研究室ゼミ合宿 ミクロ経済分析 第5章 修士1年 壇辻 貴生 第5章 一般均衡理論と厚生経済学 第5章 概要 • 第2章は、単一市場の経済理論であった.問題となっている財の価格 以外の全ての価格は変化しないと仮定されている部分均衡モデル. • 一般均衡モデルでは、全ての価格が変数.均衡においてすべての市場 の需給が一致してなければならない. – 個々の市場の機能だけなく、市場間のあらゆる相互作用が考慮される. • 本章では、最初に一般均衡モデルの特殊ケースである、すべての経 済主体が消費者である純粋交換のケースを検討する. 第5章 概要 -純粋交換経済の設定 • いまn人の消費者が存在し、各消費者は、初期にある量のk個の財* を保有していると想定する. • 第i主体の初期賦存量(ふぞんりょう)は、k次ベクトルWiで表され る. • そこで、各経済主体は、自らの選好の最大化を目指して、彼らの間 で取引を行う. *財の概念は幅広い. 時間、場所、そして世界の状態によって区別できる. 労働用役のような用役もひとつの財と考えることができる. その財の価格が決定される市場が存在すると仮定される. 5.1 経済主体と財 • 純粋交換モデルでは、経済主体の種類は消費者のみである. • 各消費者iは、 ① 彼の選好(あるいは効用関数ui) ② k個の財の初期賦存量Wi によって完全に描写される. • 各消費者は競争的に行動すると仮定する. →価格が自らの行動とは独立に与えられると考える. • 消費者の目的は選好の最大化である. 5.1 経済主体と財 一般均衡理論の基本的な問題 財が経済主体間にどのように配分されるか. • 第i経済主体の消費ベクトル xi(k次ベクトル) →第i主体がk個の財をどれだけ消費するか. • 第i主体が消費する第j財の量 xij • 配分 x = (x1・・・xn) →n個の消費ベクトルの集まり = n人の経済主体がそれぞれ消費す るもの • 純粋交換の場合、単に全ての財を使い尽くす配分 n n ∑ x = ∑W i t=1 i t=1 となる. 5.1 経済主体と財 -エッジワース・ボックス • 配分、選好および初期賦存量を2次元のかたちで示す便利な方法が ある.(エッジワース・ボックス) n 存在量W1とW2の2つの財 n 2人の経済主体 実行可能な配分、ボックス内の 一つの点で表せる. p 第1経済主体が2つの財をそれぞれどれだけ保有しているかを図中 に描く事ができる. (第2経済主体も自動的に決定) p あらゆる実行可能な配分は ボックス内で表せる. 各経済主体の無差別曲線も描ける 5.2 ワルラス均衡(Walrasian equilibrium) • 多数の経済主体が存在するときには、各経済主体は市場価格を自 らの行動とは独立なものとして仮定できる. • 純粋交換という特別な場合を考えてみる. • ある市場価格のベクトルp = (p1・・・pk) がある. – pi は第i財の価格を指す. • 各消費者は、これらの価格と自らの消費集合から最も望ましい財の 組み合わせを選択する. 5.2 ワルラス均衡(Walrasian equilibrium) max u(xi ) s.t. p ⋅ xi = yi = p ⋅Wi • 各消費者はあたかも上記の問題を解いているかのように行動する. • この問題の解 xi(p, p・Wi)は、消費者の需要関数に他ならない.第3 章でも扱ったが、ここでは消費者の所得は各自の初期賦存量の価値 なので、所得がpに依存する部分が異なる. 5.2 ワルラス均衡(Walrasian equilibrium) • W x ( p, p ⋅W ) ∑ ∑ もちろん、望まれた需要の総計 と総供給量 t i i が 等しくない可能性もあるため、任意の価格のもとでは、希望通りの 取引を行うのは不可能. t t • そこで、すべての市場の需給を一致させる価格ベクトルp*は存在す るのか? 一致は強過ぎる条件である場合があるので、ワルラス均 衡では、以下の式を満足する(p*, x*)であると定義されることが多い. * * * x = x ( p , p ⋅Wt ) ≤ ∑Wt ∑t ∑t t t t • 正の超過需要を伴う財が存在しないとき、p*はワルラス均衡である. 5.3 ワルラス均衡の図解 • ワルラス均衡は、エッジワース・ボックスを用いて図解できる. • 価格が与えられると、各経済主体の予算線が決まり、予算線と無差別 曲線が接するという条件から需要ベクトルが決まる.各経済主体は自ら の予算線上で選好を最大化しており、これらの需要は利用可能な総供 給と釣り合っている. • 無差別曲線の接する点がワルラス均衡 →選好が最大化されると、各限界代替率 は共通の価格比と等しくなる必要がある. • 均衡のもう1つの描写方法 – オッファー曲線 需要ベクトルの集合なので、エッジワース・ボックスにおける均衡は、 各経済主体のオッファー曲線が交わる点に他ならない. 5.4 ワルラス均衡の存在 -存在問題の事実 • すべての市場で需給を一致させる価格は常に存在するのか? ワルラス均衡の存在問題について説明していく. • まずは、この存在問題に関する事実に注目する すべての価格に任意の正の定数をかけても予算集合Btは変化しない 各消費者の需要関数は、 xi ( p, p ⋅Wi ) = xi (kp, kp ⋅Wi ) という性質をもつ. つまり、需要関数は価格に関してゼロ次同次である. 総超過需要関数 z( p) = x ( p, p ⋅W ) − W ∑ i i i ∑ i i も価格についてゼロ次同次である. ・全ての個別需要関数が連続であれば、zは連続関数である. 5.4 ワルラス均衡の存在 -存在問題の事実(相対価格) • つまり、価格を基準化し、需要を相対価格の関数として表すことが できる.それぞれの絶対価格pi を、基準化した価格 pi = k pi ' で置 き換えると便利である. ∑ pj ' j=1 • これにより、相対価格の総和は常に1になり、k-1次元の基本単位 k S k−1 = {p ∈ R+k : ∑ pi = 1} t=1 に属する価格に注目するだけでよくなる. 5.4 ワルラス均衡の存在 -存在問題の事実(ワルラス法則) • 超過需要関数はワルラス法則という性質を持っている. ワルラス法則 Sk-1に属する任意のpについて、p・z(p)=0 が成立する.つまり、超過需 要の価値は恒等的にゼロである. ↑もし各経済主体が予算制約を満たしており、個人の超過需要の価値 がゼロであれば、超過需要の総計はもちろんゼロでなければならない. (証明) xi ( p, p ⋅Wi ) は第i経済主体の予算集合 Bi = {x ∈ R k : p ⋅ x = p ⋅Wi } p ⋅ z( p) = p ⋅ (∑ xi ( p, p ⋅Wi ) − ∑Wi ) = ∑ ( p ⋅ x( p, p ⋅Wi ) − p ⋅Wi ) 総超過需要関数 =0 総供給量 望まれた総需要 に属するから 5.4 ワルラス均衡の存在 -存在問題の事実(自由財) • あるp >> 0 のもとでk-1個の市場が均衡すれば、残りの一つの市場 も均衡するというのがワルラス法則の一つの解釈である.また、ワル ラス法則から得られるもうひとつ重要なものがある. 自由財 p*がワルラス均衡であり、zj(p*)<0であれば、pj*=0となる.つまり、ワ ルラス均衡においてある財が超過供給であれば、その財は自由財でな ければならない. (証明) p*はワルラス均衡だから、z(p*)≦0であるので、 p *⋅z( p*) = ∑ p *i zi ( p*) ≤ 0 もし、 z j ( p*) < 0 かつ p *j > 0 となり、ワルラス法則に矛盾する. だと、 p *⋅z( p*) < 0 5.4 ワルラス均衡の存在 -存在問題の事実(需給の一致) 望ましさ i = 1,…,kに対して,pi=0であればzi(p)>0となる.つまり、ある価格がゼロ であれば、その財に対する総超過需要は強く正になる. 需要と供給の一致 すべての財が望ましく、p*がワルラス均衡とすれば、z(p*)=0である. (証明) zi(p*)<0 であるとする.自由財の命題より、pi*=0である.しかし、この時,望ましさの仮定 よりzi(p*)>0 となるから矛盾が生じる. 5.4 ワルラス均衡の存在 -事実まとめ • 以上の結果をまとめると、 ü どの財にも超過需要が存在しないということが一般に均衡に必 要な条件の全てである. ü しかし、前述の命題では、ある均衡において超過供給が存在す れば、その財の価格はゼロでなければならないことを意味して いる. ü よって、価格がゼロのときには、超過需要が存在するという意 味で各財が望ましい場合には、均衡においてすべての市場で需 給が一致する 5.4 ワルラス均衡の存在 • すべての市場をクリアするp*は存在するか? • 均衡の存在に関する基本的な証明では、ブラウワーの不動点定理が 用いられる. ブラウワーの不動点定理 f: Sk-1→Sk-1が基本単体からそれ自身への連続関数であるとすれば、x=f(x)となるxがSk-1に存在する. • これらより、p*の存在を表す定理が証明される. 定理 z: Sk-1 → Rkが連続であり、p・z(p)=0 を満足すれば、z(p*)≦0となるp* が存在する. 定理の一般的な性質:超過需要関数がワルラス法則を満たし,連続であ ることが必要とされる 5.5 ワルラス均衡の厚生の性質 • 次の定義を考える. 実行可能な配分xは、すべての経済主体がxよりも選好する実行可能な 配分x が存在しないとき、パレート効率的配分であると言う. パレート効率性 全員の厚生が少なくとも低下せず、かつ少なくとも1人の経済主体の 厚生が増大するような実行可能な配分が存在しない. 5.5 ワルラス均衡の厚生の性質 -エッジワース・ボックスにおけるパレット効率 • パレート効率的配分は、エッジワース・ボックスの中に描くことが 出来る. • 1人の経済主体の無差別曲線の上で、もう一方の経済主体が最大の 効用を達成する点を見つければいい.パレート効率的な点は、2つの 財の限界代替率が2人の経済主体の間で等しくなるという接点の条 件によって特徴づけられる. • パレート効率点の集合は、図に描かれ ている接点の軌跡である. 5.5 ワルラス均衡の厚生の性質 ‒厚生経済学の第1定理 ワルラス均衡の集合とパレート効率的配分の集合は1対1の対応関係が あるように見える. 定理(厚生経済学の第1定理) (x,p)がワルラス均衡であれば、xはパレート効率的である. (証明) そうでないと仮定し、全ての経済主体がxよりも選好する 実行可能な配分x があるとする. ワルラス均衡の性質より、p ⋅ xi ' > p ⋅Wi 足し合わせると、実行可能性の定義より、p ⋅ ∑Wi = p ⋅ ∑ xi ' > p ⋅ ∑Wi となり、矛盾. 5.5 ワルラス均衡の厚生の性質 -効率的配分とワルラス均衡の関係についてさらなる検討 • ある任意の効率的配分を実現するために市場メカニズムの利用は可 能か? 定理(厚生経済学の第2定理) x*はx*i>>0となるパレート効率的配分であり、さらに選好は凸、連続 かつ単調である時、初期賦存量Wi=x*iのもとでx*はワルラス均衡とな る. 5.5 ワルラス均衡の厚生の性質 -厚生経済学の第2定理からわかる定理 定理 x*がパレート効率的配分であり、さらに選好は非飽和であるとする.さ らに、初期賦存量がx*であるときに競争均衡が存在し、それが(p , x ) で与えられたとする.その時、実際には(p , x*)が競争均衡になる. (証明) 各消費者についてx*iは実行可能であるように定められているため、x i≧x*iでなければな らない.x*はパレート効率的であるので、x i = x*iを意味する.よって、x iは予算集合上で最 大の効用を与え、つまり、x*iも最大の効用を与えるので、(p , x*)はワルラス均衡である. • つまり、パレート効率的配分の元で競争均衡が存在すれば、そのパ レート効率的配分そのものが競争均衡となる. 5.7 厚生の最大化 ‒社会的厚生関数の仮定 • パレート効率性は効率だけにかかわるもので、厚生の分配について は何も言及していないため、どのパレート効率的配分を実現すべき か? • 何らかの社会的厚生関数の存在を仮定する.つまり、個人の効用の 分配(u1,…,un)から「社会的効用」W(u1,…,un)を生み出す関数を仮 定.(Wは各変数について増加関数) • つまり、 max W(u1(x1),…,un(xn)) s.t. Σxil≦Wl l = 1,…,k という問題の解となるような配分x*を選択する. 5.7 厚生の最大化 ‒社会厚生とパレート効率 • 次の命題が、単調性の仮定より得られる. 命題 x*が社会厚生を最大化すれば、x*はパレート効率的である. (証明) もし、x*がパレート効率的でないならば、ui(xi )> u(xi*) となる実行可能な配分x が存在する.し かし、そのときは、x*は社会厚生を最大化してないことになる. • 上の命題より、厚生を最大化する点は、パレート効率的配分と同一の1 階の条件が成立する. Du (x *) = p i i • 凸性の仮定のもとでは、すべてのパレート効率的配分は競争均衡であ るので、厚生の最大点についても成立する. • つまり、厚生を最大化する全ての点は、ある初期賦存量の分配のもと で競争均衡になる. 5.7 厚生の最大化 ‒社会厚生と競争価格 • これらの事実より、競争価格を別の見方で解釈が可能になる.つま り、厚生の最大化問題のクーン=タッカー乗数が競争価格に他なら ないということである. • したがって、競争価格は実際には財の(限界)社会価値、すなわち、 財がもう1つ増えた時に、厚生がどれだけ増大するかを測っている ことになる. 5.7 厚生の最大化 ‒社会厚生と競争価格 • 全ての厚生最大化点はパレート効率的だが、その逆も成立する. 命題 x*をxi*>>0であるパレート効率的配分とし、効用関数uiは凹、連続か つ単調な関数であるとする.すると、資源の制約のもとx*がΣai*ui(xi)を 最大にするようなウエイトai*を選ぶ事ができ、ai*=1/λi*となる. (証明) (λi*:所得の限界効用) x*はパレート効率的であるから、ワルラス均衡である.よって、各経済主体が自らの予算集合上で最 * 大化を実現する価格pが存在する.つまり、Dui (x*) = λi p を意味する. 次に、厚生最大化問題 max Σaiui(xi) s.t. Σxil ≦Σxi*1 : Σxil ≦Σxi*k を考える. 制約条件つきの凹関数の最大化問題に対する十分条件より、aiDui(xi*)=q となる非負の数(q1, …,qk)=q が存在すれば、x*は上の問題の解である.ここで、ai=1/λi とすると、pがその非負の数の役 割を果たす事になり、定理が証明された. 5.7 厚生の最大化 ‒まとめ • 市場均衡、パレート効率的配分、そして厚生の最大化の間の関係を まとめる. a. 競争均衡は常にパレート効率的である, b. 凸性の仮定と初期賦存量の再配分のもとで、パレート効率的配分 は競争均衡になる. c. 厚生の最大化は常にパレート効率的である. d. 凹性の仮定のもとでは、厚生のウエイトのある選択に対して、パ レート効率的配分は厚生の最大化をする. • 競争市場システムは効率的配分をもたらすが,分配に関しては何も 述べない.
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