アルミニウム鋳造品の高強度化技術 − HIP 処 理 に よ る 疲 労 強 度 向 上 と X 線 C T に よ る 欠 陥 評 価 − 藤井要* 谷内大世* アルミニウム合金鋳物は,車両軽量化のニーズから自動車部材等へ広く利用されている。今後さらに需要 を広げるためには,材料強度特性を向上させることが必要であり,そのため,内在する微少欠陥を抑制する こ と が 重 要 課 題 と さ れ て い る 。 鋳 造 欠 陥 を 押 し つ ぶ し 疲 労 強 度 を 向 上 さ せ る 目 的 で 用 い ら れ る HIP 処 理 は , 近年アルミニウム合金鋳物への適用が急速に進む技術の一つである。一方,欠陥の検査手法において,X 線 CT の 利 用 が 進 み , 製 品 内 部 の 微 少 な 欠 陥 の 位 置 と 大 き さ を 三 次 元 的 に 捉 え る こ と が 可 能 と な っ た 。 そ こ で , 本 報 告 で は , HIP 処 理 に よ る 欠 陥 抑 制 に 注 目 し , そ れ に よ る 疲 労 強 度 向 上 と X 線 CT に よ る 微 少 欠 陥 観 察 に 対 す る 有 効 性 の 検 討 を 行 っ た 。 そ の 結 果 , ① HIP 処 理 は 疲 労 強 度 を 大 幅 に 改 善 さ せ る こ と を 確 認 し た 。 ② ま た , 未 処 理 品 の X 線 CT に よ る 観 察 で は , 三 次 元 的 に 連 結 し た 収 縮 欠 陥 の 形 状 が 観 察 さ れ た 。 ③ そ れ に 対 し , HIP 処 理 品 の 収 縮 欠 陥 は , 観 察 領 域 全 体 に わ た っ て 抑 制 さ れ て い る こ と 等 が 明 ら か に な っ た 。 キ ー ワ ー ド : HIP, ア ル ミ ニ ウ ム 鋳 造 合 金 , X 線 CT Study on High Strength Al Casting alloy for the Machine Parts - Effects of HIP processing and Defects inspection by X-ray CT Kaname FUJII and Taisei YACHI Aluminum alloy casting is widely used in areas such as automobile parts in response to the trend of building lighter vehicles. To further increase its demand, it is important to increase its strength property. To do so, it is crucial to control its internal micro defects. HIP processing, used for the purpose of removing casting defects to improve fatigue strength, is one of the techniques whose application on Aluminum alloy casting has quickly advanced in recent years. As for detecting methods, X-ray CT has made it possible to grasp the location and exact size of internal micro defects in three dimensions. In this report, we focused on defect control by HIP processing, and examined the improvement in fatigue strength by HIP processing and its effectiveness to counter micro defects discovered by X-ray CT. The following results were obtained. (1)We confirmed that HIP processing greatly improves fatigue strength. (2)From X-ray CTs of nonHIP processed samples, we observed three-dimensionally connected micro-shrinkages. (3)In contrast, it has become obvious that the HIP processed sample’s micro-shrinkages have been controlled over the entire domain observed. Keywords : HIP, Al cast alloy, Xray-CT 1.緒 言 物は熱処理を行ってもその後の加工は行わないため, 近年,地球環境問題への対応から自動車を中心とし これら鋳造欠陥の多くはそのままミクロ組織中に残存 た輸送機器の軽量化の要求がある。その要求を満たす する。その結果,鋳造製品の疲労強度のばらつきや強 ため,エンジンとその周辺部分に,アルミニウム合金 度 低 下 が 発 生 し , 設 計 上 大 き な 問 題 と な っ て い る 1) 。 鋳物が強度部材として使用されはじめている。 その対策として,鋳造後の製品を高温高圧下で保持 強度部材として使用されるアルミニウム合金鋳物は, し , 空 隙 欠 陥 を 押 し つ ぶ す HIP処 理 が あ る 。 本 処 理 は 繰り返し応力がかかる状況にあるため,その疲労特性 Ni基 超 合 金 ( ジ ェ ッ ト エ ン ジ ン の タ ー ビ ン ブ レ ー ド ) を十分に確保することが重要である。しかしながら, への適用から始まり,近年では,アルミニウム合金鋳 鋳物は,凝固組織をそのまま用いるため,内部には気 物 へ の 適 用 が 進 ん で い る 2) ∼ 4) 。 ま た 一 方 で , 鋳 物 の 欠 孔,収縮孔等多くの鋳造欠陥を含んでいる。通常,鋳 陥 検 査 手 法 に お い て は , X線 コ ン ピ ュ ー タ ト モ グ ラ フ ィ ( 以 下 X線 CT) の 利 用 が 進 み , 内 部 欠 陥 の 位 置 と 大 * 機械金属部 -9- き さ を 三 次 元 的 に 捉 え る こ と が 可 能 と な っ て い る 5) 。 機械的性質及び組織観察のための試験片は,円筒鋳造 そ こ で , 本 報 告 で は , HIP処 理 を 施 し た 鋳 造 品 の 疲 労 材 中 心 部 よ り 削 り だ し , 平 行 部 直 径 8mmの 試 験 片 形 状 強 度 向 上 と そ の 欠 陥 抑 制 効 果 を , X線 CTを 用 い て 検 討 に 仕 上 げ た 。 平 行 部 の 表 面 粗 さ は , Ra=1.0μm±1μm した内容について報告する。 以 内 と し た ( 図 2)。 2.1 2 . 供試 材お よ び試 験方 法 2.2 材料 試 験 供試 材 引 張 り 試 験 は , ひ ず み 速 度 2mm/min, 伸 び の 測 定 は 実験に使用したアルミニウム鋳造材は,県内鋳造工 突 き 合 わ せ 法 で 行 っ た 。 ま た , 疲 労 試 験 は 3600rpmの 場 に お い て , 市 販 材 の JIS AC4B合 金 塊 を 溶 解 し , 改 小野式回転曲げ試験機を用い,室温下で行った。さら 良 処 理 剤 と し て Na を 添 加 し た 後 , 直 径 30mm , 長 さ に , 疲 労 破 断 原 因 の 特 定 の た め , SEMを 用 い て 試 験 片 200mmの 円 筒 形 状 に 砂 型 重 力 鋳 造 し た 。 こ れ ら 鋳 造 材 の破断面を観察した。 の 一 部 は , HIP処 理 材 と す る た め , 大 気 圧 の 室 温 か ら , 金属組織の観察は,試験片掴み部を切断,鏡面研磨 圧 力 と 温 度 を 98MPa及 び 500℃ ま で 加 圧 昇 温 し , そ の 後,エッチング処理をしないまま,金属顕微鏡で行っ 後 1.5時 間 保 持 し た 。 HIP処 理 材 と HIP処 理 を 施 さ な い た 。 ま た , 内 部 鋳 造 欠 陥 観 察 に は X線 CTを 用 い た 。 そ 鋳 造 材 の 両 共 試 材 は , 500℃ で 4時 間 の 溶 体 化 処 理 後 , の際,試料の撮影領域は試験片の平行部中心部の 60℃ の 温 水 中 に 焼 入 れ を 行 い , 180℃ で 4時 間 の 時 効 処 φ8mm×10mmと し た 。 CT像 の 撮 影 は , 試 料 を 回 転 し て 理 を 行 っ た も の を 用 い た ( 図 1)。 行われるが,撮影された初期画像には,回転中心にア ーティファクト(疑似画像)が現れる。そのアーティ 押し湯 ファクトを除くため,観察領域は撮影領域全てを用い 40 120 湯口 ず , 撮 影 領 域 の ほ ぼ 半 分 の 4.5×2.6×10mm の 領 域 と し た。 90 3.試験結果及び考察 3.1 円筒部 φ30 L=200 機械的性質 表 1 に , 引 張 強 さ , 伸 び , 硬 さ 値 を 示 す 。 HIP 処理材は鋳造材と比較して引張強さ,硬さの向上がみ られたが,伸びは減少した。強度向上の理由として, T6処理のみ(鋳造材) HIP処理+T6処理(HIP処理材) ① 欠 陥 抑 制 , ② HIP 処 理 時 の 高 温 熱 処 理 に よ る マ ト リ ックスの溶質と濃度の向上( 鋳 造 材 よ り も 長 時 間 溶 体化処理を施されたことになるため)による析出硬化 円筒部の芯部から試験片の切り出し 図1 共試材作成のフロー図 の促進が考えられる。②を検証するため,マイクロビ ッ カ ー ス 硬 度 計 で 空 隙 欠 陥 の 影 響 を 受 け な い αデ ン ト ラ イ ト 相 の 硬 度 を 測 定 し た 。 そ の 結 果 , αデ ン ト ラ イ R=15 25 平行部: φ8 L=15.4 ト 相 の 硬 度 は , HIP 処 理 材 は 134HV , 鋳 造 材 は 102HV と HIP 処 理 材 の 値 が 大 き か っ た 。 表1 機械的性質 φ12 30 鋳造材 mm 図2 試験片の模式図 HIP処理材 - 10 - 引張強さ (N/ mm2) 伸び (%) 硬さ (HRB) 223 228 287 266 2.9 2.7 0.9 0.5 63.3 62.7 70.7 72.9 最大曲げ応力 ,σa (MPa) 220 210 200 190 180 170 160 150 140 130 120 110 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 104 R(σmax/σmin)=-1 HIP材 鋳造材 収縮欠陥 (a) 105 106 a(Al)デンドライト 107 繰り返し数 ,Nf 図 3 回転曲げ疲労試験による疲労強度 鉄系晶出物 共晶(Si)群 :収縮欠陥 (b) 図5 光学顕微鏡組織写真 (a)鋳 造 材 (b)HIP処 理 材 結 果 を 図 4に 示 す 。 (a)鋳 造 材 は , 破 壊 起 点 部 , 及 び 破 断面に収縮欠陥がみられるものが多数存在した。それ (a) に 対 し , (b)HIP処 理 材 で は , 表 面 付 近 の 収 縮 欠 陥 が 観 察 さ れ る 例 は ほ と ん ど な く , 表 面 , も し く は 杉 山 ら 3) が 報 告 す る 共 晶 Si群 を 破 壊 起 点 と し て い る も の と 考 え られる。 3.2 欠陥 の 観察 図 5 に , 鋳 造 材 , HIP 処 理 材 の 金 属 顕 微 鏡 組 織 写 真 を示す。金属顕微鏡写真には,白色のコントラストと し て み ら れ る α( Al) デ ン ド ラ イ ト , 灰 色 の コ ン ト ラ ス ト と し て 共 晶 ( Si) 群 及 び 若 干 そ れ よ り 濃 い 灰 色 の (b) コントラストとして鉄系晶出物が観察される。共晶 図4 破 壊 起 点 部 の SEM観 察 ( Si) を さ ら に 高 倍 率 で 観 察 し た と こ ろ , 両 共 試 材 に (a)鋳 造 材 (b)HIP処 理 材 お い て , 共 晶 Siが Naの 改 良 処 理 に よ り 丸 み を 帯 び て 微 細化されていることが確認できた。 硬 度 上 昇 の 理 由 に HIP処 理 時 の 高 温 熱 処 理 に よ る 時 ま た , (a)鋳 造 材 に は , 黒 色 の コ ン ト ラ ス ト と し て み 効硬化促進の影響が考えられるが,詳細を把握するに られる微細な空隙欠陥が多数観察されるのに対し, はマトリックス中の析出物の分布を確認する必要があ (b)HIP処 理 材 で は , 空 隙 欠 陥 は ほ と ん ど 観 察 さ れ な か る 。 次 に , 回 転 曲 げ 疲 労 試 験 の 結 果 を 図 3に 示 す 。 った。空隙欠陥の形状は,デントライト間の隙間を埋 HIP処 理 材 は 鋳 造 材 と 比 較 し て , 疲 労 限 度 が 約 70MPa める形で存在しているため,球状形状を呈して発生す 改 善 さ れ て い た 。 さ ら に , 試 験 片 の 破 断 面 の SEM観 察 るガス欠陥とは異なる収縮欠陥であると確認できた。 - 11 - な 形 状 で 三 次 元 的 に 観 察 さ れ た 。 本 研 究 で 用 い た CT の 画 素 ( 分 解 能 ) は 10μm程 度 で あ り , そ れ 以 下 の 大 きさの微小欠陥は,検出限界を下まわるためコントラ ス ト と し て 確 認 で き な い と 考 え ら れ る が , (b)の HIP処 理材に関しては,明白な収縮欠陥を示すコントラスト が確認できないことから,欠陥が抑制されていること が明らかとなった。 4.結 言 ア ル ミ ニ ウ ム 合 金 鋳 物 AC4B に つ い て , HIP 処 理 に よる疲労強度改善効果を金属組織中の欠陥根絶の観察 により検討した結果以下のことがわかった。 (1)HIP処 理 に よ り 疲 労 強 度 が 大 幅 に 改 善 さ れ る 。 (2)疲 労 試 験 片 の 破 壊 起 点 部 を 観 察 し た 結 果 , 鋳 造 材 (a) は,収縮欠陥が破壊起点部に確認されたのに対し, HIP処 理 材 で は 観 察 さ れ な い 。 (3)X線 CT 装 置 に よ り 試 験 片 内 部 収 縮 欠 陥 を 観 察 し た ところ,デントライド間隙の形状を呈した収縮欠陥 の 三 次 元 的 形 状 が 観 察 で き た 。 ま た , HIP処 理 材 は 収縮欠陥が観察領域全体にわたって抑制されている。 謝 辞 本研究を遂行するに当たり,貴重なサンプルを提供 頂きました谷田合金㈱の皆様に感謝します。 参 考 文献 1) 小 林 俊 郎 編 著 .「 ア ル ミ ニ ウ ム 合 金 の 強 度 」 . 内 田 老 鶴 圃 , p.195. (b) 図6 X線CT像 (a)鋳 造 材 (b)HIP処 理 材 2) 真 鍋 康 夫 , 小 舟 恵 生 , 米 田 慎 , 藤 川 隆 男 . ア ル ミ 専 用 HIP 処 理 装 置 の 開 発 . 神 戸 製 鋼 技 法 , 2004, vol.54, No.3, p.73. さ ら に , こ れ ら 金 属 組 織 写 真 を 用 い , DASⅡ ( デ ン ド ライト二次アーム間隔)の測定を行った。一般的に, 3) 杉 山 好 弘 , 水 島 秀 和 . ア ル ミ ニ ウ ム 合 金 AC4CHの DASⅡ が 微 細 化 す る ほ ど 疲 労 特 性 が 向 上 す る こ と が 知 疲労強度に及ぼす欠陥の影響と疲労限度評価. 鋳 1) 造 工 学 . 1996, 第 68巻 , 2号 , p.118. られているが ,今回の両共試材に関しては,いずれ の DASⅡ も , 50μm±5μm以 内 と ほ ぼ 同 じ で あ る こ と か 4) Wang, Q.G., Apelian, D., Lados.D.A.. Fatigue behavior ら , 両 材 を 疲 労 強 度 で 比 較 す る 上 で , DASⅡ の 影 響 は of A356-T6 aluminum cast alloys PartⅠ . Effect of 少ないと考えられる。 casting defects. Journal of Light Metals, 2001, 1, p.73-78. ま た , 図 6は (a)鋳 造 材 (b)HIP処 理 材 の X線 CT像 で あ る 。 (a) 鋳 造 材 に お い て , 白 い コ ン ト ラ ス ト で 収 縮 欠 5) 藤 井 正 司 . X線 透 過 法 と CTに よ る 内 部 検 査 . 検 査 技 陥が観察領域全体でみられた。収縮欠陥は,空隙が連 結し,かつ,デントライド間隙の形状を反映した鋭利 - 12 - 術 10月 号 , 2007, p.62-69.
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