実験番号: 2014 年度前期 成果公開無償利用事業 成果報告書 2014PA004 価電子帯光電子分光および X 線吸収分光による 炭素材料のキャラクタリゼーション Characterization of carbon-based materials using valance band XPS and XANES spectroscopy 菊間 淳、夏目 穣、風間 美里 Jun Kikuma, Yutaka Natusme, Misato Kazama 旭化成株式会社 基盤技術研究所 Analysis and Simulation Center, Asahi-KASEI Corporation 1. 測定実施日 2014 年 6 月 24 日 10 時 – 18 時 30 分 (2 シフト) ,BL7U 2014 年 9 月 9 日 10 時 – 18 時 30 分 (2 シフト) ,BL7U 2014 年 9 月 10 日 10 時 – 18 時 30 分 (2 シフト) ,BL7U 2. 概要 蓄電デバイスの電極部材として重要な活性炭について、価電子帯 XPS およ び XANES スペクトルと第一原理計算との組み合せによる、キャラクタリゼ ーションを行った。5種類の活性炭のデータから、多変量解析を用いて特徴を 抽出した結果、賦活方法や出発原料によって炭素網面の発達状態や表面官能基 を特徴づけられる見通しを得た。 3.背景と研究目的 蓄電デバイスの電極活物質として用いられる各種炭素材料において、グラフ ァイト網面エッジ部の構造や官能基など、化学的性質の重要性が指摘されてい る [1]。しかし、構成元素のほとんどが C であり、かつ基本構造がいずれもグ ラファイト構造であるこれら炭素材料を、化学的観点から特徴づけることは難 しい。われわれはこれまでに価電子帯や非占有準位の電子構造から物質の化学 結合状態や構造情報を引き出すべく、価電子帯 XPS および XANES スペクト ルデータと第一原理計算を併用した検討を行ってきた [2]。本研究では、上記 炭素材料の代表的な物質である活性炭について、 価電子帯 XPS および XANES スペクトルと第一原理計算を組み合せることで、キャラクタリゼーションを行 うことを目的とした。 4.実験内容 出発原料や賦活法が異なる 5 種類の市販の活性炭 、A(木粉、水蒸気賦活)、 B(木粉、薬品賦活)、C(おがくず、塩化亜鉛賦活)、D(ピート炭、水蒸気 賦活①)、E(ピート炭、水蒸気賦活②)について、あいちシンクロトロン光 センターの BL7U にて価電子帯 XPS スペクトルを測定した。また、九州シン クロトロン光研究センターの BL12 にて C K 吸収端および O K 吸収端 XANES スペクトルを測定した。放射光実験に先立って、ラボ XPS を用いて各試料の 表面組成を求めた。その結果を表1に示す。 計算には平面波擬ポテンシャル法に基づく第一原理計算ソフト CASTEP (Accelrys 社)を用いた。グラファイトに O を含んだ官能基を導入したモデ ル、および水素終端したモデルを作成し、価電子帯のバンド構造を計算した。 また、注目する原子についてそれぞれに内殻空孔を導入して計算したエネルギ ーバンド構造をもとに XANES スペクトルを求めた。 5.結果および考察 Fig.1 に各試料の価電子帯 XPS スペクトルおよび C-K 殻吸収端の XANES スペクトルを示す。XANES スペクトルは 285eV 付近、292eV 付近の形状に 試料による違いがみられたが、価電子帯 XPS スペクトルは5試料とも極めて 類似したものであった。しかし、価電子帯 XPS スペクトルについて多変量解 析(主成分分析)を行ったところ、原料による違いと、O 含有量の違いにより スペクトル変化があることが示唆された(Fig.2)。 5試料のスペクトルのわずかな違いは、8eV 付近のメインピークの高エネル ギー側の広がりと、3~5eV のピークによるものと示唆されたため、第一原理 計算に基づくシミュレーションによる解釈を試みた。O を含む官能基およびエ ッジ部を考慮したグラファイト構造の計算結果を Fig.3 に示す。 Fig.3 より、8eV 付近のピークの広がりは、O を含む官能基に由来するもの と解釈できる。一方、3~5eV のピークは、グラファイト網面のエッジ部が少 ない(炭素網面が発達している)場合と、C=O が存在する場合の両方の可能 性が考えられた。 一方、XANES スペクトルの第一原理計算の結果、285eV ピークの低エネル ギー側のショルダーはグラファイトのエッジ部に対応すると考えられた。 これらの結果から、薬品賦活の B、C は O 含有官能基が多く、かつ、炭素網 面があまり発達していないものと解釈できる。一般に、薬品賦活の場合、水蒸 気賦活に比べて焼成温度が低いといわれており、このため、炭素網面が発達せ ず、O が残存するものと考えられる。 6.今後の課題 今回、出発原料や賦活方法の異なる活性炭について、構造の違いを特徴づけ られる見通しを得た。今後は蓄電部材としての性能との相関を明らかにすると ともに、Li がインターカレートした場合の化学状態の変化について明らかに していきたい。 7.参考文献 [1] H. Marsh: 活性炭ハンドブック, 丸善, 2003, p.73 [2] 室麻衣子、夏目穣、菊間淳、瀬戸山寛之、X 線分析の進歩, 45, 99 (2014).
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