[特集]循環動態のアセスメントと輸液指示・管理 心不全(右心不全・左心不全)のアセスメント と重症度評価を輸液管理にどう活かす? ここは押さえておこう 肺うっ血があり心拍出量が正常な場合には,利尿薬,血管拡張薬 を,肺うっ血があり心拍出量が低下している場合には,強心薬,血管拡張薬を,肺うっ血がな く心拍出量が低下している場合には,輸液,強心薬を投与します。 原田竜三 東京医療保健大学 医療保健学部 看護学科 講師 心不全の原因と分類 (肺胞性肺水腫) 。症状には,心拍出量の低下によ 心不全は,疾患名ではなくさまざまな疾患が るものと肺うっ血によるものがあります(表2) 。 原因(表1)の病態で,心臓のポンプ機能が低 検査所見として,心電図では虚血性変化(ST-T 下し,全身の各組織まで必要量の血液を供給で 異常,異常Q波) ,頻脈性あるいは徐脈性不整 きなくなる状態です。心臓のポンプ機能が低下 脈(心房粗細動,洞不全,房室ブロック)や左室 すると,血圧や血液循環を保つために,交感神 肥大などが見られます。胸部X線検査では,心 経,RAA(レニン・アンジオテンシン・アルド 拡大(心胸郭比の増大) ,肺うっ血(肺水腫) ,バ ステロン)系の活性化による代償機構が働きま タフライ像(蝶の羽状に広がる陰影) ,カーリー す。急激に悪化する場合を急性心不全,慢性的 線(肺門から末梢にかけて横走する線状影) ,胸 に徐々に進行する場合を慢性心不全と言います。 水の所見が認められます(図2) 。左心不全で 急性心不全は代償機構が間に合わない場合, は,肺うっ血により下肺野よりも上肺野の血管 慢性心不全は代償機構の働きが徐々に低下する 影が強くなります。バタフライ像やカーリー線 ことによって起こります。左心のポンプ機能の は,肺水腫の進行例で見られます。脳性ナトリ 低下により起こる心不全を左心不全,右心のポ ウム利尿ペプチド(brain natriuretic peptide: ンプ機能の低下により起こる心不全を右心不全, BNP)は心室から分泌される循環調節ホルモン 両者が合併した心不全を両心不全と言います で,心室の負荷により血中濃度が上昇します。 (図1)。また,心室の収縮が悪くなった状態を 血液ガス検査では,肺うっ血によるガス交換障 収縮不全,心室の拡がりが悪くなった状態を拡 害のため低酸素血症が認められます。心エコー 張不全と言います。 検査では,心房・心室径,大動脈径,左室壁厚, 心不全の病態 12 進行すると,肺胞内に体液の漏出が起こります 左室壁運動,左室駆出率(left ventricular ejection fraction:LVEF) ,弁膜症の有無と程度な 左心不全 どを評価します。LVEF50%未満で起こってい 左心不全は,左室の心拍出量の低下と左室充 る心不全は収縮不全,LVEF50%以上で起こっ 満圧の上昇により起こります。左室充満圧の上 ている心不全は拡張不全と評価されます。 昇により左房と肺静脈圧の上昇が起こり,さら 右心不全 に肺毛細血管圧の上昇により肺胞周囲の間質の 右心不全は,還流が滞るため,体静脈と腹部 浮腫が生じます(間質性肺水腫) 。さらに病態が 諸臓器のうっ血が起こります。右心不全が単独 重症集中ケア V o l u m e . 1 3 N u m b e r . 5 表1:心不全の原因疾患 図1:左心不全と右心不全 ●虚血性心疾患 ●高血圧 ●心筋症:遺伝性,後天性を含む 肥大型心筋症(HCM) ,拡張型心筋症(DCM) , 拘束型心筋症(RCM) ,不整脈原性右室心筋 症(ARVC) ,緻密化障害等分類不能群(心筋 炎,産褥心筋症,たこつぼ心筋症等も含む) 以下,全身疾患や外的因子との関係が強い心筋症 浸潤性疾患:サルコイドーシス,アミロイドーシス, ヘモクロマトーシス,免疫・結合組織疾患 内分泌・代謝疾患:糖尿病,甲状腺機能異常,クッ シング症候群,副腎不全,成長ホルモン過剰分泌 (下 垂 体 性 巨 人 症,先 端 肥 大 症),褐 色 細 胞 腫, Fabry病,ヘモクロマトーシス,Pompe病,Hurler 症候群,Hunter症候群等 栄養障害:ビタミンB1(脚気心) ,カルニチン,セ レニウム等の欠乏症 薬剤: β遮断薬,カルシウム拮抗薬,抗不整脈薬, 心毒性のある薬剤(ドキソルビシン,トラスツズ マブ等) 化学物質:アルコール,コカイン,水銀,コバルト, 砒素等 その他:シャーガス病,HIV感染症 ●弁膜症 ●先天性心疾患:心房中隔欠損,心室中隔欠損等 ●不整脈:心房細動,心房頻拍,心室頻拍等頻拍誘発性 完全房室ブロック等徐脈誘発性 ●心膜疾患:収縮性心膜炎,心タンポナーデ等 ●肺動脈性肺高血圧症 左心不全 循環器病の診断と治療に関するガイドライン,慢性心不全治療ガイドライン (2010年改訂版) http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2010_matsuzaki_h.pdf(2014年10月閲覧) 頭部・上肢 肺うっ血 が見られ,また,肺血管影は弱く,右房の拡大 が見られます。心エコー検査では,肺動脈・右 体幹・下肢 右心不全 頭部・上肢 右心拍出量低下 右房うっ血 体幹・下肢 黒澤博身総監修:見えるスーパービジュアル循環器疾患,P.167,成美堂出版,2014. 図2:心不全の胸部X線所見 上肺野血管陰影 カーリーA線 肺水腫 カーリーC線 葉間胸水 心拡大 肺動脈圧,心嚢液貯留を確認します。 心不全の重症度の評価として,NYHA分類, ポンプ機能低下 体静脈うっ血 室・右房・下大静脈の拡大,三尖弁逆流の有無, 心不全の重症度評価 ポンプ機能低下 循環血量不足 とが多く,つまり両心不全の状態が多いです。 ものがあります(表2) 。胸部X線検査で胸水 肺うっ血 左房圧上昇 で生じることはまれで,左心不全から起こるこ 症状として体静脈と腹部諸臓器のうっ血による 左心拍出量低下 カーリー B線 胸水 黒澤博身総監修:見えるスーパービジュアル循環器疾患,P.170,成美堂出版,2014. キリップの分類,フォレスター分類,Nohria- sociation:NYHA)による心機能分類で,患者 Stevenson分類,クリニカルシナリオがあります。 の運動耐容能を日常生活活動における自覚症状 NYHA分類(表3) ニューヨーク心臓協会(New York Heart As (動悸,息切れ,易疲労性)の有無,程度によ り分類されます。 重症集中ケア V o l u m e . 1 3 N u m b e r . 5 13 表2:左心不全と右心不全の症状 左心不全 右心不全 心拍出量の低下による症状 全身倦怠感,易疲労感,動悸,血圧低下,頻脈,冷汗,四肢冷感,チアノー ゼ,乏尿,意識レベル低下,チェーンストークス呼吸,睡眠時無呼吸 肺うっ血による症状 呼吸困難,息切れ,喘鳴,頻呼吸,咳,起座呼吸,発作性夜間呼吸困難, ピンク色泡沫状痰,断続性ラ音,連続性ラ音, Ⅲ音・Ⅳ音の聴取 体静脈のうっ血による症状 体重増加,浮腫,頸静脈怒張 腹部諸臓器のうっ血による症状 右季肋部痛,食欲不振,悪心・嘔吐,腹部膨満感, 腹水,胸水,肝腫大,黄疸 表3:NYHA分類 心疾患はあるが,身体活動制限は必要ない 状態。日常生活では症状なし。 Ⅱ度 軽症 軽度の日常生活制限を伴う状態。普通の身 体活動で症状が現れる。 Ⅲ度 中等症∼ 日常生活が大きく制限される状態。ちょっ 重症 とした身体活動で症状が出現する。 Ⅳ度 難治性 安静時にも症状が出る。 (L/分/m ) 心係数 Ⅰ度 無症候性 図3:フォレスター分類 2 2.2 (Cl) The criteria committee of the New York Heart Association. Diseases of the heart and blood vessels:nomenclature and criteria for diagnosis 6th ed. Boston:Little, Brown 1964. 表4:キリップの分類 Ⅰ群 心不全徴候なし。 Ⅱ群 軽症∼中等症の心不全。ラ音聴取域が全肺野の50% 未満。Ⅲ音聴取。 Ⅲ群 重症心不全 肺水腫。ラ音聴取域が全肺野の50%以上。 Ⅳ群 心原性ショック。 Killip T 3rd, et al. Treatment of myocardial infarction in a coronary care unit. A two year experience with 250 patients. Am J Cardiol. 1967:20 457-64. Ⅱ型 肺うっ血(+) 心拍出量正常 治療:利尿薬 血管拡張薬 Ⅲ型 肺うっ血(−) 心拍出量低下 治療:輸液 強心薬 房室ペーシング Ⅳ型 肺うっ血(+) 心拍出量低下 治療:強心薬 血管拡張薬 IABP,PCPS 18 (mmHg) 肺動脈楔入圧(PCWP) Forrester JS, Diamond G, Chatterjee K, et al. Medical therapy of Acute Myocardial infarction by application of hemodynamic subsets(f irst of two parts). N Engl J Med. 1976 295:1356-62. えている場合は心拍出量が保たれている状態, 以下の場合は心拍出量が減少している状態とな ります。肺動脈楔入圧の区切りは18mmHgで, キリップの分類(表4) 18mmHg未満を肺うっ血なし,18mmHg以上を 心不全の重症度を胸部の身体所見(聴診)か 肺うっ血ありとします。心拍出量正常で肺うっ ら評価する方法です。 血がない状態をフォレスターⅠ型,心拍出量は フォレスター分類(図3) 正常で肺うっ血がある状態をフォレスターⅡ フォレスター分類は,スワンガンツカテーテ 型,心拍出量が低下している状態で肺うっ血は ルを挿入し,心係数と肺動脈楔入圧を測定する ない状態をフォレスターⅢ型,心拍出量が低下 ことによって分類されます。心係数は, 「心拍 し肺うっ血もある状態をフォレスターⅣ型と言 」で求められま 出量(L/分) ÷体表面積(m ) います。 す。正常の心拍数は約5L/分ですが,体格の Nohria-Stevenson分類(図4) 個人差があるため,体格の個人差を除いて一般 Nohria-Stevenson分類は,うっ血所見と低灌 化するために体表面積で割ったものを心係数と 流所見から分類できます。フォレスター分類 言います。 は,スワンガンツカテーテルを挿入しなければ 心係数の区切りは2.2L/分/m2で,それを超 ならないため,初診時すぐに利用ができません 2 14 0 Ⅰ型 肺うっ血(−) 心拍出量正常 治療:一般療法 鎮静薬 重症集中ケア V o l u m e . 1 3 N u m b e r . 5
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