ハミーム縫製工場火災調査について 1.調査概要 (1)日程:2011 年 8 月 3 日(水) 、 (2)メンバー ・ 東京理科大学:小林恭一教授、田中傑研究員 ムハンマド・マムン、シャイドル・アラム(共にバングラデシュ消防から TUS 修士課程に留学中) ・ 東京大学 :山田常圭教授 ・ 国土技術政策総合研究所:吉岡英樹主任研究官 (3)火災建物および周辺の状況 ハミーム(Ha-Meem)縫製工場は、バングラデシュの首都ダッカの北西部に位置する郊外アシュ リア(Ashulia)にあり、アシュリアはダッカを洪水被害から守る堤防の外側に位置し、雨季には道 の両側は湖の様な状態になると言われている。この建物は、広大な敷地内にあり、現地では近代的 な 11 階建ての高層建築物(RC 造)で、内部には事務所と縫製工場の双方が存在している。 2.火災概要 2010 年 12 月 14 日昼頃、ハミーム縫製工場(写真 1)にて、死者 28 名、負傷者 150 名以上を伴 う火災が発生した。全作業員は 5,000 名を超えるが、火災発生時は昼休みで食事のため、帰宅する などして建物の外に出かけていた従業員も多かった。作業場が位置する 10 階で、電気配線の短絡か ら火災が発生したと言われており、発生当時は 450 名位の従業員が 11 階(最上階)で昼食をとって おり、10 階はほぼ無人に近い状況であった。10 階から 11 階への延焼経路は、外壁開口部および貨 物用エレベータシャフトであった。火災発生階(10 階) 、及び、その上階(11 階)共に、メインと なる建築空間(床面積:約 4,000 ㎡)は防火区画がされておらず、発生した火災の水平方向の拡大 を有効に阻止する事が出来なかったものと考えられる(写真 2)。なお最上階の 11 階は屋根が当該 火災で激しく損傷したため、調査時点ではほぼ半分にあたるエリアで取り払われ、吹きさらしの状 況であった(写真 3)。Ha-Meem グループ従業員によると、避難階段は6つの内3つは使用可能だ ったそうだが、防火戸がどこにも設置されておらず、煙の上昇を阻止する事が出来なかったものと 考えられる。また報道によると、避難階段が全て解錠されていれば、階段を使用した避難がより容 易になり、人的被害を軽減出来たはずと言われている。 著者らの現地調査時における Ha-Meem グループ従業員に対するヒアリングによると、死者 28 名 のうち 3 名は最上階で窒息死、25 名は最上階からの避難に際して、熱気と煙によって近傍の階段を 使用する事が不可能な状況となり、窓から飛び降りたり、布を繋ぎ合わせて命綱として使用しなが ら壁伝いに避難を試みたりした際に成功しなかった事によって発生した。但しヒアリング時の関係 者らの発言では、一部の作業員が窓から飛び降り始めた以降でも、他の作業員は階段を使用して避 難していたという事である。これは、大量の熱気と煙が押し寄せた階段の近傍に居合わせた作業員 達が、まだ安全でかつ解錠されている階段が他にあるにも関わらず、他の階段を探さずに、慌てて 近くの窓から飛び降りる等の極端な行動をとったものと想像され、現地調査時に関係者らもこの意 見に納得していた。通常の勤務時においても、作業員達は建物の空間構成や避難対策に関する情報 が大きく不足していたものと思われる。今回の調査時においては、当該火災の教訓を踏まえて、ハ ミーム縫製工場では防火体制の改善がなされており、自衛消防隊が組織されたり(写真 5)、各階の 出入り口付近に消火設備が設置される(写真 6)等の工夫がされていた。 開口とスパンドレルを介して 上階延焼が発生 写真 1 ハミーム縫製工場の外観 写真 2 10 階の火災発生場所 写真 3 調査時点(2011/08/03)の 11 階 写真 4 基準階の典型的な作業場 (火災で損傷した屋根が除去されている) 写真 5 自衛消防隊 写真 6 消火設備 (火災発生より後に組織) (火災発生より後に、各階に設置) 3.防火上の課題・改善案 当該火災が小火で収まらず拡大し、また多数の死者が発生した主な理由は以下の通りであり、そ れらの現実的改善策も括弧内に示した。 ① 水平区画が無かった。 (水平区画の形成) ② 防火扉が無く竪穴区画が構成されていなかった。(防火扉の設置) ③ 6 つの避難階段の内 3 つが施錠されていた。(避難階段の常時解錠、扉の監視) ④ 作業員達が全ての避難階段の位置を把握しておらず、窓から飛び降りる等の危険な行動に及んだ。 (作業員らに対する防災教育) なお前章でも一部記載したが、自衛消防隊の組織、消火設備の設置に加えて、避難階段の通常時 の解錠といった改善策がとられており評価に値するが、防火区画の構成や全ての作業員に対する防 災教育の徹底といった点では改善の余地があり、更なる改善が期待されるものである。最後に、本 調査にあたり協力を頂いた全ての方々に謝意を表したい。
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