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ニッセイ基礎研究所
2014-12-19
アジア新興国・地域の経済見通し
~緩やかな輸出拡大と原油安を追い風に景気回
復が続く
斉藤 誠
[email protected]
経済研究部 研究員
(03)3512-1780
1. アジア新興国・地域の 7-9 月期の成長率は前年同期比+4.6%と、前期の+4.9%から鈍化
した。2011 年 10-12 月期以降、概ね4%台前半で推移してきたことを踏まえると、回復
基調は維持したと言える。国別に見ると、タイを除く国・地域が鈍化した。総じて、内
需は堅調さを維持する一方で、輸出が日本・中国向けを中心に鈍化し、輸入が増加基調
で推移したことが成長率の下押しとなる傾向が見られた。
2. 先行きについては、輸出は米国主導の世界景気の回復を受けて拡大に転じ、内需は足元
の原油安が消費・投資のサポート要因となることから成長率は上向くだろう。原油安の
継続は、家計の購買力の増加を通じて消費の拡大に繋がり、企業にとっては生産コスト
の低下に繋がる。一方、原油の純輸出国であるマレーシアでは、石油関連企業の業績悪
化が投資の減少に繋がるほか、政府の石油関連収入が減少し、財政目標が未達となる懸
念もある。
3. リスク要因としては、新興国からの資金流出の加速が挙げられる。アジア新興国・地域
から米国への資金回帰の動きは続くだろうが、米国の出口戦略のプロセスも明らかにな
ってきていること、また日本・欧州・中国は金融緩和局面にあること、そしてアジア通貨
危機の時と比べて金融・資本構造がスマートになっていることから、通貨が暴落するよ
うな状況は考えにくい。
アジア新興国・地域の経済見通し
実質GDP
成長率
2013年
(実)
2014年
1-3
(実)
4-6 7-9 10-12
(実) (実) (予)
(予)
2015年 2016年
1-3 4-6 7-9 10-12
(予) (予) (予) (予)
(予)
インフレ率
(予)
2013年
(実)
(前年比、%)
2015年 2016年
2014年
1-3 4-6 7-9 10-12
(実) (実) (実) (予)
(予)
1-3 4-6 7-9 10-12
(予) (予) (予) (予)
(予)
(予)
韓国
3.0
3.9
3.5
3.2
3.3
3.5
3.6
3.6
3.7
3.7
3.7
3.6 韓国
1.3
1.1
1.6
1.4
0.9
1.3
1.1
1.4
1.7
2.0
1.6
2.2
台湾
2.2
3.4
3.9
3.6
3.5
3.6
3.6
3.8
3.7
3.6
3.7
3.5 台湾
0.8
0.8
1.6
1.5
0.9
1.2
1.1
1.4
1.5
1.7
1.4
1.8
マレーシア
4.7
6.2
6.5
5.6
5.3
5.9
5.5
4.8
5.1
5.0
5.1
4.9 マレーシア
2.1
3.5
3.3
3.0
2.5
3.1
2.6
4.1
4.2
4.1
3.8
3.2
タイ
2.9 ▲ 0.5
0.4
0.6
2.6
0.8
4.4
4.4
4.2
3.7
4.2
3.7 タイ
2.2
2.0
2.5
2.0
1.3
1.9
1.4
1.8
2.2
2.5
2.0
2.8
インドネシア
5.8
5.2
5.1
5.0
5.3
5.2
5.5
5.5
5.5
5.4
5.5
5.6 インドネシア
6.4
7.8
7.1
4.4
6.9
6.5
7.4
7.4
7.1
5.0
6.7
4.7
フィリピン
7.2
5.6
6.4
5.3
6.1
5.9
6.6
6.1
6.5
6.1
6.3
6.2 フィリピン
2.9
4.1
4.4
4.7
3.7
4.2
3.4
3.9
4.0
4.1
3.9
3.8
4.7
<4.7>
4.6
5.7
5.3
5.5
5.3
<5.6>
5.7
5.8
5.9
6.0
5.9
<5.9>
10.1
<9.5>
8.4
8.1
7.4
4.8
7.1
<6.3>
5.0
6.2
6.3
6.1
5.9
<6.2>
6.0
<5.9>
インド
<下段:年度ベース>
6.2 インド
<6.3> <下段:年度ベース>
(注)2014、2015年の内訳は前年同期比。インドのGDP成長率は供給側の数値(GDP at factor cost)。インフレ率はCPI上昇率。
(資料)CEIC、ニッセイ基礎研究所
1|
|Weekly エコノミスト・レター 2014-12-19|Copyright ©2014 NLI Research Institute
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1.アジア経済概況:緩やかな輸出拡大と原油安を追い風に景気回復が続く
(経済の現状)
アジア新興国・地域1全体の 2014 年 7-9 月期の成長率は前年同期比で+4.6%と、前期の+4.9%か
ら鈍化した(図表1)
。2011 年 10-12 月期以降、概ね 4%台前半で推移してきたことを踏まえると、
回復基調は維持したと言える。
国・地域別にGDP成長率を見ると、タイを除く国・地域が鈍化した(図表2)
。総じて、内需
は堅調さを維持する一方で、輸出が日本・中国向けを中心に鈍化し、輸入が増加基調で推移したこ
とが成長率の下押しとなる傾向が見られた(図表3)
。マレーシアは投資と輸出の鈍化、またフィ
リピンは消費の鈍化と輸出の増加によって、それぞれ6%台半ばから1%ほど成長率を落とした。
またインドネシア・インドは、輸出の伸び悩みに加えて、高金利による投資の鈍化が成長率の下押
し要因となった。韓国・台湾は輸出主導の景気回復は継続したものの、その輸出の勢いには差が出
た。台湾は新型スマートフォン向けの半導体需要増など主力の電子製品の輸出が好調を維持したが、
韓国はウォン高(対円・対元)を受けて日本・中国企業との価格競争に晒されるなかで輸出が伸び
悩んだ。そして唯一、前期から改善したタイは、軍事クーデター前後の国内の混乱は落ち着きを取
り戻したにも関わらず、内需の回復の遅れと中国向け輸出の減少によって0%台の低成長となった。
(経済見通し)
海外経済は、先進国は引き続き米国中心の景気回復ではあるが、日本では来年 10 月に予定され
ていた消費税率の引き上げが延期されたほか、欧州でも緩やかな景気回復が続くとみられる。また
中国は、これまで世界経済を牽引してきたほどの勢いは見込めないが、今後 1-2 年ほど7%台の成
(図表1)
(前年同期比)
(図表2)
(前年同期比、%)
8
アジア新興国・地域の成長率(国別寄与度)
12%
アジア新興国・地域の実質GDP成長率
フィリピン
7
10%
8%
フィリピン
6
インドネシア
5
タイ
6%
インドネシア
3
台湾
台湾
韓国
2
韓国
2%
インド
4
マレーシア
4%
マレーシア
1
インド
タイ
0
アジア
0%
▲1
1-3月
4-6月
▲2%
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
(注)国別寄与度は各国の購買力平価ベースの名目GDPシェアを推計して算出。
(資料)CEIC、IMF、ニッセイ基礎研究所
(四半期)
(図表3)
(%ポイント)
12
10
8
6
4
7-9月 10-12月 1-3月
4-6月
2013年
7-9月
2014年
(四半期)
(図表4)
アジア新興国のGDP成長率(寄与度分解)
2014年7-9月期
(%)
アジア新興国・地域の実質GDP成長率
7
GDP成長率
6
2009年以降の
平均成長率
5
輸出
2015年
(予測)
2014年
2016年
(予測)
(予測)
5.9
5.1
5.2
4.9
5.5 5.6
5.9
6.3 6.2
5.9
6.2
5.3
4.2
4
3.5
3.7 3.6
3.6 3.7 3.5
3.7
3
0
▲2
2
内需(投資+消費)
0.8
1
▲6
輸入
韓国
台湾
マレーシア
タイ
インドネシア フィリピン
インド
(注)平均成長率は四半期ごとの前年同期比伸び率を計算後、平均を算出、輸入は増加がマイナス表示
(資料)CEIC、ニッセイ基礎研究所
▲8
4-6月
(注)タイの2012年7-9月期の成長率は前年同期比+19.1%
(資料)CEIC
2
▲4
7-9月 10-12月 1-3月
2012年
2014
0
韓国
台湾
マレーシア
タイ
インドネシア
フィリピン
インド
(注)インドは供給側ベース(GDP at factor cost)
(資料)CEIC、ニッセイ基礎研究所
1
本稿における経済見通しの分析対象国・地域はインド・韓国・台湾・マレーシア・タイ・インドネシア・フィリピン。中国について
は、2014 年 11 月 28 日公表の Weekly エコノミスト・レター「中国経済見通し~利下げ後の見通し改定」を参照。
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長率を維持する見通しである。従って、アジア新興国・地域の輸出は拡大する見込みである。特に
輸出依存度の高い韓国・台湾・マレーシア・タイでは成長率の押上げ効果が見込まれる。しかし、
輸出の拡大ペースは依然として緩やかなものであり、自立的な景気回復には各国・地域の動向がカ
ギを握る。
国内の動向に目を向けると、足元の原油価格の下落は原油の純輸出国であるマレーシアを除いて
景気の押上げ要因となりそうだ。原油価格は、中国経済の鈍化という需要要因のほか、シェールオ
イルの供給力の拡大やOPEC(石油輸出国機構)の減産先送りといった供給要因も関係しており、
先行きは依然として不透明であるが、直ちに反発するような材料も見られない。原油安の継続はイ
ンフレ率を低下させることから、家計の購買力が増加して消費の拡大に寄与するほか、企業の生産
コストの引き下げ、さらには現行の金融政策の緩和余地が生まれるケースもある(図表5)。この
ほか、家計の負担減に乗じて補助金政策や増税といった痛みを伴う政策を促す効果もある。また、
特にフラジャイル5に名を連ねるインドネシア・インドにとっては経常赤字の改善にも寄与するこ
とから、原油安の恩恵は大きい。一方、マレーシアにとっては原油安は恩恵よりも弊害の方が大き
いと考えられる。特に国内最大規模を誇る国営石油会社ペトロナスの新規の投資案件が見送られる
など、石油関連企業の業績悪化は投資の減少に繋がるほか、株価下落を通じた逆資産効果が景気の
下押しとなる見込み。さらに、石油関連収入は 2014 年度予算では政府歳入の3割を占めており、
原油安は同国の財政目標達成のシナリオを狂わせることになるだろう。
こうした状況を踏まえて、アジア新興国・地域の見通しとしては、輸出は米国主導の世界景気の
回復を受けて拡大するほか、内需は足元の原油安が消費・投資のサポート要因となることから成長
率は上向きそうだ(図表4)
。
(図表5)
(図表6)
原油安とインフレ率の推移
12%
(%)
50%
アジア新興国・地域のインフレ率
8
7.1
40%
6.5 6.7
10%
インド
30%
8%
20%
インドネシア
6%
10%
原油価格の伸び率(右軸)
0%
4%
フィリピン
タイ
-20%
2%
台湾
▲2%
-40%
-50%
1407
2.2
2
1.3
1.6
4.7
4.2
3.8
3.1
2.8
1.9 2.0
1.8
1.2
3.9 3.8
3.2
1.4
-30%
韓国
0%
1404
2015年
(予測) 2016年
(予測)
4
2014年
(予測)
-10%
マレーシア
1401
5.9 6.0
6
1410
0
韓国
台湾
マレーシア
タイ
インドネシア
フィリピン
インド
(注)インフレ率はCPI上昇率
(資料)CEIC、ニッセイ基礎研究所
(資料)CEIC
(先行きのリスク)
先行きのリスク要因としては、新興国からの資金流出の加速が挙げられる。来年秋には米国の利
上げが見込まれるが、これが前倒しともなれば、通貨安のきっかけになりうる。また、行き過ぎた
原油安の長期化が資源国の通貨危機・財政危機をまねき、アジア新興国・地域の通貨安へと波及す
る可能性もある。
今後もアジア新興国・地域から米国への資金回帰は進むであろうが、アジア新興国・地域の通貨
が暴落するまでとは考えていない。アメリカが利上げするといっても、これまでの緩和マネーの規
模は当面維持されるものと見込まれるからだ(図表7)。また、その後、再投資が停止される局面
に至っても、これまでのテーパリングと同様に段階的に進められるものと予想される。また、日本・
欧州・中国の金融政策は緩和方向にあり、その緩和マネーは成長力の高い新興国にも振り向けられ
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るであろう。
かつてのアジア通貨危機の時と比べて金融・資本構造がスマートになっていることもアジア新興
国・地域の通貨の安定性を高めている。資金調達構造が短期資金から長期資金中心になっているほ
か、先進国並みに育った株式市場の規模(時価総額/GDP)を見ても資金調達手段の変化した様子
がうかがえる(図表8)。また、為替制度も従前の固定相場制から変動相場制に変更しており、一
気に暴落はなりにくく、為替が下落する間に為替介入や政策金利の引き上げなど通貨防衛策を進め
る時間がある。そして、外貨準備保有高についても、絶対安全な水準についての統一的な見解はな
いが、IMF 等でも分析されている「輸入額の3ヵ月分」や「短期債務残高」と比べると、アジア新
興国・地域の外貨準備保有高は安全圏にある(図表9)
。さらに、国際的枠組みとして 2010 年にマ
ルチ化したチェンマイ・イニシアティブ(多国間の通貨スワップ協定)の存在も支えとなるだろう。
(図表7)
(図表8)
(対GDP比率)
日米欧中央銀行の資産残高
(兆ドル)
12
世界の主要市場の時価総額
3
10
8
日本
(日銀)
6
ユーロ圏
(ECB)
グレタイ
2
NASDAQ
1
インド国立
大阪
深セン
NYSE
2009
2010
2011
2012
2013
2014
(図表9)
新興国・地域の外貨準備高
(倍)
12
11
10
9
8
7
6
5
4
3
2
1
0
(%)
140
短期対外債務比率
120
輸入3カ月比率
対GDP比率(右軸)
100
80
60
40
20
4|
香港
シンガポール
(注)2014年6月末。香港・シンガポールの短期対外債務は貨幣・預金を除くベース
一部にニッセイ基礎研究所の試算を含む
(資料)CEICよりニッセイ基礎研究所作成
台湾
タイ
マレーシア
フィリピン
韓国
インド
ブラジル
トルコ
メキシコ
南アフリカ
インドネシア
0
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フィリピン
タイ
台湾
ロシア
韓国
ブラジル
香港
日本
中国
(注)2012年12月時点
(資料)WFE(国際取引所連合)
インドネシア
2008
マレーシア
2007
(資料)DataStream
シンガポール
2006
イギリス
0
ボンベイ
上海 東京
0
米国
米国
(FRB)
2
インド
4
2.各国・地域経済の見通し
2-1.韓国
韓国の 7-9 月期の実質GDP成長率は前年同期比 3.2%と、船舶事故後の自粛ムードが広がった
前期の同 3.5%から更に鈍化した。なお、成長率低下の主因は外需であり、消費・投資は改善した。
先行きは、輸出の拡大や政府支出の増加、不動産規制の緩和などによる安定成長を予想する。輸
出は米国主導の世界景気回復を受けて緩やかに拡大するだろう。しかし、足元の為替相場は対円で
見るとウォン高が続いており、製造業は輸出価格の引上げを抑えてコストカットで対応する傾向に
は変化が見られない(図表 10)
。そのため輸出が堅調でも企業利益が収縮し、雇用や賃上げ、設備
投資などへの波及効果は限定的になりやすい。内需縮小に危機感を抱く政府は7月に景気刺激策2を
打ち出したほか、8月と 10 月には中央銀行が政策金利を 0.25%ずつ引き下げた。さらに7月・9
月に政府が不動産規制緩和3を発表しており、これらは引き続き内需の活性化に寄与するだろう。実
際、住宅市況と住宅ローン残高は改善傾向が続いている(図表 11)
。また、11 月に妥結した中韓F
TAについては、開放レベルは決して高くはないものの、長期的には日本企業のシェアを奪う期待
もある。韓国の成長率は 2014 年の 3.6%から 2015 年が 3.7%、2016 年が 3.5%の安定成長を見込
む(図表 12)。
インフレ率は、消費物価指数が 11 月に前年同月比 1.0%まで低下し、中央銀行のインフレ目標
(2.5-3.5%)を下回っている。当面は商品市況の調整が続くことから、インフレ率が低めに推移
し、その後は緩やかな景気回復を受けて、上昇するとみられる。結果、インフレ率は 2014 年の 1.3%
から 2015 年が 1.6%、2016 年が 2.2%と緩やかな伸びを予想する(図表 13)
。
(図表 10)
(図表 11)
韓国の輸出指数と為替レート
150
(ウォン)
18.0
韓国の住宅関連指標
12%
11%
140
輸出金額指数
130
16.0
住宅(担保)ローン残高(前年同月比)
10%
9%
輸出数量指数
120
8%
14.0
輸出価格指数
住宅ローン金利(新規貸付)
7%
110
6%
12.0
5%
100
4%
90
10.0
3%
2%
80
8.0
1%
70
60
6.0
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
住宅価格指数(前年同月比)
0%
円ウォン(右軸)
▲1%
2014
2010
2011
2012
2013
2014
(資料)CEIC、韓国銀行
※価格指数は、金額指数を数量指数で序したもの
(資料)CEIC
(図表 12)
(月次)
(図表 13)
(%)
韓国の実質GDP成長率(需要側)
(前年同期比)
9%
韓国のインフレ率と政策金利
5
予測
予測
6%
純輸出
誤差など
4
実質GDP成長率
投資
政策金利
3%
3
0%
2
実質GDP成長率予測
2014年:3.5%
2015年:3.7%
2016年:3.6%
在庫変動
▲3%
政府消費
個人消費
1
インフレ率予測
2014年:1.3%
2015年:1.6%
2016年:2.2%
CPI上昇率(前年同期比)
0
▲6%
2011
2012
(資料)CEIC、ニッセイ基礎研究所
2013
2014
2015
2011
2016
(四半期)
2012
2013
2014
2015
2016
(四半期)
(資料)CEIC、ニッセイ基礎研究所
41 兆ウォンの内訳は財政支出 11.7 兆ウォン(国民住宅基金に6兆ウォン、中小企業・小規模事業者に 2.4 兆ウォンなど)
、金融支援
29 兆ウォン(政策金融支援額を 50 億ドル拡大、安全ファンドの造成に5兆ウォンなど)がある。
3
7 月はLTVとDTIの各上限を引き上げ、9 月はマンションの再建築年限を築 30 年に短縮する不動産対策を発表した。
2
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2-2.台湾
台湾の 2014 年 7-9 月期の実質GDP成長率(前年同期比)は 3.6%と、前期の同 3.9%から鈍化
したが、輸出の拡大が堅調な消費・投資に繋がる好循環は続いている。
先行きは、引き続き輸出主導による安定成長を予想する。米国主導の先進国の景気回復が見込ま
れるほか、貿易シェア約 4 割を占める中国の景気減速のペースがごく緩やかなものであることから
輸出が好調を維持するものと見ている(図表 14)
。また、輸出受注も新型のモバイル端末の発売が
増えていることが追い風となっている。輸出の拡大は設備投資や雇用・所得環境の改善への波及が
見込まれ、個人消費と投資も緩やかな改善が期待できる(図表 15)
。さらに、足元の原油価格が当
面反発しない前提に立てば、インフレ率の低下を通じた実質所得の向上や企業の生産コストの低下
によって、台湾経済は堅調さを維持することができるだろう。
11 月に妥結した中韓FTAは、競合する韓国製品に対する関税が即時もしくは段階的に削減され
ることから、台湾製品のシェアが長期的に切り崩される懸念は残るが、主力の液晶パネルは 10 年
以内の撤廃と、関税撤廃のスピードは早くない4。従って、台湾政府が急ぐサービス貿易協定の批准
と物品貿易協定の協議継続は早いことに越したことはないが、国民の反発を無視してまで進める話
ではなくなったようにも見える。こうした状況を踏まえ、台湾の成長率は 2014 年の 3.6%から 2015
年が 3.7%、2016 年が 3.5%と安定成長を維持すると見ている。(図表 16)
インフレ率は、足元の原油安の影響を受けて消費者物価指数が 11 月には前年同月比 0.9%まで低
下している。商品市況の調整が続いていることから、当面はインフレ率が低めに推移し、その後は
緩やかな景気回復を受けて、インフレ率は上昇するとみられる。結果、インフレ率は 2014 年の 1.2%
から 2015 年が 1.4%、2016 年が 1.8%と緩やかな伸びを予想する(図表 17)
。
(図表 14)
(図表 15)
台湾の国・地域別の輸出動向
(前年比)
25%
台湾の雇用者数増減と平均給与
(千人)
40
(前年同月比)
12%
雇用者数増減(前月差)
30
その他
欧州向け
20%
10%
平均月額給与の伸び率(右目盛)
8%
20
6%
北米向け
15%
4%
10
2%
10%
0
0%
▲2%
▲10
5%
▲4%
▲20
▲6%
0%
▲5%
ASEAN6向け
▲12%
▲50
2012
2013
2014
(月次)
(図表 16)
(前年同期比)
9%
▲10%
▲40
▲10%
2011
※3期移動平均
(資料)CEIC
▲8%
▲30
中国・香港向け
▲14%
2008
2009
2010
2011
2012
(注)平均月額給与は旧正月の影響を考慮して1-2月は合計で算出
(資料)CEIC
2013
2014
(月次)
(図表 17)
(%)
台湾の実質GDP成長率(需要側)
台湾のインフレ率と政策金利
5
予測
予測
6%
投資
4
実質GDP成長率
CPI上昇率(前年同期比)
3
3%
政策金利
2
0%
政府消費
▲3%
在庫変動
実質GDP成長率予測
2014年:3.6%
2015年:3.7%
2016年:3.5%
個人消費
純輸出
0
2011
▲6%
2011
2012
(資料)CEIC、ニッセイ基礎研究所
インフレ率予測
2014年:1.2%
2015年:1.4%
2016年:1.8%
1
2013
2014
2015
2016
(四半期)
2012
2013
2014
2015
2016
(四半期)
(資料)CEIC、ニッセイ基礎研究所
関税撤廃については、主力の自動車は対象品目に含まれていない上、液晶ディスプレイも 10 年以内の撤廃となるなど、開放レベル
やスピードは高くない。
4
6|
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2-3.マレーシア
マレーシアの 7-9 月期の実質GDP成長率(前年同期比)は 5.6%と6四半期ぶりに鈍化した。
公共投資の低迷に加え、これまで好調だった投資と輸出が伸び悩んだことが主因となった(図表 18)。
先行きは、輸出の拡大や政府の景気刺激策や公務員給与の引上げなど政府支出の増加によって、
成長率は再び上昇するだろう。輸出は今後も米国主導の世界経済の回復が期待できることから緩や
かに拡大すると見ている。しかし、これまでの輸出好調の主因とみられる経済改革プログラム(E
TP)については、足元の新規プロジェクト件数や投資額が減少しており(図表 19)
、これが民間
投資および輸出の伸び悩みの要因とも見られ、当面は輸出拡大に大きな期待はできない。しかし、
来年6月には、第 11 次マレーシア計画(対象期間 2016~20 年)が国会に提出される見込みであり、
来年以降、先行して投資が拡大し、その後に輸出の拡大に繋がる可能性はある。また、堅調に推移
している個人消費は、来年4月には物品・サービス税(GST)の導入5を予定しており、インフレ
率の上昇が見込まれる。これが家計の購買力低下を通じて、消費の下押し圧力となると見込まれる。
足元の原油安は、石油関連企業の業績悪化による設備投資の減少や株価下落による逆資産効果に
よって消費・投資の足枷となる。また、原油安にも関わらず、足元でインフレ率の低下が見られな
いのは、政府が燃料補助金を 10 月に削減6(その後 12 月に撤廃)したことも影響している。このこ
とは政府の歳出削減に寄与する。しかし、原油安による石油関連収入の減少は不可避であり、全体
として 2015 年の財政目標(財政収支▲3.0%)の達成は難しい状況にある。
結果、成長率は 2014 年の 5.9%から 2015 年がGST導入や原油安による消費・投資の下押し圧
力によって 5.1%に減速、更に 2016 年は 4.9%まで鈍化すると予想する(図表 20)
。インフレ率は
2014 年の 3.1%から 2015 年が 3.8%に上昇し、2016 年が 3.2%に低下すると予想する(図表 21)。
(図表 18)
(図表 19)
発表済のETP案件
マレーシアの輸出伸び率(国・地域別)
15%
プロジェクト
12%
9%
(件数)
輸出合計
6%
110
39
47
4
200
2011年
その他
ASEAN向け
3%
0%
日本向け
▲3%
2012年
米国・欧州向け
2013年
中国・香港向け
2014年 6月26日
単純合計
▲6%
2011
2012
(注)3カ月移動平均後の前年同期比
(資料)CEIC
2013
1,792
321
80
2
2,195
(人)
313,741
94,702
29,373
490
438,306
(月次)
(図表 21)
(%)
マレーシアの実質GDP成長率(需要側)
5
マレーシアのインフレ率と政策金利
予測
予測
純輸出
10%
政府消費
4
投資
政策金利
実質GDP成長率
5%
3
0%
2
在庫変動
▲5%
実質GDP成長率予測
2014年:5.9%
2015年:5.1%
2016年:4.9%
個人消費
▲10%
2011
(億リンギ)
2014
(図表 20)
(前年同期比)
15%
2020年まで 2020年までの
の投資額
創出雇用数
2012
(資料)CEIC、ニッセイ基礎研究所
2013
2014
2015
CPI上昇率(前年同期比)
0
2011
2012
2013
(資料)CEIC、ニッセイ基礎研究所
2016
インフレ率予測
2014年:3.1%
2015年:3.8%
2016年:3.2%
1
2014
2015
2016
(四半期)
(四半期)
2015 年度予算案によると、GST一律6%の導入と合わせて、GSTに免税対象が設定されるほか、既存の売上税とサービス税(各
5~10%)が廃止されるため、GST導入によるネットの増収額は 56 億リンギとなると見られている。
6
政府は 10 月に燃料補助金を削減し、補助金付き燃料価格を値上げした。(RON95:2.1→2.3 リンギ/ℓ、軽油:2.0→2.2 リンギ/ℓ)
5
7|
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2-4.タイ
タイの 7-9 月期の実質GDP成長率(前年同期比)は+0.6%となった。軍事クーデター後の政情
安定化による消費・企業マインドの改善や、タイ投資委員会による大規模投資案件の審査再開によ
って消費・投資は改善した。しかし、中国向けなど輸出の減少が下押し圧力となった(図表 22)
。
先行きは、輸出の緩やかな拡大、政府の景気刺激策や公務員給与の引上げなど政府支出の増加に
よって、成長が加速するだろう。海外経済は米国主導の緩やかな改善が見込まれるが、同国最大の
輸出先である中国の鈍化が見込まれる中では、輸出の回復は緩やかなものとなりそうだ。また、政
府は 10 月に総額 3,645 億バーツの景気刺激策7を発表したほか、10-12 月期の予算は総額 1.1 兆バ
ーツ(GDPの約9%)と全体の 43%を前倒し執行する予定である。また、新年度の 10 月から 2015
~22 年の交通・輸送インフラ整備事業(8年で 2.4 兆バーツ)が開始することから、中長期的に公
共投資と民間投資の拡大が期待できる。さらに、来年4月には公務員給与の引上げも見込まれる。
このように政府による内需の梃入れが当面継続することや原油安の恩恵によって、消費・投資が今
後拡大し、景気は回復ペースを早めるだろう。一方、懸念材料としては、自動車購入支援策の影響
で膨張した家計債務の問題がある。債務の膨張は個人消費に悪影響を及ぼすほか、今後、金利が上
昇した場合に家計負担が増すことになる(図表 23)。結果として、タイの成長率は 2014 年の 0.8%
から 2015 年は 4.2%に飛躍し、2016 年は 3.7%に鈍化すると予想する(図表 24)
。
インフレ率は、コアCPIが 11 月に前年同月比 1.6%と中央銀行のインフレ目標(コアCPI上
昇率で 0.5-3.0%)の概ね中間で推移している。物価統制は 12 月まで続ける予定であるが、政権に
対する国民の不満を抑えるためにも継続される可能性はあるだろう。従って、インフレ率は 2014
年の 1.9%から 2015 年が 2.0%と低位に推移し、政権の民生移管後となる 2016 年は物価統制策が
停止されることを想定して 2.8%に上昇すると予想する(図表 25)
。
(図表 22)
(図表 23)
(残高、億バーツ)
40,000
タイの国・地域別の輸出動向
(前年比)
20%
個人向けローン全体の伸び率(右軸)
35,000
(前年同期比)
40%
タイの個人向けローン
自動車ローンの伸び率(右軸)
35%
15%
30%
30,000
その他ローン
日本向け
10%
その他
25%
25,000
20%
輸出合計
20,000
5%
欧州向け
北米向け
15%
自動車ローン
15,000
10%
ASEAN6向け
0%
中国・香港向け
5%
10,000
0%
住宅ローン
5,000
▲5%
▲5%
0
▲10%
2008
▲10%
2011
2012
※後方3ヵ月移動平均した数値を元に算出。
(資料)CEIC
2013
2014
2009
2010
2011
2012
2013
2014
(資料)CEIC
(四半期)
(月次)
(図表 24)
(図表 25)
(%)
5
タイの実質GDP成長率(需要側)
(前年同期比)
20%
タイのインフレ率と政策金利
予測
予測
15%
政府消費
4
誤差など
10%
CPI上昇率(前年同期比)
実質GDP成長率
3
5%
0%
2
▲5%
個人消費
▲10%
実質GDP成長率予測
2014年:0.8%
2015年:4.2%
2016年:3.7%
純輸出
投資
在庫変動
政策金利
インフレ率予測
2014年:1.9%
2015年:2.0%
2016年:2.8%
1
0
▲15%
2011
2012
(資料)CEIC、ニッセイ基礎研究所
2013
2014
2015
2011
2016
(四半期)
2012
2013
2014
2015
2016
(四半期)
(資料)CEIC、ニッセイ基礎研究所
7
10 月 1 日、政府は景気刺激策 3,245 億バーツ、農家支援策 400 億バーツを発表した。景気刺激策は公共施設の建設や灌漑用水路の掘
削などのインフラ整備、農家支援策は生産コスト上昇に対する低所得農家向け補助金を支給する。1,295 億バーツ分は今年度予算分。
8|
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2-5.インドネシア
インドネシアでは、7-9 月期の実質GDP成長率が前年同期比+5.0%と、5年ぶりの低水準を記
録した。新政権の政策の不透明感や金利高止まりの影響で投資が鈍化したほか、輸出も未加工鉱石
の輸出制限措置8の影響で停滞している(図表 26)
。
先行きは、対外不均衡の是正策によって短期的には内需に下押し圧力が掛かる一方、ファンダメ
ンタルズの改善が中長期的には経済にプラスに作用する。また、新政権の政策が動き出すに連れて、
成長率は上向くと予想する。新政権は鉱石の輸出規制を継続する方針であり、輸出は海外の景気回
復の恩恵を享受し切れず、低迷しそうだ。しかし、同規制は施行後 1 年を経過し、前年比で見ると
成長率の下押し要因にならなくなるほか、製錬所が順次稼働することで付加価値の高い資源輸出が
増え、政府の資源関連収入の増加も期待される。11 月の燃料補助金削減は、今後インフレ率を7%
台半ばまで上昇させるとみており、当面は消費に下押し圧力が掛かる(図表 27)しかし、消費の鈍
化は石油関連製品の輸入減少となり、経常収支は改善する。また、同施策で捻出される 100 兆ルピ
アは低所得者対策9として消費鈍化を和らげるほか、今後のインフラ予算の拡充に回って中期的な成
長率を上向かせる。中央銀行は燃料補助金削減の公表翌日に緊急利上げに踏み切った。今後は更な
る調達コストの上昇や消費意欲の減退が懸念されるが、予想外の利上げは期待インフレ率を抑える
効果が見込まれ、先行きの追加利上げの可能性を小さくなったと見ている。また、原油安の継続は、
消費・投資を加速させ、短期的な景気の下振れを抑える効果が期待できるほか、新政権が投資手続
きの簡素化や行政改革、不正・汚職の是正を進展することで企業の投資が促されると見ている。
こうした状況を踏まえて、インドネシアの成長率は 2014 年の 6.5%から 2015 年が 5.5%に低下
し、2016 年が 5.6%に概ね横ばいで推移すると予想する(図表 28)
。インフレ率は 2014 年の 6.5%
から 2015 年が 6.7%に上昇し、2016 年が政策要因の一巡で 4.7%に低下すると予想する
(図表 29)
。
(図表 26)
(図表 27)
インドネシアの貿易収支
(億ドル)
200
(億ドル)
40
輸入額
180
(ルピア/リットル)
14,000
30
12,000
20
10,000
10
8,000
0
6,000
-10
4,000
-20
2,000
インドネシアの燃料価格
補助金なしガソリン
160
140
輸出額
120
100
80
貿易収支(右目盛)
60
補助金付ガソリン
40
20
0
-30
2010
2011
2012
2013
2014
(月次)
(資料)CEIC
(図表 28)
(前年同期比)
12%
0
2006
(資料)CEIC
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014
(月次)
(図表 29)
(%)
10
インドネシアの実質GDP成長率(需要側)
予測
在庫変動
政策金利
9
純輸出
9%
インドネシアのインフレ率と政策金利
予測
8
実質GDP成長率
7
6%
6
5
3%
4
0%
投資
実質GDP成長率予測
2014年:5.2%
2015年:5.5%
2016年:5.6%
政府消費
▲3%
個人消費
誤差など
▲6%
2011
2012
(資料)CEIC、ニッセイ基礎研究所
8
9
CPI上昇率(前年同期比)
3
2013
2014
2015
2016
インフレ率予測
2014年:6.5%
2015年:6.7%
2016年:4.7%
2
1
0
2011
2012
2013
(資料)CEIC、ニッセイ基礎研究所
2014
2015
2016
(四半期)
(四半期)
今年 1 月、政府は未加工鉱石の輸出を原則禁止した。一部の例外もあるが、17 年以降は全面的に禁輸になる予定。
11 月、政府は低所得層向けのカード(家計補助、医療の無料提供、学費の支援)の配布を開始した。支出額は 6.2 兆ルピアの予定。
9|
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2-6.フィリピン
フィリピンの 7-9 月期の実質GDP成長率は前年同期比+5.3%となり、再び5%台の低成長に陥
った。しかし、成長率の鈍化はペソ安の一巡で海外出稼ぎ労働者からの送金額が伸び悩み、消費が
鈍化したこと、また輸入が拡大したことが主因であり、内容は悪くはなかった。
先行きは、輸出の拡大や潤沢な海外送金と雇用の増加による堅調な消費、そして政府支出の増加
によって、成長率は再び上昇するだろう。まず輸出は、米国主導の世界景気回復を受けて緩やかな
改善が見込まれる。また、海外労働者からの仕送りは金額の4割強を占める米国の景気回復やドル
高基調が続くことからペソベースの金額が拡大し、堅調な消費をサポートするだろう。(図表 30)。
2015 年度予算案(総額 2.6 兆ペソ)は、前年比 15.1%増となっており、政府支出は来年拡大する
と予定である。インフラ予算は 5000 億ペソと前年から約 1000 億ペソ増額、特にミンダナオ島の開
発予算は過去最高の 630 億ペソ計上され、農地・食品加工場・港湾を結ぶ交通網の整備を予定して
いる(図表 32)
。こうしたインフラ整備は足もとの企業のマインドの高さと相まって民間投資の呼
び水となり、雇用の改善にも期待が持てる(図表 31)。こうした状況を踏まえ、成長率は 2014 年の
5.9%から 2015 年が 6.3%に上昇し、2016 年が 6.2%に概ね横ばいの推移を予想する(図表 32)
。
金融政策については、
中央銀行のインフレ目標が今年の 3~5%から来年は 2~4%に下げるため、
インフレ率の上昇は早い段階で利上げに繋がりやすい。11 月の消費者物価指数は前年同月比+3.7%
まで低下しているが、これは原油安の恩恵であり、原油価格が底を打てば景気回復によってインフ
レ率が上昇し、再び利上げサイクルに入るとみている。結果、インフレ率は 2014 年の 4.2%から
2015 年が 3.9%、2016 年が 3.8%と中央銀行の金融引締め策の影響を受けて、インフレ目標圏内の
推移を予想する(図表 33)。
(図表 30)
(図表 31)
在外フィリピン人送金額
(前年同月比)
20%
(ペソ /ドル)
46
(%)
80
伸び率(ペソベース)
ビジネス信頼感指数
60
45
15%
フィリピンの消費者信頼感指数、ビジネス信頼感指数
ペソレート(右軸)
伸び率(ドルベース)
40
44
10%
20
43
0
5%
42
▲ 20
0%
ペソ安
ペソ高
▲5%
2011
2012
2013
2014
(注)ドルベースの送金額は中央銀行の公表値(ペソベース)を月中平均為替レートでドル換算
(資料)CEC
I
(月次)
(図表 32)
40
▲ 40
消費者信頼感指数
▲ 60
2005
2006
(注)いずれも現状指数。また、
(資料)CEC
I
2007
2008
2009
0を超えると楽観を表す。
2010
2011
2012
2013
2014
(四半期)
(図表 33)
(%)
10
フィリピンの実質GDP成長率(需要側)
(前年同期比)
15%
予測
12%
41
投資
政府消費
9
在庫変動
純輸出
9%
フィリピンのインフレ率と政策金利
予測
8
実質GDP成長率
政策金利
7
6%
6
3%
5
4
0%
3
▲3%
実質GDP成長率予測
2014年: 59. %
2015年: 63. %
2016年:62. %
個人消費
▲6%
誤差など
▲9%
2011
(資料)CEC
I 、ニッセイ基礎研究所
10|
2012
2013
2014
2015
CP上
I 昇率(前年同期比)
1
0
2011
2016
(四半期)
インフレ率予測
2014年: 42. %
2015年: 39. %
2016年: 38. %
2
2012
2013
2014
2015
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2016
(四半期)
(資料)CEC
I 、ニッセイ基礎研究所
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2-7.インド
インドの 7-9 月期の実質GDP成長率は前年同期比+5.3%(供給側)と前期の同+5.7%から鈍化
した。特に投資の鈍化には懸念が残る。
先行きは、政府の改革の進展次第で、投資主導の成長が加速すると見ている。現在の投資の鈍さ
は8%の高い政策金利が背景にあり、実際に貸出残高は伸び悩んでいる(図表 34)
。12 月の決定会
合では、中央銀行は低インフレの継続と財政健全化を条件に引締め姿勢を軟化させた。政府は来年
2月発表の来年度予算案で財政目標の達成を導き、中央銀行の利下げを引き出したい考えがある
(図表 35)。政府は、足元で原油安を追い風に軽油補助金の撤廃、ガソリン・軽油の物品税の引上
げなどの取組みを進展させており、来年の早い段階で利下げとなる可能性が浮上している。このほ
か新政権の下で不正・汚職の税制や認可手続きの簡素化・迅速化は進展が見込まれるほか、地方政
府や野党が関係する土地収用法の改正や物品・サービス税の導入には時間を要することになりそう
だが、こうした一連の改革は企業の投資を呼び込み、投資主導の成長が加速する。結果、インドの
成長率は 2014 年の 5.6%から 2015 年が 5.9%、2016 年が 6.3%に上昇すると予想する(図表 36)。
インフレ率は、消費者物価指数が原油安を追い風に足元で4%台まで低下し、これまでの高イン
フレが収まりつつある。しかし、先行きはモンスーン期の雨不足の影響でインフレ率が再び上昇す
る懸念が残っている。また、インドは未整備のインフラや未成熟な小売の組織体制等、構造的に供
給面が非効率であるため、需要の拡大に対してインフレ率が大きく上昇しやすい。それでもインフ
レ・タカ派と評される中央銀行が事実上のインフレ目標として示す 16 年 1 月6%に向けて、金融
引締め策に取り組むこと、中央銀行の市場から信任の厚さを背景にルピーが安定していることを考
慮して、インフレ率は 2014 年の 6.3%から 2015 年が 6.2%、2016 年が 5.9%と低下すると予想す
る(図表 37)。
(図表 34)
インドの金利、貸出残高
(%)
13
(図表 35)
(前年同月比、%)
(%)
貸出残高伸び率(右軸)
▲1
市場金利
11
25
(兆ルピア)
インドの財政収支
0
30
0
財政収支実額(右軸)
▲1
▲2
▲30.
9
20
▲3
▲2
▲36.
対GDP比率
▲4
7
15
政策金利
▲3
▲5
▲4
▲6
5
10
預金準備率
3
5
2008
(資料)CEC
I
2009
2010
2011
2012
2013
2014
▲5
▲7
▲8
▲6
00
01
02
03
04
05
06
07
08
09
10
11
12
13
(月次)
(資料)CEC
I 、報道資料
(図表 36)
誤差など
純輸出
12%
(%)
12
予測
インドのインフレ率と政策金利
CPI 上昇率(前年同期比)
11
予測
10
投資
実質GDP成長率
8%
(年度)
(図表 37)
インドの実質GDP成長率(需要側)
(前年同期比)
16%
14 15 16
見込 目標 目標
9
政府消費
8
7
4%
6
政策金利
5
0%
4
▲4%
個人消費
実質GDP成長率予測
2014年度: 56. %
2015年度: 59. %
2016年度: 63. %
在庫変動
▲8%
2011
2012
(注)実質GDP成長率は供給側の数値(
(資料)CEC
I 、ニッセイ基礎研究所
2013
afctocrost
2014
)
2015
2016
3
インフレ率予測
2014年度:63. %
2015年度: 62. %
2016年度: 59. %
2
1
2017
0
2012
(四半期)
2013
2014
2015
2016
2017
(四半期)
(資料)CEC
I 、ニッセイ基礎研究所
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|Weekly エコノミスト・レター 2014-12-19|Copyright ©2014 NLI Research Institute
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