オシロスコープを使用したジッタ測定入門 - Keysight

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ジッタ測定入門
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02 | Keysight | オシロスコープを使用したジッタ測定入門 – Application Note
はじめに
クロック信号の周期やシリアル・データ信号のデータ転送速度は
一定ではなく、多かれ少なかれ変動をしています。この変動(=
ジッタ)はときに回路やシステムの誤作動の原因ともなります。
デジタル回路の高速化に伴い、システムの評価やデバッグにお
いてジッタの測定は避けては通れない項目となりました。本稿は
これからオシロスコープを使用してジッタ測定を始めようとされる
方に、最低限知っておいていただきたいジッタ測定に関する知
識をまとめたものです。
オシロスコープによるジッタ測定とは
オシロスコープにはキャプチャした波形から信号に含まれるエッ
ジ(信号の立ち上がり、立下り)の位置(トリガ点からの時間)を
得ることができます。エッジの位置は測定信号波形が一定のス
レッショルド電圧を横切る点として測定されます。
エッジの位置がわかれば、それをもとに信号周期やデータ転送
速度など時間に関する測定を行うことができます。
図 2 ピリオド(周期)ジッタ
Max-Min が周期のピーク・ツー・ピーク・ジッタ、Std Deviation
が周期の RMS ジッタとなります。
n周期の時間を測定するnサイクルジッタもあります。
サイクル間ジッタ(Cycle to Cycle ジッタ)
隣接するサイクル間での周期の差を測定します。周期の急激な
変化を観測することができます。
図 3 サイクル間ジッタ
n 周期の時間の差を測定するnサイクル間ジッタもあります。
タイム・インターバル・エラー(TIE)
理想クロックとのエッジ位置の差を測定します。位相の変動を測
定することができます。
図1 オシロスコープによる時間測定
さらに、繰り返し測定を行った結果をオシロスコープ上で統計的
に解析し、その変動の様子を種々のジッタ測定機能で解析する
ことができます。
ジッタの種類
“ジッタ”は信号エッジのゆらぎを総称したものです。ジッタの種類
は 1 つではなく、着目する特性によって様々なジッタが考えられ
ます。以下に代表的なジッタを挙げます。
クロックのジッタ
ピリオド・ジッタ(周期ジッタ)
ピリオド・ジッタはクロックの周期を測定したものです。周期を複
数回測定した結果から Max(最大値)、Min(最小値)、Standard
Deviation(標準偏差)などの統計結果が得られます。
図 4 クロック・タイム・インターバル・エラー
TIE を測定するには、オシロスコープに理想クロック(周期一定、
ジッタなし)の波形データを生成する機能(クロック・リカバリ機能)
が必要です。生成されたリカバリ・クロック波形とキャプチャした
クロック信号波形のエッジの位置の差を測定します。
データ信号のジッタ
タイム・インターバル・エラー(TIE)
データ信号とクロックのエッジ位置の差を測定します。
図 5 タイム・インターバル・エラー
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データとクロックが並走して伝送される場合には、実際のクロッ
ク信号のエッジとデータ信号のエッジの間の時間間隔を測定し
ます。
シリアル通信のようにクロック信号が伝送されずデータ信号だけ
による通信において TIE を測定するには、オシロスコープがデー
タ信号からクロック信号を再生するクロック・リカバリ機能を備え
ている必要があります。
データ・レート・ジッタ/ユニット・インターバル・
ジッタ
データ・レートは 1 秒間あたりの転送データ量を bit/s 単位で表
示したものです。
ユニット・インターバルは 1bit のデータ長を秒で表したものです。
n bit 分のデータ長を測定するnユニット・インターバルもありま
す。
図 7 ヒストグラムによる周期測定
クロック信号のエッジでトリガをかけ、1 周期後のエッジの分布を
ヒストグラム機能で解析することでクロック周期のジッタ(ピリオ
ド・ジッタ)を測定することができます。
←Threshold
オシロスコープを使用したクロック・ジ
ッタ測定方法
オシロスコープの標準機能を使用した測定(ピリ
オド・ジッタ)
ほとんどのオシロスコープは周期測定を行う機能を標準で搭載
しています。通常は画面中央付近の 1 サイクルの周期を測定し
て表示します。連続掃引している場合には新たに波形をキャプ
チャするごとに 1 回測定が行われます。
オシロスコープが繰り返し測定を行った結果を統計表示すること
ができる場合には、Max(最大値)と Min(最小値)の差から周期の
ピーク・ツー・ピーク・ジッタ、Std Deviation(標準偏差)から周期
の RMS ジッタを得ることができます。
図 8 ヒストグラム
トリガのレベルと電圧軸方向のヒストグラムの範囲をスレッショ
ルド電圧に指定して測定を行います。上図のようにオシロスコー
プの無限残光表示機能を使用して波形を重ね書きするとエッジ
の分布をさらに視覚的に把握することができます。また、下段に
表示されているヒストグラムの統計結果から周期の RMS ジッタ
(Std Dev)、ピーク・ツー・ピーク・ジッタ(p-p)の値を得ることが
できます。
ヒストグラムを使用したジッタ測定はトリガ点からの時間を測定し
ますので、トリガ・ジッタが十分小さいオシロスコープを使用する
必要があります。トリガ・ジッタが大きいオシロスコープの場合に
はトリガ点の変動が測定点でのジッタに加わりますので、本来よ
り大きなジッタがヒストグラム上で観測されることになります。
図 9、図 10 はトリガ点での波形を重ね合わせて表示することで
トリガ・ジッタの大きさを確認した例です。
図 6 周期(Period)測定
オシロスコープのヒストグラム機能を使用した測
定(ピリオド・ジッタ)
中級以上のオシロスコープにはヒストグラム解析機能がありま
す。
ヒストグラム解析機能は画面上の指定した範囲に存在するサン
プル点の数をヒストグラム化して表示します。波形を繰り返し取
得しヒストグラム解析を行うことでエッジの時間軸上での分布を
表示することができます。
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図 11 全エッジ測定時の表示画面。
1Per-Per はサイクル間ジッタの測定結果。
図 9 トリガ・ジッタが大きい場合
 理想クロックの生成
ジッタ解析機能は測定信号から理想クロックを生成すること
ができます。これによりタイム・インターバル・エラーの測定が
可能です。リカバリ・クロックは周波数が一定で元のクロック
信号との位相差が最も小さくなるようなものが自動生成され
ます。
 測定できるクロック・ジッタ測の種類
ジッタ解析機能はピリオド(周期)ジッタ、サイクル間ジッタ
(Cycle to Cycle ジッタ)、タイム・インターバル・エラー(Time
Interval Error)のほか、周波数、位相、パルス幅、デューティ
ー・サイクルなどのクロックのジッタ測定を行うことができます。
 その他の解析機能
図 10 トリガ・ジッタが小さい場合
オシロスコープのジッタ解析機能を使用した測
定(ピリオド・ジッタ、サイクル間ジッタ、タイム・イ
ンターバル・エラー、他)
サイクル間ジッタ、タイム・インターバル・エラーを測定するには
オプションのジッタ解析機能(Keysight EZJIT)が必要です。ほか
にも、ジッタ解析機能を使用することで標準の測定機能では得ら
れない様々なジッタ測定を行うことが可能となります。
 全エッジ測定機能
ジッタ解析機能はキャプチャされた波形全域に含まれるすべ
てのエッジの位置(スレッショルド電圧を横切るところでの時
間)を測定できます。
例えば 1 回のキャプチャで 1 万周期分のクロック波形を得た
場合には 1 万回の周期測定の結果を同時に得ることができ
ます。ジッタ解析機能が無い場合には 1 回のキャプチャで得
られるのは 1 つの測定結果のみですので、大量の測定を行
うには長い時間を要します。
図 12 ジッタ解析機能による表示
[ヒストグラム] (X 軸:測定値、Y 軸:発生頻度)
周期やタイム・インターバル・エラーなどの測定結果のバラツ
キをヒストグラムで表示します。ランダムなジッタのみが存在
する場合にはヒストグラムはガウス分布となります。
[トレンド] (X 軸:時間、Y 軸:ジッタ量)
ジッタ量の時間的な変化を表示します。
横軸は測定信号と共通なので、信号波形とジッタ量の相関が
わかります。
図 13 信号波形とジッタ・トレンド
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[スペクトラム] (X 軸:周波数、Y 軸:ジッタ量)
トレンドを FFT することで、ジッタの周波数成分を分析します。
ピークがみられるところは周辺回路に起因するノイズの周波
数である可能性があります。トレンドは測定信号のエッジ毎に
値を持ちますので、測定信号の周波数でサンプリングされた
データと考えることができます。したがって、トレンドを FFT し
た結果であるスペクトラムで表示できる周波数の上限は信号
周波数の 1/2 となります。
オシロスコープを使用したデータのタ
イム・インターバル・エラー測定
ヒストグラム機能を使用した測定
(データとクロックが並走する場合)
クロックをトリガとしてデータ信号をキャプチャし、オシロスコープ
の無限残光モードを使用して波形を重ね書きするとアイ・パター
ン(アイ・ダイヤグラム)を描くことができます。
図 16 データ波形とリカバリ・クロック
リカバリ・クロックのエッジとデータのエッジの時間差を測定す
ることによりデータのタイム・インターバル・エラーが測定でき
ます。取得した波形に含まれるすべてのエッジが測定対象に
できます。
 ジッタ解析機能で測定できるデータ・ジッタ測定の種類
ジッタ解析機能にはデータのタイム・インターバル・エラー測
定のほか、セットアップ/ホールド時間測定、データ・レート測
定、ユニット・インターバル測定などが可能です。
データの場合もクロック・ジッタと同様にヒストグラム、トレンド、
スペクトラムによる解析が可能です。
オシロスコープのシリアル・データ解析機能
図 14 アイ・パターン
オプションのシリアル・データ解析機能には再生したクロックを基
準にデータ波形を重ね書きしてアイ・パターンが表示する機能が
あります。
アイ・パターンが Threshold を横切るところでのヒストグラムを表
示すると、クロック・エッジからデータ・エッジまでの時間(=タイ
ム・インターバル・エラー)のばらつきが測定できます。なお、この
場合データ波形はトリガを基準に描かれますので、トリガ・ジッタ
の影響を含んだものとなります。
図 17 再生クロックを基準に描いたデータのアイ
実際のシリアル通信では受信側の回路がシリアル・データ信号
からクロックを生成し、それに同期してデータを取り込みます。
図 15 データのアイ・パターンとクロック波形
オシロスコープのジッタ解析機能を使用した測
定(データ信号のみが伝送される場合)
 クロックの再生
多くの高速シリアル通信ではデータのみが伝送され並走する
クロックはありません。この場合にはジッタ解析機能に含まれ
るクロック・リカバリ機能を使用することでデータ信号からクロ
ックを再生することができます。リカバリ・クロックは周波数が
一定でデータ信号との位相差が最も小さくなるようなものが自
動生成されます。
図 18 シリアル通信の受信側回路
06 | Keysight | オシロスコープを使用したジッタ測定入門 – Application Note
オシロスコープはオプションのシリアル・データ解析機能により受
信回路が生成するリカバリ・クロックと同等のクロックを再生する
こともできます。これにより、受信回路が実際に受けるジッタや
受信回路におけるアイ・パターンをオシロスコープ上で模擬する
ことができます。以下のようなクロック・リカバリ方式が使用でき
ます。
Constant Frequency(クロック周波数一定)
1st Order PLL/2nd Order PLL(PLL 回路相当)
Explicit Clock(並走クロック使用)
Explicit 1st Order/2nd Order(並走クロックを PLL の入力とす
る)
オシロスコープによるジッタ測定の誤
差
ジッタ解析機能を使用したジッタ測定はトリガ点を基準としない
ためトリガ・ジッタによる誤差は発生しません。ただし、オシロスコ
ープ内部で発生するノイズが信号に重畳することにより発生す
るジッタや、オシロスコープ自体の内部クロックのジッタが測定
の誤差となります。
下記はタイム・インターバル・エラー測定におけるジッタ測定フロ
ア(測定信号にジッタが全く無い場合にオシロスコープで観測さ
れるジッタ)を見積もるための計算式です。
周期ジッタのジッタ測定フロアは上記に√2 を乗じたものとなり
ます。
Noise は信号を接続していないときにオシロスコープ上で観測さ
れるノイズ(V rms)です。オシロスコープをジッタ測定時と同じ設
定にしておき、非測定物への接続をはずして無信号時の波形を
表示します。このときにオシロスコープの AC Vrms 測定機能で
測定した値がジッタ測定時のノイズとなります。
Sample Clock Jitter(sec. rms)はオシロスコープの内部クロック
が持つジッタです。
Slew Rate は測定信号の Threshold 電圧付近での測定信号の
スルー・レート(V/s)です。
誤差の少ないジッタ測定を行うには、本体のノイズが小さく、内
部クロックのジッタが少ないオシロスコープを選択していただくこ
とが重要です。さらに、測定信号の立ち上がり時間が遅いほど
スルーレートが小さくなりますので、測定誤差が増えることにご
注意ください。
~ジッタ測定フロアの計算例~
 オシロスコープ特性(Keysight DSOX91604A)
RMS ノイズフロア(@100mV/div)=2.63mV(rms)
サンプル・クロック・ジッタ=150fs(rms)
 信号条件
電圧軸スケール=100mV/div
振幅=0.6Vpp
テスト信号の立ち上がり時間(10%-90%)=30ps
このときの信号のスルーレートは
0.6[V]*0.8/30[ps]=16[V/ns]
 計算
TIE のジッタ測定フロア=
√{(2.63[mV(rms)]/16[V/ns])^2
+(150[fs(rms)])^2}
=0.223ps rms
オシロスコープの設定における注意点
電圧軸スケールの設定
オシロスコープ本体内部で発生するノイズは画面の上下方向の
幅に対して、おおむね一定の比率で発生します。100mV/div の
RMS ノイズフロアが 2.5mV の場合には、200mV/div でのノイズ
は倍の 5mV 程度と予想されます。
ジッタ測定時には画面上に波形がなるべく大きく表示されるよう
に電圧軸スケールを設定しください。これによりノイズのレベルを
相対的に減らすことができます。電圧軸スケールは 100mV/div
-200mV/div-500mV/div などの 1-2-5 ステップの主設定だ
けでなく、123mV/div など任意の値を設定することも可能です。
測定スレッショルドの設定
時間測定は、測定波形が Upper/ Middle/Lower の各電圧レベ
ルを横切るところで行われます。
図 20 測定スレッショルド
ジッタ測定では波形が Middle レベルのところをエッジとみなして
測定が行われます。Lower から Upper まで変化したところを立
ち上がりエッジ、逆に Upper から Lower まで変化したところを立
下りエッジと認識されます。Lower から Middle を超えるレベル
まで上昇した場合でも、Upper に到達せずに Middle に戻ってし
まうような場合にはエッジとは認識されず測定の対象にはなりま
せん。これによりノイズなどでエッジが2重に測定されることを防
ぐことができます。
図 19 エッジに重畳するノイズによるジッタ
図 21 波形が2度スレッショルドを交差する場合
07 | Keysight | オシロスコープを使用したジッタ測定入門 – Application Note
Upper/ Middle/Lower の電圧の設定方法として下記のような代
表的なものがあります。
 10%-50%-90%
ング周期より細かくすることができます。ただし、サンプリングの
周波数が低くなるほど波形のエッジ部分の形状が正しく再現で
きなくなるため、測定誤差の要因となります。可能な限りサンプリ
ング・レートの値は大きく設定してください。
メモリ深さ
図 22 10%-50%-90%
パルスの Base(Lo レベル)を 0%、Top(Hi レベル)を 100%とし
たときに Lower/Middle/Upper の値をそれぞれ 10%/50%/
90%の電圧に設定します。
オシロスコープの初期設定では通常 10%-50%-90%を使用し
た測定スレッショルドとなっています。
Hi レ ベ ル 、Lo レ ベ ル の 電 圧 が 変 動 す る 場 合 に は
Lower/Middle/Upper の値も変動しますので、ジッタ測定の
際には 10%-50%-90%は適切な測定スレッショルド設定方法
ではありません。
 Threshold ±Hysteresis
指定した Threshold 電圧を横切るところで時間を測定するこ
とが可能です。ジッタ測定を行う場合にはこの方法をおすす
めします。
Threshold は差動信号では 0V、シングル・エンド信号では
Vref など受信回路が Hi/Lo の判定を行うスレッショルドを指
定してください。
信号が-Hysteresis から+Hysteresis まで変化した場合には立
ち上がりエッジとしてみなされます。
Hysteresis の値が大きいと信号の振幅の変動が大きい場合
に測定に測定の対象とならないエッジが発生します。ノイズが
Hysteresis を超えることがない範囲でなるべく小さく設定してく
ださい。
低い周波数で変動を繰り返すジッタを検出するにはオシロスコ
ープが 1 回でキャプチャする波形の長さがジッタの周期より長い
ことが必要です。オシロスコープが1回でキャプチャできる時間
は
メモリ深さ÷サンプリング・レート[秒]
により計算できます。メモリ深さ 1M ポイント、サンプリング・レー
ト 10G サンプル/sec の場合には 0.1m 秒間の波形がキャプチ
ャできますので、10kHz 以上のジッタを検出することが可能です。
クロック・リカバリ方式として 1st/2nd Order PLL を使用する場合
には低周波のジッタは PLL で取り除かれますので通常は考慮
する必要はありませんが、トラブルシュートなどの際には低周波
のジッタの存在もスペクトラムから確認しておくことをおすすめし
ます。
PRBS(疑似ランダム信号)など特定のテストパターンが繰り返さ
る信号を測定する場合には、1 回のキャプチャでパターン全体
がキャプチャできるようにメモリ深さを設定することで、パターン
に依存するジッタの測定が 1 回の波形キャプチャで網羅できま
す。ただし、PLL を使用したクロック・リカバリ方式の場合はキャ
プチャした波形の先頭から PLL がロックするまでの間(PLL のル
ープ帯域設定により決められます)はジッタ測定が行われないこ
とにご注意ください。
RMS ジッタ、ピーク・ツー・ピークジッタ
RMS ジッタ(Std Dev)は測定回数が少ない場合には平均化(二
乗平均平方根)のサンプルが少ないため変動が大きくなります。
RMS ジッタの値が収束するまで十分な回数の測定を行う必要
があります。
図 23 波形振幅の変動が大きい場合
サンプリング・レート
図 25 ランダムなジッタの測定例
図 24 サンプル点の補間
オシロスコープでキャプチャされた波形はサンプリングされた各
点の間が自動的に補間されます。時間測定を行う場合にはさら
に補間した点の間も補間することで、指定した Threshold を横切
る時間を得ています。これにより、時間測定の分解能はサンプリ
また、ランダム的に発生するジッタは測定回数が多くなるほど大
きなジッタが観測される可能性が高くなります。別々に測定され
たジッタの結果を比較する場合には測定回数を同等としておく
必要があります。さらに複数回の測定結果からご判断いただくこ
ともおすすめします。
08 | Keysight | オシロスコープを使用したジッタ測定入門 – Application Note
トータルジッタ、RJ と DJ
RJ、DJ、トータルジッタの測定はオプションの RJ DJ 解析機能
(Keysight EZJIT Plus)で行うことができます。
 RJ (Random Jitter)
熱雑音などが原因となりランダムに発生するジッタです。発生
するジッタの量はガウス分布となるので、長時間観測するほ
ど大きなジッタが観測される可能性があります。理論的には
無限大の時間測定を行うと観測される最大のジッタも無限に
大きくなります。
 DJ (Deterministic Jitter)
伝送線路の特性により波形が歪む場合や、周期的に発生す
るノイズなどが原因で発生するジッタです。ジッタ量は有限で
す。DJ に含まれピリオディック・ジッタ(周期性のあるジッタ)
はピリオド・ジッタ(クロック周期の変動)とは異なるものですの
でご注意ください。
図 26 RJ/DJ のイメージ
 TJ (Total Jitter)
10 の 12 乗ビットに1回発生する可能性がある最大のジッタ
(TJ 1E-12)や、10 の 6 乗ビットに1回に発生する可能性のあ
る最大ジッタ(TJ 1E-6)などを RJ と DJ の値から計算します。
TJ(1E-12)= 14.1×RJrms+DJδ-δ
TJ(1E-6)= 9.5×RJrms+DJδ-δ
RJ、DJ 分析についてのさらに詳しい内容は末尾の参考資料を
ご参照ください。
おわりに
本稿ではオシロスコープ(リアルタイム・オシロスコープ)を使用し
てジッタ測定を行うための基礎的な部分を説明させていただきま
した。ジッタ測定に使用される計測器はほかに、サンプリング・オ
シロスコープ、信号源アナライザ、ビット・エラー・レート試験器な
どがあり、リアルタイム・オシロスコープでは実現できない高精度
の測定や本稿では触れられていない多彩な解析機能を提供し
ています。これを機にさらに高度なジッタ測定を行っていただけ
るよう、ぜひとも末尾に挙げた参考資料をご一読いただき、ご自
身が必要とする適切なジッタ評価方法を選択していただくための
知識をさらに深めていただければ幸いです。
09 | Keysight | オシロスコープを使用したジッタ測定入門 – Application Note
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10 | Keysight | オシロスコープを使用したジッタ測定入門 – Application Note
参考資料
リアルタイム・ジッタ解析によるジッタ発生源の検出
http://cp.literature.keysight.com/litweb/pdf/5988-9740JA.pdf
Keysight EZJIT Plus ソフトウェアによるジッタの解析
http://cp.literature.keysight.com/litweb/pdf/5989-3776JAJP.pdf
高速シリアル通信におけるジッタの基礎と測定手法の概要
http://cp.literature.keysight.com/litweb/pdf/5989-8674JAJP.pdf
Keysight 86100C DCA-J を用いた正確なジッタ解析
http://cp.literature.keysight.com/litweb/pdf/5989-1146JA.pdf
86100C DCA-J を用いた PLL およびジッタ・スペクトラム解析
http://cp.literature.keysight.com/litweb/pdf/5989-6551JAJP.pdf
位相雑音測定を用いたクロック・ジッタの評価によるデザイン検証の高速化
http://cp.literature.keysight.com/litweb/pdf/5989-9849JAJP.pdf
クロック・ジッタ解析によるシリアル・データの BER の低減
http://cp.literature.keysight.com/litweb/pdf/5989-5718JAJP.pdf
Keysight 53230A カウンタによる低価格のジッタ測定/解析ソリューション
http://cp.literature.keysight.com/litweb/pdf/5990-5648JAJP.pdf
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Published in Japan, December 08,2014
5991-1070JAJP
0000-08A