機械実習工場におけるヒヤリハット事例の収集と安全対策について - 平成26年

機械実習工場におけるヒヤリハット事例の収集と安全対策について
佐世保工業高等専門学校 ○久保川洋幸,久保淳一,樋口章礼,光安清次郎,
別良政,永田和也,福田孝之,中江道彦
1.はじめに
高専教育は,理論だけではなく実験・実習にも重点
を置き,豊かな創造性と実践力の育成を行っている.
機械実習工場は,その重要な教育場として1~3
年の工作実習や,卒業研究,ロボットコンテスト,自
動車部,そして製作・修理依頼の対応などで,学生や
教職員が頻繁に使用している.
しかし旋盤やフライス盤などの工作機械や,工具類
の使用には危険を伴う作業も多く,事故や怪我が実
際に発生している.これまで我々は様々な安全対策
に取り組んできたが,新たな安全対策の一環として
平成24年度よりヒヤリハット報告書の記入を開始
した.ヒヤリハット事例を収集し,集計・検討するこ
とで更なる安全対策を行うのが目的である.本報告
は平成24,25年度のヒヤリハット報告書から対
処してきた安全対策とその効果について報告する.
2. ヒヤリハット報告書の書式
ヒヤリハット報告書の書式については,民間の工
場へ見学に行き,実際に使用されているヒヤリハッ
ト報告書の内容や掲示の仕方なども参考に表 1 に示
すように発生日時,場所,機器,当事者などの基本デ
ータの他に,状況,処置,原因,再発防止法など,様々
な用途に使用できるように各項目記述式とした.事
例が生じた時は,作業終了後直ちに報告書を作成さ
せるようにし,小さな怪我もすべて記入することと
した.
3. 事例集計
平成 24,25 年度のヒヤリハット報告書を集計・検
討した.事例件数は両年とも 33 件であった.
図 1 は作業種別の事例件数を表したものである.
機械工学科 1 年,電子制御工学科 2 年の事例が他に比
べて少ない.これは表 2 に示すように,両者の実習授
業時間が少ないためと,初めての実習でもあるので
簡単な基本作業が多く,また学生も慎重に作業を行
っているためと考えられる.それに対して機械工学
科の2年と3年の事例が多いのは,実習時間が多く,
作業内容の複雑化,作業に対する慣れからの油断が
原因と考えられる.
図 2 は使用機器別の事例件数を表したもので,旋
盤とフライス盤の事例が多い.これは授業や授業以
外の卒業研究やロボコン製作などでも使用頻度が高
いからである.また仕上げも比較的多くなっている
が,これは手作業のため,すり傷等が発生しやすいた
めである.
図 3 は被害種別の事例件数である.切り傷などの
怪我が一番多く,次いで工具の破損事例が多くなっ
ている.
表 1 ヒヤリハット報告記述内容
項目
記述内容
基本データ 発生日時、使用機器、当事者(学年、職名)
状況
何を、どのようにして、どのようになって
どうなった、破損した工具・機械はあるか
処置
処置・対応
原因
なぜそうなったか
再発防止
どうすれば防げたか
表 2 実習授業における事例件数と授業時間(hr)
件数
H24
授業時間
件数
H25
授業時間
機械1年
1
30
0
30
機械2年
10
90
10
90
機械3年
4
90
9
90
電子制御2年
1
45
1
45
作業種別
図 1 作業別事例件数
【連絡先】〒857-1174 長崎県佐世保市沖新町 1-1 佐世保工業高等専門学校 技術室第三班
久保川洋幸 TEL:0956-34-8424 FAX:0956-34-8424 e-mail:[email protected]
【キーワード】機械実習,安全対策,ヒヤリハット
4. 事例の内容とその対策
表 3 は事例の具体的内容とその原因ならびに処置
した対策を示す.原因別に分けると,作業前の確認不
足が原因で,工具やワークなどの破損が大半を占め
ている.次いで,ヤスリなどの工具を使用する際に,
力が入りすぎたため手が滑り怪我する事例も多い.
その他にはきりこの飛散,共同作業中における互い
の確認不足による怪我などの事例もある.
作業種別で分けると,旋盤とフライス盤で起きた
事例の原因は多くが確認不足である.ワークの締め
付け不足や送り方向のミスなど,作業前の確認を怠
ったために,工具の破損や機械類の破損など危険度
の高い事例が発生している.対策として指差呼称の
徹底と,作業前の説明の際に具体的に危険性を指導
するようにした.次いで工具での切り傷,きりこの飛
散による火傷の事例も多い.対策として,測定や工具
の交換の際に手などを工具で切らないように,加工
中以外は工具カバーをバイトやエンドミルに取り付
けるようにした.きりこの飛散の対策として旋盤で
はカバーを製作し,作業者へのきりこの飛散を防ぐ
ようにした.作業者以外への飛散を防止するために
衝立なども常備し適宜用いる事とした.
仕上げと鋳造では作業の多くを手作業で行う.その
ため手が滑り怪我する事例や,タップや組ヤスリを
折るなどの事例が発生している.しかし力加減に関
する説明や指導は,能力など個人差もあり難しい.対
策として作業別に起こりうる事例を事前に説明し,
安全に作業ができる方法を指導するようにした.
溶接では火傷の事例が発生している.炭酸ガス溶
接中に飛散する火の粉や,溶接後の製品に素手で触
れたのが原因である.対策として炭酸ガス溶接作業
の際は頭巾を装着し,火の粉を防ぐようにした.熱を
帯びた物を扱う場合は,作業前に必ず火傷の危険性
を指導し,さらに注意喚起の掲示物を作業者の見え
る位置に掲示した.
5. おわりに
ヒヤリハット報告書は,今後安全に作業を行うた
めに必要な取り組みであることを確認できた.他の
安全対策の取り組みとして毎年4月に学生と教職員
を対象に作業の危険性を学ぶ安全教育を実施してい
る.ヒヤリハット報告書を含め、安全対策は技術者教
育としても有効だと感じている.今後も安全対策へ
の努力を続けていきたい.
図 3 被害種別の事例件数
図 2 使用機器別の事例件数
表 3 事例の具体的内容と対策
(a) H24 年度
事例
旋盤作業中にテーブルとチャックが接触(確認不足)
旋盤でのねじ切り加工の際切り込み過ぎてワークが折れた
旋盤
きりこ飛散によるやけど
送りの操作ミスによる工具破損(フライス盤)
フライス盤 停止中のエンドミルで手を切った
きりこ飛散によるやけど
溶接作業中に熱くなった鉄板でのやけど
溶接
タップを折る
仕上げ
力加減がわからず、組ヤスリを折った
鋳造
造型作業中に力みすぎて手の皮が切れた
NC機械類 NC旋盤での操作ミスでチャックにバイトが接触
その他 重量物を運ぶ際に挟まれ怪我をした
作業種別
被害種別
機械破損
ワーク破損
怪我
工具破損
怪我
怪我
怪我
工具破損
工具破損
怪我
機械破損
怪我
原因
確認不足
確認不足
その他
確認不足
確認不足
その他
確認不足
力加減
力加減
力加減
確認不足
確認不足
対策
作業前に注意
被害種別
機械破損
怪我
機械破損
工具破損
工具破損
その他
怪我
怪我
工具破損
怪我
工具破損
工具破損
怪我
原因
確認不足
力加減
確認不足
確認不足
確認不足
確認不足
その他
確認不足
力加減
力加減
確認不足
確認不足
確認不足
対策
作業前の確認
刃物カバーを装着
カバーを使用
刃物カバーを装着
注意を呼びかける
重量の確認の徹底
(b) H25 年度
事例
旋盤作業時のチャックと刃物台の接触
旋盤
工具の取り付けの際に手を滑らせて切り傷
送りがかかっているのに気付かずにバイスと刃物が接触
フライス盤 回転方向が逆回転になっていた(刃物の摩耗)
締め付け不良によりミーリングチャックの落下による工具破損
ボール盤 油さしノズルがドリルに巻き込んだ
溶接中に火の粉が飛散し火傷
溶接
熱を帯びた物を触ったことによる火傷
タップが折れた(力加減のミス)
仕上げ
力加減がわからずに怪我(切り傷など)5
CNC旋盤のプログラムミスによる工具のチャックへの接触
NC機械類
NC旋盤作業時にワークの締め付けが不足のため工具が破損
その他 重量物の運び出し中に重量物が滑り怪我
作業種別
刃物カバーを装着
共同作業の禁止
頭巾を装着
注意喚起の掲示
声かけの徹底