだけでなく,マンホール蓋
3.1 第1編 総論
等その他の管路施設の検討にも対応可能な検討フロ
○施設管理を中心としたマネジメントであるSMと,
ー(図-3)を記載。
それに資金マネジメントおよび人材マネジメントを
○マンホール蓋の調査方法,判定基準等を追加。
加えたアセットマネジメントとの関係(図-2)を
○処理場・ポンプ場において,合理的に計画を策定す
明確化し,アセットマネジメントを目指すことの重
るために,管理方法別に細分化した検討フロー(図
要性を記載。
-4)を記載。
○SMにおける長寿命化計画の位置付け(図-3)を
○調査の効率化を図るため,状態監視保全,時間計画
アセットマネジメント
アセットマネジメント
サービス水準
サービス水準
●施設管理、施設増設、地震対策、浸水対策、合流改善、高度処理
等
●施設管理、施設増設、地震対策、浸水対策、合流改善、高度処理 等
ストックマネジメント(施設資産のマネジメント)
ストックマネジメント(施設資産のマネジメント)
【施設情報データベース】
【施設情報データベース】
●基本諸元
●基本諸元
●点検・調査結果
等
●点検・調査結果
等
【全施設を対象とした施設管理】
【全施設を対象とした施設管理】
●サービス水準の目標設定
●サービス水準の目標設定
●全施設の改築費用の把握
●全施設の改築費用の把握
●優先順位(LCCの最小化、健全度評価、経営状況等)
●優先順位(LCCの最小化、健全度評価、経営状況等)
を踏まえた点検・調査及び改築・修繕計画の策定
を踏まえた点検・調査及び改築・修繕計画の策定
(事業の平準化)
(事業の平準化)
●点検・調査及び改築・修繕の実行
●点検・調査及び改築・修繕の実行
(資金のマネジメント)
(資金のマネジメント)
●使用料,減価償却費,起債等の
●使用料,減価償却費,起債等の
中長期的な見通し 等
中長期的な見通し 等
(人材のマネジメント)
(人材のマネジメント)
●組織体制
●組織体制
●技術者の配置
●技術者の配置
●人材育成
等
●人材育成
等
下水道事業におけるストックマネジメント
図-2図-2
下水道事業におけるストックマネジメント
図-2 下水道事業におけるストックマネジメント
※1 短期改築・修繕計画のうち,短期改築計画が長寿命化計画に該当する。
※1 短期改築・修繕計画のうち、短期改築計画が長寿命化計画に該当する。
※1
短期改築・修繕計画のうち、短期改築計画が長寿命化計画に該当する。
図-3 ストックマネジメントのイメージ
図-3 ストックマネジメントのイメージ
図-3 ストックマネジメントのイメージ
下水道機構情報 Vol.7 No.18 ——
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エンジニアリング・リポート ■■
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保全,事後保全の3つの管理方法別に調査・診断す
る方法を記載。
○処理場・ポンプ場の長寿命化計画を適正に,かつ効
○膨大なストックの情報を完全に収集整理してから検
率的に策定するため,維持管理情報を活用したライ
討するのではなく,現状で収集整理できる情報で,
フサイクルコスト計算例と省エネ機器導入による運
リスク評価による点検・調査の優先順位付けの例
置年
962
968
972
983
・・・
978
991
970
005
・・・
施設の全体を捉えることが重要。
転管理費の削減効果を反映したライフサイクルコス
リスク評価ランク
経過
布設場所
ト計算例を追加。
年数
発生確率 被害規模
51
避難路
5
A
45
避難路
4
A
41 一般大口径
4
C
30
重要路線
3
B
・・・
・・・
35 一般中口径
3
D
22 一般大口径
2
C
43 一般小口径
4
E
8
重要路線
1
B
・・・
・・・
・・・
リスク評価
(マトリクス)
25
リスク高
23
リスク高
19
リスク中
18
リスク中
・・・
・・・
10
リスク低
9
リスク低
8
リスク低
7
リスク低
・・・
・・・
おわりに
優先
順位
1
2
3
4
・・・
25
26
27
28
・・・
○手引きに記載のない手法であっても,各地方公共団
体の実情やPDCAの実践に基づく創意工夫を妨げる
ものではない。まずは始めてみることが重要。
(基本情報)
(日常的な維持管理)
工事情報
日常・定期点検の実施
施設情報
清掃・修繕等の実施
【点検・調査計画及び結果の活用(第2編第2章1参照)】
対象施設の選定
(検討対象区域・路線等の選定)
情報システム
(データベース)
(3.2.2.1)
調査と調査項目
・調査方法の検討
・調査項目の選定
・調査
(3.2.2.2)
診 断
(3.2.3)
維持
対策不要
対策が必要
(3.2.4.1)
対策範囲の検討
(改築か修繕か)
修繕
改築
長寿命化対策検討施設の選定
(3.2.4.2)
対象外
対象
更新・長寿命化対策の検討
(3.2.4.3)
更新・長寿命化対策の検討
更新
長寿命化対策
下水道長寿命化計画の策定
※1
更新
※1
下水道長寿命化支援制度の要件(使用年数と標準耐用年数との関係等)
※1 下水道長寿命化支援制度の要件(使用年数と標準耐用年数との関係等)
図-4 下水道長寿命化計画検討フロー(例)(管路施設)
に合致していることを確認する必要がある。
図-4 下水道長寿命化計画検討フロー(例)(管路施設)
22 —— 下水道機構情報
Vol.7 No.18
エンジニアリング・リポート ■■
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(日常的な維持管理)
(基本情報)
工事情報
日常・定期点検の実施
設備情報
清掃・修繕等の実施
情報システム
(データベース)
【点検・調査計画及び結果の活用(第2編第3章1~3参照)】
対象設備の選定
(3.3.2.1)
時間計画保全
事後保全
管理方法の選定
(3.3.2.2)
状態監視保全
故障等不具合
状況の確認
対象外
長寿命化対策検討
対象設備の選定
(設備単位)
改築
不要
(3.3.2.3)
(3.3.3.1、3.3.2.4)
改築必要
対象
調査と調査項目
調査と調査項目
調査と調査項目
(設備単位※2 )
・点検・取替履歴等の分析・活用
・経過年数の整理
・目標耐用年数の設定
・設備単位の調査
(主要部品単位※1)
・点検・調査・取替履歴等の
分析・活用
・主要部品単位の調査
(設備単位※2)
・点検・調査・取替履歴等の
分析・活用
・設備単位の調査
■現地調査を行う場合
・調査方法の検討
・調査項目の設定
■現地調査を行う場合
・調査方法の検討
・調査項目の設定
(3.3.2.4)
(3.3.2.4)
(3.3.2.4)
維持
又は
修繕
維持
又は
修繕
改築
不要
診断
(経過年数等による評価)
(設備単位)
維持
又は
修繕
改築
不要
診断
(健全度評価)
(3.3.3.1、3.3.3.2)
改築
不要
診断
(健全度評価)
(主要部品単位)
(3.3.3.1、3.3.3.2)
改築必要
改築必要
対策の検討
維持
又は
修繕
(設備単位)
(3.3.3.1、3.3.3.2)
改築必要
(3.3.4)
【設備単位の対策検討】
LCC比較
更
新
更
新
※4
長寿命化対策
更
新
設備群※3の対策検討(省エネ・省資源・効率化等の機能検証)
下 水 道 長 寿 命 化 計 画 の 策 定
※1 主要部品とは、処分制限期間以上の継続使用が期待でき、設備全体の長寿命化に寄与する部品を指す。
※1 主要部品とは,処分制限期間以上の継続使用が期待でき,設備全体の長寿命化に寄与する部品を指す。
※2 設備単位とは、「下水道施設の改築について」
(平成 25 年 5 月 16 付け 国水下事第 7 号 国土交通省水管理・国土保全局下水道部
※3
※4
下水道
※2 設備単位とは,「下水道施設の改築について」(平成25年5月16付け 国水下事第7号 国土交通省水管理・国土保全局
事業課長通知)に定める小分類を指す。
下水道部 下水道事業課長通知)に定める小分類を指す。
※3 設備群とは,除塵設備,除砂設備,汚泥脱水設備等,まとまった処理機能を発揮するために必要な設備の集合体(電気
設備群とは、除塵設備、除砂設備、汚泥脱水設備等、まとまった処理機能を発揮するために必要な設備の集合体(電気設備等も含む)を指す。
設備等も含む)を指す。
下水道長寿命化支援制度の要件(使用年数と標準耐用年数との関係等)に合致していることを確認する必要がある。
※4 下水道長寿命化支援制度の要件(使用年数と標準耐用年数との関係等)に合致していることを確認する必要がある。
図-5 下水道長寿命化計画検討フロー(例)(処理場等施設)
下水道機構情報 Vol.7 No.18 ——
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