今すぐ始めるリハビリテーション

ランチョンセミナー 2 - 11
今すぐ始めるリハビリテーション
― 日々の診療で取り入れるために ―
Kayo NAGASAKA
協賛:ベッツペッツ(㈱Ⅴand P)
は じ め に
小動物臨床においてリハビリテーションが注目さ
れ始めて久しいが、実際に行っている病院、獣医
タッフ全員がどのように関わっていけるかという視
点から、動物リハビリテーションを紹介していきた
いと思う。
1. リハビリテーションと理学療法
師は思っているより少なく増えている様子もあまり
ないという印象が拭えない。小動物臨床でリハビ
リテーションが取り上げられる切っ掛けとなった
のは、2008 年 5 月にインターズー主催で行われた、
日本大学の枝村一弥先生による「犬や猫におけるリ
ハビリテーション医療の実際」が最初に開催された
セミナーだと思う。当時はとても沢山の参加者がい
現在、リハビリテーションと理学療法は同義語の
ように扱われていることも多いが実際は違うもので
ある。
リハビリテーションの語源は re(再び)+ habilis
(適した)で、
「再び適した状態になること」
、
「本来あ
たが大半が看護師だったと記憶している。リハビリ
テーション専門診療を開始して 4 年目になるが、飼
い主からのニーズは日々高まっておりまた、看護科
でのリハビリテーションの取り入れは年々多くなっ
ている。しかしながら、獣医師サイドでの広がりは
まだまだ不十分であるのが現状ではないかと感じて
いる。
現在までいろいろなリハビリテーションセミナー
るべき状態への回復」などの意味を持ち社会復帰全
般にかかわる。一方、理学療法(Physical Therapy)は病気・けが・高齢・障害などによって運動機
能が低下した状態に対し運動機能の維持・改善を目
的に物理的手段を用いて行われる治療法でありリハ
ビリテーションの一つとして存在する。そしてリハ
ビリテーションには理学療法・作業療法・言語療法
の 3 種類があり人医療界ではそれぞれに専門家が存
を行ってきた中で、リハビリ=医療ということを毎
回話してきた。医療である以上、獣医師の診断のも
とに全てが行われるべきであり、定期的な再診を行
在している(理学療法士、作業療法士、言語聴覚士)
。
現在小動物臨床では整形疾患、神経疾患において
リハビリを行うことが多い。確かに身体機能を改善
いプログラムが正しいか否かを確認しなければなら
ない。そして、小動物臨床でのリハビリテーション
の対象はほとんどが整形、神経疾患であるためこれ
させることが目的であが、動物リハは患者自身の意
志で治療を進めていく訳ではないため(これは動物
医療共通であるが)
、楽しみながらストレスをかけ
を大前提に話を進めてきた。
しかしながら、本来リハビリテーションという言
ずに快適な生活へと戻していく、飼い主の負担を減
らすなどが目的の一部であることを考えると小動物
葉は「本来あるべき状態への回復」という意味を持
ち、身体機能のみならず精神的なものなど全ての機
能回復を含んでいる。
臨床での「リハビリテーション」の対象は患者・飼
い主の両方になるように思う。
今回はこれをふまえて、獣医師をはじめとしたス
1)
D&C Physical Therapy:〒 166-0012 東京都杉並区和田 3-60-10
第 35 回動物臨床医学会 (2014) 225
ランチョンセミナー2
長 坂 佳 世 1)
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2. 患者との関わり
4. 内科治療のリハビリテーション
リハビリテーションの利点の一つにオーナー参加
型治療が挙げられる。生活の場である家庭での散歩
や食事などの管理は飼い主主導で行うため治療の中
でとても大きなウェイトを占める。飼い主が毎日無
様々な理由から手術を選択できなかった場合、手
術適応ではない場合などの内科治療は問題を抱えた
まま生活をするということになり、外科治療よりも
リハビリテーションが重要になる。まず体重管理が
理なく続けられるプログラム作成、食事管理のアド
中心になることが多く、飼い主の意識改革も必要に
バイスなどが基本である。
また生物の基本である「食べる」
「排泄する」の管
なるためひとつひとつ丁寧にアプローチをし、ゴー
ルがほぼない状況が多いためモチベーションを維持
理を入院中中心になって行うのは看護士である。し
かし、残念ながら看護科を含め、看護士達(もち
する事が必要となる。
ろん獣医師も)が実際に興味を示すものは「水中ト
レッドミル」などの理学療法の中でも大掛かりで派
さ い ご に
手なものである印象が未だに強い。また、看護士に
リハビリの全てを任せてしまう状況もまだ続いてい
動物リハビリテーションの広がりが滞っているよ
うに感じるが、特別な機材がなければできないもの
るようである。
日常診療の中で入院管理を看護士に任せるあるい
でも、これをそろえてからでないとというものがな
く、実際は今までの診療の中で普通に行ってきたこ
は看護士主導で行う病院は多いと思う。食欲はある
か、元気はどうか、排泄はきちんとできているか。
これらを基本とした入院管理はリハビリテーション
とが大半を占める。それらをあえて飼い主に伝える。
そんなちょっとしたことがリハビリ診療の第一歩に
なり、決して大掛かりではないことが中心であり一
の基本であり、食事をとらなければ工夫して食べさ
せる。後駆麻痺で排泄したまま動けないようであれ
ば、瀕回に様子を見て床替えをし、尿やけができな
いように管理をする。今まで特に意識せず、当然の
ことだと思っていたこれらの事は「あるべき姿への
回復」の第一歩であり、言い換えれば看護士達はす
番大事だということを伝えられたらと思う。
参 考 文 献
1)Barbara Bockstahler, David Levine, Darryl Millis: Essential Facts of Physiotherapy
でにリハビリテーションにしっかりと係わってきて
in Dogs and Cats, Rehabilitation and Pain
いるということになる。
当然ながら獣医師は全てに責任を負う義務があ
る。
Management
2)David Levine, Darryl L. Millis, Denis
J.Marcellin-Little, Robert Tayler: Rehabilita-
看護士をリハビリテーションの中心に据えるな
ら、主体性と責任を持たせるべきだが、主導権は獣
医師が持たなければならない。
3. 外科治療後のリハビリテーション
外科治療後に共通する事項は、覚醒前のアイシン
グである。もちろん、麻酔リスクが高い症例ではそ
ちらを優先させるが、特に整形疾患の手術後にアイ
シングを導入してから患肢の接地開始までの期間が
短くなったと実感している。また、アイシングはど
の手術後にも適応できる。特に広範囲の乳腺腫瘍の
摘出や断脚などで行うと術後の浮腫、疼痛が抑えら
れる。
そして、もう一つの共通事項であり、最重要事項
は手術部位を破綻させないことである。皮膚の縫合
部の感染からインプラントの破綻まで、外科治療を
阻害することは決して行ってはいけない。
226 第 35 回動物臨床医学会 (2014)
tion and Physical Therapy, Vet Clin North
Am Small Anim Pract , November (2005)
3)Darryl L. Millis, David Levine: Canine Rehabilitation and Physical Therapy, SECOND
EDITION, Elsevier (2014)
4)Matthews, K.A., Pain assessment and general approach to management, Management
of Pain, Vet Clin North Am Small Anim
Prac t, 729-755, July (2000)
5)Steven M Fox, Darryl Millis: MULTIMODAL
MANAGEMENT of CANINE OSTEOARTHRITIS, MANSON PUBLISHIG (2010)
6)Todd L. Towell: Practical Weight Management in Dogs and Cats. WELEY-BLACKWELL.